SAO-七つの魔剣~ギルド風林火山の狂戦士~   作:うおさ123

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また投稿が遅れました、すみません。有言実行ができない恥ずかしい奴です。謝って書く速度が上がる訳でも無いのでこの辺で。

では、第六話です。


集合①

――2022年11月6日午後5時30分――

 

 俺はただ走っていた。何も考えないようにと。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 息が荒くなる。そもそもこの世界で走るのに、酸素なんてものは必要ない。つまり、このおかしな程早い呼吸スピードは、精神を落ちつける為の物だと断定できる。何故精神が落ち着いていないかは、今更語る必要すら在りはしないだろう。

 

「ふざけんな! 早く出せよ、おい!」

「こんなヘンな事してんじゃねェよ!! 出せってんだよ!!」

「葉太を幼稚園に迎えに行かなきゃいけないの! 早く、早く出してぇ……!!」

 

 周りはパニック状態になっている奴と、何もできずに立ちすくんでいる奴に分かれている。俺の様にとにかく何かをしようとしている奴はあまりいる訳では無い様である。

 しかし、それを偉そうに言える立場では無い。俺にしたって、どうしようもないなら何もしないよりは何かした方が良い、という単純で適当な理由で動いているのだから。しかも、その『何か』が解らないのだ。これでは思考を停止して動けない連中と何が違うというのだろう。

 

「晩飯に遅れると怒られるってのに……」

 

 この期に及んで、果てしなくどうでもいいことを口にしてしまった。

 毎日食べている晩御飯すらまともに食べられない、という様な事を認識した途端、膝が動かなくなり、ガタンと体を落とし道端にへたり込んだ。

 

「あ、アレ……?」

 

 それによって落ちた視線は、俺の膝を見る。

 

「は、はは。膝が笑ってる……」

 

 ほんの数時間前にも体験したが、一々リアル過ぎる。そのリアルさがさらに恐怖を掻き立てるのは、開発者の計算か否か。

 しかし俺とて、ただ閉じ込められただけでここまで怯える事は無い。ただ、その男……茅場晶彦は言ったのだ。

 

 ナーブギアが外されそうになった場合――そのプレイヤーは死ぬと。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 息が荒くなる。しかし俺の脳内に漂う夥しい恐怖の感情は、酸欠気味になって止まりやすくなっている思考力を無理矢理に動かす。

 俺を含む九千以上ものプレイヤーが、現実世界において装着しているナーブギア。現在は外そうとしただけで暴発する、一つの爆弾みたいな物だ。

 

 しかし、ソレは傍目から見ればそんな危険物では無い。

 

 例えば――茅場晶彦はマスコミを通じてこの事を知らせた、と言っている。が、もしも姉が今日一日ニュースを見ていなかったら。それで、もしも何の気なしにナーブギアを外したら……

 

「はぁ、はぁ、はぁはぁはぁ……!!

 

 それを確実に意識した途端、呼吸の粗さが尋常では無くなり、視界が真っ白に染まっていきそうになる。

 

「ひゅ……はひゅぅ……!」

 

 何かを無理やり呟こうとしたが、その言葉は、酸素が漏れる様な不快な音にしかならなかった。

 

 ……ヤバい……もう意識が……

 

「おいアンタ、大丈夫か!?」

 

 突如、後ろから野太い男の声がかかる。声の主が俺を心配しているように感じて、俺は違和感を覚えた。

 確かに、これだけ目立つ呼吸をしている奴が見つからない道理はない。が、それでもこの状況で他人を心配できる筋金入りのお人好しは中々いない。

 ただ俺には、もはやそのお人好しに振り向くほどの余裕は無かった。

 

――すると、いきなり後ろから肩を組まれて持ち上げられた。

 

 その事に確かに驚いたとは思うのだが、意識が半分落ちている状態の為か本当に驚いているのかどうか解らなかった。

 

「うっ、結構重ェもんだな。大丈夫か、生きてっか?」

 

 自分の粗い呼吸の中で聞こえる、どこか懐かしい声。そんな中ぼやけた視界は、俺を担ぎ上げたその男を捉えた。

 

「うおっ! お、女ぁ!?」

 

 赤い髪をバンダナ――柄はよく見えない――で逆立てたの男は、俺の顔を見て初めて女だと気付いたのか、素っ頓狂な声を上げる。

 女性耐性無さ過ぎる。けど、妙に親切で人が良い。

 

「まぁ、そんなこと言ってる場合じゃねぇな。とにかくどっかに運ばねぇと……ってどこに運びゃあ良いんだ?」

 

 ……ただ、後先考えない。

 

「はぁはぁ……く、ら……いん……」

「へっ? 何で、名前を……?」

 

 呼吸が落ち着いてくる。知り合いに会って安心したのか、急に息が安定し始めた。意識が戻ってくる。ぼやけた視界は次第に晴れ、しっかりと顔が見られる様になっていく。

 野武士もしくは山賊の如き形相に、間抜け面を浮かべる男クラインは、助け上げた初対面の少女に名前を呼ばれた事を、ただの空耳と判断したのか、どこか抜けた顔を引き締める。

 

 その姿を見て、やっぱり気付いてなかったのか、とそんな事を思う。

 

 昨日までクラインといた時は、女である事を隠すために、キャップ付きのぶかぶか帽子を深くかぶっていたので、顔は良く見えなかっただろう。それに声もなるべく太くしようと意識していた。……まともに隠せていたかは謎だが。

 そうして俺が隠していた事に、人の良いクラインが気付かなかったとしても一切おかしくはない。が、全くこちらに対して気付く様子も無いのは、あまりいい気分がしない。

 

「はぁ、はぁ……ふぅ……。さぁ、何で、だろうな?」

 

 俺は空元気も元気の内だと思い込む事にして、なんとかニヤリとした笑みを浮かべながらクラインをからかう風に言ってみるが、数時間前に会ったNPC老婆の如く頭の周りに?マークを浮かべるクラインは、非常に困惑した表情を浮かべていたままだった。

 

「えーっと、つかぬ事をお伺いしますが……俺達って、知り合いでしたっけ?」

「はぁ……、やっぱり、気付いてないのな」

 

 最早、間抜けの域に達しつつある顔を浮かべ続けるクラインに、いい加減呆れに近い物を感じると、俺もネタばらしする事にする。

 

「……ノガラド。コレで解んないんだったら認知症予備軍だぜ、大貧民からいっきに逆転かましたクラインさん」

「の、がらど……? ……ってノガラぁ!? おめぇ女だったのかよ!!」

「いつ男だなんて言ったよ? はぁ……」

 

 最後の吐息は、別にため息ではなく過呼吸状態に止めを刺す為の物だが、実際ため息の一つや二つは吐きたい気分ではある。少しぐらいは心当たる物があってもおかしくないだろうに。

 

「えっ、……マジ?」

「へぇ、二十二歳独身の彼女募集中で、昨日も失敗して誰かさんにドロップキックくらった、プレイヤーネーム《クライン》こと壺井さんは信じないと」

「な!? ノガラおめぇ、何でオレの本名知ってんだ!?」

「往来で白昼堂々宣言してやがった奴に、プライバシーなんて存在しないんだよ」

「んがッ!!」

 

 声ならぬ声でクラインが悲鳴を上げる。その顔は、何だか間抜けで、とてもさっきまでの悩みも馬鹿らしくなってきた。

 

「ぷっ……! あははは」

「ノガラてめぇ、さっきあんだけヘタってた癖に全然元気そうじゃねぇか!」

「いや、なんかお前の顔見てたら落ち着いた。ははは」

「んだよ! オレの顔はそんなに笑える顔かぁ?」

「ま、そういうことかもな」

「否定してくれよぉ……」

 

 しぼむ声が愉快なメロディで耳に入る。コレだけ切迫した状態でこれ程までに場の空気を和ませるというのは、最早一種の才能だと思うが、クライン本人はからかわれているだけだと思っているのだろう。謙虚なのか、本当にそう思っているだけなのか。まぁ全力で後者だと思うが。

 

「にしても、何であんなトコでヘタってたんだ……って、聞くまでもねぇか」

「まぁ、な……」

 

 俺はクラインの問いに、少々引っ掛かった口調で答える。状況が状況でも、自らの痴態を見られたのはやはり恥ずかしい物がある。

 

「んな気にする必要ねぇよ。誰だってあんなもん聞いたら気分悪くならぁ」

「……ああ。色々とありがとな、クライン」

 

 なんだかんだクラインのお蔭で落ち着いたり、わざわざ担ぎ上げてくれたりと、色々と世話になっていた事に気付き、俺はクラインから肩を離しながら礼を言った。

 ……のだが、どうにもクラインの表情がおかしくなっている。驚いているようにも見えるが、どちらかというとキョトンとした顔だ。

 

「どうしたんだ、いきなり固まって?」

「な、何でもねぇよ! それよか他の奴らも早くさがさねぇとな!」

 

 多分、今の俺の頭上には?マークが浮かんでいる事だろう。いきなり顔をそむけて妙なテンションで叫ぶクラインの行動が、さっきから何か挙動不審気味だ。

 

「と、とにかく、集合場所の黒鉄宮ってトコに行ってみようぜ!」

「……? まぁいいけど……って、ちょっと! いきなり走り出すなよ!!」

 

 クラインが走り出したのを追って、俺も走り出す。リアルなら先程の過呼吸の反動が来てもおかしくないのだが、この仮想世界ではそういう物は関係無い様だ。ただ、あちら側で俺の体調に異変が起きている可能性はある。

 

 しかし、ソレを確かめる手段などありはしない。

 

 

          ※※※※※

 

 

 西洋風の建築物が並ぶ街を駆けて三分、ようやく黒鉄宮に到着した。本来そこまでかかる距離でも無いのだろうが、あれだけの人が統制も取らずに蠢いていたら、走り辛いのもしょうがないだろう。

 

 それにしても、俺達にはそれ以上の誤算があった。

 

「やっとついた、って……人多過ぎないか、コレ……?」

「お、おう……」

 

 そう、集まっている人が多いのだ。とにかく。

 

 《黒鉄宮》というのは、名前通り一つの宮殿だ。別に宮殿=豪華絢爛という訳では無いのだが、黒単色な事を抜けば一つの神殿の如き風格を漂わせるほどに美しい。世界遺産の《タージ・マハル》にも似た全体図のうち、一番の大きな塔の半球形の天井を夕日が紅く照らす。

 約束は『《黒鉄宮》の前に集合』なので、入り口付近で待っていると思うのだが、そこには千人近い人がいた。恐らく、彼らも俺達と同じようにこの場所で待ち合わせした人達なのだろう。

 

「…………よし! 任せたぜ、クラインギルドマスター!」

「抜け駆けはゆるさねぇぞノガラ!」

「ちぃっ! ……って、アレ?」

「ん、どうした?」

 

 さっきまで過呼吸でぶっ倒れそうだった俺に、千人の中から残り四人を探す精神力が残されている訳がないので、そそくさとその場から退散(正確には逃走)を図ると、クラインに全力全霊で肩を掴まれた。

 その事にわざとらしく舌打ちを打っていると、物凄く目に入れたくない人物が目に入った。

 

「……ソモソモドウシヨウモナイヨネコノジョウキョウ。テイウカソモソモ、コンセントガアシニカラマッタダケデボクシンジャウンダヨネ。テイウカソモソモ、キョウイエノテツダイサボラズニヤッテオケバコウイウコトニモアワナカッタンダヨネ。テイウカソモソモ、イチドハソウゾウシタハズナノニ、キチントジッセンデキテナイッテヒトトシテドウナンダロ。テイウカソモソモ…………」

「呪文っ!?」

 

 思わずそう叫んでしまったほど強大な負のオーラをまき散らしながら、うずくまって口を動かし続ける、くせ毛茶髪のその少年の名前は――

 

「「……ロンじゃねぇか……」」

 

 俺の後に気付いたクラインも合わせて、二人同時に呟いた。

 

         ※※※※※

 

「……というかね、そもそも想像できてたのにログインしたのはゲーマーとしての本能であって、別に想像力が足りないとか教訓を生かしてないとかそういう訳じゃないんだよ。僕もこの程度の事ぐらい想像はできてたけど、可能性と今までの努力という物を加味した上で判断を下した訳だから、僕がこのゲームにログインしたのもしょうがないと思うんだよね、うん」

「相変わらずなげぇっての……」

「まぁ、無事見つかったんだからいいじゃねぇか」

 

 滅茶苦茶話し掛けずらい状況で何とか話掛けた所、クライン効果(造語)によって鬱状態から回復したロンは、まくしたてる様に言い訳をづらづらと並べだした。別に誤魔化さんでも良かろうに。

 

「つーか、他の奴らも探さなきゃいけないんじゃ無いのか? ロンは超見つかりやすかったけど、他の三人はそんなにすぐ見つかるとは思えな……」

「おーい、クラインさんにロンさーん! 大丈夫っすかー。こっちはヨージンさんもポッツさんも居ますよー!」

「……いっ!?」

 

 急にオレの声を遮断して叫んだ男、アルことプレイヤーネーム《アルベルト》は、俺の発言を無意識かつ完璧に否定した為、俺は思わず前のめりにズッコケる。

 

「ん、どうしたんでぃ? ていうかそっちの人は誰なんぜぃ?」

「そうだね。確かに何で女の人がいるの?」

「ああ、ノガラだよ。ほら、ゲーム買う時に一緒に居たノガラド」

 

 紅いスカーフを頭に付け、チョロ髭を生やしたヨージンの疑問にロンが即答する。が、そこに僅かな違和感を感じた。

 

「あれ? そういやロンにネタばらししたっけ」

「いやいや、僕は最初から気づいてたよ」

「は?」

「いやだから、ノガラが男子の振りした女子だって事には最初から気づいてたよ。まぁ、騙されやすいクラインとかは気付いてないなー、って思ったけど」

 

 何ですと? 思わず心の中で声が漏れるが、流石に声に出す事だけは回避した。

 

「え、じゃあ何で他の奴に教えなか……」

「「ええー!」」

「え、そうだったんだね」

 

 思わず俺は耳を塞ぐ。またしても俺の言葉が遮らぎられたが、今度は大音量×2である(ついでにポッツの呟き声)。言葉を途中で遮られた事による不満よりも、やかましさの方が先に来る。

 

「どういう事っすか! ノガラさんが女子だったとか、ものすんごい頭こんがらがってんすけど!」

「へぇー、ノガラは女の子だった訳なんぜぃか」

「何だか女の子っぽいなぁ、とは思ってたけどね。まさか本当に女性だとは思わなかったよ」

「ま、まぁな……」

 

 どうやってナーブギアの中に入ったんだろうと、少々疑問に思うレベルまで髪を逆立てたアルが詰め寄る。それに関しての返答で、言葉を詰まらせるとはこの事か、とマリアナ海溝よりも深く理解しつつ、俺が性別を隠していた事に対して、意外にも受け入れてくれる感じの語意に微かな安堵を覚えた。まぁ最初から暴露していたら、こんな態度にはならなかっただろうが。

 

「まぁ、僕は内心ビクビクだったけどね。ホントいつ羽毛布団買わされるかと思うと、夜もまともに寝れないし大変だったよ。……実際一回あったし……」

「体験談!? しかもお前が寝なかった理由ソレ!?」

「ああ、そんな事もあったよなぁ、ロン……」

「お前も一緒に買わされたんかいっ……!!」

 

 平常運転が過ぎる奴ら(=ノガラ&クライン)に全力でツッコむ。現実だったら息切れが起きてもしょうがない気がするが、ここでいくら叫んだ所で息が切れる様子は無い。

 

「にしても、みんな意外にいつも通りだな」

 

 

「まぁ、悪ふざけなんかに(・・・・・・・・)一々反応するのもどうかと思うぜぃ」

 

 

 は? 

 

 今確実に、ヨージンの言葉が耳に引っ掛かった。

 

「確かに、ああいう変な事されても困るよね。どうせすぐ捕まると思うし」

「レポートの提出期限が遅れるから、ほんとに困るんすよー」

 

 何を言ってるんだ? 

 

「おめぇら、悪ふざけって……」

「そりゃそうだぜぃ。あんな愉快犯なんて、すぐに捕まるに決まってらぃ」

 

 クラインの言葉を遮りながらヨージンが続く。その言葉には強い違和感が纏わりついていた。

 

「そうっすよ。日本の警察は世界トップレベルだって話っすから」

「だね。いくらなんでも一個人対国で敵う訳無いしね。一週間もしない内に解放されるよ」

 

 もっともな二人の意見。しかし、ただただそこに違和感がこびり付く。その正体は多分、蟻走感がする程の《茅場晶彦》への最悪な嫌悪感。学者の様に『死』を簡単に語るその口調。血染めのローブで演出する悪趣味なその思考。そして他人の事を一切考えないその『野望』。

 しかし、それだけでは無い。その野望に対して、人殺しの業を背負う程の貪欲さこそが、最も俺を「まともな方法ではここから出られない」と確信させた。

 が、それは俺の勝手な夢想、妄想といっても過言では無いレベルの考えだ。十六年ちょっとしか生きていない小娘の勘なんて、まともに信じる奴は誰もいない。

 

「それは……多分ないと思うよ」

 

 その考えをどう伝えようかと悩んでいる時に横から口を出したのは、いつものあからさま過ぎる顔色の悪さを取り払ったロンだった。

 

 




ちょっと中途半端ですがこの辺で。このままだと一万字越えそうなので。

どうでもいい話ですが、SAOのPV第一弾に微妙に出てくる黒鉄宮は、マジでタージ・マハルそっくりです。

……次話はなるべく早く投稿できるように頑張ります。
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