懐かしいな、この景色は。父さんがいて母さんもいる。そして、笑っている私。でも、遠くからすごく悲しげな声がする。なんでかな。ここには私達家族以外いないはずなのに。あれ?だんだん大きな声で聞こえてくる。
「アリス!しっかりしなさい!」
なんで私の名前を知ってるの?
「起きなさいよ!」
誰なの!ねえ!答えてよ!
「死んじゃ駄目よ!」
死ぬ?私が?でも、私は生きてる…。
「死ぬなんて許さないわ。現実に戻ってきなさい!」
そうか……夢か。現実の私にもう家族はいない。私が魔女になってしまったから―
「う…ん?ここは…?」
「良かった!アリスが目を覚ましたわよ!」
「これで峠は越えたわ。もう大丈夫よ。」
重たい瞼をあけて周りを見ると、永琳、レミリア、霊夢、フランが居た。
「なんで皆いるの?」
「あんた…まさか覚えてないの?」
「覚えて…?」
ぼんやりとする頭をフル回転させ記憶を掘り起こす。すると、炎に焼かれた時の地獄の痛みが再び体に走る。
「っ!うっ!?」
「まだ起き上がっちゃダメよ。貴女は霊夢より重傷なんだから。」
思わず起き上がって両手で自分を抱き締めてしまった。その両腕にも包帯が巻いてあり、起き上がると体全体に激痛が走った。
「何にせよ、無事で良かったわ。アリス。」
レミリアが心底ホッとした表情で言う。
「そういえば、フランは大丈夫だったの?」
私は魔理沙のあの言葉が気がかりだった。フランの狂気は無事に抑えられたのかしら。
「うん…。リョウが、治してくれた。でも…。」
「でも…?」
かなり落ち込んだ顔をしている。何があったのかしら。
「フランのせいだよ…。私が魔理沙の箒の後ろに乗らせて貰ったりしなければアリスは無事だったのに…。うっ…。アリス、ごめんね…。」
目に涙をためて謝ってくるフラン。そしてその涙が頬を伝って落ちる。本気で気にしていて罪悪感を感じているのね。
「いいえ、フラン。貴女のせいではないわ。だって、その時止めなかったのは私だし、貴女が狂ってしまったのは貴女のせいじゃなくて妖怪のせいよ。だから、謝らなくていいわよ。」
そう言って優しくフランに微笑む。偽りのない本心からの笑み。伝わってるといいわね…。
「ア、アリス…。うわーん!」
流石に抱き付いては来なかったが、ベットの端に顔を突っ伏して泣き始めてしまった。わかるわ。貴女は優しい子だからずっと悩んでたのよね。そう思いつつ頭を優しく撫でてあげる。
「フラン…。良かったわね。」
「そういえば、霊夢。貴女は寝てないと駄目よ。まだ完璧に傷が塞いだわけじゃないんだから。」
「別に今すぐじゃなくていいじゃない。もう大分げん…。」
「つべこべ言わないの。怪我人は大人しく医師の言うことを聞きなさい。」
「…わかったわよ。」
退出していった霊夢。どうやら部屋が別みたいね。
「ねえ、アリス…。貴女にその怪我を負わせたのは…誰なのか、わかってるわよね?」
「…ええ。ショウ、よね。」
「そうよ。病み上りの貴女にはキツイ話かもしれないけど聞いてくれるかしら。」
「わかったわ…。」
レミリアの顔も永琳の顔も暗い。そして、話し始めたのはレミリアだった。
「貴女と霊夢が…その、倒されたあと、椛とはたてが貴女達を見つけて永遠亭まで運んできてくれたの。二人とも酷い火傷と切り傷を負っていて、特に貴女の傷は深くて酷かったの。生還すら絶望的だったのに貴女は今生きている。これはいい話よ。そしてここからが本題なの。」
レミリアは一度一息ついて再び話始めた。
「ショウが…あの強大な神力を使って幻想郷を破壊し始めたの。私と咲夜で止めに行ったけど、全然歯が立たなかった。咲夜の力で逃げるのが精一杯だったのよ。パチュリーが援護してくれなかったら今頃どうなっていたかわからない…。紅魔館は無事よ。パチュリーがずっと前から強化してきた結界があるから。でも、妖怪の山が大変なことになってる。天狗達も必死に抵抗してるけど、全然駄目なのよ。力の差がありすぎて誰も止められないの。止められるとすれば博麗の巫女か八雲紫だけだと思っていたのに、霊夢は重傷を負っていた…。」
そしてもう一度だけ言葉を区切った。
「紫は紫で全くもって連絡がとれない。恐らく寝てしまっているのよ。一刻も早く目を覚ましてもらわないといけないのだけど、今は秋だから睡眠時間が増加してるのよ。冬が近づいてるから。仕方無いから藍を探しているのだけど、それも全く見つからないの。そして、その事を言おうと思っていたら貴女が目を覚ましたの。」
「…!」
あまりのことに口から言葉がでなかった。あのショウが…。幻想郷を滅ぼそうとしてるなんて、信じられない。だけど、あの時の態度から本気であることは既にわかっていた。いつもの彼ではないことも…。
「ショックよね…。もちろん私だけじゃなくて他の皆もそう。でも、真実なのよ。それで、皆はもしかしたら貴女なら止められるんじゃないかって思っているけど、刃を一番最初に向けられたのは貴女達なのにね…。もはやあの神龍に記憶はないのかもしれないわ。でも、無いとははっきり決まってない。私も貴女なら止められるんじゃないかと思うのよ。だって…アリスが一番ショウのことを好きでしょ?」
思わず顔が赤らみそうになるが自分を落ち着かせる。冗談じゃなくて本気でレミリアが言ってることは明白だったから。
「そうよ。むしろ、愛してると言ってもいいくらい…。」
ずっと隠してきた素直な想い。どうしても彼には悟られたくなかったから。
「そうよね。だから、私達はその気持ちに賭けてみたいの。貴女のその純粋な想いなら、彼を…ショウをどうにかできるんじゃないかって。元の…あいつに戻せる、そう考えたのよ。」
「それは…つまり私が説得すれば良いってこと?」
「そうね…。簡単にいってしまえばそういうことよ。でも、まだ無理よ。その怪我が治るまでは。」
「…ええ。この状態だったらすぐに殺られてしまうもの。」
「そういえばフランね、おかしくなる前に変な人に会ったんだ。」
「「「変な人?」」」
「服装が真っ黒なの。フードを深く被ってて顔とかはわかんなかったけど、全身真っ黒だった。」
「黒い服装…!だとしたらパチュリーに教えてもらった妖怪だわ!」
「パチェに…?」
フランの言葉にハッとなった。殺意を操る…確かにそう言っていた。その能力ならおかしくなってもしょうがない。レミリアが不思議がるのは普通だけど。
「実は(少女説明中)なのよ。」
「成る程。それで、フランもおかしくなったのね。魔理沙から言われたとき、最初は信じられなかったもの。」
レミリアが憐れみを込めた視線をフランに送る。
「あの子がここに運び込まれたとき本当に驚いたわ。だって吸血鬼があんなに深刻な精神的ダメージを喰らっているなんて初めてだもの。」
永琳は医師ならではの意見をのべる。
「恐らく、普段は絶対に上がらないほど殺意を無理矢理上げられたから負担がかかったのよ。元々妖怪なんだから肉体的ダメージには強くても精神的な物には弱いもの。」
「そうね…。私や貴女やフランは妖怪だもの。ねえ、だとしたら神はどうなの?信仰によって力を得るんだから、元々精神体よね。実体を持っていると言うことはそれなりの信仰があるか実力のお陰よ。」
「実力的な物を合わせてしまうとよくわからないけど、恐らくかかるんじゃないかしら。」
「…神が暴走したらまずいんじゃないかしら。」
「それは、さっきからいっていることよ。どうしたのよ、永琳。」
「いえ…。信仰は、人が頼りにすることではじめて生まれるのよ。でも、ショウは破壊を行ったり、誰かを殺そうとしている。そんな神を見たら、人々は信仰したいと思うかしら。もしも、レミリアの言うことが正しくて精神的な存在から生まれるのなら、信仰を失ってしまうのは存在意義に関わると思うわ。」
背中に冷や汗が流れる。レミリアと永琳、双方の言葉が正しいとしたらショウは…消える。完璧に消えるかはわからないけど…。すると、それを聞いていたレミリアが反論する。
「だったら、何故妖怪は…あっ!?」
「そう。貴女達は恐れを源として生きている。つまり、何かを殺したり壊したりしても恐怖を得られるわけだから、死なない。むしろ、強くなる。けれど、その対極を行く神にとっては致命的なダメージよ。消失してしまう可能性もあるかもしれない。」
「なら、一刻も早く止めないといけないじゃない!でも、こんな重傷の状態のアリスを動かすことは出来ないでしょ…?どうしたらいいって言うのよ!」
「1つだけ…方法はあるわ。」
「どんな方法なのよ!教えなさい!」
危険な状況を悟ったレミリアが永琳にくってかかる。フランといえば泣き疲れたのかさっきから眠っている。
「蓬莱の薬を…飲むことよ。」
「!?」
あまりにも驚いたせいかレミリアが思わず呆然としている。もちろん私自身も驚いた。
「でも…それを飲んだら、私は…。」
蓬莱の薬…。不老不死の妙薬で、輝夜の能力を使わなければ永琳でさえも製造不可能な薬。似たようなものは作れるみたいだけど…。
「そうね。私達と同じになってしまう。だから、飲んでもらうのは私の作った劣化版よ。」
「劣化版…?」
「ええ。姫様の能力を使わずに全てを私の能力で作り上げたもの。でも、まだこれでも試作品なのよ。香林堂の店主に見てもらったのだけど、どうやら効果はかなり厄介なの。一定時間の間はダメージを受けても回復するの。だけど一定時間が過ぎると今まで蓄積していたダメージが一気に来て、反動が凄いのよ。」
語り終えた永琳は私を真っ直ぐに見つめた。
「本当は、この薬を貴女に飲ませたくないけど、そうまでしてでも守りたいものなんでしょう?医師としては反対だけど、友人としては許すわ。選ぶ権利は貴女にある。どうするの?アリス。」
「私は…。」
はっきり飲むと言いたかったが、言えなかった。恐らく止めようとすればかなりダメージを受ける。だとしたら私はそれに耐えきれるのかしら。いえ、この際はそんなこと言ってられないわ。救いたいから飲む。それだけでいいじゃない。例えこの身がどうなろうと…。
「飲むわ、永琳。」
「そう。貴女ならそういうと思ったわ。ちょっととってくるから待っててね。」
そう言って姿を消した。
「ねえ、アリス。本当に大丈夫なの?その薬を飲んで。もしも貴女になにかがあったら…。」
心配そうな顔で聞いてくるレミリア。
「大丈夫よ。多分、ね。」
はっきり言って怪我をしないと言う確証はない。でも、やるしかないのだ。彼を救うためには。
「…出来るだけ私達もサポートさせてもらうわ。咲夜の能力があれば回避ならできると思う。でも、咲夜の能力があまり通用しないの。短い間しか時を止められない…。だから、最低限は自分で避けたりしてほしいわ。」
「わかっているわ。」
レミリアの目にも強い決意が浮かんでいた。そして、丁度永琳が戻ってきた。
「この薬よ。いい?効果は一定時間のみ。切れるまであまりダメージを負わない方がいいわ。既に貴女の体は傷だらけですもの。」
「大丈夫よ。きっとね。」
永琳を安心させるために笑みを見せ、一気に薬を飲み込む。すると、体にあった激痛が消えて楽になった。
「どうやら効いたみたいね。さあ、行ってきなさい。大切なものを守るために。」
「ええ。ありがとう、永琳。」
「覚悟はいいわね?アリス。」
「勿論よ。レミリア。」
「咲夜!」
「なんでしょうか。お嬢様。」
「兼ねてからの作戦を実行するわよ。アリスを連れてね。」
「わかりました。出来る限り貴女を守らせていただきますわ、アリスさん。」
「ありがとう、咲夜。」
「じゃあ、いきましょ…「待て!」え?」
声のした方を見てみると、スキマから八雲藍が出てきた。
「ついさっき紫様は目覚められたが、まだ寝起きで意識がはっきりしてないため、私を使わした。この惨事を一刻も早く止めなければならない。だから、なんとか紫様が来るまで持ちこたえなければならないぞ。私も全力を尽くして、協力しよう。」
相変わらずの喋り方で私達に吉報とも言うべき知らせを送る。
「紫はいつくるの?」
「わからないな。今は橙が様子を見ているが、起きたらすぐに連絡をくれるはずだ。」
「なら、早く行って止めないとね。行きましょう!」
レミリアの掛け声と共に全員で永遠亭を出る。
「全員無事に帰ってきなさいね。」
心底心配そうな永琳の見送りを受け、私達は現場に向かった。彼を悪夢から目覚めさせるために―
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「酷い有り様ね…。」
「かなり危ないのはわかっていたけど、まさかここまできてるなんて…。」
「お嬢様…。」
「紫様が寝ておられる間にこんなことが起きているとは…。なんということだろうか…。」
まずは妖怪の山に向かってみたが、そこには獣一匹どころか妖怪すらいなかった。周りの木々は枯れ、燃え尽きていた。辺り一面が焼け野原で所々に死骸が転がっている。地獄絵図といっても差し支えはない。
「ドカーン!グルォォォォ!」
「「「「!?」」」」
音のした方に振り向いてみると、そこには怒りに満ちた瞳をしている龍…。つまり、ショウがいた。
「ショウ…。」
「ガギャアアア!」
名前を呼ぶと、まるで呼ぶなと言わん限りの怒りの咆哮をあげる。どうやら破壊を行おうとしていた場所に私達がいて邪魔らしく、イライラしているようだ。
「大人しくしなさい。さもないと攻撃す…くっ!」
レミリアに対して炎を吐き威嚇している。慌てて避けたから、ダメージは食らってないみたいね。
「ここは私に任せてください。幻符・夜霧の幻想殺人!」
咲夜の宣言の後、一瞬で多量のナイフがショウを襲う。
「グオォォォォ!」
再び炎を吐き、ナイフを溶かす。残ったナイフも硬い鱗にはじかれて刺さらない。
「グルルル…。」
嘲るような鳴き声をあげてこちらを見る。
「甘いわよ。神槍・スピア・ザ・グングニル!」
レミリアの宣言により、手には禍々しい古の紅槍、グングニルが握られている。成る程。さっきのナイフはただの目隠しに過ぎなかったと言うわけね。
「これを喰らいなさい!」
その槍を投げる。すると、お腹の辺り、つまり鱗が少ないところに当たったのだ。
「グゴッ!?ギルァァァァ!」
そこまで深くは刺さらなかったものの血を流して苦しんでいる。
「当たったわ…!このまま攻撃を続けましょう!」
「式輝・四面楚歌charming!」
今度は藍の宣言で、巨大な紅い玉と蒼い玉を生み出す。すると、次の瞬間分裂して弾幕の雨を降らせる。幾つかは尾を引くように流れている追尾弾だった。
「グギィィィィ!ガギャッ!」
激しい咆哮をあげて、何かを召喚する。それは、色々な属性を持った龍達で、一斉に火を吐いたり、閃光弾を打ち出したりする。無数にあった藍の弾幕もその怒濤の攻撃によって相殺されてしまう。
「これは中々厄介な相手だな…。まあいい。式神・十二神将の宴!」
再び藍の宣言。召喚された12の使い魔がそれぞれに応じた属性弾を放つ。それにより呼び出された龍達は次々と消えていく。もちろん藍自身も蒼と紅の弾幕を放っていた。
「ガギャァァァァァ!」
大量の弾幕を一気に喰らい、多大なダメージを受けて苦しんでいる。
「グボッ…。ギュアァァァァ!グググ…グギャァァァ!」
大量に吐いた血が口から滴り落ちる。どうやら反って冷静になったらしく、冷酷な瞳で私達をみつめる。何をするつもりなのかしら…。!?
「グルゥゥゥゥ…。グギィ!ガルァァァァ!」
先程呼び出した龍達を再び召喚し、今度は自らの体に取り込み始める。すると、力がより強く、凶大になっていく。純白だった鱗には様々な色が筋のように現れては消えていく。尚も藍が弾幕を放つ。しかし、鱗に当たった瞬間吸い込まれるように消えていく。つまり、その属性に合わせた光を一瞬で鱗にだし、力を吸収しているらしかった。
「くっ…。あれでは攻撃が通用しないではないか!アリス!お前の人形で縛り上げろ!魔力は関係ないはずだからな!その後に力を失わせて倒せばいい!」
「!人符…。」
「どうした!?何故宣言しない!」
「…。」
「アリス…。」
怖い。あの姿であってもショウに変わりないのにそれに対してスペカを使うのが。蓬莱の糸はこの前強化を行ったばかりでどれくらいの鋭さなのかわからない。それにもしも怪我を負ってしまったら、きっと私は後悔する。
どうしたらいいの…。
「アリス。貴女が本当に彼を救いたいと思うなら藍の指示に従った方がいいわ。あのまま破壊を続ければますます信仰心を失ってしまうもの。」
「レミリア…?」
「神力の源は信仰心。神の力を失えば自然と消滅してしまうわ。それだけは絶対に避けるべきでしょう?」
「それはそうなんだけど…。」
レミリアの言葉を聞いても迷ってしまう。本当に大丈夫なのか。直すことが出来て、またいつもの彼に戻り、普通に話すことが出来るようになるのかわからないから。簡単にいってしまえば私の心の弱さだけど、その弱さに打ち勝つことができない。
「心配性ね。そう簡単に死にはしないわよ。信仰心を失わない限り何度でも蘇るもの。貴女のその技で死ぬなんて百万分の一の確率よ。大丈夫。死にはしない…。ちゃんと守り徹せるわ。」
優しく、親が子供に言い聞かせるように私に話すレミリア。
「…わかったわ。人符・新蓬莱人形・天翔!」
魔力が込められ、遥かに丈夫になった糸が龍を締め上げていく。腕、足、翼それぞれが縛られて拘束し、地上に落とす。
「グギィィィィィィ!」
地面に衝突し、激しい痛みに苦しむショウ。すると、龍の姿からいつもの姿に戻る。しかし、瞳の色はまだ赤く濁っていた。
「くくく、褒めてやる。この俺をまさかここまで追い詰めるなんてな。だが、こいつの体と意識は返してやらない。返すなんてごめんだからな。」
「…!返しなさい!いつもの彼に戻して!」
「おーおー、そんなに怒るなよ。そうだな。じゃあ、お前が俺の側にもう3歩近付けば返してやろう。たった3歩で充分だからな。」
「…!」
「アリス!これは罠だろう!近づくな!」
「アリス、騙されちゃダメよ!」
レミリアと藍が私に声をかける。もちろん罠だと思うが、この糸に縛られていれば身動きがとれないはずだ。たった3歩、か。なら、急いで逃げられるわ。
「わかったわ!ただし!絶対に戻しなさい!」
「そんなに怒らなくても戻してやるさ。神に誓うぜ。」
私は用心深く3歩彼に近付いた。
「ほほう。よし、戻してやる。ただ、その前に…貴様が死ねぇぇ!」
「キャア!ぐっ…!?」
お腹の辺りに強烈な痛みを感じ、見てみると咲夜のナイフが数本刺さっていた。それも、かなり深く。
「うっ…。ゲホッ…。」
たまらず血を吐き、倒れる。
「アリス!」
「アリスさん!」
「アリス!」
「はっ!あっさり信用しやがって!てめえとこいつがどんな関係なのかは知ってるんだよ!さあ、愛する者に殺された絶望を味わえ。そして、愛する者を殺してしまった苦しみにもがけ!そして、そこの吸血鬼にも当ててやる。銀のナイフだからな。そこのメイドが時間を止めても意味ないぞ。俺には効かない!無敵なんだ!」
「そこまでよ。破壊龍。」
「き、貴様は…!やめろ!俺とこいつの境界を変える、な…ギャア!」
「紫!」
「紫様!」
「ゆ、紫…。」
なんとか声を絞り出して名前を呼ぶ。ナイフを抜いて永琳の薬の効果で回復をさせようと思ったが、血で手が滑り、うまくいかない。
「貴方は幻想郷を滅ぼそうとした。だけど、それも終わりよ。入れ替わりなさい。そして、力を失いなさい。」
「ガッ…やめ、ろ…。」
瞳に映る殺気と赤く濁った色はどんどん薄くなり、とうとう消えた。
「アリス!大丈夫!?」
唐突にレミリアが此方にきて、私に聞いてくる。
「っ…。ナイフ、抜い、て。」
「わかった。無理してしゃべらなくていいわよ。」
レミリアがナイフを抜くと、傷は瞬く間に癒えていった。しかし、だいぶ血を失っていたので起き上がることができなかった。
「ごめんなさい…。まさか私が寝ている間にこんなことが起きてるなんて…。」
「紫…。いいえ、いいのよ。私だって油断してたのだから…。」
「早く永遠亭に行った方がいい…あれ?貴女、怪我してないの?」
「いえ、正確にはしてるけど、永琳の薬の効果よ。」
「成る程ね。何にせよ出血が激しいから動かない方がいいわ。」
そう言って紫は離れていく。後に藍が付き、倒れているショウのところへ行く。
「…うっ…。」
「起きなさい。貴方の意識はもう戻ってるはずよ。」
「起きろ。お前が起きなければ話が進まないのだ。」
何故かショウを見据える紫の態度がおかしい。いつもなら暖かみを持っているのだが―
「なんか、紫の声が冷たい気がするわね…?」
「そうね。本気で怒っているのかしら…。」
「…!紫!?」
「そうよ。ようやく意識が戻ったのかしら。」
「ああ、助けてくれたのか?」
「確かに最後だけは助けたわ。」
「最後だけ…?」
「ええ。もちろん。」
「そうか、それはすまない…。」
「私には謝らなくていいわ。だけどね…。」
紫は一度言葉を切ってショウを睨む。起き上がったばかりで、なにがなんだかよくわからない状態で紫を見るショウ。
「…霊夢とアリスには謝りなさい!!」
「…!霊夢とアリス…?」
「そうよ。覚えてないの?貴方があの娘たちに何をしたのか!」
「…」
真剣に考え込んでいるが覚えてはいないようだ。そうね、私達にあの重傷を負わせたのはショウだったわね。意識を失ってたとはいえ、彼自身がしたことなのだ。それについて紫は怒っているのだろう。娘だと思っている霊夢を傷つけられたことが。
「覚えてないのね。なら教えてあげるわ。貴方はあの娘達を…霊夢達を焼失させようとしたのよ!それがどれだけのことかわかる!?貴方は博麗の巫女を殺そうとしたのよ!霊夢が死ねば、博麗大結界は消滅してしまうわ!それに、関係のないアリスを殺そうとするなんて言語道断だわ!貴方はそれでも名高い龍神の子、神龍なの!?余りにも未熟だわ!己の力も制御できずに暴れてしまうなんて!いくら妖怪のせいでも酷すぎるわ!いいこと!この惨劇を作り出しのは貴方自身なのよ!十分に反省しなさい!」
「…わかった。」
「わかったならいいわ。行きましょう、藍。」
「はっ!紫様。」
「「「…。」」」
思わず私もレミリアも咲夜も言葉を失ってしまった。彼処まで怒り、怒鳴った紫を始めてみたせいもあるが、まさかショウが龍神の子だとは思っていなかったからである。
「…驚きね。」
「はい。」
「ええ。」
そう答えつつも体にはある変化が起こっていた。あの激痛が少しずつ戻ってきた気がするのだ。これは、早く永遠亭にいかないとまずいかしら…。そんなことを考えていると、ショウが近くによって来た。
「本当にすまない…。僕の力の暴走で君を傷付けてしまって。」
「別に…いいわよ。」
本気ですまなそうにしているのに、私は痛みを我慢するのに必死で素っ気ない態度しかとれなかった。
「咲夜。」
「はい。お嬢様。」
すると、その様子を見ていた咲夜とレミリアが気を利かせたのか何処かに行く。フランを見に行ったのだろうか。
「どれくらい…怪我を負ったんだ?」
「…全身火傷よ。」
「!だとしたら大丈夫なのか!?」
「さっきから平気っていってるでしょ?」
口ではそういいつつも体の痛みはどんどん強くなっていった。すると何故か、なにかを決意したような真剣な眼差しで私を見てくるショウ。その瞳に思わずうろたえてしまう。
「アリス、こんな身勝手なことを言ったら君は怒るかもしれないけど…。」
「なによ。急に。」
痛みは最高潮に達しようとしていた。もう意識を保つのがやっとで、彼の話を最後まで聞けるかわからない。
「僕は…君のことが、好きなんだ。」
「…え…?別に、ただ友達としてでしょ?いきなりどうしたっていうのよ。」
一瞬時が止まった感じがした。好きと言う感情は友達間でも芽生えるものだ。だから、その事を言ったにすぎないのだろう。あり得るわけがない。私に「好き」なんて、いうことは…。
「確かに、前はそうだった。でも、今は違う。異性として、一人の女性として君のことが好きだよ。アリス。」
「…!」
地べたに座ったままうつむく。そうでもしないと顔の赤さがばれてしまいそうだった。
「今回君を傷付けてしまったのは僕だけど、その時思ったんだよ。大切な人を失いたくないってね。まるで、埋め合わせみたいでどうしようもない僕で良かったら付き合ってくれないか。」
「…。」
返事は…イエスに決まっている。だけど…本当に私なんかでいいのかしら。魔女と神の恋なんて許されるものなのかしら。でも、断りたくはない。っ!そろそろ痛みが…。
「…わっ、私も貴方のことが好き///だから、返事はイエス、よ?」
なんとか顔をあげてショウの顔を見据えながら言えた。今の私の顔は本当に真っ赤だと思う。そして、ショウが何かを言った瞬間私の意識は激痛のうちに落ちた。
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「紫様。」
「何?藍。」
「何故あのようにお怒りになられたのですか?確かに彼は神龍で力もありますが…。」
「それだけじゃないわ。彼の父親から頼まれてるし、何よりあのまま暴れていれば恐らく幻想郷は崩壊していた。」
「博麗大結界が無事なら大丈夫なのでは?」
「いいえ。歴史上1度だけ壊滅寸前まで幻想郷は追い詰められたことがある。博麗大結界にダメージは全くないのに、妖怪の山や無縁塚などが消し去られた。それを行ったのが、あの破壊龍と具現化妖怪よ。」
「具現化妖怪?それはなんですか?」
「人間が長い間殺意や憎しみを抱き続け、死ぬ間際までそれを引きずっていると生まれる妖怪…。数百年に一度生まれるか生まれないかの確率よ。」
「しかし、それだけなら問題はないのでは?」
「
「…!」
「でも、最後は殺されたわ。博麗の巫女が命を捨てて巻き添えにし、殺したのよ。」
「だとしても紫様、今回の異変となんの関係があるのですか?」
「その妖怪は"殺意を操る程度の能力"を扱っていたの。そして今回の異変は普段大人しい妖怪が殺意をみなぎらせて襲ってくる。小~中級の妖怪が己の限界を越えた力を使って滅亡する。つまり、また生まれたのよ。」
「どうなされるんですか?まだ犯人は判明していませんよ。」
「一刻も早く探し出して倒さないといけないわ。もしも他の妖怪にまで被害が及んでしまったら、それこそ過去の災厄の二の舞よ。」
「なるほど。よくわかりました。では私は博麗大結界の管理を普段の倍以上強くしていきます。ご用があれば何なりといってください。」
「…絶対に止めなければならない。過去のように博麗の巫女を死なせるなんてことはやっていけない。2度と同じ悲劇を生まないことが、私に課された使命…。」
とうとう告白し、結ばれた二人。だが、その幸せは束の間に過ぎず、更に大きな災厄が降りかかる…。