「うどんげー居ないのー?」
腰よりも伸びた美しい黒髪を靡かせて、少女……蓬莱山輝夜は廊下をさ迷う。
「あら姫様、優曇華でしたらお使いに出てますよ」
応えたのは月の頭脳と称され、永遠亭で薬師として働く女性、八意永琳であった。
「む、一足遅かったか……この絵に合う額縁探してほしかったのに」
「それは……」
永琳に去来するのは、救えなかった命への想い。
夏の前に訪れた、末期の病人。
輝夜が持つのは、その患者が描きあげた一枚。
病室から見える僅かな竹林を描いたその作品、輝夜はその絵を気に入っていた。
「迷いの竹林を迷わず訪れ、迷いの無い筆を以て描かれたこれは、私達が無くしたものを思い出させてくれるわ」
限られた命を燃やし尽くすその様は、何より美しいモノを魅せてくれる、この絵がそうであるように。
「ま、そんな事より額縁よ、優曇華が居ないならてゐでも良いわ」
「ふむ、じゃあ私から命じておきましょうか?」
「あ、そうしてくれる?その間にもこたんと遊んでくるわ」
「程々にお願いしますよ」
解ってると言いながら、輝夜は絵を永琳に渡して去っていった。
「さて、それじゃあ……先ずはてゐを捜すとしましょうか」
鈴仙が里から戻ると、入り口には炭になった輝夜と肉塊になった妹紅の姿。
「ただいま戻りましたー」
おかえりと言わんばかりに、炭と肉が蠢く様は、不気味なことこの上ないが、永遠亭の住人には最早慣れたものである。
「おやつ買ってきましたから、復活したら居間に来てくださいねー」
鈴仙が去って程なく、二人は元の姿に戻る。
「ふう……ちょっと輝夜、いくらなんでもはしゃぎすぎじゃない?」
「まぁまぁ良いじゃないの、このところお互いにあの絵描きを気にしてここまでは出来なかったんだから」
「そりゃまぁ……ってそっか、あの絵描き亡くなったのね」
「良い絵を遺してね、さっきてゐが額縁持って帰ってきたし、飾ってから居間に行くわ」
「じゃ、先に頂いてるわ、また後でね」
先程までの凄惨な景色は何処へやら、すっかり和む二人である。
「よし、これで良いわ」
その場所に飾る事は、迷い無く決めていた。
訪れる皆がその絵を目にすることが出来るようにと、玄関に。
「ふふん、これで良いわね」
一枚の絵で変わった玄関の景色を楽しむ輝夜、それに習ってかてゐも隣で絵を眺める。
「絵一枚とは言え雰囲気って変わるもんですね」
「そうね、でも……きっとそれはこの絵だからこそよ」
命を賭した絵一枚、永遠となる。
ーー終り