孤独色   作:名も無き呟き

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1週間も間を開けてしまってすみません。

ここは夜雀亭。かつて訪れた客の来訪を心待ちにする店主は再開を果たすが、心に大きな変化が起きていた。客の方は前よりも柔らかい雰囲気になり、それが店主の心を乱すことになる…


~変化しつつある破壊魔~夜雀亭店主視点

「来ないかなぁ、クレイさん。」

曇っている夜空を見上げながら私は一人呟く。

〈また、来るかは俺次第だ―〉

あの言葉を信じていつでも待っているが、それ以降全く訪れてくれない。確かに俺次第、とはいってたけどそれなりにはまた来てくれると思っていた。…まあ、予想は外れてるけどね。すると風が吹き、華を散らしていた。

まさに、「月に叢雲華に風」。美しい景色や望むものは皆隠されたり、消えていったりしている。私のこの望みすらも消されるように…

「…あんた、何一人でボーッと突っ立ってるんだ?」

「ひゃっ!?」

背後からいきなり声がかかって驚いてしまった。慌てて後ろを振り向くと、そこにはクレイさんがいた。

「ク、クレイさん!?あっ、えっと、その…。」

「別に挨拶とかを求めてない。普通にあんたの店に来ただけだ。」

「は、はいっ!ようこそ、夜雀亭へ!ちちちちょっと、ま、待ってください!片付けるんで!」

「…?まあいい。好きにしろ。」

「あ、ありがとうございますぅ!」

会いたかった(クレイさん)に会えて完璧テンパった私は一人厨房で心を落ち着かせていた。何故か顔を見た瞬間心臓がバクバクして、顔が熱くなってまともに話ができない状態だったからだ。

「どうしたんだろう…私。」

今までお客さんの前でこんなに取り乱したことはなかった。勿論メニュー間違えとかは別だけど、何もないのにあんなことになるのは初めてだった。

「ま、いっか。いつまでも待たせるのも失礼だし。」

今度…時間が空いたときにゆっくり考えてみよう。わからなかったら、霊夢とかその辺に聞いて相談すればいい。外に出て、クレイさんを呼ぶ。

「あの、片付け終わったので入ってください。」

「そうか。」

今回は黒いローブ等を一切身に付けてなかった。黒いTシャツにジーンズ、そして革ジャン。至ってシンプルだ。

「ご注文はどうします?」

「そうだな…前回と同じでいい。酒は適当に頼む。」

「了解でーす。」

八目鰻を焼きながらお酒を探す。うーん、なんか珍しいものないかな…っと。あ、あったあった。これだ。この"ワイン"はつい最近紫さんから貰ったものだけど、いいよね。確か…

〈これは白葡萄酒よ。外の世界では通称"ワイン"と呼ばれてる代物。勿論、貴女の好きにしていいわよ。気になる人にあげるのもいいかもしれないわ。〉

とか言ってたし。"気になる人"って言うのはなんか引っ掛かるけど、まあいっか。あー、あと何言ってたっけ。えーっと…

〈さっぱりしていて飲みやすいみたい。大抵の料理に合うらしいから、おすすめよ。度数はそうでもないわ。〉

そうだった。忠告と言うか説明を二時間くらい延々とされたんだ。ワインの製造過程がどーのこーのとかどんな種類があるのとか。あれには参ったな~。思い出すだけで頭が痛い。たった1つの質問でも命取り。恐るべし、八雲紫。

「どうぞ!八目鰻の蒲焼きとワインです!」

「どうも。」

ワインが珍しかったのか、暫く明かりにかざしたりして色合いを見ていたがすぐに一口のんだ。

「不思議な酒だな。ジュースみたいで、飲みやすい。」

「そうなんですか?なら、私も一杯飲みますか!」

仄かにほころんだ彼の顔を隣で見ながら自分でも少しだけ飲んでみる。

「はー。確かにジュースみたいですね。」

口の中にはいると、さっぱりとした甘みと爽やかな香りが鼻に広がる。そして、飲み込んだ瞬間それらがスーッと消えて、後味が残らないすっきりとしたお酒だった。

「あんた、店のもの飲んで大丈夫なのか?」

「別に少し位なら平気ですよ。誰もこれは頼みませんからね。」

実際頼んだ客はほとんどいない。ごく少数のお客さんは飲んだが、不評だった。

「ま、別に俺には関係ないけどな。」

「ふふ、そうですか。」

さりげなく人のことを心配してくれるところは変わらない。初めてあったときよりも打ち解けたこの空気の居心地はとてもいい。もしかしたら意外な1面が覗けるかもしれないな。

「そういえば、よく無事に来られましたね。最近は妖怪が活発化してて人間のお客様はおろか妖怪のお客様も来ないのに。」

「大して強くもないからな。力の差がわからないバカ共には思い知らせるだけだ。」

「お強いの…ですか?」

「さあな。ただ、その辺の雑魚妖怪には負けない。」

「…。」

瞳が怪しい色に鋭く輝いてる。相当な力の持ち主ね、きっと。じゃなきゃこんな状況の中でここに辿り着くとは思えない。…たまに悪運の強い超人はいるけど。

「そんなに意外か?」

「いえ…。別にそんなことはありませんよ?ただ、ちょっと羨ましいな、って。」

「有り余るほどの力があることがか?」

「だって、そうでしょう?力があれば自分の身を守れるし、他の友達だって守れますし。力がないこと程嫌なことはありませんよ…。」

「…。」

偽りのない、本心からの言葉だった。はっきり言って3人が元気になったあとも私は後ろめたさを感じているからだ。自分に力があれば…と何度も思った。所詮、叶わぬ望みだけど。

「別に、あんたはあんただろ?だから、そんなことをくよくよ悩む必要もないんじゃないか?」

と、クレイ。

「まあ、クレイさんにはわかりませんよね。力を持てない妖怪の気持ちなんて。」

「それはそうだろう。俺はあんたじゃないんだからな。あんたの気持ちなんか理解できねえよ。」

怒ったようにそっぽを向かれてしまった。うぅ。自己反省…。折角気をつかって慰めてくれたのに、それを撥ね付けてしまった。

「すいません。折角慰めてくれたのに…。」

「別に慰めた訳じゃない。だから謝られても困る。」

明らかに声が冷えている。まずい…。

「とっ、ところで、クレイさんはどこに住んでるんですか?」

半ば強引に話題を変えて冷えてしまった空気を変える。

「…妖怪の山だ。」

「えっ!?なら大丈夫なんですか?この前壊滅的な被害を受けた場所ですよ?」

「反対側だったからな。大したことはなかった。」

「それは良かったですね。」

妖怪の山かぁ。確かに表は天狗達が管理してるけど、裏は自由になってるからな~。

「因みに詳細とか知ってますか?」

「あー、なんか神龍とかいうやつが暴れたとしか聞いてないな。」

「そうなんですよ。何でも龍神様の子供らしくて、相当な力の持ち主なんですよ。でも一番驚いたのはそれがショウさんだと言うことですかね。確かに以前からただならぬオーラは感じてましたけど、まさか神龍とは思いませんでした。」

「成る程。それでそいつはどうなったんだ?」

「ふふ、ここからが面白いんですよ。実はアリスさんと相思相愛なんですけどお互い全く告白とかしなくて私を含め周囲はやきもきしてたんですよ。それでですよ。もとに戻ったあと、遂にアリスさんに告白したんです。勿論返事はオッケーで今治療中のアリスさんとイチャイチャしてますよ。キスとかしたのかはわかりませんけど。」

「幸せの道に踏み出したのか。」

「ま、そういうことですね。早く私のお店にも来てほしいです。」

「そうか。」

なんとなく表情が暗いと言うか複雑になってる。どうしたのかな?

「なんか表情が優れないですけど、大丈夫ですか?」

「平気だ。なんともない。」

「ならいいんですけど。あ、追加で何か食べます?」

「いやいい。今日はこれで帰る。」

「えっ!帰るん、ですか…。」

なんだろう。胸が締め付けられるようで苦しい。それに堪らなく切なくて、やるせない気持ち。今までに感じたことのない感覚だった。

「勘定はこれでいい…おい、聞いてるのか?」

「あ、は、はい。丁度です…。毎度あり…。」

肩を揺すぶられてようやく我に帰る。そうだ、見送りをしないと。

「お前こそ顔色が悪いが、大丈夫なのか?」

心配そうなその声すら切なく感じる。私、おかしくなっちゃったのかな…。

「平気ですよ。これくらい。」

「そうか。」

そう言って歩き出す彼の後ろ姿を見送る。完全に見えなくなったあと、不意に寂しい、とか会いたい、といった感情が溢れてきた。それが先程から続いている切なさとやるせなさと結び付いて頭がごちゃごちゃになってしまった。

「ミスティア、何を悩んでるの?」

「!」

声のした方を見ると、心配そうに紫さんが此方を見ていた。

「実はですね、最近あるお客さんが来るんですよ。本当に不定期で時折フラッと来る人なんですが、今日たまたま来たんですよ。それで、ついさっき見送りをしていたんですが、その人が「帰る」といった瞬間に胸が締め付けられるように苦しくなって、同時に堪らなく切なくてやるせなくなったんです。で、見送って姿が完全に見えなくなったあと、不意に寂しいとか会いたいって思い始めたんですよ。それが切なさとかと入り雑じって頭がごちゃごちゃになってしまったんです。」

「…それは、"恋"ね。ミスティア。」

「恋…?」

"恋"といえばアリスさんとショウさん、それに霊夢さんとリョウさんが思い浮かぶ。まさか、私が…

「だって、その人のことを考えると堪らなく切なくてやるせないんでしょ?それに、一緒にいる時間はとても早く感じるし、幸せでしょう?」

「…はい。」

「だとしたら、それは恋に間違いないわ。貴女はそのお客さんに恋してるの。頑張りなさい。」

そう言ってスキマに紫さんは消えていった。

「私が…クレイさんを…好き?」

そう考えると、府に落ちる物もある。つまり、本気で私は彼に恋をしているのだ。

「だとしても…これは絶対に叶わないわね…。私にはこれを伝える勇気はない。それに、私みたいな弱小妖怪が告白なんかしたら迷惑だろうし…。」

そう思った瞬間すごく悲しくなったが、仕方ない。この想いは…私一人の胸に秘めておこう。誰にも、バレないように。その悲しさを代弁するかのように雨がシトシトと私に降り注いだ―




自らの気持ちに気づいてしまったミスティア…。穏やかで美しい愛は、非情にも運命の歯車によって切り裂かれていく。そして彼が起こしている事件を知りながらも、そんなことはないと己を否定し続ける。それが、後にある悲劇を生むことになるが…?
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