奇跡と共に   作:祥雲

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知恵の林檎は美しい。
    危険だろうと惹かれてしまう。

知恵の林檎は美しい。
    深紅の輝きに焦がれてしまう。

知恵の林檎を齧りたい。
    禁断の果実がそこにある。



隠した心

冒険者組合という建物には、いくつかの部屋が設けられている。

理由は単純。

依頼人を持て成す用途であったり、冒険者達のミーティング、組合関係の会議に使用する為だ。

そして今、モモンガとバトラがいる部屋もそんな場所の一つだった。

木のテーブルが中央に置かれ、その周りを椅子が囲む。

比べるのも烏滸がましいが、ナザリックの円卓を超ショボくした印象をモモンガは抱いた。

が、先に言わなければならない事がある。

 

「先程は声を荒げてしまって申し訳ない。少々気が立っていたもので」

 

「ははは。構いませんよ。いきなり声をかけてしまった私にも非がありましたし」

 

―ぅう…なんて良い人なんだ…! これだよ! これが人情だよぉ! あぁ…骨身に沁みるぅ…

 

「では、改めまして自己紹介を。仕事の話はそれが終わってからにしましょう。私は『漆黒の剣』のリーダーを務める、ペテル・モーク。隣がチームの目であり耳である野伏、ルクルット・ボルブです」

 

モモンガの中で、良い人判定が下された戦士風の男―ペテルが隣の男を紹介する。

ルクルットと呼ばれた彼は、お道化る様な笑みで頭を下げた。

全体的に細身だが、無駄なものを削った末なのだろう事は、モモンガの目にも明らか。

2人とも金髪で、聞けばどうやら王国民は金髪率が高いらしい。

街で見かける髪色の比率を思い返せば納得出来る。

 

―あ。そういえば、カルネ村の娘も金髪だっけ……

 

「そして魔法詠唱者であり、チームの頭脳ニニャ。二つ名は『術師』です」

 

「よろしくお願いします」

 

4人の中では最年少であろうニニャが軽くお辞儀をした。

他のメンバーに比べて肌は白く、容姿も中性的だ。

 

「2つ名?」

 

「いえその……ペテルが勝手に…」

 

「え? 良いじゃないですか」

 

「でも恥ずかしいですよぉ」

 

恥ずかしそうにモジモジするニニャに、ペテルが首を傾げた。

モモンガもペテルと同じく『?』を浮かべる。

 

―え? 普通にカッコいいと思うんだけどなぁ

 

そこにルクルットの注釈が入った。

 

「<生まれながらの異能>を持っていて、天才といわれる有名な魔法詠唱者なんだぜ、このニニャってやつは」

 

「ほう」

 

思わずモモンガは声を上げた。

<生まれながらの異能>

それは、ナザリックで一番初めにもたらされた価値ある情報の一つ。

実例を目の前にして、つい喜びを感じてしまう。

 

「別に凄い事じゃないんです。たまたま持っていたのが、ソッチ系統だったというだけで」

 

「ほほぅ」

 

モモンガの知的好奇心が鋭敏に刺激される。

<生まれながらの異能>は、ユグドラシルにはなかったこの世界特有の能力なのだ。

自分の取得魔法を全て覚える程のモモンガが、食い付かない筈がなかった。

聞く所によると相性の良い能力を得られるかと問われれば、必ずしもそうではないらしい。

魔法の威力アップという能力を持った者が、魔法に微塵も興味がない脳筋だった……そういう話もあるのだとか。

噛み合ったら幸運位の程度の認識が世に浸透している中、ニニャという人物は見事に合致した幸運の結晶といえるだろう。

 

「確か魔法適性ってのだっけ? 習得に8年かかるのが半分の4年で済むらしい。まぁ俺は魔法詠唱者じゃないから、それがどんくらい凄いかはいまいちピンと来ないんだけどな」

 

ルクルットの言葉に、モモンガの好奇心とコレクター魂が擽られる。

同じ魔法職としての。

アイテム部屋と化したドレスルームの主としての欲望が反応しているのだ。

ナザリックにない力を得る事は、そのまま組織の強化に繋がる。

なんらかの手段で能力を奪えればとさえ考えてしまう程。

もしも可能なら、自らの蒐集欲も満たされるのだから、一石何鳥になろうか。

 

―……………ふふ

 

モモンガは真剣に鎧の下で、超位魔法<星に願いを>の使用を考えた。

まさか兜の中で自分を見つめる視線が獲物の目をしたソレとも知らず、ニニャは会話を続けている。

 

「……この能力を持って生まれたのは幸運でした。夢を叶える一歩が踏み出せたんですから。もしもなければ、きっと最低な村人として一生を終えていたでしょう」

 

ぼそりと呟かれた声は暗い感情を感じさせた。

それを払拭する為か、ペテルが明るく声を張り上げる。

 

「という風にニニャは凄いんですよ! この都市では割と有名人なのです」

 

「…有名といえばそうでしょうが……わたしなんかよりもずっと有名な人がいますけどね」

 

「蒼の薔薇のリーダーか?」

 

「その方も有名ですが、この街にいる中でですよ」

 

「バレアレ氏であるな!」

 

まだ紹介されていない大男が重々しくかつ、大声で口にした。

 

―なんだって………コレクション候h…じゃなかった……そんな凄い人がいるのか!?

 

モモンガの興味メーターも振り切れそうである。

鎧の中の骸骨は毎秒何回光っているのか。

脱げばきっと、後光レベルに違いないだろう。

仏とはかけ離れた絵面になる事間違いナシだ。

ともあれ、沈静化は今日も仕事に勤しんでいた。

 

「…その方はどんな<生まれながらの異能>をお持ちなんですか?」

 

「え!?」

 

声を出したのはペテルだ。

見れば4人全員が驚いた表情を浮かべている。

どうやら知っていて当然の部類に入る情報だったらしい。

 

―あの村長…村から近いんだから、教えてくれても良かったじゃないか。ガゼフ・ストロノーフの時といい、物忘れ始まってるんじゃ…

 

 内心で失礼な事を考えているモモンガを余所に、漆黒の剣の面々はなんらかの結論を出したようだった。

 

「なるほど、それだけ立派な鎧を纏っているというのに、私達が知らなかったのはこの辺りの人ではないからですね。パートナーの方も、随分上等な服を着てますし」

 

「…もしかして貴族…ですか?」

 

納得した様子のペテルとは対象的に、今まで一言も喋らずにいたバトラへと、ニニャの視線が向いた。

その揺れる瞳を真正面から受けて、漸くバトラは会話に参加する。

 

「だったら?」

 

「!」

 

バトラの返事に、ニニャの表情が僅かに強張った。

他の漆黒の剣の表情も同様だ。

謎の緊張感が流れた所で、バトラが噴き出す。

 

「イッヒッヒ! なぁんて、嘘だよ」

 

「…ぇ?」

 

「俺は貴族なんかじゃない。そんな柄でもねぇ。精々、気まぐれな姫さんの使いッパシリだな、うん」

 

ポカーンと呆けるニニャがツボなのか、バトラは上機嫌に語る。

 

「俺らは昨日、この都市に来たばかりだぜぇ? なぁモモンさん」

 

渡りに船とはこの事だろう。

 

―一瞬焦ったけど、上手く繋いでくれた! うんうん。こういうのって良いよね。無言の連携って感じで!

 

すかさずモモンガも口を開く。

 

「その通りです。実は昨日、初めてこの都市に入りまして」

 

「あぁ。じゃ、知らないですかね? このエ・ランテルでは有名人なんですが、流石に遠くの都市には広まってないのかな?」

 

「えぇ。聞いた事がありませんでした。宜しければ教えて下さいませんか?」

 

「名前はンフィーレア・バレアレ。名の知れた薬師のお孫さんです。彼の力は、ありとあらゆるマジックアイテムが使用可能というものです。系統の違う巻物も、使用制限で人間には使えないとされているアイテムでも使えるんですよ」

 

「!……ほぅ」

 

「きっと王家の血が流れていなければ使えないものとかも使えるんでしょうね」

 

「…なるほど」

 

モモンガは声に警戒と喜色の色が乗らない様に努めた。

 

―凄い! 欲しい! ……けど、その範囲によっては笑えないぞ?

 

モモンガの最後の感情は冷たいモノだった。

その力は何処まで及ぶ?

特殊条件を除いて、ギルド長にしか使う事の出来ないスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンですら使用可能なのか?

警戒すべき存在。

しかしその分、利用価値が高いのも事実。

 

『バトラ。お前はどう考える?」

 

『俺に聞くのか? …俺なら取り敢えず屈服させた所で…』

 

『あ。やっぱいいや』

 

隣の相棒とは、モモンガの思考回路は根本的に異なるらしい。

その認識を再確認出来ただけでも上出来だ。

そう、自分に言い聞かせた。

 

―でもやっぱり、この都市に来て正解だった。生でしか得られない情報ばかりだ

 

「? モモンさん、どうかされましたか?」

 

「いえ。なんでもないのでお気にされずに。それよりも、最後の方の紹介がまだかと」

 

「あ! 彼は森司祭のダイン・ウッドワンダー。治癒魔法や自然を操る魔法の使い手で、薬草知識に長けていますので、もし体調が悪くなれば教えて下さい。腹痛に良く効く薬とかもありますから」

 

「よろしくお願いするのである!」

 

口元に蓄えた髭と、ガッシリとした体格が野生的な印象を抱かせる。

首元に下げた袋は匂い袋だろうか。

草の香りが僅かに感じられた。

 

「では、次は私達の番ですね。こちらはバトラ。そして私がモモンです。宜しくお願いします」

 

「はい。こちらこそ宜しくお願いします。 私達は名で呼んで貰って結構ですので。本題の仕事の話に移りましょう。……とはいえ、実を言えば仕事という訳でもなのですが」

 

「? それは…」

 

モモンガが出した訝し気な声を、ペテルが手で制す。

 

「この街周辺に出没するモンスターを狩るのが今回の目的です」

 

「モンスター討伐ですか? なんというモンスターでしょう?」

 

モモンガとしては、特別変わった仕事内容とは思えなかった。

十分、冒険者らしい仕事とすら感じる。

それとも、なにかしらの理由があるのか。

 

「あ。いえ。そっちの意味じゃないんです。モモンさんの国ではなんと言うんでしょう? モンスターを狩って特定部位を組合に提出すれば、その強さに応じて報奨金が出るんですよ」

 

―ふむふむ。つまりはPOPモンスターからドロップアイテムをいただこうって事か。懐かしいなぁ…

 

「糊口を凌ぐのに必要な仕事である」

 

「俺達にとっちゃ飯の種になる。周囲の人は危険が減って、商人は安全に移動を出来る。国は税がしっかり取れる。皆ハッピーって寸法だよな」

 

「今でこそ、組合の置かれた国はどこでもやってる事ですけど、5年前にはそんな事もなかったんですから驚きですよね」

 

ニニャの発言に、他のチームメンバーがしみじみと頷いた。

モモンガは会話に加わるタイミングを逃してしまい、黙る事にする。

 

「黄金の王女様万歳って奴だな」

 

「確か頓挫しちゃいましたけど、冒険者の足税をなくそうって動きもあったらしいですよ」

 

「あぁ。一時期噂になってたな。国家に忠誠もクソもない武力組織の何処が気に入ったのやら」

 

「でも本当、あの王女様は色々と素晴らしい案を出されるお方だよ………ほとんど潰されたし、根も葉もない噂を流されたりしたけども、挫けないのは凄いと思う」

 

「あ。噂って確か王女様に似た容姿の人が、トブの大森林で夜に見かけられたってアレか?」

 

「王女様があんな危ない所にいる訳ないのである。それに金髪碧眼は王族以外にも普通に国中にいるのであるし」

 

「まぁそうですけどね。でもすっごく綺麗な人だったらしいですよ? 街でも見ないドレスを着てたとか」

 

「それこそデマだろ。夜の森で動きにくいドレスで移動する訳がねえよ」

 

「まるで御伽話の精霊か貴婦人ですね。王族も大変です」

 

「ははは。有名税は冒険者も王族も変わらないんですね。ニニャだってこの前…」

 

一瞬、バトラがピクリと肩眉を上げた。

ほぼ同じタイミングで、モモンガも沈黙を破る。

これ以上の話の脱線は避けたい。

 

「えーと…つまりは、モンスターの討伐を目的とした都市周辺の探索が今回の仕事ですか?」

 

「! っと、失礼しました。モモンさんとバトラさんを無視して話し込んでしまって…」

 

「いえ。これで出会い頭の事はお相子って事で一つ」

 

少しお道化た声で切り出せば、ペテルは気持ちの良い笑いを上げた。

 

「…あははは! ええ! それでいきましょう。では、こちらの地図を」

 

羊皮紙を取り出すと、それをテーブルの中央に広げる。

どうやらこの周辺の地図らしく、村や森、川と、モモンガには読めないが地名などが記されていた。

字がわからぬとも、視覚的には問題ないのでスルー。

 

「基本的に南下してこの辺りを探索します」

 

ペテルが指で都市から南方の森までをなぞった。

どうやらその箇所がルートらしい。

その後はモモンガからの質問を交えつつ、仕事内容や近隣のモンスターの生育といったやり取りを続けていく。

途中、モモンガから兜の中身を見せるという博打もあった。

簡易とはいえ、幻術は上手くいった様である。

意外と若いのな、とか。

…カッコイイですね、とか。

割と高評価でモモンガ自身も驚いていた。

顔立ちは東洋人よりだったので、どう見られるかとの不安は杞憂に終わる。

 モデルはベルンエステル監修による男性で、不思議とモモンガも違和感を覚えなかった。

尚、リアルフェイスよりも男前であった事に若干落ち込んだりもしたが。

 

漆黒の剣と協力するという風に話が落ち着いた所で、モモンガの提案により質問タイムとなる。

 

「ん~…気になってたんだけど、2人ってどういう関係なの?」

 

いくつかの質問に答えた後。

ルクルットが口にした疑問に、残る3人も首を縦に振った。

確かに、スーツの男と鎧の男という組み合わせは奇妙だろう。

モモンガも自分の立場でなければ、そう思う。

 

「気になるか?」

 

どう答えようかと悩んだ所で、バトラが口を開いた。

口元にニヤニヤと笑みを作って。

 

「あぁ。無茶苦茶気になる」

 

同じく笑ったルクルットが返す。

 

―…あれ? この2人ってなんとなく気が合いそう…?

 

2人の浮かべた笑顔に、同じ種類の空気を感じた。

ない筈の冷や汗が流れる錯覚を覚えたモモンガは、バトラが口を開く前に言葉を発する。

 

「仲間です。共通の友人に紹介されたのがきっかけでしたが」

 

「…チッ…」

 

向かいに気付かれない程度にバトラが舌打ちしたのを、モモンガは聞き逃さなかった。

 

―危ない!? コイツ油断ならねぇ…!

 

もし、モモンガの決断があと数秒遅ければどんな事態になっていたのか。

 

「そろそろ出立の準備をしないといけませんね。私達は出来ていますので、モモンさん達の準備が整いましたら行きましょうか」

 

その言葉に、明後日を向いていた思考がカムバックした。

宿を出る際に、最低限のものは買ってある。

かさばるであろう食料品はモモンガには不要。

バトラも携帯食料を買い込んで、アイテムボックスに放ってあるし、いざとなればポケットから取り出した様にすれば問題はない。

 

「いえ。我々も準備は終えてますので」

 

「そうですか? では行きましょう」

 

ペテルの声に全員が立ち上がり、部屋を後にする。

組合受付まで戻れば、話をする前に比べて人が増えていた。

周囲の視線の多くが、受付で話し込んでいる一人の少年に向けられている事にモモンガは気付く。

よく見れば、応対している受付嬢はモモンガが絡んだ受付嬢ではないか。

相変わらず淡々と業務をしている。

 

その視線がハッキリとモモンガを捉えた。

静かに立ち上がった受付嬢は、モモンガの前まで歩くと口を開く。

 

「ンフィーレア・バレアレ氏より、ご指名の依頼が入っております」

 

現在、過去、未来。

 

 エ・ランテルで知らぬ者はいないであろう存在達が、一堂に会した瞬間だった。

 




第17話『隠した心』如何でしたでしょう。

今話は時間的には、そこまで進んではいないですね。
もう少しでモモンガさん達の活躍が入るかと。
それまではどうか、お付き合い下さい。

ご感想をいただきました『ミナライ』様、ありがとうございました。
以前よりご感想をお寄せ下さっております『炬燵猫鍋氏』様、『ながも~』様、『月輪熊』様、『アズサ』様、『緋想天』様、ありがとうございます。

お気に入りも遂に900後半。
1000件いったら記念回を書きたいな…そう願う作者でした。
沢山の方々にお読みいただいている様で喜ばしく思います。
それでは次話にて。
                                     祥雲
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