奇跡と共に   作:祥雲

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大切なモノを、教えて下さい。
     友と紡いだ絆の強さ?

大切なモノを、教えて下さい。
     友と繋いだ縁の強さ?

答えは幾千、幾万とあるのでしょう。

……貴方のソレはなんですか?




勝らぬ宝

僅か一振りで、それは終わっていた。

 

 人食いの名で恐れられるオーガが、まるでただの案山子といわんばかりに、一刀の下に両断される。

それがどれだけの異常か。

その域に達するまでに、一体どれ程の鍛錬を必要とするのか。

戦士職であるペテルは、モモンガが軽々扱う2本の大剣による剣戟に身震いした。

 

「モモンさん……貴方は…なんという……」

 

戦闘中にも関わらず、敵も味方も時が停まった様に動きを止めた。

馬車の中に隠れたンフィーレアも、普段前髪が隠している目を驚愕に見開いている。

 

一撃必殺。

 

袈裟斬りに繰り出された一閃は、丸太以上もあるオーガの分厚い肉体を易々と二分していた。

吹きあがる血、毀れる臓物、周囲に広がる独特の異臭が、決して今の光景が夢や幻でないと教えている。

 

「……すげぇ」

 

それは口調からすればルクルットであった。

もしくはペテルなのか。

誰もが思い、誰の耳にも入る程に、戦場は静寂を漂わせていた。

 

「……信じられない。ミスリル所かオリハルコン……いや、まさかアダマンタイト?」

 

目の前で起きた剣劇を目にしたのならば、決して絵空事と笑い飛ばせない。

一太刀による両断。

一部の極致に至った者であれば当然可能だ。

もしくは、強力な魔法武器でも持てば再現可能な技といえよう。

しかし、モモンガの持つ武器がグレートソードとなれば話が違う。

本来グレートソードは両手で扱う事が大前提。

両手武器は、その質量と遠心力をもって相手を断ち切る武器であり、腕力で切り裂く用途を想定してはいないのだ。

その常識を打ち破る光景が、モモンガの行為によってまざまざと証明されている。

 

「どうした? かかってこないのか?」

 

当のモモンガといえば、すっかりテンションが上がっている。

普通の剣士がする様に、グレートソードを片手でクルクルと回し、切っ先をオーガに突き付けるという絶技(ペテル基準)すら披露しているのだから。

対するオーガ達は、今まで感じた事のない恐怖を感じていた。

動かないオーガ達に痺れを切らしたのか、モモンガが全身鎧を着ているとは思えない速さで肉薄する。

 

「……! ウォオオ!!」

 

目標とされた1体のオーガが、悲鳴とも雄たけびともつかない大声を上げた。

迫り来る恐怖を討ち払う為、棍棒を構える。

なれど、それはモモンガからすれば余りに遅い。

左のグレートソードが煌く。

オーガの上半身が、玩具の様に宙でクルリと回転し、下半身と別れを告げた。

 

「モモン氏は……化け物か……?」

 

ダインの呟きを否定する者はいない。

 

「さて……残りは……!……後ろです!」

 

モモンガの叫びで、漆黒の剣は大きく迂回して来たゴブリンの接近に漸く気付く。

 

「! っふ!!」

 

だが流石は現役の冒険者。

すぐに反応して対処した。

ペテルのブロードソードの一閃が、ゴブリンの首を刎ねる。

 

「クライヤガレ!」

 

倒れるゴブリンの背後から現れた別のゴブリンの棍棒の一撃を、容易く受け止めた。

その隙を<術師>は見逃さない。

 

「<マジックアロー>!」

 

魔法の光弾が2つ放たれ、ペテルを囲もうとしていたゴブリンが崩れ落ちた。

魔法詠唱者にとって、クールタイムは致命的な隙である。

だがそれも熟練とはいかずとも、経験を重ねてきた彼らが知らぬ訳もない。

 

「おっと! そう簡単にはいかないぜ?」

 

「である!」

 

すかさず、ニニャとゴブリンの射線上にルクルットとダインが躍り出た。

迫るゴブリンと2人の戦いはほぼ互角。

本来は弓が得物であるだろうルクルットは、弓を放り短剣でゴブリンを倒してはいるものの、いくつか貰った殴打のダメージに顔を顰めていた。

ダインも巨体の鈍重さ故か、同様に数回は殴られている様であったが、致命傷もなく問題はなさそうだ。

気付けば草原にはモンスターの死体が点々としている。

ゴブリンも漆黒の剣の奮闘で数を減らし、オーガに至っては残り2体。

モモンガの視線が向けられた1体は、奇怪なうめき声を上げて逃走を始めた。

だが逃してやる道理もない。

 

「……バトラ」

 

「はいよ」

 

モモンガの冷ややかな声が響き、バトラは軽い言葉を返した。

バトラが逃げるオーガに向かって左手を突き出す。

 

「……鮮やかに散れ…………<黒き貫く真実>…………」

 

翳した手に魔法陣が広がったかと思えば、闇色の閃光が草原を駆ける。

奥でダインの魔法に縛られていたオーガも巻き込んで、生き残っていた2体が生命の鼓動を完全に止めた。

目を細めて見届けたバトラは、前髪をかき上げながらオーガの死体に背を向ける。

 

「片翼が疼くぜ……」

 

「「……カッコイイ……」」

 

奇しくも、この場にいる魔法詠唱者2名の呟きが重なった。

 

「ニゲルゾ!」

 

「ニゲル! ニゲル!」

 

「コイツラ、オレ、マルカジリ!?」

 

自らを従えていたオーガ以上の強者を前に、ゴブリン達が蜘蛛の巣を散らした様に撤退を始めるが、ペテル達の動きの方が早かった。

戦意を喪失した相手など、敵にもならない。

ゴブリンは瞬く間に命を奪われていったのだった。

 

 

 

夕日が地平線に落ち始めた頃。

世界が朱色に染め上げられる中、食事が始まっていた。

塩漬けした燻製肉で味付けをしたシチューが、各自のお椀によそわれる。

固焼きパン、乾燥したイチジクとクルミなどのナッツ類とで、本日の夕食は完成だ。

モモンガはジッと、自分のシチューを見下ろした。

 

―うぅ……大自然の中での野宿…たき火を囲んでの談笑……なのに! 一番の醍醐味である飯が食べられないなんて……! 

 

湯気を出すシチューは簡単なものとはいえ、実に美味しそうだった。

事実、隣のバトラはモモンガに遠慮する事なくがっついている。

……<メッセージ>による解説付きで。

 

『あぁ、美味いなぁ。この塩っ辛い肉の安っぽさがなんとも言えないぜ』

 

『…………!』

 

『イチジクも保存食にしちゃぁ、程良い甘さだ』

 

『!……!』

 

『美味いなぁ。おかわり……しちゃおうかなぁ? イッヒッヒ!』

 

『あ゛あ゛ぁ゛ぁぁああ゛!?』

 

モモンガの魂の叫びが<メッセージ>に響く。

ナザリックでは、ベルンエステルによって定期的に食事を体感する事が出来ていただけに、目の前の如何にも冒険者らしい食事を摂れない現実をモモンガは全力で嘆いていた。

当初は食事を諦めていたモモンガは、既にその味を知ってしまっている。

この場に魔女はいない。

奇跡は起こらない。

モモンガはガチで涙した。

 

「あー、なんか苦手なものでも入ってた?」

 

唯一、食事に手を出そうとしないモモンガにルクルットが問いかける。

 

「いえ。そういう訳ではないのですが……ちょっとした理由がありまして」

 

―ヤバイ! 考えろ……考えるんだ俺! イケル……イケル……諦めるな! ネバー! ギブアップ! しゅぅz……ゴホゴホ!

 

「そうなん? なら良いけどさ。無理に食べる事もないし……つーか何時までヘルム付けてんの?」

 

―! 来た! ありがとうございます、バーニング先生! 俺、諦めなくて良かったです!

 

モモンガの脳内に閃くものがあった。

流石は一世紀を超えて尚、動画世界に君臨する炎の精霊。

彼の熱意は、遥か時を越えてすら不変だった模様である。

 

「……実は訓練もかねて、依頼中は食事を絶っているのですよ。僅かな重心の変化で剣先が狂うといけませんから」

 

「ほぅ! 流石はモモン氏であるな! そこまで武にストイックになれるとは……凄いのである!」

 

「ホントですよ。あれだけの剣士であるのに、まだ高みを目指すなんて、感服します」

 

 口々に称賛の声が上がった。

皆の不審な者を見る視線も、幾分か和らぐ。

偉大な先人へ感謝の祈りを捧げると、モモンガは話題を変えようとペテルに問いかけた。

 

「そういえば皆さんのチーム名は『漆黒の剣』ですが、誰もそんな剣は持ってないですよね?」

 

ペテルはロングソード。

ルクルットは弓と、昼間見せた短剣で、ダインはメイス。

最後のニニャはスタッフだ。

リーダーや武器の特徴でチーム名を決めるのは、ユグドラシルでもありふれた話だったし、この世界の技術レベルを見る限りでも剣の色を変える事は十分可能だろう。

にも関わらず、誰もその色の武器を所持していないというのが不思議だったのだ。

 

「あぁ、それ」

 

モモンガの疑問に、ペテルとルクルットが笑みを浮かべた。

何処か恥ずかし気な笑みで。

特にニニャは、焚火の照り返しではないだろう赤みを顔に差している。

 

「あれはニニャが欲しいと「もうやめて下さい。若気の至りだったんです!」…」

 

「恥じる事はないのである! 夢を大きく持つのは重要な事である!」

 

「ダイン……勘弁してくれませんか……いや、本当に……」

 

漆黒の剣の面々が朗らかにニニャに笑いかけているのとは反対に、ニニャは今にも転げ回りそうな雰囲気。

どうやら彼らにしかわからない、なにかが由来の様だった。

 

―あれ? なんだろう……あの表情…何処かで見た事あるなぁ……割と近くで……う~ん?……

 

「えっと、漆黒の剣というのは昔いらっしゃった十三英雄の1人が持つ剣にちなんでいるんです」

 

満面の笑みで答えたペテルだが、それ以上は言おうとする気配がない。

 

―十三英雄と言われても、2、300年位前に魔神を滅ぼしたって事しか知らないんだよな

 

現在もナザリックで調査中の内容の一つ。

しかし、その構成メンバーや所持品までの情報はまだ集まっていないかった。

 

―もしかして知らないと恥ずかしいネタなの? どう答えたものか……

 

モモンガが迷っていたら、先の宣言通り、おかわりしたシチューを平らげていたバトラが口を挟む。

 

「? なんだそれ?」

 

―ナイス! 

 

モモンガが内心で拳を握り込む一方で、漆黒の剣に動揺が走る。

 

―あ。チーム名にまでした武器を知らないって言われれば、当然ショックだよね……すみません……はい……俺もそうなんです……

 

「あ~。バトラは知らないのか。まぁ、不思議でもないか。十三英雄でも悪魔の血を引くとか悪者扱いされてる英雄だもんな。英雄譚でも故意に隠されてるし……持ってる能力もヤバイっていうし」

 

「漆黒の剣は、十三英雄の1人で『黒騎士』と呼ばれる方が持つ4本の剣の事なんです。闇のエネルギーを放つ魔剣キリネイラム、癒えない傷を与えるとされる腐剣コロクダバール、かすり傷ですら命を奪う死剣スフィーズ、最後の邪剣ヒューミリスはどんな能力かは伝わってないんですけどね」

 

「へぇ」

 

興味深げに頷いたバトラの横で、モモンガは考え込む。

似た能力を何処かで見た記憶があるからだ。

 

―そうだ、シャルティアだ。ペロロンチーノさんが浪漫だろって習得させてた職業の中に、同じ様なスキルを覚えるのがあったな。カースドナイトだったっけ

 

となれば、その十三英雄はカースドナイトと呼ばれる職業を主に使っていたのだろうか。

 

―でも、あのスキルって最低でも60レベ超えないといけなかった筈……

 

ならば、少々高く見積もって『黒騎士』のレベルは70位となるだろう。

それほどのレベル者が相手をしていた魔神という存在も、同程度の強さと考えられる。

カルネ村でニグンが、召喚した威光の主天使が魔神を滅ぼしたとか叫んでいたので、魔神の強さもピンからキリまであると想定するのが妥当だ。

 

―うん。これなら納得出来るな。将来的に現物を手に入れるなり、実際に会えればはっきりするし

 

モモンガが物思いにふけっている間も、一行の話は進んでいた。

折角の情報を得るチャンスを逃すまいと、慌てて意識を向ける。

 

「その剣をいつか見つけるのが、俺達の第一目標って訳さ。まぁ、伝説って言われる武器は色々あるけど、存在がしっかり確認されてるんだ。今も残ってるかは別として、可能性はあるだろ?」

 

照れくさそうに笑う面々に、ンフィーレアが軽い口調で爆弾を投下した。

 

「あ、漆黒の剣でしたら一振り持ってる方が実際にいらっしゃいますよ?」

 

瞬間、漆黒の剣の全員が勢いよく向き直る。

 

「だ、だれ!?」

 

「うぉー!? マジかよ! じゃぁ残り3本かよぉ!」

 

「むぅ……行き渡らなくなってしまったであるな……」

 

一身に視線を集めたンフィーレアがおずおずと答えた。

 

「あ……えと……『蒼の薔薇』って冒険者の方達で、そのリーダーさんが…」

 

「うげぇ! アダマンタイト! アイツラか……なら仕様がねぇか」

 

最初こそ悲鳴を上げたルクルットだったが、最後は納得した様子。

他の面々もどうやら同じらしい。

 

「そうですね。まだ3本ありますし、それが手に出来る位強くなりましょう」

 

「そうだな。実際1本あるんだ! 残りも確実にあるだろう。願わくば俺達が見つける日まで、隠れてて欲しいね」

 

そのまま、ワイワイと談笑が続く。

懐から黒い短刀を全員が出して、チームの結束を深めたりする様子に、モモンガも兜の下で微笑を浮かべた。

 

―きっと彼らの短剣に込めた思いは、俺達がスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに込めた思いと同じなんだろうなぁ…

 

そう、共感を覚えて。

だからつい、口に出してしまった。

 

「皆の意識が一つの方向を向いていると全然違いますもんね」

 

「あれ? モモンさんも昔はチームを組んでいたんですか?」

 

不思議そうにンフィーレアが聞いてくる。

それが藪蛇とは知らずに。

 

「冒険者……という身分ではありませんでしたがね」

 

モモンガの返答に察するものがあったのか、皆が口を閉ざした。

夜と沈黙の帳が降りる。

モモンガは星空を見上げ、その輝きに思い出を重ねた。

 

「最高の、素晴らしい仲間達でした。最初はたった9人から始まって、何時の間にか41人の大所帯になってましたよ。それでも皆が、誰もが最高の友人達でした。数多の冒険を繰り返し、数多の未知を踏破して……あの素晴らしい日々は忘れられません」

 

「ほぉー」

 

誰かが感心した様な声を漏らす。

火の粉が爆ぜる音が、パチパチと耳を打った。

モモンガにとって、最初の9人も、後のギルドの41人も、隔てなく最高の友だと断言出来る。

『友達』

その存在を知れたのは彼らのお蔭だ。

共に笑い、共に戦い、ユグドラシルという夢を駆けた素晴らしい仲間達。

多くの楽しみを、感動を分かち合った日々。

だからこそ、モモンガにとって『アインズ・ウール・ゴウン』というギルドは、正しく夢の結晶なのだ。

例え全てを捨てようと、全てを踏みにじってでも守り、飾らなければならない最も大切な宝物。

モモンガの……鈴木悟の輝かしい全てが詰ったあの場所こそが、なによりも大事だから。

 

「いつの日か、またその方々に匹敵する仲間が出来ますよ」

 

ニニャの慰めを含んだ言葉は、到底、モモンガに認められるモノではなかったのだ。

 

「……そんな日は絶対に来ないよ……」

 

驚く程、敵意に満ちた声音だった。

丁寧な口調はなくなり、無意識に素の口調で答える。

一瞬で場が凍りついた。

モモンガはゆっくりと立ち上がる。

 

「……少し失礼します…………バトラ、私の分も食べていいぞ」

 

振り返る事なく、モモンガは離れた場所に歩いていった。

 

気まずい空気が、残された者の間に流れる。

ニニャは、唇を噛み締め、俯いていた。

少しして、ニニャがぼそりと呟く。

 

「……悪い事を言ったみたいですね……」

 

「うむ。なにかあったのであろうな」

 

ダインが重々しく頷き、ペテルが続ける。

 

「全滅……って所じゃないかな……仲間を戦闘で全員失った人は、ああいう雰囲気を見せるよ」

 

「そいつは……難しいな…………なぁ、バトラ。その辺りどうなんだ?」

 

ルクルットの言葉に、自然とバトラに注目が集まった。

バトラは少し考える素振りを見せてから、口を開く。

 

「本当に答えて良いのか? お前らは俺の示す、横から見た真実で納得出来ると? …俺なら出来ないね」

 

その言葉に、再び場の空気が変わった。

誰もがハッと息を吞む。

 

「そうだな。わりぃ」

 

「えぇ。私も少しばかり浅薄な発言でした。すみません」

 

「発した言葉は元には戻らないのである。故にかの御仁に、それを塗り替えるだけのなにかを抱かせるしかないのである」

 

「はい……そうします」

 

「んじゃ、俺もちょいと失礼するぜ」

 

話が纏まった所で、バトラも立ち上がり、そのままモモンガの方へと歩いていった。

 

変わらぬ空の下で様々な思いが交差していようとも。

星は平等に、彼らを照らすのだ。

 

エ・ランテルの路地裏で、悪意の根がジワジワと伸びている事を、まだ誰も知らない。

 

 

瞬く星だけが、知っている。

 

 




第18話『勝らぬ宝』如何でしたでしょう。

今話で冒険者編の折り返し地点ちょっと手前ですかね。
段々と、物語も動いていきますよ。

『月輪熊』様、『あううううううう』様、『炬燵猫鍋氏』様、
ご感想ありがとうございました。
この作品を読んで下さる多くの皆様も、ありがとうございます。
それでは次話にて。
                             祥雲
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