孤独色   作:名も無き呟き

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今回はいろいろな人が出てくるオンパレード&しんみりするお話です。


~鈴仙・優曇華院・イナバ~本当の自分

私は…そうだ。私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。ああ、この感情を封印されてからどれくらいの歳月がたったのだろうか。戦争中、私は敵から恐れられていた。一言も言葉を発さず、ただ相手を無慈悲に殺す、沈黙の狙撃手(スナイパー)として。目的なんて何もなかった。ただ、自分が生きていればそれで良かった。他人の死なんてどうでも良かった。例えそれが仲間であろうと。

「…一気に過去のことを思い出してしまったわ。」

何にせよ、今私がたっている場所は月じゃない。幻想郷だ。ここに私の味方なんかいない。永琳と輝夜の御付きの者として来ただけだ。最初についたとき、一緒に来た者達は一斉に殺された。でも、私とてゐだけは殺されなかった。てゐは仲良くしていたから普通の結果だ。でも、私はあの二人に役に立つ道具だと思われただけだ。そして永遠亭に居たときも"鈴仙"としてではなく"便利な道具"としてしか扱われてなかった。誰も、私を認めてはくれなかった。復讐なんて下らないことはどうでもいい。どうせあの蓬莱人どもは殺せない、否、死んでも生き返る。髪の毛がたった一本だけでも残っていれば、そこから再生する。私は…ずっと一人だった。月にいたときもここに来てからも。誰も私のことなんか気にしてない。だから、2度と彼処には戻らない。戻そうとするような奴等は皆殺せば良い。そしてどんなことがあっても誰とも関わらない。関わりたくもない。仲間なんて要らない。たった一人の"鈴仙"として生きていければそれで良い。もう道具扱いはうんざりだ。

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「ねえ、永琳。」

「なんですか?姫様。」

「最近、嫌な気を感じないかしら。」

「感じますね。まるで終末の歯車が回りだしたような、とても嫌な気を。」

「そうよね。鈴仙…あの子にもいずれ言おうと思っていたことを言えないかもしれない。」

「あの時のことですか?」

「ええ。たぶんあの子は、私達のことを恨んでるでしょう。でも、凶大なあの力を制御できなくなったあの子を救うには、あの術しかなかった…のよね。」

「姫様…。」

「でも本当に正しかったのかしら…。いくら鈴仙を救うためとは言え、騙して貴女の作った薬を飲ませたことは。いいえ…過去のことを気にしてもしょうがないわよね。」

「そうお思いになるのなら、謝れば良いのではないでしょうか。もちろん、私も一緒に謝りますよ。」

「そうね。許しを下すかはあの子次第だけど、私は、許してくれるまで償うつもりよ。」

「お付き合いしますよ。私にも責任はありますからね。」

「ふふ、ありがとう。永琳。」

穏やかな陽気の中で交わされていた二人の会話。しかし、その時にはもう彼女に異変が起こっているとは知らずにいたウサ。勿論、私因幡てゐも知らなかったウサ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねえ、鈴仙を探すのは良いんだけど、別れない?」

「成る程。そうした方が見付けやすいものね。」

「でもよ?あの二人はどうするんだ?」

「あー、リョウはフランの相手をしに行ったわ。ショウは寺子屋の授業に出てるみたい。」

「じゃあ、3手に別れましょう。私が妖怪の山付近を探すわ。」

「私は魔法の森だな!」

「なら、命蓮寺方面を探すわね。」

「そうね…今は10時だから、2時にまた博麗神社で落ち合いましょう。」

「よし!じゃあ、行くぜ!」

魔理沙はあっという間に飛んでいってしまった。

「私も行くわ。アリスも頑張ってね。」

霊夢が続いて飛んでいった。

「私も行くか…。」

最後に飛んだのは私だった。妖怪の山にはあっという間に着いたけど、ついた瞬間降りる。空を飛んでいると、天狗達に捕まりかねないから。鬱蒼と茂った木々の間を歩く、暫くすると、人影が見える。目の前から誰かが来たようだわ。

「あれ?アリスさん?こんなところで何をしているんですか?」

「ちょっとね。人探しをしてるのよ、椛。」

一瞬驚いたけど、椛なら納得できるわ。彼女は哨戒天狗で、妖怪の山に無断で立ち入る人間がいないか見張っているからたまに会うのよね。

「人探し…?アリスさんがそんなことするなんて珍しいですね。」

「そうかしら。まあいいわ。椛、鈴仙を見なかった?」

「鈴仙さんを、ですか…。」

手を顎に当てて考える仕草が可愛いわね…。耳が時々ピコピコ動くのも可愛い…。

「見てないですね。雛さんには会いましたけど。」

「そうなの…。ありがとう、教えてくれて。」

「いえいえ、これくらいは良いですよ。探しだせると良いですね。」

「そうね。貴女も見回り頑張ってね。」

椛と別れ、捜索を再開する。すると、少し開けたところに、見慣れたシルエットが見えた。

「あれは…鈴仙なの?」

確かに鈴仙と言えば鈴仙だけど、雰囲気がまるで違う。私の知ってる鈴仙はもっと柔らかい印象を受ける子なのに、今の彼女からは鋭い…殺気?といった感じのものしか感じられない。それに、目の色が何となくおかしい。大抵赤色の目をしているけど…あれは、狂気の瞳になっているときの色だわ。普段は抑えてる筈なのにおかしいわね。どうにせよ、話し掛けないと何もわからないわね。

「鈴仙?大丈夫?」

「誰?ああ、人形遣いね。」

明らかにおかしいわ…。2つ名で人を呼ぶなんて。あら?そういえば私名乗ったことあるかしら。

「私はアリス・マーガトロイドよ。名乗ったことなかったかしら。」

「あるわよ。貴女の名前なら知ってる。呼びたくなかっただけ。」

「なら…なんでなのかしら?」

「私に関わらないでほしい。ただそれだけよ。」

「…。何があったのか知らないけど、輝夜もしん…」

「その名を口に出すな!」

「!?どうして?貴女の主でしょ?それに永琳も…」

「だからそいつらの名前を言うな!そして、ここから去れ!2度と私に近付くな!今すぐ何処かに行けぇ!」

「…わかったわ。でも気を付けなさいよ、鈴仙。」

「さっさと消えて。もともと貴女に用なんかないし、私の名前を呼ばれることすら不愉快よ。」

あの状態になってしまったのは何故かしら…。輝夜と永琳の名前を出したら急に怒り出して、今にも攻撃されそうな状況になってしまったわ。これは、永琳達に話を聞かないといけないわね。妖怪の山を離れて、永遠亭に向かう。

「?誰が来たのかしら。」

「アリスウサね。恐らく鈴仙を見つけたんだろうウサ。」

「…そう。でも、鈴仙は一緒じゃないの?」

「一緒じゃないウサね。姫様に用があると思うウサ。」

「私に?何故?」

「さあ?それはご自分で考えてみるウサ。」

そう言っててゐは出ていってしまった。本当に何のようなのかしら。

「輝夜。」

「アリス?どうしたのかしら。鈴仙は見つかったの?」

「見つかったわよ。だけど…。」

「だけど?」

アリスがとても複雑な顔をしているわ。こういうときの彼女は大抵悪い話しかしないのよね。まさか鈴仙が…

「ここには戻りたくないって。それに誰にも会いたくないそうよ。」

「!?何故かしら?」

「それは…」

悪い予感は当たらなかったけど、なんでここに帰りたくないのかしら。全くもってわからないわ。

「詳しくは私もわからないの…。だけど、貴女と永琳の名前を出したら急に怒り出したのよ。「その名を口にするな!」って。」

「そう、なのね。」

まさか…あの封印した記憶が蘇ったの!?だとしたら、私と永琳は酷く恨まれているわ。それに、私達の名前を出してしまったアリスも敵と認識してるわ…。

「ねえ、輝夜。無理にとは言わないわ…だけど、教えてくれない?貴女と永琳と鈴仙の間に何があったのか。」

「…。ごめんなさい、私一人の口からは言えないわ。でも、これだけは言えるの。あの子は、鈴仙は、私と永琳のことを深く恨んでる。そして、その原因は全て私と永琳にあるの。私達が…あんなことをしなければ…。」

「輝夜…。」

アリスが私を抱き締めて、頭を撫でてくれた。いつの間にか私の目には涙が溢れていて、嗚咽を洩らしそうだった。

「大丈夫よ…。誰だってそういう過失はあるものよ。そのときは気づけないけど、後になってから気付く、そういうことは、いつでもあるわ。」

優しすぎるアリスの言葉に思わず堪えきれなくなった私は、思わず聞いてしまった。

「アリスは…そういうことあったの?私みたいに…。」

「…。」

唇を噛み締めるアリス。きっと自分の胸のなかにある葛藤に襲われたのね。失礼なことを聞いてるのはわかってるわ。だけど、知りたい。そういう経験をしたことがあるのかを。それを知れば少しは私の罪も減ると…思いたいから。

「あるわ。しかもそれは…私自身よ。でも詳しくは言えない。貴女が私に話したがらないことよりもよっぽど話してはいけないのよ。」

真剣な表情で言う。絶対にこの時の彼女は嘘をつかない。いや、つけないのよね。

「そう…。立ち入ったことを聞いてごめんなさいね。」

「いいのよ。別に。」

笑顔でいってくれるのは、私に気を使ってくれてるからでしょう。本当に優しさの塊みたいよね。

「教えることは出来ないけど、貴女の役に立ちそうな助っ人なら用意できるわ。清蘭、鈴瑚。来てちょうだい。」

「はい?何かご用ですか?」

「何か用?」

少々ツンデレぽいのが鈴瑚で丁寧なのが清蘭ね。ふふ、鈴仙に似てるわ。

「貴女達二人は鈴仙と知り合いよね?だったら、ここにいるアリスと一緒に彼女の説得に行ってくれないかしら。」

「鈴仙の説得を…?」

「なんで鈴仙を説得するわけ?」

「実はね、(少女説明中)というわけなのよ。」

「ええ!?鈴仙がそんなこと言ったんですか!?」

「驚きね。」

「ええ、少なくともアリスの情報だとそうみたいね。」

チラリとアリスを見る。少々気まずそうにしていたが、話してくれた。

「本当のことなの。今彼女は心を塞いでる…だから、貴女達二人で開いてほしいの。いつもの鈴仙に…戻してほしいのよ。これは、私だけでなく、輝夜の願いでもあるの。協力をお願いできるかしら。」

「勿論です!あの鈴仙がそんな風になるなんておかしいです!」

「私も協力するわ。鈴仙がそんなことになるなんて信じられないもの。」

「なら、早速付いてきてくれるかしら。そんなに遠い場所じゃないから、すぐ着くはずよ。」

「わかりました!」

「わかったわ。」

「アリス。くれぐれも気を付けてね。」

「わかってるわ。」

そういうと二人をつれて出ていったアリス。本当は、貴女に託すのはいけないことだというのもわかってる。だけど、こうするしかないの…。頑張ってちょうだい…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここなんですか?」

「ええ。ここよ。あそこに見えるのが、鈴仙。」

「全然雰囲気とかが違うのね。あんなの鈴仙じゃない。」

二人とも私が最初に思ったことを感じているのね。

「私が話しかけるから、説得は二人にお願いするわね。」

「はい!」

「ええ。」

「鈴仙?私よ。」

「人形遣いか。さっき何処かに行ってと言ったばかりでしょう?それともまだなにかあるの?」

不機嫌そのものといった感じの態度ね。これをどう説き伏せるかよね。

「鈴仙!私だよ!清蘭だよ!どうしちゃったの?」

「鈴仙…。鈴瑚よ。何があったの?」

「…なんで私と同じ種族がいるの?人形遣い。」

「貴女を()()に戻すためよ。本当にどうしてしまったの?貴女がこんな風になるなんて…。」

「私は言ったはずよ。誰とも関わらないと。」

「なんで!?そんなのおかしいよ!」

「おかしくなんかないわ。私を道具扱いしかしない奴等とどうして仲良くしなくちゃいけないの?」

「道具扱い?なんでなのよ。誰が貴女を道具扱いしてるわけ?」

二人の言葉を私は黙って聞いていた。私が口を挟むべきではないと思ったから。

「貴女達に話す理由なんてない。」

「あるよ!だって友達でしょ?」

「そうよ。アリスさんはともかく私達には話すべきよ。」

そうはっきり言われると少し傷つくのよね…。

「…私に友達なんかいない。」

「違うよ!それはただの鈴仙の勘違いだよ!」

「鈴仙…貴女が私達にそんな態度をとると言うことはよっぽど何かあるのよね?だったら、余計に教えなさい。貴女に話さないと言う選択肢はないわよ。」

鈴瑚の方が論理的な思考ね。清蘭は、どちらかと言えば感情的なタイプね。

「言わないわ。貴女達に言ったって何の特にもならないのに。」

「話してよ!」

「さっき言ったわよ。貴女に拒否権はないと。それとも永琳や輝夜に関して不都合でもあるのかしら?」

「!その名前を言うな!私を道具扱いした奴等の名を口にするなぁ!」

私の時と同じ様な反応を示す。大丈夫かしら。

「やっぱりそうか。ねえ、鈴仙。あの二人が貴女を生かしたのは別に便利な道具だと思ったからじゃないわ。」

「嘘を…いうな!じゃあ何で私とてゐ以外を殺したんだ!」

「てゐは元々仲が良かったから。貴女の場合は、貴女の命を救うため。」

突然明かされた言葉に思わず言葉を失った鈴仙。これならいけるかもしれないわね。

「…今、なんて…?」

「だから、貴女の命を救うため。当時、貴女は自らの能力の力量が著しく増えてしまったため、制御できずに自分と周りの命を危険にさらしていた。周りを敵味方関係なく狂わせて、己の感情さえも狂わせていた。その異変に私達が気づいたのが遅すぎたため、豊姫様がひとつの決断を下した。それが、輝夜の流刑とともに地上に送り、永琳の薬で貴女の記憶を失わせ、力も同時に失うことだった。」

「…!」

自分が一部しか認識してなかった過去を全て明かされたせいか、未だに口がきけなくなっているわね。だけど、目の狂気は少しずつ収まってきているわ。そんなことを考えていると、清蘭と鈴瑚が近付き、鈴仙を抱き締めた。

「勿論、貴女だけが悪いと言う訳じゃない。私たちだってちゃんと説明するべきだったのよ。それに、もっと早く気づいていればこんな強硬手段を取らずに済んだのよ。本当に…今まで嘘をついて苦しませていてごめんなさい。許してくれとは言わない。私達のことを許すか許さないかは貴女が決めてちょうだい。」

「そうだよ!鈴仙、私も鈴瑚と同じ意見だよ!ずっと黙っててごめんね。」

「鈴瑚…清蘭…。私が…間違ってたんだね。今までずっと皆が私のことを道具だと思っているのかと思ってた。だけど、それは間違いだった。全然一人ぼっちとかそういうのはなくて、皆私のことを大切に思っててくれたのに…。ううん、私の方こそごめんなさい。酷いことを沢山言って…。勿論二人を、いや、皆を許すよ。だって、そうでもしてくれなきゃ死んでたんでしょ?本当…ありがとう。」

完全に狂気の色が消えた鈴仙が目を潤ませながら二人を抱きしめた。

「うう~鈴仙ー!」

「鈴仙!」

「鈴仙…。もとに戻った…いえ、本当の貴女を取り戻したのね。」

「ええ、アリスさん。アリスさんもさっきは酷いことをいってしまってごめんなさい。」

「いいのよ。別に気にしてないわ。それよりも貴女こそ大変だったわね。」

鈴仙の嬉しげな顔を見てるとこっちまで嬉しくなってくるわね。あら?そういえば彼処にいるのって…輝夜と永琳!?

「鈴仙…。」

「!姫様…?」

「いいえ、貴女に姫様と呼ばれる資格はないわ。だって、貴女のことをずっと騙してきたんですもの。」

「でもそれは、私が抵抗すると思ったからでしょう?だとしたら別に…」

「いいえ、そういうことじゃないの。私が言いたいのは…ずっと記憶を封じたときから貴女にそれを明かそうと思ってたのに、全く明かせなかったことよ。ずっと、貴女のためになってるんだって自分に言い聞かせて言ってなかった。でも、違うわ。ただ、そうやって貴女を騙していると言う罪悪感から逃げてただけなのよ。永琳にも言わないように頼んで、そして自分でも考えないようにして、自分の罪に向き合わないでずっと嘘を突き通してたの…。本当…貴女には謝っても謝り足りない位だわごめんなさい、鈴仙…。」

「私も姫様と同じよ。うどんげ、今まで黙っててごめんなさい。」

そう言って永琳と輝夜が頭を下げる。奇妙な光景にしか見えないわね…。

「…別にお二人を恨んでいません。それに、私の大切な命を救ってくれた恩人に許さないなんてありません。許します、ですからもう頭をあげてください。」

「ふふ、本当に鈴仙は優しいのね。私だったら一生許せないわ。」

涙目の輝夜がそういった。罪の告白をできて胸がスッキリしたのよね…。

「うどんげ…。」

永琳は悲しいような、嬉しいような複雑な表情を浮かべていた。

「これで、一件落着かしら。」

私一人でポツリと呟いたつもりだったが―

「そうだな。」

「そうね。」

「!霊夢、魔理沙!?」

「もうとっくに2時を過ぎてるから見に来てみれば皆泣いてるし、お前はなんか呟いてるし。でも、ああなってるってことは解決したんだな。」

「そうよ。」

「ねえ、お取り込み中ちょっと悪いんだけど、鈴仙。あんた、変なやつに会ったりしなかった?」

皆の輪の中にいた鈴仙がこちらを向いて答える。

「会いました。全身黒い服装でフードのついた長くて黒いローブを着ている人に。フードを深く被ってて顔は見えませんでしたが、あの男のせいですこしおかしくなってしまいましたけど。」

「黒いローブとフードの男、か。」

「心当たりでもあるんですか?」

「いえ、ないわ。教えてくれてありがとね。」

「黒いローブかぁ。私も聞いたことないな。」

「私だってないわよ。アリスは?」

「私もないわね。でも、もしかしたらパチュリーなら知ってるかもしれないわ。」

「紅魔館でも行くか?」

「そうね。」

「魔理沙は、本を返さないと不味いんじゃないの?」

「あ、やべぇ。溜まってる。霊夢、手伝ってくれ!頼む!」

「なんで私が…まあいいわよ。アリス、あんたは先に行っててちょうだい。魔理沙の本運びを手伝いながら行くからすこし遅れるわ。」

「わかってるわ。頑張ってね。」

永遠亭一家の集まりを抜け、一気に紅魔館に辿り着く。

「美鈴、起きないとまた咲夜に刺されるわよ。」

「はっ!?あ、アリスさんこんにち…イタッ!」

「美鈴?また寝ていた貴女が悪いのよ?」

「す、すみません。咲夜さん…。」

相当痛そうね…。それもそうか。ナイフで刺されているものね。彼女の名は紅美鈴。庭師兼門番で、よく居眠りしては咲夜にナイフで刺されている。因みに能力は気を操る程度の能力だったわね。

「気を取り直して、アリスさん。何かご用ですか?」

「パチュリーに会いたいのだけど。」

「パチュリー様ですね。畏まりました。因みにお嬢様にはその旨をお伝えしておきますので、ご自由に館内をお歩き回りください。」

そう言って一礼するとあっという間に消えた。そして、このメイドこそが十六夜咲夜。時間を操る程度の能力で時間を止めることができる。

「いたたたぁ。アリスさん、もし時間があれば私の花畑も見ていってくださいね。あと、妹様やお嬢様にもお会いになることをお勧めしますよ。」

「ふふ、そうね。ありがとう、美鈴。」

中に入り、長い廊下を歩いてパチュリーのいる図書館へ向かう。

「あら?アリスが来るなんて珍しいわね。何のようかしら。」

そう言って出迎えてくれたのは動く大図書館こと、パチュリー・ノーレッジだ。彼女は七曜の魔女で、幻想郷では紫についで物知りといっても過言ではないわ。

「実は、とある妖怪っていうか人間と言うかわからないんだけどそれについて知りたいのよ。」

「どんな感じの服装とかをしているの?そして、どんなことを引き起こしているの?」

「黒いローブを着ていて、フードを深く被ってるのよ。そして、恐らくはそいつのせいだと思うけど、普段大人しい大妖精が暴走したの。」

「なるほど…。こあ?あの本を持ってきてちょうだい。」

「畏まりました、パチュリー様!」

そう言ってこあが抱えてきたのは一冊の古くて厚い本だった。パチュリーが手に取り、ページをめくる。

「確か、この辺に…あったわ。このページを見てちょうだい。」

そう言われたので覗き込んで見る。すると、そこには全身黒い服装の妖怪が描かれていた。

「これは…?」

「多分、これが貴女の探してる妖怪だと思うわ。種族名は"具現化妖怪"ね。」

「"具現化妖怪"?それは…なんなの?」

「簡単にいってしまえば、元々は人の感情から産まれるのよ。嬉しさとか悲しさとかその辺。でも、この妖怪の場合は違うわ。歴史上でもたった一人しか具現化していないもの。」

「他の感情からは沢山妖怪が出来てるのね。」

「まあ、そうね。話に戻るけど、この妖怪が具現化する条件は非常に限られてるの。それは、強烈な憎しみや殺意を人間が抱くこと。」

「それなら、すぐできそうじゃない?」

「いいえ、この場合は長い年月…その人間が死ぬ間際まで凄まじい殺意や憎しみを持っていることが条件なのよ。その殺意や憎しみが少しずつ意思を持ち始め、そして妖怪になるの。」

「成る程ね…。どんな能力を持つとかは書いてないの?」

「うーん…。過去に具現化されたときは、"殺意を操る程度の能力"を扱っていたみたいね。」

「そういことなのね。大妖精から強烈な殺意を感じたのは。」

「殺意を感じたと言うのなら、その能力と考えてまず外れないと思うわ。それともう1つ、この条件によって生まれる妖怪はかなりの力を有しているわ。」

「長い年月を経て生まれるから?」

「そうよ。どれくらい強いのかは想像できないわ。生み親であるその人間の憎悪や殺意がどれだけ強いのかなんて未知数だもの。この本だと、博麗の巫女さえも打ち倒したらしいわ。結局、最後はその巫女の命と引き替えに倒されたみたいだけど。」

「命を…引き替えに…。」

この一言を聞けば、思わず霊夢のことが心配になってしまうわ。

「だからといって、霊夢が殺されるなんてことはないでしょうけどね。その巫女は一人だったけど、霊夢の周りには沢山の仲間がいるじゃない。だから、大丈夫よ。」

「そうね。色々とありがとう、パチュリー。」

「いいのよ。レミィからも頼まれてるしね。」

「そうなのね。だったら、レミリアにお礼でも言いに行こうかしら。」

「それがいいわよ。レミィも貴女には会いたがってたからね。」

「わかったわ。じゃあね、パチュリー、こあ。」

「ええ。貴女も気を付けて。」

図書館を出て、レミリアのいる部屋に向かった。

「レミリア?いるかしら。」

「あら、アリスじゃないの。久し振りね。」

彼女こそがこの紅魔館の主である、誇り高き吸血鬼のレミリア・スカーレットね。かつて、紅霧異変という異変を起こしたけど、霊夢達によって阻止されたわ。その後は友好的に接してくれている。因みに彼女には一人妹がいる。その子の名はフランドール・スカーレット。通称フランだけど、彼女は自分の狂気を制御できず、力を暴走させていた。それをリョウが感情を操って治したのよね。

「パチュリーに口添えをしておいてくれたのはお礼を言うわ。」

「ふふ、いいのよ。ところで、最近異変が起きているわよね?」

「そうよ。それを知りたいの?」

「それくらいなら知ってるわよ。私が知りたいのは、どれだけ強い妖怪なのかってこと。」

「その力は未知数よ。でも、強敵なのは間違いないわ。」

「なるほどね。最近凄く嫌な気を感じるのはそのせいか。あと、私の能力を使って昨夜運命を見てみたの。」

「そしたらどんな運命だったの?」

「見えなかったのよ。運命が。」

「えっ?」

見えない、とはどう言うことかしら。

「黒い霧みたいなものがかかってて全く見えなかったわ。きっと誰かが運命を閉ざしている。」

「レミリア…。」

「気を付けて。何が起こるかわからないけど、とても嫌な予感がするわ。私達の力が必要になったら、すぐに言ってちょうだい。」

「ありがとう、レミリア。私はそろそろ行くわね。」

「くれぐれも気を付けて。」

「ええ。」

レミリアに別れを告げて紅魔館を出ると、大量の本を抱えた霊夢と魔理沙に会い、結局手伝ってしまった…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あいつは…なんなんだ本当に…。憎しみも殺意もあいつには湧かない…。」

泣いて喜んでいる蓬莱人どもを見ながら呟いた。輝夜とか永琳とかその辺の奴等には怒りしか湧かないのに、あの鈴仙とか言うやつには全くもって湧かない。むしろ、よくわからない感情さえも湧きそうになっている。

「まあいい。今回は…これ以上やめておこう。暫く、低級妖怪どもを狂わせるのも。何故か、それが今の俺には出来ない気がするからな。」

一人で呟いたその言葉を聞いていたのは風だけだった。

そして、彼は姿をゆっくりと消した。




鈴瑚と清蘭についてはキャラは創作ですので、性格は原作と違っています。あと、物凄く長くなってしまってすみません!数えてみたら、約10000文字くらいありました。心よりお詫び申し上げます。
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