男は幻想郷の人里で産まれた、取り立てて目立つことの無い普通の男。
幼い頃絵筆に出会ったのが転機と言えば転機なのだろう。
寺子屋に通いもした、休憩時間に教師であり寺子屋の主でもある女性や、仲間、それに庭を描くのが好きだった。
当時はまだまだ下手だったその絵を、女性は誉めながら、どうすれば上達するか、教えてくれたりもした。
寺子屋を所謂卒業してからは、更に絵に没頭するようになる。
妹に普通に働けと言われ慣れた頃、偶々拾った新聞『文文。新聞』の一面を飾った写真に心を奪われた。
それは、日傘をさして佇む美しい女性と、一面の向日葵。
男は、その景色を描くことに決めた。
だが、そこに行くには度胸が足りないと思った男は、先ず幻想郷を巡ることにした、女性がいようと、震える事の無いように。
様々な場所を巡った。
命蓮寺、紅魔舘、妖怪の山、地霊殿……
命を落としそうになった事もある、行くのを諦めた場所だってある。
借金で、妹に苦労をかけている事も知っていた。
それでも、男は絵を描き続けた。
そんなある日、男は自身の異変に気付く。
だが、だからどうしたとばかりに男は里の外に出ては絵を描き続け、そして、決意した。
おくびにも出さぬようにしてきた病も、そろそろ自身を侵食してしまうだろう。
ならばと、男は太陽の畑へと向かった。
何時か見た景色が、そこにある。
その日から、男は太陽の畑を描き始めた、視線を感じようと、構い無く。
何時からか、女性が茶を差し入れてくれるようになった、向日葵の中で佇む様を見ることも増えた。
隣で、絵を描く様を見るようにもなった。
会話は、挨拶程度。
差し入れられれば礼を述べる程度。
それで良い。
穏やかに流れる時間が、病も気にならないこの時間が、男は好きだった。
だが、ある日限界を迎えた。
迷いの竹林の近くで、男は倒れる。
偶々近くを寄った巫女が男を見付け、竹林の奥の診療所へと連れていった。
目を覚ました男は、残りの命を絵に残すことにした。
太陽の畑、そして窓から見える僅かな竹林。
男は描いた、それが最期だと。
太陽の畑は遂には仕上げられなかった、一番描きたかった、一番美しい『向日葵』がそこには無かった故に。
竹林は仕上げることが出来た、それが救いだろうかと、男は笑い、自分を看取る薬師に伝えた、太陽の畑の絵を、太陽の畑の女性に渡して欲しいと。
了承の意思を見て、男は息を引き取った。
薬師は男を里に帰し、スキマ妖怪に事を依頼した。
東方思付録、完