奇跡と共に   作:祥雲

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私は約束を守ります。
     ちゃんと日取りも忘れません。

私は約束を守ります。
     ちゃんと感謝も忘れません。

私は約束は守ります。
     ちゃんと心遣いを忘れません。
     


新たな楽しみ

リ・エスティーゼ王国の中で有名な都市がある。

 

城塞都市―エ・ランテル。

 

周囲を三重の城壁に囲まれたその都市は、冠する名に恥じないだけの堅牢さを漂わせていた。

上空から見れば、バームクーヘンの様、と言えばわかりやすいだろうか。

各城壁内で趣も装いも異なる。

外側、内側から数えて2番目。

市民達が暮す区画には、賑わいを見せる露店や店が立ち並ぶ。

忙しなく人々が行き交い、様々な表情を見せるのだから、初見の者にとっては目移りしてしまうだろう。

時刻は昼。

中央に位置する広場もまた同じく活気に溢れていた。

ある2人組が『冒険者組合』と呼ばれる建物から現れるまでは。

 

「カッコイイ……」

 

「漆黒の……戦士……」

 

その小さな言葉は、不思議と広場に居る者全てに届いた。

誰も彼もが、その2人組に釘付けとなる。

 

片方は見事な全身鎧に身を包んだ人物。

頭に被る兜も含め、それらは漆黒に輝いている。

金と紫の紋様が走り、纏うは深紅のマント。

見事という他ないであろう戦士の性別は、伺い知る事は出来ない。

性別を判断出来る物が一切表にないからだ。

顔すらもわからない。

ただ、背中のマント越しに時折顔を出す大剣。

グレートソードと呼ばれる大剣は1本ですら超重量な筈なのだ。

それを、2本も括りつけながら平然と立つ姿に、遠目に眺めていた冒険者すら目を疑った。

 

残る片方はこれまた目を引く。

連れ合いと違い、性別も顔もきちんと判別出来る。

歳は十代後半辺りだろうか。

色を感じさせる切れ長の赤い瞳はルビーの様な光を放ち、同じく真っ赤な髪を左側へと流している。

性別は男。

濃い紫色のスーツを着込み、黒いシャツに絞められていたであろう深紅のネクタイは僅かに緩ませてあった。

それにより男の首筋のラインがハッキリと見える。

整った容姿も相まって多くの女性の心を引き付けている事に、本人は気付いているのかいないのか。

薄ら笑いを浮かべていた。

 

見物人の多くは当初、組合への依頼人とその受領者という認識が大半を占めていたが、言葉を交わして歩き出した2人の首元を見て驚愕。

すぐに認識を改める事となる。

全身鎧の人物が首から小さなプレートを下げているのは、まだ頷けた。

絢爛華麗な鎧を着込んだ姿には、到底似つかわしくない『銅』のプレートであったとしてもだ。

問題はその隣を飄々と歩く男にあった。

ネクタイが緩められ露出した首元に、キラリを光る銅のプレートが見えたのだから。

 

 

 

 

 

ざわつく広場を通り過ぎた2人は、さほど広くもない通りを進んでいた。

轍や泥濘のある足場をものともせずに歩く。

段々と喧騒が遠くなり、周囲に人がいない事を確認した所で男が口を開いた。

 

「くくく。まさか意気揚々と、いざ冒険の旅へ! って息巻いて来たってのに……受付で字がわかりません……っかぁ! 最高だな! モモンさんよぉ?」

 

「やめて!? 折角なかった事にしてたのに!? つうかお前なんで字の読み書き出来たの!?」

 

「ひゃはは! この俺に死角はないぜ? きっちり前もって覚えたからな。こういう準備の良さがモテるかどうかのボーダーラインってもんだ」

 

「くぅ……! ……ん? 前もってって言った、今?」

 

大爆笑するスーツの男の隣で、悔しさを感じていた鎧の人物こと、モモンガは首を傾げた。

自分達はナザリックを出立して、ついさっきこの都市に入ったのだ。

それまで一切隣の男とは離れていない。

一体何時、そんな時間があったというのか。

むしろなんで知っているのだろうか。

付け加えれば、現地の文字も本などをナザリックに持ち帰り調査中の筈なのに。

 

「あぁ。ウチの姫さんが教えてくれたぜ? なんでも、暇つぶしにパズルが解きたくなって手頃なモンを探してたら考えついたらしい。そんで、その成果を試せってご命令があったって訳だ。結果は見事にビンゴ。因みに姫さんには、景品としてモモンさんの笑える動画が届いてるから安心しな」

 

「ベルンさん!? 滅茶苦茶凄いけど、滅茶苦茶酷いですよ!?」

 

―俺にも教えてくれても良かったじゃないですか……!

 

モモンガは、今は遠くにいる友人の高笑いを幻視した。

 

事の始まりは半日前へと遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。準備はこんなものか。ベルンさん達が見送りに表層で待っていてくれてるらしいし、急ごう」

 

最後の身だしなみのチェックを終えたモモンガは、自室を後にした。

この数日間で、待ちに待った日が遂に来たのだ。

知らずに歩みがスキップ気味になっていても仕方ないだろう。

数mの距離を移動した所で、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使えば良かったのだと気付いた。

 

「……ちょっと浮かれ過ぎたな。反省しないと……よし!」

 

気を取り直して表層近くまで転移する。

短い距離を進めば大墳墓への出入り口が見えてきた。

傍らには、見送りに来たであろうセバスやプレアデス、一部の一般メイドの姿が。

その一団の反対側には、若干の間を空けてベルンエステルとアルべドの姿もある。

確認したモモンガは威厳溢れる声を作った。

 

「うむ。見送りご苦労」

 

このロールとも一時解放されると考えると、体が光ってしまいそうになる。

そんな事を知らぬ彼らは、一斉に跪いた。

勿論、約1名は除く。

 

―我慢、我慢だ俺! 自由はすぐそこだ!

 

「モモンガ様。差し出がましくはございますが、供をお付けにならないのは余りに危険過ぎるかと」

 

内心息巻くモモンガに、アルべドが切り出した。

 

「ん? 供ならいる筈だが?」

 

「そうなのですか? 一体誰を……」

 

まさか私!? くふー! と、クネクネするアルべドの言葉が、今いる僕の総意である様だ。

皆がジッとモモンガを見つめている。

 

―まさか……

 

アルべドから視線を横にずらせば、ニンマリと笑みを浮かべるベルンエステルの姿があった。

 

―くっ……ここに来て焦らすんですか!? 流石はベルン姉さん! 一味違うぜちくしょぉぉお!

 

そんなモモンガの葛藤を知ってか、たっぷり時間を空けてからベルンエステルは言葉を切り出す。

その間、およそ3分。

カップラーメンの出来上がりを待つ時の様な感覚ですらあろう、あのもどかしさをモモンガはたっぷり味わった。

 

「悪いけど、モモンガさんのお供は私が決めたわ」

 

「……そう……ですか……」

 

ベルンエステルの言葉にアルべドが消沈した様子で視線を落とす。

モモンガが見れば、僅かにだが小刻みに震えている。

 

―あちゃぁ……期待させちゃって悪かったな。向こうに行って綺麗な装飾品あったら、ベルンさんとは別に送ろう。

 

思わぬ所で、アルべドに幸運が訪れた様である。

 

「私達、アインズ・ウール・ゴウンは良い意味でも悪い意味でも有名だった。でも今回の計画の性質上、あくまで表向きには正体を知られてはならない」

 

ベルンエステルの言葉に僕達が頷く。

 

「そこで私は考えたわ。だったらアインズ・ウール・ゴウンと知られていない存在がいれば、なにも問題はない」

 

「……お言葉ですがベルンエステル様。そのような存在がいるのでしょうか? かつてナザリックが攻め込まれた際、ほぼ全ての僕が戦闘を行っております。一度も外部の目に触れた事がない者は、それこそナザリックの防衛の要であるかと」

 

 アルべドが指摘は尤もだ。

だが、それこそがベルンエステルの待ち望んだ言葉。

 

「くす。アルべドの言う通り。そんな存在はナザリックの防衛の要のみよ。でも解決策は実に簡単。ないなら他から持ってくれば良いのだもの」

 

言うが早いか、ベルンエステルは右手を伸ばし、掌を上にして開いた。

光が溢れ、漆黒のキングの駒が浮かぶ。

 

「さて。出番よ。<偽書の黒駒>」

 

ベルンエステルの言葉を受けて更に光が輝きを増した。

 

「へっ! ようやくお披露目か。待ちくたびれたぜ」

 

「「「!?」」」

 

光が収まれば、そこに一度も見た事がない男が立っていた。

アルべドは一瞬でモモンガの前に陣取り、セバス、プレアデス達も構えをとる。

だが。

 

「なっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

「イッヒッヒ! 駄目だなぁ。全然駄目だ。おい、姫さん。コイツラ弱いんじゃねぇの?」

 

次の瞬間には僕全員が地面に倒れ伏していた。

否。

正しく言えば攻撃の意思を示した瞬間に、見えないナニカで地面に縫い付けられたというのが正しい。

 

「ふふ。違うわ。あんたが強いだけよ。ほら遊んでないで自己紹介でもしなさい」

 

「へいへい」

 

男がベルンエステルのする様に指を鳴らせば、アルべド達の感じていたナニカが消えた。

アルべド達が警戒を崩さずに立ち上がる。

その鋭い眼差しを受けても、ニヤニヤとした笑みを一切崩さない。

男は両手を広げると、そのまま様になった動作で礼をする。

先程までの振る舞いとは似つかわしくない位、綺麗な所作だった。

 

「我が主、ベルンエステルが駒。バトラ=U=ノワール。以後、お見知りおきを。……こんなんで良いかな?」

 

「あんたにしては上出来ね」

 

「そいつはどうも」

 

ベルンエステルの評価にバトラはケラケラと笑う。

余りに自由。

余りに傍若無人。

この場にいる誰もが理解する。

眼前のバトラという存在は、根本からしてナザリックのNPCとは異なる存在なのだと。

 

「私の自慢の駒よ。実力はさっき体感したでしょう? 勿論、純粋な力や頭の出来も保証するわ。さ、モモンガさん。仲良くね? くすくす」

 

「お。話は聞いてるぜ。旅は道連れってよく言うだろ? 宜しくな、モモンg……いや、その姿はダークウォリアーだっけか? ひゃはは」

 

「「あははははは!」」

 

主従揃って実に良い笑顔がモモンガに向けられた。

 

―コイツラ……ドSだぁあああ!?

 

ここで漸くモモンガは悟る。

自らの本名の通りに気が付いた。

数日前に感じた違和感。

その正体に。

 

―そうか! あの時は嬉しさが勝って気付かなかった! ベルンさんには装飾品なんて前菜に過ぎなかったんだ!

 

数日がかりで仕組まれた魔女の罠。

全てはあの日、既に始まっていたのだ。

 

 

―――私には忠誠を誓ってはいるけれど、モモンガさんには微塵もないわね―――

 

―――見た目は普通のニンゲンにしか見えないから、安心しなさい―――

 

 

すべてはこの日、今日という日に、主菜を美味くする為の仕込み!

 

戦慄するモモンガを余所に、ドS主従は楽しそうに会話を続けている。

 

「モモンガさんは当然として、あんたのお土産にも期待してるわよ」

 

「ん~……リボンとか?」

 

「任せるわ」

 

「りょ~かい」

 

 

 

…という始まりを経て、現在へと至る。

思い返しても実にヒドイ。

よく事態を収拾出来たとすら思う程だ。

 

「はぁ……」

 

「んん? 溜息つくと幸せが逃げるぜ?」

 

「ぐ……流石はベルンさんのNPC……」

 

「もしかして褒めてる?」

 

「褒めてない!」

 

「わかった。姫さんにそう伝えとく」

 

「あ! 嘘! 褒めてます!」

 

「わり。もう伝えちまった」

 

「Noォォオオオオ!?」

 

「ウ・ソ」

 

「がぁあぁあああああ!?」

 

「やっべ……モモンさんチョー面白れぇ。姫さん気に入るだけあるわ」

 

鎧の中で、モモンガの体は何度光った事か。

 

「ベルンさん! 確かに気は張らなくて良いですけど、別のナニカが擦り切れそうです!!」

 

果たしてモモンガ手にしたのは、本当に自由だったのか。

現状を見ると、些か疑問であった。

楽しく?会話を続けていると、目的の建物が見えてくる。

文字が読めないモモンガの様な場合でも、迷わない『絵』の看板が掲げられた建物。

 

「くっ! もうすぐ着くから、お前は大人しくしてろよ…」

 

「姫さんからは、モモンさんの指示には従う様にって言われてるからな。了解したぜ」

 

「じゃぁ……ふざけたりするのも……」

 

「あ。極力が前に付くんだった。悪ぃ悪ぃ」

 

「ははは。ベルンさんとは違うベクトルで攻めてくるなぁ……!」

 

―確かに忠誠心はないけども! 俺が望んだけども!

 

気を紛らわせる為に、力強くウェスタンドアを押しやり店内に入る。

室内は広く、荒くれ者達の集う酒場となっている。

ギルドの受付嬢によれば奥に見える階段の先。

2階から3階が宿屋という話を聞いていた。

主にバトラが。

ついでに受付嬢の住んでいる部屋も判明している。

モモンガは知らないが。

 

「宿だな。何泊だ?」

 

モップを片手に掃除をしていた用心棒にしか見えない、むさ苦しい店主の濁声がモモンガにかけられた。

 

「一泊でお願いしたい」

 

「……銅のプレートか。相部屋で1日5銅貨だ」

 

その他にも、色々とサービス内容を喋っていたがどれも中々にアレだった。

2人部屋を頼めば鼻で笑われ。

理由を問えば怒鳴られる。

揚句に睨みを飛ばされたかと思えば勝手に感嘆され。

終いには…

 

「……どうしても2人部屋が良いってのか? お前さん達コレなのか?」

 

と、実に不名誉な事を言われた。

それでも負けずに部屋の鍵を手に入れ、さっさと部屋に行こうと歩き出したら酔っ払いに絡まれる。

 

―……もう、ゴールしても……いいよね…………

 

流石のモモンガも我慢の限界が来ていた。

 

「私は今、非常に苛立っている。一つ確認させて欲しい。お前はガゼフ・ストロノーフよりも強いか?」

 

モモンガから湧き出る黒い波動を感じ取った周囲の客は、一斉に距離をとる。

酔っ払いや楽し気にポーションを眺めている女冒険者などは例外となった。

 

「はぁ? なに言ってんだ、おめぇ?」

 

「喜べ。――空を飛べるぞ」

 

モモンガは酔っ払いの襟を掴んで、入り口に向かってぶん投げる。

割とガチで。

途中で酔っ払いの体に引っ掛けたのか、一本の瓶が壁に当たって砕けた。

 

「おっきゃぁぁああ!!」

 

「ぎぃゃぁぁぁぁ……………………」

 

この世界では知る由もない、ドップラー効果を振りまきながら酔っ払いが景色の向こうへと消えた。

 

「~ヒュゥ♪」

 

近くでバトラが口笛を吹いて感心している姿を見て、心が温かくなってしまう自分に、精神が沈静化されたモモンガは悲しみを覚えた。

身体を階段側に戻せば、人々が左右に割れて一本の道を形作る。

その道を歩き出した所で、背後から女のヒステリックな声が届いた。

 

「ちょっとあんた! なんて事してくれてんのよ!?」

 

「……なんだ?」

 

緩慢な動作でモモンガが振り返れば、女も一瞬、ウッ……とたじろくも眼力を鋭くしてこちらを睨む。

 

「あんたがアイツをぶん投げたせいで、私の大切なポーションが! 私の大切なポーションが割れちゃったじゃない!!」

 

実戦で養われただろう筋肉質な肉体に、手に出来た剣だこ。

如何にも私、女戦士です、と言っている容姿だった。

 

「……はぁ……ほら。代わりをやるから、もうそれで良いか?」

 

モモンガはため息を溢して、あたかもマントの中で取り出した風を装いながら、もっとも下位の赤いポーションを放り投る。

 

「わ! わわわ!」

 

名も知らぬ女戦士(仮)は、ワタワタとしながらもポーションをキャッチした。

 

「これで文句はないだろう」

 

モモンガは今度こそ振り返らずに階段を上る。

この時の彼は知らない。

思い至らない。

小さな波紋が海原を揺らす事もあるのだと。

 

「……これって……」

 

背後で聞こえた呟きも……なにも。

 

「おっ。やっと来たか。先に寛いでるぜ?」

 

「……おぅふ……」

 

上でのやり取りも当然、下には聞こえないものである。

 

この日を発端として、王国、ひいては大陸に名を轟かせる『漆黒』という冒険者の2人。

 

遠くない未来で、最高峰の冒険者チームとして知られる事になる英雄譚の幕は、割とシンプルに開けられたのだった。

 




15話『新たな楽しみ』如何でしたでしょうか。

前話の感想で、色々コメントをいただきましたNPCのお披露目回ですね。
予想が当たった方はいらっしゃいましたか?
楽しく読んで下さっていれば、嬉しいです。

ご感想をお寄せ下さいました『ドミニコ・トモン』様、『月輪熊』様、『フリークスわん』様
以前よりご感想をいただいております『couse268』様、『yoshiaki』様、
            『炬燵猫鍋氏』様、『ナナシ』様、『緋想天』様、
            『頃宮ころり』様、『途中火葬』様。
ありがとうございました。
今後も頑張らせていただきます。
それでは次話にて。
                                     祥雲
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