とある。鎮守府の提督代行の「霧島」とそれを補佐する「神通」
そして、現在は艦隊の指揮を執れない「彼」のお話

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触れ合えないと言う事は、人を弱くする。
託された想いは、人を強くする。


触れられぬ愛

 その鎮守府は少し変わっていた。

 いや、少しどころではなく大いに変な鎮守府と言えた。

 現在、他の鎮守府は最前線において総力戦を展開しているが。この鎮守府はその戦力を内海の航路帯維持に振り向けている。

 無論、戦略的には内海航路帯の維持は重要であり、その戦力は予備兵力としても転用できる。

 しかし、現在。この鎮守府の指揮を執っているのは、高速戦艦「霧島」であった。

 本来、艦娘である彼女が鎮守府の指揮を執る事は無い。だが、彼女は指揮下の艦隊を内海航路帯の護衛に出撃させ、黙々と任務を果たしていた。

 「ふぅ。今日も任務は大体終了ね」

 鎮守府一つを動かすには大量の書類作業が必要であり。その為に、事務員が居るのであるが、最終的な決算は現在指揮を執っている「霧島」が最中確認をしなければならない。

―あの人は、これを手早く片付けていたわね―

 「霧島」は作業を中断し、眼鏡を外し、目頭を揉む。それが終わると、背筋を伸ばしながら、両腕を伸ばした。強張った筋肉が軽く悲鳴を上げる。

 ふと、左手の薬指に光が反射した。厳密に言えば、薬指にハメたシルバーリングにだが。

 ケッコンカッコカリと言う艦隊司令部が打ち出した方針によって、彼女は提督からこのリングを貰い。他の艦娘より少し上の立場に居る。無論、「提督代行命令書」を書いた提督によって現在の執務が行える訳であるが。

 少将と大佐の間で階級が上下運動している人物の事を思う。思い出せば、このリングを渡す時も少し理屈を作っていた。

 『艦娘の統制をお願いしたい。艦隊全般は僕が万全の状態にする』

 彼は有言実行したのだが。行動に理由、または名分を用意しないと踏み出せない臆病さがあった。

 「そう言う所も含めて、好きなんですけどね」

 そう言って「霧島」は頬を緩める。

 惚れたもの弱みと言うのは、思ってる以上に強力であり。どうしても『彼』を悪く思えない。

 頬を緩めていた『霧島』だが『彼』が居ないと言う現実が眼前に突きつけられており、その淋しさが心の隙間を冷たく吹き抜ける。

 「馬鹿って、言えないのが憎たらしいですね」

 「霧島」はそう言うと、執務に戻るべく。眼鏡を掛けなおし、万年筆を握る。その時、控えめなノック音が執務室に響いた。

 「どうぞ」

 「失礼します。本日の訓練報告書を纏めて来ました」

 静かだが強い意思を感じさせる声が執務室に響いた。「霧島」が艦隊の訓練、艦娘の練成を一任している「神通」が入出してきた。

 「ありがとう。でも、訓練・練成は貴女に一任されているから。決済箱に入れてくれるだけでいいのに」

 彼女が来た理由、思惑を理解しながらも。「霧島」は意地悪な言葉を口に出してしまう。「神通」の左手の薬指にも銀色に光を反射するモノがハメられていた。

 ケッコンカッコカリ制度は重婚を認めている。数居る提督の中には100名以上の艦娘と、ケッコンカッコカリをしている提督も居ると聞く。

 艦娘とは言え、女は女。いや、戦火に身を投じる艦娘だからこそ。女の部分を意識して嫉妬してしまうのかもしれない。

 『命短し、恋せよ乙女。紅き唇、褪せぬ間に』

 と、「彼」が時折、口ずさんで歌っていた。『ゴンドラの唄』の歌いだしを思い出してしまう。

 「神通」も思い出してしまったのだろ。お互い複雑な表情をを浮かべ、苦笑しあう。

 「神通」に彼が指輪を私は他のは、彼が「ココ」に居られなくなる少し前。

 その時から、「彼」は自分のそう遠くない未来を予期していたのかもしれない。

 「私にも最終決裁権はあります。書類仕事を手伝いますよ。そうすれば、提督に会う時間が増えます」

 どこまでも、綺麗な笑顔と声で言われては「霧島」は無下に追い払う事が出来なかった。結局、何時もの通りに書類の山を二人で片付ける事になった。

 

 「さて、行きますか」

 書類の山を共同撃破した「霧島」が「神通」に努めて明るく言う。同時に、二人分の外出許可と艤装の保管の準備を行っている。

 「えぇ。行きましょう」

 「神通」も偽装を外し、「彼」に頼まれていた物品や、今日の報告書を一つのカバンに纏めていた。

 「今日の当直は「長門」さんですね」

 準備を終えた「神通」が確認をとる様に尋ねる。

 「そうよ。今呼ぶわ」

 インターホンを操作して「霧島」は「長門」を呼んだ。彼女は呼ばれると数分で執務室に現れた。

 「待たせたな。留守は任せてくれ。それと、「奴」によろしく伝えてくれ」

 彼女は事務的にそう言うと、二人を鎮守府の外に送り出した。外には、事前に用意した車が待機しており、二人はそれに乗り込んだ。

 行く先は伝える必要は無かった。

 なぜなら、毎日そこに通っているからである。

―目的地は横須賀海軍病院―

 

 鎮守府ナンバーの車で来たので、特に止められることもなく敷地内に車は入れた。

 顔見知りになった衛兵に挨拶しながら、車は一般病棟では無く、新設された新病棟へと向かい、入り口で止まる。

 「帰りはいつも通りの時間に参ります」

 「ありがとうございます」

 運転兵も毎日の事なので十分理解しているが、それでも「霧島」は礼を欠かさなかった。それが、公用車を使う人間が行うべきことであると彼女は信じている。

 夜間に近い時刻なので、夜間専用の入り口から病棟に入る。

 「おつかれさまです」

 顔見知りになった軍属の受付嬢に挨拶をされる。こちらも挨拶を返すと彼女は、一枚のÝ書類を挟んだクリップボードを手渡す。

 「毎日の事ですが。規則ですので、署名と来訪目的をご記入ください」

 「はい」

 「神通」がスラスラと記入し、「霧島」が二人分の入棟許可証を受け取る。

 手続きを終えた二人は、通常の入り口では無く、二重扉になった入り口から入棟する。最初のドアが閉まり、強力なエアシャワーが二人に付着している異物を吹き飛ばす。数秒の後、二つ目の扉が開いた。

 扉を潜れば、エレベーターホールがあり。エレベーターは直ぐに来た。

 「彼」病室がある階に停まると、入り口に受付が存在して、その背後にまたも二重扉が存在する。

 「差し入れは此方でお預かりして、お届けします」

 「では、これを」

 「神通」は「彼」に頼まれたものと、本日の報告書等が入ったブリーフケースを手渡す。彼女たちが病室に着く前には、「彼」にこれが届いている仕組みになっている。

 再び、二重扉の一つ目を潜り小さな個室に入る。ドアが閉まり強力なエアシャワーを浴びながら、二の腕までを入念に洗浄する。最後にアルコール消毒を行ったら、ようやく二つ目の扉が開く。

―無菌病棟―

 その病棟に入棟するまでに行わなければならない手順であった。

 入棟し、ナースステーションで、「彼」が面会可能かを尋ねる。幸い、面会可能だった。

 「彼」の病室に入る。最後のエアシャワーを浴びて、入室する。室内の空調が出力を上げるのが音で理解できる。

 部屋は広いが真ん中で区切られている。そのアクリルの向こうに「彼」は居た。

 「来てくれてありがとう。「霧島」「神通」」

 読み物をしていたらしく、本を閉じて彼女たちに向かい合った「彼」は、笑顔を作り彼女たちを労う。

 彼らを区切る一枚と数枚のアクリルとビニールの壁が直接の触れ合いを禁じていた。

 

 その壁の向こうには、医療関係者しか入れない。

 

 この壁のこちら側では、彼の免疫力では耐えられない。

 

 決して、触れられない壁が、「彼」と「彼女ら」の間にあった。

 

 「彼」が病魔に倒れたのは、二年前。一度はそれを乗り越え、通院しながら艦隊の指揮をとる提督だった。

 再発したのは、数か月前。今度は乗り越える為には、大きなハードルを何個も超える必要がある。

 「霧島」と「神通」は「彼」の体力がそれに耐えれるのか心配だった。

 彼女らに向けられる笑顔も、提督として執務室に居た頃の面影は少ない。今は、病的に白い肌に、抜け落ちた頭髪、薄くなった眉、投薬治療で酷く浮腫んだ顔と、痛々しさを強く感じさせる。

 愛してしまったから、触れたい。しかし、触れられない。そんなもどかしさが二人の艦娘をさいなんでいた。

 そう、痛々しく、弱弱しくなったからこそ触れたい。触れて、「彼」の生を感じたい。そう言う気持ちが彼女たちにはあった。

 「彼」もそれは承知していた。故に無言で、最も薄いビニールの壁に両手を当てた。「霧島」と「神通」がそれに手を這わす。微かに体温を感じさせた。

 「大丈夫」

 提督として執務をとっていた時の声で彼は彼女たちに言う。

 「君たちに選ばれた提督だ。負けはしないよ」

 それを聞く彼女たちの顔は、ある種の決意が浮かんでいた。

 「泣かない」泣くのは、「彼」が帰ってきたときにその胸に飛び込んで、文句を言う時までは絶対に泣かない。彼女らの決意は「彼」にも伝わったようで。

 静かにうなずくと、リクライニングさせたベットに上半身を預け、日課のその日の報告を聞く体勢になった。

 そこから先は、面会時間限界まで、「霧島」と「神通」と公私に渡る様々な話をする。それが何時もの光景であり。触れられない恋人たちの逢瀬でもあった。

 




長期間、艦これをプレイできない提督とケッコンカッコカリをした艦娘との話を思いつきました。
こう言う恋愛関係もありかな?と思い実験的に書いてみた面が強いです。

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