奇跡と共に   作:祥雲

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その御話を知っていますか?
     毎晩、枕元で聞かされました。

その御話を知っていますか?
     森には怖いお化けが出るのです。

その御話を信じていますか?
     今でも語らぬ者などいないでしょう。
  


魔の森

翌朝、モモンガ一行はカルネ村を訪れていた。

 

現在、漆黒の剣やンフィーレアとは別行動をとっている。

そもそも今回の依頼は、漆黒の剣が提案したモンスター狩りと、ンフィーレアのポーション素材を採取するという二重のもの。

カルネ村へは、補給とンフィーレアの希望が理由で立ち寄っていた。

 

「それにしても、随分と変わったなぁ」

 

「そうなのか? 俺は知らないから、なんとも言えないんだけども」

 

モモンガとバトラは、村外れの丘になっている所からある1点を眺める。

村人が幾人か集まり、列を作って粗末な的へと弓をつがえている。

指導員らしき者の声で、一斉に矢が射られた。

弓を手にした者達の年齢、性別は様々。

ふくよかな女性もいれば、幼い少年の姿もある。

瞳には遊びといった感じの驕りはなく、敵意すら乗せた真剣な眼差しだ。

 

「あぁ。以前……ほんの十日前かそこらまでは、弓を手にした事も、相手を殺す、という手段すら考えなかった人達が今ではソレを行っている。奪われた経験があってこそなんだろうけど……」

 

「しかも教えてるのがゴブリン。村の入り口には小隊を組んだのもいるし、立派な柵だってあるもんなぁ。…なるほど、前は違ったのか。だから依頼主様達が揃って驚いてた訳だ」

 

「? ベルンさんからカルネ村について、なにも聞いてないの?」

 

「起きた事については聞いてたけどな。景観とかは聞いてない。……今日はマスクいらないのか? ヤギンガさん。そう言えば姫さんから差し入れが……」

 

「おっと! この兜って快適だなぁ! もう、これ以外考えられないや!」

 

「……チッ……」

 

―ふふふ…… もう俺は油断しない! 

 

「あー!? 魔王様だぁ!」

 

「ぬぅぉ!?」

 

内心でほくそ笑んでいたモモンガの腰に、衝撃が走る。

まるで誰かが、後方の更に高い丘の上から助走をつけて突撃して来たみたいに。

 

「ねーねー! 今日は魔女様いないの? ネム、魔女様に会いたいなぁ」

 

後ろを確認すれば、かつて救った姉妹の妹・ネムの姿があった。

 

―馬鹿な!? この姿でわかる筈が…

 

モモンガは動揺を隠して、ネムへと向き直る。

 

「……なんの事かな? 私はモモンという冒険者だぞ?」

 

「えー? でも声が一緒だよ? 歩き方も一緒だよ? なんか苦労してそうな雰囲気も一緒だよ?」

 

「余計なお世話だよ!? ベルンさんがSなだけで、俺は苦労人なんかじゃ「モモンさん。口調、口調。後、アウト」…ハッ!?」

 

バトラの言葉にしまったと、ガントレットに覆われた手で口元を覆うも、時既に遅し。

言質をとったと言わんばかりに、ネムはキラキラと目を輝かせている。

 

「ほらー、やっぱり魔王さまだ! 嘘はメッ! なんだよ? 森の幽霊さんにお尻抓られちゃうんだから」

 

隣のバトラも苦笑気味だ。

その姿に漸く気が付いたのか、ネムはまん丸な瞳をバトラに向けた。

 

「あれれ? お兄さんはだぁれ? カッコイイね! 魔王様のお友達? 四天王?」

 

「イッヒッヒ! 四天王かぁ! 悪くねぇぜ。でも、残念ながら違うんだよな。俺は魔女の姫さんの手下Bさ」

 

「お~! 魔女様の手下さんなんだ! 私、ネム・エモットって言います!」

 

ぺこりとネムがお辞儀をする。

それにバトラも応えた。

 

「これは丁寧にどーも。俺はバトラだ。宜しくな、ネム」

 

「うん! バトラさんですね!」

 

「さんはいらねぇぜ。背中が痒くならぁ。敬語もな」

 

「……うん! 宜しくバトラ!」

 

「おう」

 

バトラがしゃがんでネムの頭を撫でると、ネムはキャーと笑う。

髪がしっかりグチャグチャになってから、解放された。

 

「それでそれで? 今日は魔女様はいないの?」

 

「悪ぃな。今日は俺とモモンさんだけだ。あ、勿論モモンって言うのは偽名だぜ?」

 

「ちょっ!?」

 

しれっと秘密を暴露するバトラにモモンガが焦るも、どうやら杞憂だったらしい。

ネムは二コッと笑顔を浮かべた。

 

「やっぱり! それじゃぁ、なにかの秘密の作戦中? 世界征服の第一歩?」

 

―えぇ!? やっぱこの幼女スゲェ!? 当たってるよ! ビンゴ所じゃねぇレベルぅ!?

 

「おぉ、ネムは頭が良いなぁ。その通りだ! だから、モモンさんの正体とかナイショだぜ? 約束出来るか?」

 

「うん! ネム、魔王様も魔女様も大好きだから約束する!」

 

「ありゃ、俺は入ってないのね」

 

「ん~……バトラも手があったかいから好き!」

 

「っ!……ひゃはは! 言うねぇ、このこの!」

 

「キャー!」

 

再び撫で回されるネムから視線を外せば、こちらに向かって来る少年の姿を見つけた。

普段は隠れている目元が風圧によって上がっていた為、視線がこちらへと向けられている事がわかる。

依頼主であり、知己の友人に挨拶をしに行ったンフィーレアだ。

 

―ん? あの表情……確か前にも……汗だく……ダッシュ……村長……うっ……頭が……

 

モモンガは激しい既視感を覚えた。

そんな事を知りもしないンフィーレアは、足早にモモンガの前に来ると、息を乱したままモモンガとバトラの間で視線を迷わせる。

口を開けようとしては閉ざす。

そんな行為を繰り返していたが、意を決したのかモモンガへと視線を定めた。

尚、ネムが丁度バトラの後ろに立っていた事もあり、気がついてはいない様子だ。

 

「モモンさんが……この村を救ってくれた、モモンガさんという御方なのでしょうか?」

 

―えぇ!? ここでもバレるの!? お、もちつけ…じゃなかった、落ち着け俺! まだ確信された訳じゃない!

 

まさかの2Rnd目があるとは思いもしていなかったモモンガは固まる。

だが、無言の時間が些か長すぎた。

その間にンフィーレアは、自分の考えが正しいのだと悟ってしまう。

 

「ありがとうございました。モモンガさん。この村を……エンリを救って下さって…本当に、ありがとうございます!」

 

綺麗に90度曲げられた腰の角度。

何処のスポーツマンだと言いたくなる見事さだった。

 

「……違うとも。私は……」

 

モモンガが足搔こうと口を開こうとすれば、わかってますと、ンフィーレアに制される。

明らかに詰みであった。

 

「お名前を……その、隠されて? ……うん。隠されている事にはなにか理由があるのでしょう」

 

―ねぇ、なんで2回言ったの? やっぱ、安直過ぎたのかなぁ。…でも、他の案はベルンさんに却下されたし……ダーク・ブリンガーとか、エコー・オブ・デスとか……カッコイイと思ったんだけどなぁ

 

「それでも、この村を救ってくれた事を―――いえ。エンリを救ってくれた事にお礼を言いたかったんです。……僕の好きな女性を助けてくれてありがとうございました!」

 

―……青春……してるなぁ……若者よ……

 

割とオッサンじみた事を思ったモモンガだが、悲しきかな。

彼はリアルで三十路を過ぎたオッサンである。

ノスタルジーに浸る位には、世の荒波を生きてしまっていた。

 

「……はぁ……もう、頭を上げたまえ」

 

モモンガは敗北を認める。

これ以上彼の抱いた思いを否定する事は、なんとなく嫌だった。

 

「はい、モモンガさん。……それと実は、僕も隠してた事があるんです……って、あれ? ネム?」

 

ンフィーレアが真剣な表情で話し出そうとした所で、バトラの背後にいるネムにやっと気が付いた様だった。

ネムはといえば、うっかり口を開かないという意思表示なのか、両手で口をしっかり塞いでいた。

 

「さっき偶然会ってね。バトラ、ネムを頼む。さて、私達は向こうで話そうか」

 

「りょーかい」

 

「は、はい」

 

モモンガとンフィーレアの2人は少しばかり離れた所へ移動する。

 

「それで、なにかな?」

 

「……以前、モモンガさんが宿でポーションを女性に手渡したでしょう? その彼女が僕の所へポーションの鑑定に訪れたんです。そして、あのポーションは通常の方法では作れない、非常に希少なものです。そんなポーションを持つ人物がどんな方か、その製法はどんなレシピか。それが知りたくて今回の依頼をしました。申し訳ありません」

 

―あぁ……やっぱ、考えナシに軽々とアイテムを渡したのは失敗だったのか…マズイなぁ…

 

後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。

 

「……そのポーションはどうなったのかね?」

 

「あ、はい。その女冒険者さんがお持ちのままです。あのポーションは非常に価値あるものなので、ご自身で大切に保管したいと仰ってました」

 

―つまり、この世界では最下級のポーションですら貴重なのか。……あとでベルンさんと相談しよう

 

あの場での行動はベターであったと思う。

名声を上げる前の一歩目で、なにかしらの汚名に繋がる事態は避けたかったからだ。

ある種の賭けであり、今回は外してしまったが、それがどうした。

まだ挽回の余地があるのだから。

しかし、ンフィーレアが何故、謝罪をするのかがモモンガにはわからなかった。

 

「だが、どうして君は謝るんだ? 腹に一物抱えて、相手を嵌める為に笑顔で握手をした……そうならまだ理解出来る。今回の依頼はコネクション作りの一環なのだろう? なにが問題なんだ?」

 

心底不思議そうにモモンガが問いかけると、ンフィーレアは感心した様に息を吐いた。

 

「モモンガさんは心が広いんですね……」

 

―え? マジでなにが? ?

 

コネというパイプは社会の基本だ。

 

―あ。そっか、わかったぞ!

 

小首を傾げて悩むと、閃くものがあった。

カフェの店員が、他の店の味が気になってしまい、つい、店を訪れてしまった感覚なのだろう。

門外不出の店の味を盗みたいという目的で近づいた気にでもなってしまっているに違いない。

モモンガはそう考えた。

 

「仮に、ポーションの製法を教えたら君はどうした? どの様に使う?」

 

モモンガの問いかけに、ンフィーレアは瞬きを繰り返した。

 

「……あ。そこまで考えてはいませんでした。あくまで知識欲の一環だったので……多分、おばあちゃんも……」

 

「おばあちゃん?」

 

「はい。僕は祖母と2人暮らしなんです。祖母は第三位階魔法の使い手で、僕の師匠でもあります」

 

「ほぉ。それは凄い」

 

脳内の重要度ランキングが更新された。

因みにどんなランキングでも、第一位はアインズ・ウール・ゴウンである。

 

「凄いな……やっぱ…………が憧れるだけの……もう1人も……あれ?……女の人だよね?……」

 

ぼそぼそとした、小さな呟き。

あまり聞き取れなかったが、なにか心配事でもあるのだろうか。

 

「ところで私がモモンガだと知っているのは、君だけか? ……後ろの彼女は除くが」

 

「はい。誰にも伝えてません。というか、ネムも知ってるんですね」

 

「幼子というのは、色々と敏感らしい。だが、他の者にバレていないのはありがたいな」

 

このンフィーレアという少年は純粋で真っ直ぐだ。

ならストレートに頼んだ方が効果はあるだろう。

そう、モモンガは判断した。

 

「……今の私はモモンという一介の冒険者に過ぎない。それを忘れないでくれれば嬉しいな」

 

「はい。ちゃんとわかってます。ご迷惑をおかけしたとは思いますが、それでも僕の感謝を伝えたかったんです。しつこい様ですが、本当にありがとうございました。それと、あと半刻程で森に向かおうと思います。漆黒の剣の皆さんにも伝えて来ますので、失礼しますね」

 

そう言って、ンフィーレアが背を向けて歩き出す。

遠ざかる背中を見送って、バトラとネムの待つ所へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

目を森に向ければ、100m以上先に鬱蒼と生い茂る森が見える。

その手前にぽっかりした空間が空いていた。

聞けば、村人が柵をつくる為に木々を伐採した結果らしい。

 

「森の賢王?」

 

「はい。この辺り一帯が縄張りだそうです。伝説の魔獣で、その一撃は容易く岩を砕くとか」

 

「ふむ。なら、もしもの場合は我々が殿を務めましょう。なぁ、バトラよ」

 

「ん? そうだな、モモンさん。砕けちまうのはどっちか…教えてやるぜ」

 

自信満々に答える2人に、感嘆の声が上がる。

昨日の戦闘を目にしてから一層、2人は一目置かれる存在になっていた。

特に、ニニャのバトラを見つめる瞳はキラッキラしている。

 

―すっごいわかるよ、その気持ち!

 

「わかりました。では、有事の際はンフィーレアさんを守って森の外へ逃げさせていただきます」

 

「あ、あのモモン―さん」

 

二重の意味で言いよどんだンフィーレアが、モモンガへと向き直った。

 

「森の賢王は殺さずに追い払って下さいませんか?」

 

「……一体どうしてです?」

 

「森の賢王はこの辺りの生態系の上位者です。もしそれがいなくなってしまえば、カルネ村にこれまで以上にモンスターが流れてしまいます」

 

「なるほど……」

 

モモンガが納得した矢先、ルクルットが口を開いた。

 

「そいつは無理だろ? いくらモモンさん達が強いからつっても、伝説の魔獣が相手じゃ全力で戦わないといけねぇ。そんな余裕―――」

 

「了解しました。バトラもいいな?」

 

「問題ないぜ」

 

「はぁ!?」

 

モモンガとバトラの自然な調子で放たれた言葉に、ルクルットは驚きの声を上げた。

他の漆黒の剣の面々も、声こそ出さなかったものの、表情がその心の内を示している。

 

「難しいかもしれませんが、追い払うだけに留めておきましょうとも」

 

モモンガの力強い言葉は、裏を返せば、森の賢王だろうと敵ではない。

そんな自信に満ちているそれ。

漆黒の剣の面々に、畏怖を抱かせるには十分過ぎた。

 

「おいおいおい……相手は何百年って生きる伝説の魔獣だってのに……」

 

「これが強者にのみ許された態度である……か……」

 

「モモンさんとバトラさんの性格からすれば、慢心や増長ではないのでしょうね……」

 

対するンフィーレアは、モモンガとバトラを信じているのか、安堵の表情を浮かべる。

 

―もし、間違って森の賢王ってモンスターを倒しちゃったら、デスナイトとか適当なの置いとこ

 

そんな風にモモンガが軽く考えている事など、知る由もない。

むしろナザリックから代役を連れて来た方が、都合が良いのではないかとも思える位だ。

 

「では、こちらをご覧下さい」

 

そう言ってンフィーレアは、腹部に付けていた大きい採集用の鞄から、しなびた植物を取り出した。

 

「ほぅ。ングナクの草であるな!」

 

「はい。ダインさんの言う通りです。これが今回の目的物になりますので、皆さんで見つけたら教えて下さい」

 

―え? ソレ薬草なの? 雑草にしか見えないんだけど…

 

「モモンさんは大丈夫ですか?」

 

「ん? あぁ、それですか。了解してますとも」

 

「流石ですね。薬草にもお詳しいなんて」

 

全員の視線がモモンガに集中する。

 

―ちょっ!? やめて! 見ないで! 言えない…! 雑草にしか見えないなんて言えないのぉぉお!

 

チラリとバトラも盗み見れば、真剣な表情で地面を見ていた。

その仕草に一縷の望みをかけ、<メッセージ>を繋げる。

 

『バトラ! お前ならわかるよな!?』

 

『ふっ……この俺を誰だと思ってんだ? モモンさん?』

 

『っ! 流石はベルンさんのNPC! 頼りになるぜ!』

 

『勿論わかんね』

 

『ちくしょぉぉぉおお!』

 

神はアンデッドには微笑んでくれないらしい。

モモンガはここに来て、初めてピンチに瀕していた。

その間にも、ンフィーレアと漆黒の剣による会話は続いている。

 

「たしか栽培モンより、天然モンの方が薬効効果が高いんだっけ?」

 

「はい。ウチのポーションは天然もの100%が自慢ですから! まぁ、効果は10%増し程度しかありませんが」

 

「その10%が凄いんですよ! 一度バレアレ薬品店のポーションを知ってしまえば、他の店のポーションなんて使えやしません」

 

「あはは……そう言っていただけると照れちゃいますね」

 

―っ……雑s……じゃなかった、薬草は置いとこう。きっとなんとかなるさ! でも、やっぱりポーションでもユグドラシルと製法が違うのか…

 

ユグドラシルでは、特定の職業を修めた者のみが得られるスキルと込めたい魔法を材料にして作っていた。

モモンガはソッチ系の職業を修めていない為に知識しかないが、かつてのギルドメンバーの1人が高笑いをしながら作成していた姿を覚えている。

その彼が知的炭酸飲料風味のポーションを作り上げた時の異様なテンションには、多くのギルメンが引いていた位だ。

 なにがあそこまで彼を追い立てていたというのか。

 

―確か機関がどうとか……ぐっ……なんだか思い出してはいけない気がする……!

 

因みにモモンガの記憶からは消去されているが、その時の制作……むしろ会話に積極的に参加していた。

特定メンバーによる、異様な高笑いの大合唱。

思い出さない方が、モモンガの精神衛生上、賢明である。

 

「それじゃぁ採集に「あ。ちょっと待ってくれるか?」 えぇ。どうしましたか?」

 

ンフィーレアの言葉をバトラが遮った。

 

「少し、周囲を確認してから森に入りたいんだ。帰り道の目印とか、そんなんを覚えておいた方が安心出来るだろ?」

 

「……なるほど。確かにお2人は初めて森に入るんですものね。勿論、構いませんよ。あまり長く離れないで下さいね」

 

「サンキュー。ほら、モモンさんも行くぞー?」

 

「あぁ」

 

モモンガはバトラに引っ張られ、森の入り口から外れた茂みへと連れて行かれた。

少し開けた茂みへと迷わずに入っていく。

立ち止まった所で、木々の間からひょこっと現れる者がいた。

 

「モモンガ様、お待たせしました!」

 

「うむ。アウラすまないな、突然呼び出して」

 

「いえ! 至高の御方のご命令とあらば、このアウラ! 雪山のてっぺんだって駆けつけますよ!」

 

「そ、そうか」

 

えへへへと笑いながら姿を見せたのは、ナザリック地下大墳墓、第六階層守護者の双子の姉・アウラだった。

その視線がモモンガからバトラへと向けられる。

 

「あ! あんたがベルンエステル様の?」

 

「そっちは話に聞く、ぶくぶく茶釜さんの娘か」

 

「アウラ・ベラ・フィオーラだよ! 宜しくね!」

 

「バトラ=U=ノワールだ」

 

二カッと屈託のない笑顔を浮かべたアウラと、軽く笑みを携えたバトラが握手を交わす。

 

「聞いたよ? 初お披露目でやらかしたんだって? って事はアルべドとかを止めたんだ~! やるね!」

 

「あれは止めたんじゃねぇ。アイツラが勝手にこけただけさ」

 

「むむむ! なんか秘密があるとみた!」

 

「あとで姫さんにでも頼めば、映像でも見せてくれるだろうよ。しっかし、お前さんに解けるかな?」

 

バトラが挑発的な笑みを浮かべれば、アウラも同種の笑みを浮かべた。

 

「ふふふふ! このアウラ様にかかれば簡単よ! 後で必ずトリックを暴いてみせる!」

 

「イッヒッヒ! 楽しみにしてるぜ」

 

―あれ? バチバチと火花が散ってる気がするぞ…

 

「コホン! それではアウラ。お前を呼んだ理由はわかっているな?」

 

「ハイ! あたしが森の賢王なる魔獣を発見し、モモンガ様達にけしかければ宜しいんですね!」

 

「そうだ。特徴は白銀の体毛と、蛇の様に長い尻尾。そして四肢獣という事なのだが……それだけで思い当たるか?」

 

「えぇ。森に入ってから色々見つけましたけど、多分、真ん中らへんにいたアイツだと思います」

 

打てば響くようなやり取り。

アウラとマーレの姉弟は、なんやかんやでモモンガにとっては癒しの部類に入る。

ナザリックのNPCの中でもいい意味で純粋な2人だ。

どうかこのままで成長して欲しいと、切に願う。

 

「でもいっそ、あたしが使役しちゃいましょうか?」

 

「いや。今回はやめておこう」

 

アウラの職業は『魔獣使い』

使役は容易いだろうが、もしなにかのアクシデントで自作自演とバレたらマズイ。

不安要素は初めから取り除いた方が良いのだ。

 

「因みに、お前に与えた使命はどの程度進んでいる?」

 

「はい! ご報告いたします!」

 

アウラは臣下の礼をとった。

白いスーツが土埃で汚れるのも構わず、地面に膝をつける。

 

「大森林の捜索と把握は順調です。ナザリックに恭順の意を示すモンスターのテイムも進んでいます。しかし、物資蓄積所とベルンエステル様からの使命の方は、まだまだ時間がかかるかと」

 

「そうか…ん? ベルンさん?」

 

前もってアウラとマーレの姉弟には、大森林の捜索を主とした任務を与えていた。

情報収集は勿論、ナザリック周囲の安全確保、物資蓄積所は非常時にナザリックへの帰還が叶わない時の備えだ。

モンスターのテイムも、パワーレベリングの確認やレベルアップの概念を知る為の布石。

そんな一連の任務は与えていたが、ベルンエステルからの指示は初耳だった。

 

「あれ? ご存じなかったですか?」

 

「あぁ。良ければ聞かせてくれないか?」

 

「畏まりました! えっと、ベルンエステル様からは、森の違和感を感じる場所を地図にしておいて欲しいとの指示が」

 

―え? それだけ?

 

身構えていたモモンガだったが、命令のシンプルさに毒気を抜かれる。

 

「……それだけか?」

 

「はい。この1つのみです。正確に申し上げれば、森の違和感を感じる場所や、綺麗な蝶を見かけたら、作成した地図にポイントを書き込んで欲しいとの事でした」

 

「そうか……」

 

―ベルンさんも意外と可愛い所あるんだなぁ……蝶が好きだったのか……確かに魔法使う時とかに蝶のエフェクト入るもんな。街で綺麗な蝶の装飾品があったら買っておこう

 

モモンガはウンウンと頷く。

その仕草を了承と判断したのか、アウラは笑顔だ。

 

「ご苦労だった。これからも頼りにしているぞ。それに先駆けて森の賢王の件、任せよう」

 

「ハイ! 畏まりました!」

 

元気よく返事をしたアウラが立ち上がる。

そのまま、とぉー!という掛け声とともに木の枝に飛び乗ると、森の奥へと消えて行った。

アウラを見送った所で、モモンガがバトラへ声をかける。

 

「さて。少し遅くなっちゃったな。急いで戻ろうか」

 

「おう」

 

そのまま来た道を、真っ直ぐ戻る。

リアルでは拝めないだろう、自然の美しさを堪能しながら歩いていると、なにかが兜ごしの視界に入り込む。

 

「ん?」

 

「どした、モモンさん?」

 

「いや今……気の所為かな? あそこの木の枝が光った気がしたんだけど…」

 

「日光じゃねぇの?」

 

「う~ん? それとは明るさが違った様な…?」

 

「……ま、今は気にしても仕方ねぇよ。さ、急いだ急いだ」

 

「あ! ヤバ!」

 

モモンガはバトラの言葉に我にハッと返る。

小走りで森の入り口へと向かって行った。

もう2、3分とせずに2人は森の入り口へと着くだろう。

 

 

モモンガ達と、森の賢王の邂逅はすぐそこまで迫っている。

 

 

 

ザワリ、ザワリ。

 

誰もいなくなった森には、静かに木々の騒めきが聞こえるばかりだ。

 

 

フワリ。

 

小さな木漏れ日が地面を照らした。

 

 




第20話『魔の森』如何でしたでしょうか?

いよいよ、トブの大森林に入ります。
お楽しみいただけておりますかね?

『琳璋』様、ご感想ありがとうございます。
『はしば』様におかれましては、この作品にお付き合いいただき、ありがとうございました。
『ナナシ』様、『yoshiaki』様、『月輪熊』様、『炬燵猫鍋氏』様、『アズサ』様、
いつもご感想を下さり感謝いたします。
評価を入れていただいた方々も、ありがとうございます!
これかもどうか楽しんでいただければと。
ご感想・考察等々、お気軽にお寄せ下さいませ。
それでは次話にて。
                                     祥雲
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