奇跡と共に   作:祥雲

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その口は何を語ったのですか?
       時に友への助言を授けました。

その口は何を語ったのですか?
       時に一つの真実を授けました。

その心は何を語りたかったのですか?
       時が来れば、答えを授けます。



ep.2 ~Lullaby of the treasures cupboard~
言葉遊び


ナザリック地下大墳墓。

モモンガの執務室。

柔らかな緋色の絨毯が敷き詰められたその部屋は、細かな装飾品も相まってある種の品位を感じさせた。

歩いてみても、足音一つ起こらぬ程だ。

奥の壁には様々な文様の旗が交差しており、見事という他にはない内装だろう。

 

「……なるほど。言いたい事は理解したわ」

 

「……もう……俺にはこれしかないんです」

 

貫禄を感じさせる黒檀の机の前に、新たに用意された2組のソファ。

相対するのは、腕を組んだモモンガと足を組んだベルンエステルの2人だ。

人払いを済ませた執務室は、異様な緊張感に包まれている。

 

「考えは変わらないのね?」

 

「はい。……決めましたから」

 

張り詰めた緊張の糸を断ち切ったのは、モモンガだった。

 

「あんな…………あんなヒシヒシ伝わる忠誠心と勘違いと魔王ロールの日々なんて、耐えられないんですよぉ!? すぐそこに未知の世界があるんです! 冒険がしたい! 息抜きがしたぁい!」

 

つまりはそういう事である。

現在、モモンガは眼前のベルンエステルに絶賛交渉中。

NPC達が向ける忠誠心MAX具合や勝手に生まれる勘違い、日常的に行う魔王ロールにモモンガは疲れていた。

肉体があったのならば、虚ろな目をする位には。

 

「お願い! ね? お土産買ってきますから! 綺麗な櫛とか装飾品があったらその都度送りますからぁ!!」

 

「……モモンガさん。結構際どい事言ってる自覚ある? それって屑男の台詞まんまよ?」

 

「え!? 嘘!?」

 

ベルンエステルがコクリと頷けば、モモンガはビシリと固まった。

 

―確かに…物で釣るなんて、よくドラマで見るチャラオとかマダオそのままじゃないか!?

 

大口を開けた愉快な骸骨のオブジェを前に、ベルンエステルは欠伸を一つ。

 

「で?」

 

「……え?」

 

「どういうプランを立ててるの? 眠いからさっさと話しなさい」

 

「いいん……ですか……?」

 

「お土産忘れたら、カタツムリ風呂に雁字搦めにして放り込むから」

 

「絶対忘れません、マム!!」

 

―カタツムリってカルシウムが好物じゃなかった!?

 

モモンガは思わず、骨の体を抱きしめる。

それと同時にガッツポーズ。

怖いモノは恐いが、嬉しいモノは嬉しいのだから。

そこでふと、頭の片隅に引っかかるものがあった。

 

―あれ? でもベルンさんって装飾品とかに興味なかった様な…

 

「……さん? モモンガさん? ……おい、童貞」

 

「せめて骸骨は付けよう!?」

 

 ベルンエステルのドスの利いた声で意識が戻る。

 

「ゴホン。えーとですね。ベルンさんが以前、ぷにっと萌えさんと話してた世界侵略のすゝめって覚えてます?」

 

「あぁ。三徹しながらクリアしたイベント中の雑談の事?」

 

「はい。そこにウルベルトさん、るし★ふぁーさんも加わって…」

 

「で、何時の間にか本になっちゃったのよね。予想以上に売れたわ」

 

そう。

ユグドラシル内で、冗談半分に販売してみた結果、『あのアインズ・ウール・ゴウンの制作』という箔が付きバカ売れしたのだ。

実行犯は勿論、腐れゴーレムクラフターである。

 

「……その中で販売品にワザと取り上げなかった章節は覚えていますか?」

 

「へぇ?」

 

モモンガが切り出した言葉に、ベルンエステルの表情が動く。

それを見届けてから、モモンガは続きを口にした。

 

「あの章節をモデルにしようと思います。古典的で王道な。まさにこの世界にピッタリです」

 

「くす! 良いチョイスね」

 

「じゃあ?」

 

「乗るわ。考案者の一人として興味あるもの」

 

「やった!」

 

モモンガは喜びの余りソファで飛び跳ねる。

スプリングも高級品なのか、モモンガの巨体でもビクともしない。

軽やかにオーバーロードが宙を舞った。

 

「それでですね!」

 

モモンガが回転する。

 

「俺は冒険者として!」

 

更に捻りを加える。

 

「ベルンさんには!」

 

方向を変えては。

 

「の最後に!」

 

華麗に舞い。

 

「つきましてh「ステイ」っぶるわぁぁぁぁああ!?」

 

青筋を浮かべたベルンエステルにグーで殴られ、ベシャリと墜落した。

頭蓋骨から煙が出ているのは、きっと床との摩擦に違いないだろう。

拳の威力では断じてないと、モモンガは信じたかった。

 

「真面目に話なさい」

 

「……はい……」

 

ムクリと起き上がったモモンガは、今度こそしっかりとソファに座った。

ベルンエステルもソファに座りなおす。

 

「いやぁ。つい、テンションが上がっちゃいまして。最後の部分になりますが、同行者を決めたいんですよ。忠誠心とかで気疲れしない感じの」

 

「……モモンガさんの要望としては、気楽に接してくれるのが大前提なの?」

 

「出来れば羽目を外したいなぁ、と」

 

「それ、ナザリックのNPCだとほぼ不可能じゃない?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「助けてベルン姉さん!? お願い!!」

 

ついにモモンガは土下座しそうな勢いで頭を下げた。

その様子を眺めるベルンエステルの口がゆっくり弧を描く。

 

「……良いわよ。助けてあげる」

 

「ホントですか!?」

 

ガバリとモモンガが顔を上げる。

 

「モモンガさんって、私のNPC見た事あるかしら?」

 

「……そういえば一度もないですね。ギルドの所属一覧にも載ってなかった様な」

 

「当然よ。だって、アインズ・ウール・ゴウンの所属にしてないもの」

 

「はい?」

 

「正確に言うと、ギルドでなく私個人の所有。造ったのもアインズ・ウール・ゴウンに加入する前ね。見た事あるのって、ごく一部の魔女連中位?」

 

「つまり……」

 

「私に忠誠を誓ってはいるけれど、モモンガさんには微塵もないわね」

 

「キタ━━━━━━━━!!」

 

モモンガは思わず天に拳を突き出した。

 

「流石は姐さん! 俺に出来ない事を平然とやってくれる! そこに痺れる! 憧れるぅ!!」

 

「はいはい。それじゃぁ同行者は決まりね」

 

「えぇ! それで、どんなNPCなんですか?」

 

「見た目は普通のニンゲンにしか見えないから、安心しなさい」

 

「よかった。ナザリックだと、その地点から候補者が絞られちゃいますからね。で、どんなNPCなんですか?」

 

「まだ秘密。モモンガさんの出立と同時に発表するわ」

 

「え~?」

 

「文句でも?」

 

「わぁい! 嬉しいなぁ!」

 

「宜しい」

 

この日も、ナザリックの支配者2人は平常運転だった。

 

 

 

 

 

 

数刻後。

 

ベルンエステルは、自室に戻っていた。

椅子に腰かけ、テーブルにチェス盤を置く。

すると、チェス盤が独りでに開き、一斉に駒が並べられた。

その内の一つの駒がフワリと宙に浮く。

 

「あんたの出番も近いわね」

 

『――――――――』

 

「くす。その通りよ」

 

『―――――――』

 

「…ちゃんと私好みの脚本になる様に、上手くやりなさい」

 

『――――――!』

 

「えぇ。期待してるわ」

 

『―!――――!』

 

「くすくす」

 

駒は、ベルンエステルの周囲をクルクル飛んで、元の位置に戻っていった。

すると背後で、扉を叩く音がする。

 

「開いてるわ」

 

「失礼いたします。ベルンエステル様、私に何のご用でございましょうか?」

 

入ってきたのはアルべド。

それ以外の同行者は誰もいない。

 

「あら。ちゃんと一人で来たのね。感心感心」

 

「……ベルンエステル様のご希望通りかと存じますが? それで、如何なるご用件でしょう。わざわざ、使いの猫までご用意なされて」

 

アルべドの足元で、小さな黒猫が一鳴きする。

そのままトテトテと、部屋の奥の暗がりへ溶けていった。

 

「とりあえず座りなさい」

 

「畏まりました」

 

促されるままに、アルべドはテーブルの対面の椅子に腰かけた。

そこで漸くテーブルの上のチェス盤に気が付く。

 

「……もしや、私にチェスのお相手をしろと?」

 

「これはあんたには関係ないわ。今は、だけど」

 

ベルンエステルは微かに笑いながら指を鳴らす。

チェス盤が一人でに畳まれると、近くの棚に仕舞い込まれる。

 

「では、一体なんのご用でございましょう。まさか私とお喋りがされたかっただけ、などとは……」

 

「惜しいわね。実はあんたにプレゼントがあるの」

 

「!?」

 

まさか、そう言われるとは微塵も想定していなかったアルべドが固まった。

その様子が見えている筈のベルンエステルは、気にせずに用意した『プレゼント』をテーブルに置く。

 

「これをあんたにあげるわ」

 

「ハっ!?……失礼しました。……これは……」

 

再起動したアルべドの眼前には、一振りの短刀があった。

華美な装飾がある訳でもなく、かといってみすぼらしい訳でもない。

いたってシンプルな黒く染まった短刀。

特徴といえば、鋼などで出来ている様には見えない事位だろうか。

 

「それはね。とある異端審問官の愛剣をモデルにして私と友人とで作ったの。効果は幻想の否定。特に魔女には猛毒よ。今となっては、それで心臓を抉れば例え私でも死ぬでしょうね」

 

「!!」

 

なんて事はないという風に言ったベルンエステルの言葉が、アルべドには信じられなかった。

 

「……一体なんの御冗談でしょうか。それでは御身を殺せる手段を私に贈られるという事になりますが?」

 

「その通り。そして冗談ではなく、あんたにあげる」

 

ベルンエステルは笑顔のまま、困惑するアルべドに告げる。

その笑顔が何故か、アルべドには直視出来ない。

 

「折角のプレゼントだもの。ちゃぁんと、使ってちょうだいね? くすくす」

 

「!! ……謹んで頂戴いたします」

 

「用はそれだけよ。下がりなさい」

 

「っ……失礼いたします」

 

ベルンエステルがヒラヒラと手を振れば、アルべドは逃げる様に部屋を後にした。

しっかりと、短刀をその胸に抱えて。

 

微かな音を立てて、静かに扉が閉まる。

振り返る事なくベルンエステルは天井を見上げた。

先のアルべドの会話を思い返す。

アルべドに語った事も、渡した短刀の効果も真実だ。

何一つとして嘘は言っていない。

そう嘘は言っていないのだ。

ベルンエステルが口にした、この身を殺せるという言葉に偽りはなく。

アルべドの口にした、自身を殺せる手段という言葉にも偽りはない。

胸元に手を置けば、トクン、トクンと、一定のリズムで鼓動を感じられる。

この心臓に届けば、容易くベルンエステルという魔女を殺せるだろう。

そう。

あくまで、殺す事に関しては可能である。

 

「……くす。楽しみね」

 

そのままゆっくりと深呼吸。

息を吐き出して椅子から降りた。

迷わずに、壁際の棚まで歩く。

棚からワインとグラスを取り出した。

ついでにおつまみのキムチも忘れない。

 

「ん……美味しい」

 

パクリとキムチを放り込んでは、ワインを喉に流していく。

本来ならば飾りに過ぎない窓からは、月が覗いていた。

かつてはプログラム化された景色の投影だったが、異世界に転移した現在では、地表の映像をリアルタイムで送っている。

その窓辺に、グラスを持ちながらもたれかかる。

今日は雲一つない満月だった。

 

「良い夜だわ。あんたもそう思うでしょう?」

 

ベルンエステルの呟きに答える存在はいない。

発した声だけが、夜に溶ける。

 

「……なぁんて」

 

僅かに苦笑して、再びグラスを傾ける。

視線を落とせば紅い表面に、此方を見る少女の顔が映った。

 

「……恥ずかしがり屋ね、まったく」

 

グラスが揺れる。

僅かに波立ったワインの表面が映った顔を歪ませた。

それがおさまれば、魔女の顔が見える。

 

「ふぅ」

 

残ったワインを飲み干して、ボンヤリと月を見た。

ピクリとも動かないベルンエステルの姿は、よく出来たビスクドールの様。

掛け時計の針が刻む音だけが部屋に響く。

 

「…………?」

 

ベルンエステルの視線が動いた。

月から部屋の中へ。

正確には、入り口の扉の方に。

ジッと扉を凝視する。

 

「…………」

 

その視線は僅かに移動していた。

最後には、ワインが置かれている棚の隣に行き着く。

お茶請けを仕舞う棚だ。

 

「…………ふふ」

 

ベルンエステルは立ち上がると、奥のベッドへと向かっていった。

空のグラスにワインボトル、蓋の閉まったキムチが残されたままだが。

明日にでもメイドが片付けるだろうし、別段気にはしていない様である。

仮にお茶請けや嗜好品がなにか減っていても、すぐに補充してくれるのだから。

実によく出来たメイド達であろう。

 

「……ん」

 

ベッドに体重をかけて倒れ込む。

ユグドラシルの時代に、ドロップ率が0.002%と囁かれたレア素材をふんだんに使用したキングサイズのベッド。

それは一切の抵抗なく、ベルンエステルの体を包んだ。

枕も同様。

この世界で、ベルンエステルの密かなお気に入りとなっている。

 

「…………」

 

目を閉じると、早々に睡魔がやってきた。

勿論アイテムやアクセサリーを使用すれば、睡眠や興奮といったバッドステータスに分類される状態異常は無効化出来る。

モモンガの種族特性もその一例だ。

しかし、ベルンエステルはその類の無効化を選ばなかった。

それが一体どんな意図の上にあるかは、ベルンエステル本人にしかわからない。

 

「……………………すぅ……」

 

今日も謎を重ねる魔女は静かに眠る。

小さな体躯を、巨大なベッドの上に投げ出して。

純白のシーツの海に丸く眠る姿は、まるで猫か外見相応の少女の様。

 

魔女は眠る。

 

果たして魔女の見る夢とは如何なるモノか。

ハッピーエンド?

バッドエンド?

惨劇、喜劇?

 

それも夢の主にしかわからない。

 

微かに身じろきを一つして。

 

クスリと、安らかな寝顔が微笑んだ。

 




第14話『言葉遊び』如何でしたでしょう。

更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
まだ少しリアルが忙しめなので、以前の様な更新速度が出来るかは、正直微妙です。
出来うる限りで、話を書き上げますので、どうか温かくお待ち下さいませ。

本来であれば、前話の様な短編を予定しておりましたが、本編へと変更になりました。
ちょっと脳内の草案達が吹っ飛んだので………
その内に短編も挟みたいなと。

さて、ご感想をいただきました『ながも~』様、『ロミアス』様、『炬燵猫鍋氏』様
前話まで続けて感想を寄せて下さっております『couse268』様、『ナナシ』様、
                      『頃宮ころり』様、『緋想天』様
誠にありがとうございます。
評価を付けて下さった方々にも、感謝を。
更新が滞ってしまったにも関わらず、お気に入りが900を超えました。
こんなにもたくさんの方にお読みいただけて、とても嬉しいです。
今後とも『奇跡と共に』を宜しくお願いいたします。
それでは次話にて。
                                    祥雲
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