奇跡と共に   作:祥雲

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月に一度の掃除当番に心躍らせる、ルプスレギナとナーベラル
掃除を続ける彼女達が、次に入った部屋は…

『奇跡と共に』短編
          『そうは問屋が卸さない』

お楽しみ下さい



そうは問屋が卸さない

ポタリ、ポタリと。

額から顎を汗が伝う様を、ルプスレギナ・ベータは、まるで他人事の様に見つめていた。

いや、実際他人事なのだから仕方がないか。

 

「……ど、どうしよう!! どうしようルプー!?」

 

「…………短い付き合いだったっす、ナーちゃん」

 

「ちょっ!? 待って! 見捨てないでぇ!!」

 

身体を翻してサッサと逃げようとするも、ガッシリと腰をホールドされては逃げられない。

何時ものクールさは何処へ売り飛ばしたといわんばかりの、ナーベラル・ガンマの決死の形相がそこにはあった。

 

「くぅっ!? 離すっす!! 離すっすぅぅう!! 私、まだ死にたくないっす!!」

 

「私だって同じよ!! お願い助けて!?」

 

ギャーギャーと騒ぐ戦闘メイド2人。

その声は当然、室内はおろか、屋外にも響いていた。

つまり。

 

「……なにしてるの?」

 

「「!? ベ、ベルンエステル様!? 何故ここに!?」」

 

「何故って……ここ私の部屋よ? 世話係を呼んだ覚えはなかったけど……」

 

所用を済ませて帰って来ようとしていた、部屋の主にも当然、丸聞こえとなる。

現在、ルプスレギナとナーベラルが居るのは、ベルンエステルの自室であった。

 

「えっと! その! あの……」

 

「えっとっすね! そのっすね! あう……」

 

訝し気な視線を送るベルンエステル。

見つめられる2人は、シドロモドロの、冷や汗ダラダラ。

 

「ふぅん? ま、良いわ。折角来たんなら、話し相手にでもなってちょうだい」

 

「「よ、喜んでお相手を務めさせていただきます(っす)!」」

 

然程気にする訳でもなく、ベルンエステルは2人をソファへ連れ添った。

その間、ルプスレギナとナーベラルは、体をスライドさせる様に移動する。

まるで、なにか見られたくない物を隠すかのように。

 

「さ、座りなさいな」

 

ベルンエステルの座ったソファの死角。

つい先程まで、ルプスレギナとナーベラルが居た壁際。

そこには一冊の本が落ちていた。

四隅を金細工であしらった、主張しなくとも、価値ある品とわかるその表紙には…

 

『マジカルベルンちゃんリターンズ~お饅頭は罪の味~ ペロロンチーノ ぶくぶく茶釜 共著』

 

更には、ベルンエステルそっくりな人物のイラストが、にぱ~☆っと満面の笑みを浮かべていた。

 

 

ここで少し、時間を戻そう。

 

 

 

 

 

「は~…掃除も楽じゃないっすねぇ…至高の方々のお部屋を合法的に視姦出来る、月一のビッグイベントっすけど」

 

「こらルプー。そんな言い方は不敬だわ」

 

「いや、ナーちゃんだって、いっつも鼻息荒いっすよ?」

 

「な!? ななななに言ってんのよ!?」

 

軽口を交えながら、ルプスレギナとナーベラルはロイヤルスイートの廊下を歩いていた。

ナザリックに仕えるメイド達の業務は基本、ローテーション制。

それは一般メイドも、彼女らプレアデス達も変わらない。

稀に、変則的に変更がある場合もない訳ではないが。

その中に、メイドの誰もが楽しみにしている日が存在するのだ。

それこそが、今のやりとりの中でルプスレギナが言ったビッグイベント。

至高の四十一人の自室の掃除当番である。

 

「っと。次はここっすね」

 

ルプスレギナが扉を開けた。

その部屋は落ち着いた独特の雰囲気を持っている。

内装は西洋風。

無数の本棚や壁掛けの振り子時計、床にもいくつか本が積み重ねられていた。

暖炉や、無造作に置かれたマッチ箱、ワインにグラス。

果物籠に入った深紅のリンゴ。

奥に、ソファが3つだけ置かれたカーテン張りの不思議な客間?も存在する。

この部屋こそ、ナザリックの僕が崇拝する魔女、ベルンエステルの自室だ。

 

「はふぅ…………落ち着くっす……むしろここに住みたいっす!」

 

「ちょっと……掃除しに来たんでしょうが」

 

ホゥと息を吐いたルプスレギナに突っ込むナーベラル。

その表情は実に対象的だった。

 

「でも仕方ないんすよぉ……生ベルンエステル様のはっきりした残り香の所為っす…こんな素敵過ぎる匂いに包まれたらもう……」

 

「残り香って……ちなみにどんな匂いなの?」

 

ルプスレギナは人狼だ。

その嗅覚は非常に鋭い。

 

「あれ~? ナーちゃん気になるっすかぁ? 気になるっすかぁ? ぷふ! ど~しよっかな~?」

 

「余り調子に乗ってると……ユリ姉さまに言いつけるわよ?」

 

「それは勘弁っす! あ~、ナーちゃんがわかるかは微妙っすけど、アレっすね。ズバリ! ドSフェロモンっす!! それはもう超ド級の!!」

 

「……は?」

 

 自信満々に胸を反らせてニカっと笑うルプスレギナが、ナーベラルには理解出来なかった。

そもそも、ドSフェロモンなんて言われて理解出来る者がいれば、ソイツは駄犬に違いない。

 

「あぁ……駄犬だったわね。ごめんなさいルプー」

 

「あれ!? なんで私、今罵倒されたんすか!? 正直に答えたのに!?」

 

「なによドSフェロモンって…」

 

酷いっす~と泣くルプスレギナを無視して、ナーベラルは再び問う。

グスっと、鼻を啜ったルプスレギナが答えた。

 

「ドSフェロモンは、ドSフェロモンっす! SはサディストのS!」

 

「……会話を成立させる気ある? 馬鹿な事言ってないで、掃除するわよ」

 

「ぶ~ぶ~。でも、了解っす! ルップルプにしてやるっすよ!」

 

両手を胸の前で握り絞め、ルプスレギナは掃除を始めた。

その様子に呆れながらも、口元が僅かに緩んでいる事にナーベラルは気付かなかったが。

その後は、特に支障もなく掃除は進んでいった。

 

「コレは……本?」

 

ナーベラルが、無造作に投げ捨てられたみたいに、壁際でうっすらと埃を被った一冊の本を見つけるまでは。

 

「っ……」

 

「ん~? どうしたっすかナーちゃん……ナーちゃん?」

 

ブルブルと震えるナーベラルを不思議に思ったルプスレギナが、後ろからヒョイと覗き込んだ。

そして固まる。

厚手のハードカバーの本。

ナーベラルには、その重量が一気に増した様にすら感じられた。

 

「こ、これは……」

 

「……あちゃぁ……ナーちゃん…よりによって見つけちゃ不味そうな物を見つけるなんて…流石っすね」

 

「これって……ベ…」

 

「…………ナーちゃんの事は寝る前にでも思い出してあげるっすよ」

 

ダラダラと、冷や汗が止まらない。

 

「……ど、どうしよう!! どうしようルプー!?」

 

「……短い付き合いだったっす、ナーちゃん」

 

「ちょっ!? 待って! 見捨てないでぇ!!」

 

そして冒頭へと至るのだ。

 

 

と、まぁ。

そんな事は露知らないベルンエステルの話し相手を務めている現在。

ルプスレギナとナーベラルの心臓は、大変な速度で脈打っていた。

 

「それでね。そのコは言ったの。『トウキョウへ帰れ。さもなくば恐ろしい事になる』ってね」

 

「なるほどっす!」

 

「つ、続きはどうなるのでしょう?」

 

ベルンエステルの語ったのは、ある物語だった。

コーアンという組織の若手隊員が、ある事件の調査で訪れた村で、不思議な少女と出会うお話。

ベルンエステルの語りもそうだが、物語の続きが気になってしょうがない。

気付けば、すっかりベルンエステルの話す物語に夢中になっていた。

ソファから身体を乗り出してさえいる。

普段なら、そんな失態を見せる事は絶対にない2人であったが、至高の存在たるベルンエステルの口から紡がれる言葉に、すっかり魅了されていたのだ。

 

「……続きは今度よ。丁度良い時間だしね」

 

ベルンエステルが言葉を止める。

同時に、壁に掛けられた振り子時計が鳴った。

 

「それにあんたらも、他に仕事があるでしょ? 休憩はこれ位にして、頑張りなさい」

 

「! ありがとうございますっす! ベルンエステル様!」

 

「ありがとうございます!」

 

ヒラヒラと手を振るベルンエステルに頭を下げ、2人はルンルンと部屋を出ようとした。

 

「……最後に一つだけ教えてあげる」

 

が、扉に手をかけた所でベルンエステルの声が耳に届いた。

何故かゾワリと、背中に悪寒が走るのをナーベラルは感じる。

横目でルプスレギナを見ても、自分と同じものを感じ取ったのだろう。

笑顔が引き攣っていた。

 

「あの後、そのコと若い隊員はお饅頭を食べるの。蒸かしたてのホクホクのをね」

 

「「っ!」」

 

2人の脳裏に衝撃が走った。

まさか、まさか、まさか…

 

「もし、どうしても続きが気になるんだったら、そこに落ちてる綺麗に拭いてくれた本を持っていくといいわ」

 

「「ぁぁ…………ぁ……」」

 

2人は思い出す。

ベルンエステルが余りにも饒舌に語るから、すっかり頭から消えていた。

そうだ、そうだ、そうだ…!

何故、忘れていた!

 

「ただし、あんた達以外の目に触れたら…………くす……くす………」

 

ベルンエステルの声が木霊する。

離れたソファに座っている筈の声が余りにも近い。

耳元で囁かれているかの如く。

視界がグルグルと回り出す。

魔女の声だけがハッキリ聞こえた。

 

「さぁ、行きなさい? ちゃんと本も持っていくのよ? 遠慮しないで……くす!」

 

 

「くすくすくすくす!!!」

 

 

その夜。

プレアデスの自室で震えるナーベラルの姿があったとか。

ルプスレギナは、妹とは違って歓喜に打ち震えていたそうだが。

 

ドSフェロモン。

それは、とある性癖の持ち主のみが放つ至高の香。

 

今日も魔女の部屋は、素敵な香りに包まれている。

 

 




幕間短編『そうは問屋が卸さない』如何でしたでしょう。

本編と分ける為に冒頭の詩はございません。
本編に戻ればまた書かせていただきます。
詩部分を楽しみにして下さっている方がおりましたら、申し訳ございません。
短編等は、こんな感じで書かせていただくつもりですのでご容赦を。

『緋想天』様、毎度のご感想ありがとうございます。
評価を付けて下さっている皆様も、ありがとうございました。
俄然、やる気に繋がります。
お気に入りもなんと800…!
思わず五度見しちゃいましたよ。
この作品を読んでくださり、誠に感謝いたしております。

それでは次話にて。
                                  祥雲
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