晴れ渡る青空を見上げる無数の向日葵。
その向日葵を愛でるのは、日傘をさした美しい女性、風見幽香。
何時ものように変わらぬ花畑、彼女はのんびりとゆったりと過ごす。
人里はきっと何時ものように賑やかなのだろう、迷いの竹林はきっと何時ものようにウサギが遊んでいるだろう。
そして、この幻想郷を保つあの巫女は、今日も暇を過ごしているのだろう。
「……ん?」
畑に侵入したのはメディスンだろう、彼女は向日葵を傷付けることはない。いつだって優しく接している、だから幽香は彼女の侵入を拒むことはない。
「幽香ー」
「どうしたの?」
何時ものように、変わらない日常。
ただ、何時もと異なる事もたまにある。
「人間がこっちに来てるよ」
鈴蘭の畑を越えて、ここに来る人間はそう多くはない。尤も、蛮勇を翳して名を上げようとする者や、自殺志願者は別だが。
前者は向日葵を傷付ける前にお引き取り願う、後者は鈴蘭を越えてきたならば、迷いの竹林行ってもらう。
だが、今日この畑に来たものは毛色が違った。
「ふうん……?」
向日葵を通じてその人間の情報が入ってくる。
畑に入ることはせず、絵を描き始める。
興味が湧いた、武を、蛮勇を翳さぬもの、命を投げ捨てる真似をしない、ただ、絵を描くそれだけの者。
幽香はそっと男に近寄った、だが、声は掛けない。その絵を描くのを邪魔してはいけない、何となく、彼女はそう思う。
その日から彼女の日常に、もう一つやることが加わった。
男は昼前にここに来て、日が傾く前に帰っていく。
その中で、男が向かうキャンバスに、向日葵が育っていく、美しい向日葵が。
幽香はその絵が描き上がる日が楽しみになっていた、男はその絵が描き上がる日が近付くのが寂しく思っていた。
「……最近、あの人間来ないね」
メディスンが言うのは、絵描きの男。
夏の終わりも近づいた頃、男は来なくなってしまった、鈴蘭の毒に当てられたか、妖怪に喰われたか、何れにせよ男は来なくなってしまった。
「別に構いはしないわ」
『そう寂しいこと言わないであげなさいな』
虚空から届いた声に、幽香は眉を僅かにしかめるも、声を返す。
「……何か用?」
それを聞いて、中空が裂ける。
「貴女に届け物よ」
裂け目から姿を現したのは、美しい妙齢の女性。
彼女はそう言うと、一枚の絵を幽香に渡す。
「これは……」
描かれていたのは、未完の向日葵畑。
もう少し、後幾つかの色を乗せれば完成したであろうその絵。
「……これを描いていた男は?」
「亡くなったわ、どうやら病だった様ね」
「……そう」
別に寂しい訳ではない、一つの日常に終わりが来た、それだけである。
「……絵は確かに受け取ったわ」
「良い絵ね」
「……そうね」
秋が来る、ついに完成しない向日葵畑の絵を遺して、夏が終わる。
ーー終り