「また雨か…。だからこの季節は嫌なのよ。」
はっきり言って、雨は客足にも影響するからあまり好きじゃない。人里からここに雨の中来るのは大変なことだから、その辺は理解しているもののやっぱり気持ちが沈んでしまう。
「はぁーあ。今日はもうお店たたもうかな…。でも今日はいい八目鰻が入ったんだよね…。」
「…開いているのか?この店は。」
「あ、はい!」
やっとお客さんが来た、と思ったけど…あんまりこの辺じゃ見たことない顔をしてるなぁ。それに服装が黒いローブを着てるし。あ、脱いだ。びしょびしょになってるから仕方ないよね。
「ハンガー使います?そのままだと染み込んじゃうと思うので、軽くタオルで拭くことをお勧めしますよ。」
「貰っておく。」
なんか無愛想だなー。まあ、そういうお客さんもたまにいるし、しょうがないか。…手際いいな。ひょっとしたら、私より上手かもしれない。
「じゃあ、その上着渡してください。ここに干しておくので。」
「わかった。」
下は意外にも薄着ね。黒いTシャツに銀のネックレス、革ジャン、そして、チェーンのかかっているジーパン…ファッションを気にする人なのかな。
「あ、座ってください。」
「…。」
私の真向かいに座った彼を見てみると、かなりイケメンということがわかる。整った顔立ちに目は紫色、髪は黒の長めで、少しピンピンしている。
「ご注文を何にしますか?」
「ここのおすすめでいい。」
「そうですね、今日のおすすめは八目鰻です。」
「それでたのむ。」
「お酒はどうします?」
「なんでもいい。」
「だとしたら…ラム酒なんてどうですか?」
「それでいい。」
「わかりましたー。少々お待ちくださーい。」
なんか、変わってる人だなー。"なんでもいい"とか"それでいい"って自分で選ばないのはなんでだろう。優柔不断?なのかなぁ。あ、いけないいけない。焦げちゃう。
「どうぞ、八目鰻の蒲焼きです。お酒はラム酒です。」
「…どうも。」
ラム酒だとちょっと度数が強いかな~。でも、新しいやつだからそうでもないか。
「うまい、な。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「別に礼を言われることじゃない。」
「だとしても、料理人は自分の料理を誉められたらお礼を言うものですよ。始めてのお客さんなら尚更です。」
「…そうか。」
「そうですよ。」
なんとなくわかってきたことがある。この人、なんだかとても寂しそう。悲しげな瞳をしてるし、雰囲気が暗い。なにか、悲しいことでもあったのかな…。でも、この人、人間には思えない。いや、人間じゃない。人型だけど、妖怪よね。だとしたら、何が悲しいのかな…。
「お客さん、名前は何て言うんですか?」
「なんでお前に明かさないといけない。」
「だって、ずっと私にお客さんって呼ばれるのも変でしょ?それに私だって貴方に名乗ってないし。」
「…。クレイ、だ。クレイ・デストロイ。」
面倒そうに名前を名乗ってきたなぁ。そんなに言いづらい名前ではないと思うんだけど…。
「クレイ、ね。私はミスティア・ローレライよ。改めて、夜雀亭へようこそ。」
「ミスティアか。」
「呼びづらかったらみすちーでもいいけどね。」
「そうか。」
基本的他人には関心薄い人なのかなー。
「追加で何か食べます?あと、お酒も。」
「さっきの八目鰻、だったか。それを頼む。酒は…他におすすめのものでいい。」
「わっかりました~♪」
なんだかんだ言って美味しかったんだろうな~♪うふふ~♪さっきより柔らかい言い方だったし!
「どうぞ♪今回は八目鰻を煮込んだのとお酒はウイスキーのロックです!」
「どうも。」
私はカウンターの上で頬杖をつきながら食べるところを見ていた。
「…俺の食べるところを見るのがそんなに面白いか?」
「さあね。でも、さっきより美味しそうに食べてるからついみたくなっちゃって(ニコッ)」
「変わったやつだな。」
「私に変わってるも何もないわよ。喜んでる顔を見たくなるのは皆一緒だもの。」
「俺は別に喜んでる訳じゃない。」
「そうなの?でも少なくとも私にはそう見えるし。」
「あんたにどう見えようが俺は喜んでない。」
「そういう人こそ、本当は喜んでるのよ♪」
「…。」
あはは、面白いこの人。俗に言うツンデレってやつね。ずーっとツンツンしてるからデレも見たいな、なんて。
「…変なこと考えてるだろ。」
「えっ?そ、そんなことありませんけど?」
「嘘をつけ。さっきからニヤニヤしながら人の顔を見てるだろ。」
「え、えー?な、なんのことかなぁ?」
「嘘付くのが下手くそだな。図星を突かれた、といった顔をしてるぞ。」
「別にず、図星だなんてそんなことありませんよ。」
「…はぁ。もういい。アホらしくなってきた。」
「そ、そうですよぉ。私なんかを苛めても面白くないですから。」
うう、怖い怖い。あの目は絶対人を殺しそうだった。幽香さんみたいに物凄いドSだった。にしても、私がにやけてるなんて、いつもああなってるのかしら。用心しないとね…。そんなこと考えながらなんとなく彼の隣に座る。
「ところで、」
「は、はい?」
急に話し掛けられたから思わず変な声で返事しちゃった。あれ、ていうか向こうから話し掛けてきたのこれが始めてだよね?なんだろー。
「最近事件とかが起こっているという話は聞いたことあるか?」
「もちろん。妙な異変が起こってるんですよ。」
「妙な異変?」
「ええ。なんでも、初級~中級クラスの妖怪が普段絶対に出さないような力で暴れまわるっていう異変なんですよ。大抵は力を使いすぎて、命を失ってしまうそうなんです。」
「暴走した力を得た者の末路か…。」
「え?」
「いや、なんでもない。続けてくれ。」
「はあ。」
今なんて言ったんだろう…。なんか、末路とかそういう言葉が聞こえた気がするけど気のせいかな…。
「実際に私の友達もそうなったんです…。名前は明かしませんが、ひどい変わりようでした。いつも優しくて真面目な彼女がひどい言葉を言って、普段の倍以上も強い力をもって襲い掛かってきたんです。それを霊夢さんたちが倒してくれたんです。だけど、大怪我を負っていて、今も永遠亭に入院してるんです…。」
初対面のお客さんの前で思わず怒りだしてしまった。私は両手を強く握って怒りに身を震わせながら前を見た。
「だから…絶対に許せないんですよ。その妖怪のことが。いつか必ず見つけ出して倒してやりたいんです。どれだけ私達が苦しい思いをしたのか思い知らせてやりたい…!」
「…。」
心の中には強烈な憎しみと怒りが湧いてきていた。そして、その妖怪を殺してやりたいという欲望も。
「お前、今にも人を殺しかねないような顔をしてるぞ。」
「あっ…?」
彼にそういわれて気付いた。自分がどんなに醜い気持ちを抱いていたのかも。
「っ…。すみません、ついカッとなって。」
「いや、あと泣きそうだぞ。」
…あ、なんでだろう。涙も出てきた。目から溢れた涙は両頬を伝って握っている手の上に落ちる。
「うう…。なんで、あの優しい大ちゃんじゃないといけなかったんだろう…。ルーミアや、チルノも傷付いて、それを治したりすることも出来なくて、大ちゃん達は未だに入院中で…私は、私は、なんで何も出来ないんだろう…ヒック(泣)」
実際、一番最初にチルノを追い詰める大ちゃんを見つけたのは私だった。でも、勝てないと思った私はルーミアとリグルを呼んで手伝ってもらった。だけど、そのせいでルーミアは重傷を負ってしまった。私が…もっと力があって、二人に頼らずに止めることができたなら、ルーミアは無事だったに違いない…。
「私は、全然駄目なんです。友達一人救えない…そんな妖怪なんです…。」
尚も溢れる涙を手で拭いながら涙声で話してしまった。すると、今までずっと黙っていたクレイがためらいがちに私の頭に手を伸ばして撫でてくれた。
「…!」
「こんなことをするなんて俺らしくもないことだが、ミスティア、あんたはなんかほっとけないからな。美味い飯も食わせてもらったし。」
そっぽを向いて肘をつきながらそういっている姿はよく似合っていた。口でいっていることは無愛想だけど、撫でている手は優しいな…。
「優しいんですね。本当は。」
「!別に俺はそういうつもりでは…」
「だって、ずっと無愛想で名前も呼んでくれなかったのに、さっきは呼んでくれたし、慰めてくれたから。本当は優しい人だったんだなって。」
「…。もういい。あんたといるとおかしくなってくる。勘定を頼む。」
「あ、は、はい。」
さっきまで優しく撫でてくれていた手を引っ込めて態度が変わっちゃった。なんか残念な気分…。また来てくれないかな…。
「じゃあな。また来るかは俺次第、だ。」
そう言って再びローブを着て出ていってしまった。なんか、また心を読まれた気がする。彼が出ていったあとを見てみると、雨はやんでいて変わりに雲の間から綺麗な満月が顔を覗かせていた。まるで、私の気持ちを代弁するかのように。
「いつでも、待ってますよ…。クレイさん。」
私は月に向かってそっと呟いた。
どうでしょうか。少しずつだけど、性格の変わってきてる彼の成長は。本当は優しい一面を持っている…そんな意外な彼を垣間見ることができたでしょうか。もしも見ることができたなら幸いです。その後の彼は…変わってしまうでしょうから…。