奇跡と共に   作:祥雲

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私が抱いた想いがある
     ならばそれを語りましょう

彼の抱いた想いがある
     ならばそれを目指しましょう

共に抱いた想いがある
     ならばそれを為しましょう



復活と産声

玉座の間。

そこに、数多の異形達が犇めいている。

 

「まずは、個人的な理由で勝手に動いた事を詫びよう」

 

玉座の中心。

まさに魔王という言葉が相応しい威厳溢れる声で、モモンガは百鬼夜行の視線を集めた。

 

微塵も反省の色が乗っていない物言いは、建前上のものだと、全ての僕が理解している。

自らの主は、矮小な僕の身ですら決して蔑ろにしないと、全ての僕が理解している。

故に、モモンガの言を糾弾する存在は誰一人いない。

 

「なにがあったかは、後にアルべドから聞くように。だが、なによりも至急、ナザリック地下大墳墓の者へ知らせねばならない事がある」

 

モモンガは、手を払う仕草をする。

その合図を受けて、入り口の両脇に控えていたNPCがゆっくりと扉を開いていった。

扉を掴む、NPCの手は震えている。

当然、この場にいる者達は、ある程度の実力を備えた存在のみだ。

玉座に在るだけの資格を有すると、守護者統括や他の守護者に認められた者しかいない。

ならば何故?

そんな当然の疑問を抱くNPCは皆無。

もしも自分があの役を担っていたとして、同じく震えぬ自信がなかったから。

 

「既にお前達も知っていようが……聞くのと見るのとでは違うと思ってな。この場を準備させた。―さぁ、喝采せよ!! そして、讃えよ!! 我が友の帰還である!!!」

 

モモンガの言葉が、静まり返った玉座を割った。

同時に、扉が完全に開かれる。

―カツン

それだけの……一度響いただけの靴音。

だが、なによりも確かな音色。

フワリと――青い髪が踊った。

 

「「「「「!!!!!!!!!」」」」」

 

玉座を、今度は幾百もの歓声が木霊する。

感動に打ち震え、涙を堪えきれぬ僕の間を、視線を浴びる当の本人は毅然と歩く。

 

その姿はナザリックの僕、誰もが知る尊き存在。

 

――至高の四十一人が一人。

 

その姿はナザリックの僕、誰もが焦がれた存在。

 

――奇跡の名を冠する魔女。

 

その姿こそ、ナザリックの僕、誰もが待ち望んだ存在!

 

―――その名は―――

 

「奇跡の魔女ベルンエステル。この名において……ナザリック地下大墳墓に帰還した事を宣言するわ……ただいま、みんな」

 

「「「「御帰りなさいませ! ベルンエステル様!!!」」」

 

乱れなき僕の大合唱。

見れば、上座に近い守護者やプレアデス達の中にも、嗚咽を堪えきれない者の姿もあった。

それら僕の姿を一瞥し、ベルンエステルはモモンガの隣にまで歩くと、クルリと向きを変えて並び立つ。

パチンと、白く細い指を鳴らせば、赤い革張りの豪華な椅子が現れた。

そこに静かに腰かける。

 

「素晴らしい。お前達が如何にベルンさんを想っているかが伺えた。私はとても嬉しく思おう!! ……だが、お前達はこうも思った筈だ。何故、ベルンさんがナザリックを去ったのか、と」

 

「「「「っ」」」」

 

モモンガの言葉に、熱を帯びていた玉座の間が凍り付いた。

 

「その疑問は尤もである。本来なら事情を知る私が伝えるべきなのだろうが、ベルンさんたっての希望でな。ベルンさんから説明して下さるそうだ。心して聞くが良い」

 

……ゴクリ……

喉を鳴らしたのは、一体誰か。

自分?

隣?

または……全員?

固唾を吞んで…という表現の体現とすら思える光景がそこにはあった。

 

「私がナザリックを去った理由は簡単よ。至ってシンプル。死にかけたから」

 

「「「「!?」」」」

 

今、眼前の至高の御方はなんと言ったのだ!?

動揺が走る僕達を、ベルンエステルは片手を上げて鎮める。

 

「私は病に侵されたわ。魔女をも殺す、厄介な病にね。それでも私は気にせず、この場所に残ろうとした。……まぁ、結局は駄目だったんだけど。無様にも私は負けたの」

 

「「「「っ!!!!!」」」」

 

誰もが言葉を発さない。

いや、発しない。

発せないのだ。

至高の御方の話は終わっていない。

ならば、自分達に出来る事は、歯を、口を、拳を使ってでも耐える事に他ならない。

 

「そこからはとんとん拍子よ。私は倒れ、この場所から遠く離れた所に運ばれた。モモンガさんからの文がなければ、きっと再び訪れる機会もなかったに違いないわね。そして最期の挨拶をしに此処へ来た……筈だった」

 

そこで、ベルンエステルは言葉を区切る。

突然訪れた静寂。

次の言葉を待つ僕達には、刹那の時が、幾千幾万の様にも感じられた。

 

「気が付いたら、ナザリックは未知の世界に転移していたわ。そして驚くべき事に、私に巣食っていた病も、綺麗さっぱり消えていた。まるで奇跡よ。誰よりも奇跡が起きないと知っているこの私に奇跡が起きるなんて…………笑い話にもなりはしない」

 

「だが……確かに起きたんでしょう?」

 

自嘲気味に呟いたベルンエステルの隣で、モモンガが問うた。

伏した僕達は気付かないが、その体は淡く光っており、口調も最後は変わって…否、戻っている。

 

「……えぇ。一度目は奇跡でも、二度起きれば、それは奇跡などではなくて必然。神様ってのがいるんなら、よっぽど意地が悪い奴か、甘い物に目がないアウアウしたポンコツに違いないんでしょうね。だけど、感謝はしているわ」

 

 ベルンエステルは数瞬、目を閉じるも、すぐに開いた。

 

「私は確かに此処に居る。私は確かに此処に在る。手足が動いて、思考が出来て、想いを喋れる。……えぇ。なにも変わらない。ベルンエステルは、この身はなに一つとして欠けてない」

 

「…ぁ…」

 

それは何時か言った言葉のなぞり。

モモンガが小さく声を漏らした。

 

「だからこそ、ナザリックの僕達よ。我ら『アインズ・ウール・ゴウン』の子らよ。あんた達の下へ、モモンガさんの下へ帰りし我が身は不滅である。我が想いは不変である。故に誓おう。赤でも青でもない、黄金としての真実を誓おう」

 

〚この想いがある限り、この心が曇らぬ限り、ナザリックと共にある事を!!〛

 

それは、信じる心。

それは、正しい魔法の在り方。

真実を受け入れ、理解したものにしか使えぬ奇跡!!

 

「!! 聞けっ! 此処に我が友は誓ったのだ! 今宵、ようやく『アインズ・ウール・ゴウン』は復活する!! 四十一人中たった二人に過ぎずとも! 確かに我らは此処に在るのだ!! ベルンさんの帰還に! ギルドの復活に! 異論ある者は立ってそれを示せ!!」

 

「「「「ベルンエステル様! 万歳!! 御身に我らが絶対の忠誠を!!!」」」」

 

「ふふ…… だ、そうですよ?」

 

「……くす。知ってたわ……えぇ……知っていた」

 

大歓声の中、再びベルンエステルは瞳を閉じた。

噛み締める様に。

眩しいモノを前にしたかの様に。

その様子をモモンガは、心を温かくなるのを感じながら見つめる。

この場の光景こそ、在りし日。

最高の仲間と思い描いた、理想郷に他ならないから。

 

「私からはもうないわ。モモンガさんに代わるわね」

 

ベルンエステルの言葉に、僕達の視線がモモンガへと送られた。

 

「……ベルンさんからは、先の通りだ。そして、私からも伝える事がある。これは厳命…私とベルンさんの総意であると心得よ」

 

モモンガは、僅かに間を空けた。

傅く僕たちの表情が引き締まる。

力一杯、右手に握るスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを床に突き立てた。

 

「『アインズ・ウール・ゴウン』を不変の伝説とせよ!」

 

スタッフにはめ込まれたクリスタルから、それぞれの属性色の光が溢れ、モモンガとベルンエステルの周囲を揺らめかせる。

 

「英雄が多くいるなら全てを塗りつぶせ! アインズ・ウール・ゴウンこそを大英雄と語らせろ! 生きとし生ける者全てに知らしめよ! より強き者がもし、この世界にいれば力以外の手段でもって! 我らを超える部下を持つ魔法使いがいるならば、別の手段で! 今はまだ、その前段階…備える時間に過ぎない。将来。近い未来! 来るべきその時! 勝利を知らしめる為に動け! 我らアインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大なる者であるのだと、未来永劫、神話に刻み、知らしめる為にだ!!!」

 

「「「「モモンガ様! ベルンエステル様! 万歳!」」」」

 

モモンガは思う。

 

「「「「至高の御方々! 偉大なる支配者、万歳!!」」」」

 

モモンガは願う。

 

―――この名を、アインズ・ウール・ゴウンという名を広めていけば、いつかきっと!

 

辞めていったメンバーがいた。

ギルドを去った友がいた。

最高の冒険をした、最高の仲間達がいた。

 

ベルンエステルは思う。

 

―――そう。二度起きればそれは、すでに奇跡じゃない。必然へと成り下がる!

 

自分達は世界を越えた。

隣には友が居て。

だけれど、あの円卓は埋まらない。

 

「「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!!! 我らが至高の御方々、万歳!!!」」」」

 

その名を広め、世界の全てに知らしめよう。

この大切な思い出の結晶を、誰一人知らない者がいない領域へと押し上げて。

 

地上に、天空に、海に!

 

もしかしたら、居るかもしれないから。

自分達の様に、他のメンバーも居るかもしれないのだから。

 

何時でも彼らが、安心して帰って来られる場所を。

何時か彼らが、笑顔で帰って来られる場所を。

友が幸せに笑える場所を。

 

―――俺は/私は―――

 

「「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳! アインズ・ウール・ゴウン!! 万歳!!!」」」」

 

 

―――この世界に築いてみせる!―――

 

 

 

それは

 

遠い遠い世界の物語

 

何処かで語られる英雄譚の

 

一番初めの物語

 

 




第12話『復活と産声』、如何でしたでしょうか。
短いですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。
次話よりは、少々、幕間のお話となります。
いわゆる本編への繋ぎor外伝等ですね。
こんな話が読みたい!
こんな話が気になる!
とのお声がもしございましたら、メッセージへお寄せ下さいませ。
是非、お待ちしております!!

ご感想をお寄せ下さいました、『野犬』様、『マカーブル』様、『toori』様、誠にありがとうございます。
『couse28』様、『緋想天』様、『頃宮ころり』様、『アズサ』様、『ナナシ』様、以前より続いてのご感想に感謝いたします。
当作品の評価を付けて下さった方々もありがとうございます。
一喜一憂しながら、励みにさせていただいております。
最後に、この作品をお読みいただいている皆様全てに感謝を。
それでは次話にて。
                                    祥雲
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