奇跡と共に   作:祥雲

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無知が一番好ましい。
   好きな音色に染まるから。

無知が一番痛ましい。
   当たり前すら持たぬから。

無知が一番勇ましい。
   隠した恐怖を知らぬから。



モラトリアム

村長宅での対談は、終始、モモンガのペースで行われていた。

 

村を救ってくれた事への礼から報酬の話へ。

彼らが提示した金額は、この世界の銅貨3000枚というもの。

しかし、この世界のソレがどの程度の価値かわからなくては、yesと言えないのもまた事実。

 

「ふむ? つまりこの硬貨はこの辺りでは使われていないと?」

 

「はい。加えて美術品としての価値もございましょう。秤でみても、その金貨1枚で交金貨2枚と同じ重さ。王都の蒐集家ならば、ご納得いただける額をご掲示するでしょうが……」

 

だからこそ、手持ちの余っている金貨を見せてみたが『この世界では貴重そう』という答えしか得られなかった。

しかも言外に、村としては払えないと伝えられてしまい、お手上げである。

 

「なるほど。この金貨はこちらではコウキンカ2枚に相当するのですか。いやはや、何分遠い辺境の地から参りましたもので」

 

「やはりそうでしたか…………そのお被りになられている物も、なにか意味が?」

 

「え?」

 

村長に言われて気付いた。

 余りに自然に会話が進む上に、違和感を覚えなかった所為ですっかり忘れていたのだ。

大真面目な会話の最中、自分が山羊面で話し込んでいたという事実に、密かにモモンガの体が光る。

 

「ぇ……ぇえ! 私達は、ナザリックという所で魔法の研究をしていた魔法詠唱者でして。この被り物は…………そう! 魔獣や魔物の使役効果を高めるというモノです!」

 

―違うよ!? 俺に嫉妬マスクを晒す根性がなかったからだよ!!

 

「おぉ!! なんと凄まじいマジックアイテムなのでしょう。そんな物を身に着けておられる皆様は、さぞ、お国ではご高名な方々なのでは?」

 

「まぁ……それなりには……」

 

方々……つまり、自分達アインズ・ウール・ゴウンが褒められて嬉しいモモンガだが、素直に喜べなかった。

褒められるきっかけが山羊なら仕方ないかもしれないが。

そんな事は露知らぬ村長の、『口撃』は止まらない。

 

「それほどの強き方々であり、その『代表』であらせられるモモンガ様には、大変申し上げにくいのですが……」

 

―はぅ!? だ、だいひょう

 

「事実。この村は決して多くない働き手を失いました。強者である皆様には、銅貨3000枚程度ではご納得いただけないのも重々承知! ……この村のある限り、私やその末代まででも支払い続けるとお約束いたします!! 何卒、分割という形でお願い出来ませんでしょうか?」

 

―な、なんか色々勘違いされてるぅう!?

 

モモンガの戦慄は止まらない。

ぶっちゃけ、目の前の老人が勝手に拡大解釈した結果なのだが。

因みにこの間。

アルべドは背後に控え、ベルンエステルは隣で黙って座っている。

話しているのはモモンガだけで、他は無言。

更には全員山羊頭という絵面。

モモンガが村長の立場なら、絶対に関わりたくない。

全力で逃げる自信があった。

 

『ベルンさ『コノバンゴウハ、ゲンザイ……』ってまたかぁぁぁあ!?』

 

助けを<メッセージ>で求めるも、そう何度も魔女の助けは得られない様である。

 

―くっ! えぇえい! やると言ったのは俺だ! やってやんよぉぉおお!!

 

決意に燃えるモモンガの気配が漏れ出たのか。

村長はビクリと身体を震わせた。

 

「……村長殿」

 

「! や、やはり駄目でしょうか!?」

 

「いえ。報酬は要りません」

 

「「「!?」」」

 

そのモモンガの言葉に、村長と控えていた妻、さらに今まで空気だったエモット姉妹が驚きの表情を浮かべる。

因みに、エモット姉妹に関しては村長夫妻の後ろにずっと座っていた。

 

「? なんで? 魔王様はお金要らないの?」

 

「こ、こら!」

 

カルネ村サイド全員の疑問を、ズバリ、ネムが言い切った。

隣で必死になっているエンリの姿が嫌に涙を誘う。

さて。

此処で客観的にこの場を見るとしよう。

 

ある村が滅亡の危機に瀕した所を、絶大な力を持った魔物を使役する、山羊頭の集団に助けられる。

その者達は、瞬く間に村を危機から救い、死者の弔いの時間すら与えてくれた。

あまつさえ、助けた報酬を要らないという。

 

……実に怪しい。

どう考えても裏があるとしか思えない。

 

「……そちらが気付かれた通り、我々は祖国では名のある存在だった。勿論、多少の財も持っている。だがそれはあくまで『祖国』での話であり、『この国』の話ではない」

 

「あ……なるほど……」

 

その言葉にエンリは納得した様だ。

村長夫妻も頷いているが、ネムだけは首を傾げていた。

 

「え~? わかんないよぅ…………魔女様! 教えて!!」

 

―なん……だと……!? そこでベルンさんに振るのか!? いや、振れるのか!?

 

モモンガの内情こそ、再びこの場にいる全員の意見の代弁だろう。

みれば、ネム以外は冷や汗がダラダラである。

 

「……つまりね。モモンガさんも私達も、今見せたみたいな手持ちがあるから、お金に困ってはいないのよ。むしろ欲しいのは情報だわ」

 

「「「「!」」」」

 

―喋ってくれた!? その通りですベルンさん! でも……なにより、幼女スゲェェ!?

 

「ん~?」

 

「くす。つまりね? 『遠い所』から来た私達は、あんた達が当たり前に知っている知識がないの。お金の価値や物の相場とかね。もしあんたが、リンゴを買おうとして値段がわからない。でもお店の人は銅貨10枚で良いって言ったらどうする?」

 

「あ! わかった! ネムが騙されちゃうかもしれないんだ!」

 

「そういう事。ね? 情報って大事でしょ?」

 

「うん! ありがと、魔女様!!」

 

「「「「ほっ」」」」

 

 気付けば全員が同時に胸を押さえていた。

その中にはモモンガも含まれている。

 

「……という訳です。対価として我々は情報を要求したい。加えて、我々に情報を教えてくれたという事を、決して外部に漏らさない事。以上をもって、今回の報酬とさせて頂きたいのですが」

 

「願ってもない事でございます!! 決して、外部はおろか、この場以外に漏らさないとお誓いしましょう!! ありがとうございます! ありがとうございます!! アインズ・ウール・ゴウンの皆様方!!」

 

村長が机に煌く頭を擦り付ける。

他の者も、同じように頭を下げた。

 

『……ベルンさんって……子供好きなんですか?』

 

『は?』

 

『いや……だって、普通に喋ってましたし……俺には拒否ったのに……』

 

『くす……? なにモモンガさん? 妬いてるの? あんな子供に?』

 

『え!? ち、違いますよ!?』

 

『くすくす。恥ずかしがらなくっても良いのに。わかったわ。今度からは、赤ちゃん言葉で話してあげる』

 

『ナマ言ってすいませんでした!!』

 

『なにをあやまってるんでちゅかぁ? ドイツ語でおはなしちまちょうねぇぇえ? くすくすくす!』

 

『いやぁぁあああああ!?』

 

なんやかんやで、会談は進んでいく。

村長とベルンエステルのダブルコンボに晒されつつも、モモンガはこの世界の情報を聞き出していった。

 

 

 

モモンガの精神が良い感じにすり減った頃。

村では葬儀が執り行われていた。

一応、ベルンエステルの言葉遣いは元に戻った事をお知らせしておこう。

一体何回、モモンガが光ったのかは、彼の名誉の為に伏せるが。

さて。

みすぼらしい策に囲まれた墓地に、村人が集っている。

その様子を少し離れた場所から、モモンガ達は眺めていた。

と、横に影が一つ増える。

 

「八肢刀の暗殺蟲?」

 

モモンガは思い出した。

 そういえば、セバスに隠密性の高い奴らを送れって言ってたなと。

 

「うむ。ご苦労。如何したのだ?」

 

後でセバスに礼を言っとこうか…そう考えたモモンガの至って普通の考えは、次の言葉で砕け散る。

 

「はっ。私以下、400の僕がいつでも御方々のお声一つでこの村を襲撃出来る様に、手筈を整えてございます」

 

―what?

 

はて、襲撃とは一体。

何処で、命令がねじ曲がったというのか。

 

「……襲撃の必要はないぞ。既に問題は解決したからな」

 

「お疲れ様。で? あんた達を指揮してるのは?」

 

「はっ。アウラ様とマーレ様です。他の守護者の方々はナザリックの内外の警備をしておられます」

 

「そう。なら待機よ。皆にそう伝えなさい」

 

「はっ」

 

そう言って、八肢刀の暗殺蟲は消えた。

視線を戻せば、エモット姉妹が泣き崩れている。

背を向けた夕日が濃くなっていく。

地面に映る影は、山羊だった。

その影にまた精神が静まるモモンガだったが、既に慣れたもの。

気持ちを切り替える事を覚えた様だ。

葬儀も一段落し、そろそろ帰ろうかとモモンガが考え始めた矢先、村長の様子が一変した。

 

「「チッ」」

 

また、厄介事かと、モモンガとベルンエステルの舌打ちが重なる。

 

―あぁ……帰りたいなぁ…………

 

そんなやる気の無い言葉を思いつつも、村長の元へと近づいた。

毒を食らわば皿まで。

普段からくらっている魔女の毒に比べれば、大した事もないだろう。

 

『……今、失礼な事を考えなかったかしら?』

 

『滅相もございません!!』

 

―っぶねぇぇえ!?

 

モモンガは震えた。

どうやら魔女の勘は、今日も冴え渡っているらしい。

 

「……どうされましたか?」

 

「おお、アインズ・ウール・ゴウンの皆様方……実は……」

 

村長の話を纏めると。

この村に向かってくる戦士風の集団がいるらしい。

潜んでいる僕から伝達がない事を考えれば、危険は低そうだが、一応警戒しておくに越した事はないだろう。

 

「わかりました。村人を至急集めて下さい。場所は…村長の御宅が良いでしょう。村長は我々と共に広場まで」

 

「は、はい」

 

村長の様子は怯えたものだ。

まぁ、一日に2度目の襲撃があるかもしれないと考えれば、当たり前の反応だろう。

そのまま、見晴らしの良い広場まで歩く。

確かに、此方へ向かってくる一団がいる様だった。

 

『? 武装がバラバラですね? 正規の兵団ではないのでしょうか?』

 

『さて……見た感じは如何にも歴戦の傭兵団って主張してるけど』

 

そして一団が広場へ到着する。

砂埃を上げながら、先頭の人物が馬を止めた。

ベルンエステルの言葉通り、屈強さと厳格さを感じさせる。

その人物はこちらを見て……

 

「私は、リ・エスティーゼ王こ…………何故山羊? しかも無駄にカッコいいじゃないか……」

 

 頬を染めてきた。

被り物へ向けられているとは理解出来ても、モモンガは心がざわつくのを止められない。

 

『……くっ……熱い視線を送るな!? ガチムチに見つめられても全然嬉しくないよ!? むしろ見るんじゃねぇぇぇええ!! お願い! こんな俺を見ないで!!!』

 

『……ほら。やっぱりわかる人にはわかるのよ。さぁ、モモンガさん。もっと堂々としなさい。今の貴方は客席の視線を一身に集めているのだから』

 

『嫌だよ!? むしろ分散して下さいよぉ!? ほら! あと2人いますよ!! ってなんで俺しか見ないんだこのホ○野郎!?』

 

原因としては、ただ、モモンガが一番先頭に立っている所為である。

 

「コホン。失礼した。私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らして回っている帝国の騎士達を討伐する王命を受け、村々を回っているのだ」

 

「王国戦士長……」

 

村長が呟く。

さっきまでモモンガが聞いた情報の中に、国々の名前はあったが、目の前で名乗られた人物の情報はなかったのだ。

 

―この爺……

 

軽い苛立ちを覚えるも、モモンガは問う。

 

「……一体、どの様な人物でしょう?」

 

「行商の話では、かつて王国で開かれた御前試合で優勝を果たし、王直属の精鋭兵士を纏める立場の方だとか……」

 

―それめっちゃ重要情報じゃん!?

 

『へぇ……このガチムチがねぇ……』

 

『……ベルンさん? なんで俺と交互に見比べるんです?』

 

『他意はないわ。似合ってるとだけ』

 

『ソレはこの山羊ですよね? 山羊だって言ってよ!?』

 

『実に似合ってるわ』

 

『ベルンさん! 主語! 主語って大事!!』

 

『……電波が悪いわね……切れるわよ』

 

『まさかの電波障害!? ねぇよ!? って繋がらない!? マジでなんか裏技あるんですか!?』

 

その真実は魔女のみぞ知る所である。

ついにガゼフの視線が村長に外れた。

内心モモンガもガッツポーズ。

 

「この村の村長だな。隣にいる雄々しさを感じさせる山羊頭の御仁と、後ろの御婦人方が一体誰なのか教えて貰いたい」

 

―コイツ……! 俺なら絶対に突っ込まない所に正面からいくだと!? 負けるか!!

 

「……それは及びません。はじめまして、王国戦士長殿。我々はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われているのを偶々見つけまして、助けに来た魔法詠唱者です」

 

「!」

 

勇気を振り絞ったモモンガの言葉を受けて、ガゼフが馬から飛び降りる。

後ろでアルべドが動く気配があったが、手で制した。

内心はガクブルだったが。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない!!」

 

ザワリと。

両方の側で空気が揺らぐ。

 

「……いえ。我々も報酬目当てでしたから。お気になされず」

 

「ほう? となると、冒険者かなにかで? 山羊頭の冒険者チームというのは、耳にした事がないのだが……」

 

「ぅ!……いえ。我々は世界を旅して見聞を広めているのですよ。この国はまだ入ったばかりですので」

 

「なるほど。異国の方々であったなら納得がいく。優秀な冒険者で、魔法詠唱者である貴殿のお時間を奪って申し訳ないが、村を襲ったという輩について、いくつかお話をお聞かせ願いたい」

 

「構いませんよ」

 

それから幾何かの情報交換の時間となった。

村長を交え、説明をする。

途中、すっかり存在を忘れていた死の騎士をガゼフが見て驚愕した。

この世界で、死の騎士といった魔物を自在に使役できる存在は稀なのである。

ガゼフの警戒心が上がるのも、無理はない。

 

「……すまないが、アインズ・ウール・ゴウンの方々。その被り物を取っていただいても?」

 

「お断りします。コレは魔獣や魔物の使役能力を向上させるマジックアイテム。我らの内、一人でも外せば途端に、死の騎士は暴れ出すでしょうね」

 

「! ……それは取らないでいただいた方が良さそうだ。失礼をした」

 

「ここではなんですし、私の家までご案内を……」

 

村長が口を開いたその時。

1人の騎兵が広場へと駆けこんだ。

額の大粒の汗からも、今から伝えられる情報の重要性が表れていた。

騎兵は大声で叫ぶ。

 

「戦士長! 周囲に複数の人影アリ! 村を取り囲む形で接近中!!」

 

「「「!!」」」

 

「そ、そんな!?」

 

村長の悲痛な叫びが広場に響く。

 

平穏を取り戻した様に見えたカルネ村。

 

脅威はいまだ過ぎ去ってなかった様だ。

 

『……あふ……飽きたわね……私、先に帰って良いかしら?』

 

『やった、繋がった!! って駄目ですよ!?』

 

……

…………本当の脅威は呑気に戯れている事を、まだ誰も知らない。

 




10話『モラトリアム』如何でしたでしょうか。
遂に二桁突入です。
今話もお楽しみいただけましたかね?
ちょっとだけ、モモンガさんの成長が…1行あります。

ご感想をいただきました、『billy003』様、『ももりもり』様、ありがとうございます。
『ジョンガリ』様はご感想並びに誤字のご指摘を。
『黒帽子』様も誤字のご指摘に感謝いたします。
『緋想天』様は、毎回のご感想を誠にありがたく思います。
投票いただいた方、今回もお読み下さった皆様にも、等しく感謝を込めて。
お気軽にメッセージ等もお待ちいたしております。
それでは次話にて。
                                   祥雲
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