彼がここを訪れてから半年以上は経っただろうか?
「次は旧地獄の街並みを描きに来る……なんて言っておきながら……」
彼が亡くなったと聞かされたのはつい先日の事、妹のこいしが人里に遊びに出ていたとき、偶々目にしたのが彼の葬儀だったと伝えられた。
一度、地霊殿の皆で墓参りに出向くのも良いかもしれない。
そう言えば……彼女、星熊勇儀は彼の死を知っているのだろうか?
彼をここまで案内する程度には気に入っていた様ではあるが……何れにせよ伝えるべきだろう。
「お燐、今から少し出掛けてきます」
「わかりましたー」
旧地獄の街並みを眺めながら、目当ての鬼を捜す。
その最中、聴こえてくるのは自分を拒絶する者たちの声無き声。
慣れたものだと口にするのは容易いが、それでも平気になることはない。
ああ、あの絵描きは心地がよかった、拒絶すること無く地霊殿に居てくれた。
「おや、さとり妖怪じゃないか」
「どうも、丁度良かったお伝えしたいことがありまして、捜していたところ何ですよ」
目的の鬼事、星熊勇儀は少し驚いた顔をして何の用かと問い返す。
「ここでお伝えすべき事ではないので、出来れば貴女の家にお邪魔したいのですが」
「うーん……まあ良いか、おいでよ、酒くらいなら出すよ」
流石は鬼である、もてなしが茶ではなく酒とは。
「おや、この絵は……」
通された部屋には一枚の絵、ここの家主、星熊勇儀の肖像画が飾られてあった。
タッチは正にあの絵描きの物である。
「ああ、それかい?以前アンタのとこに連れてった絵描きに描いて貰ったものさ、見事なもんだろう?」
「ふむ、そうですね、貴女がそこまで惚れ込んでいるのがわかる気がします」
地霊殿にある彼の絵を気に入っているのは、誰あろうさとり自身である。
「ほ、惚れるとかじゃなくてだね……って言うだけ無駄か、アンタ相手には」
異性として惚れた晴れたと言うものではなく、その姿勢に惚れたのだと語る勇儀に偽りは見えない。
「そろそろ本題に入ろうじゃないか、こんな話をするために私を捜してた訳ではないだろう?」
「そうですね、では単刀直入に」
咳払いをして、絵師が亡くなったと伝えると、勇儀は『そうかい』と呟いて、暫く目をつむる。恐らく黙祷を捧げているのだろう、静かな時間が僅かに過ぎると目を開き。
「さとり、アンタのとこの絵を見に行っても良いかい?」
「ええ、構いません」
「それと……お燐っていったね、あの火猫、あの子に彼の墓の場所を調べさせとくれ、参りにいきたいからね」
「その時は、ご一緒しますよ。皆も彼は気に入っていましたから」
「ああ、一緒に」
ーー終り