奇跡と共に   作:祥雲

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知りたい事はなんですか?
    隠された世界の秘密

知りたい事はなんですか?
    隠された大事な時間

だけれど、考えてみて欲しい

知る事は本当に幸せな事ですか?



反逆の知らせ

エ・ランテルに未曽有の大事件が起きてから、1日が経過していた。

 

決して少なくない犠牲・被害を被った城塞都市であったが、数多の冒険者や有権者の支援や尽力もあり、街は徐々に活気を取り戻しつつある。

そんな中で、2人組の冒険者の姿が人々の視線を集めていた。

 

注目の的の1人であるモモンガは、上機嫌に大通りを歩く。

 

「わぁ! お母さん見て! 漆黒の英雄さんだよ!!」

 

「まぁ。カッコイイわねぇ。あむあむ……んく……ぷはぁっ」

 

視界の隅に、何処かで見た事がある様な母子の姿があった気もするが、そんな事は今のモモンガには些細な事。

もし、此処が人通りのない所ならばスキップをしていたであろう程度には気分が高揚しているのだ。

遠巻きに見ている見物人達に、ヒラヒラと手を振り返す余裕すらあった。

 

 

―ふふふ! 遂に手に入れたぞ! ふふふふ!!

 

「……モモンさん。正直キモイ。なんかオーラがアレなんだけど。ピンクっつうか、紫っつうか……うん」

 

「ははは! ツレナイ事を言うなバトラよ! 今の我らは最下位の銅プレートではない! ミスリルプレートなのだっ!!」

 

「いや。渡された時は不満そうだったじゃんか」

 

「最初はそんなものだ! これから我らの大冒険が始まるぞ!! いっその事、ベルンさんも一緒n「うぜぇ」ぶらぁぁああ!?」

 

隣で顔を顰めながら歩いていたバトラも、我慢の限界だったのだろうか。

挙動が可笑しい全身鎧を蹴り飛ばすという暴挙に走る。

 

「落ち着いたか?」

 

「……はい」

 

モモンガは転がる…とまではいかないまでも、少し体勢を崩した。

鎧から煙が上がっている辺り、蹴りの威力もお察しだろう。

 

「あはは。いや、これから冒険者の仕事の幅が広がると思うと……つい……テヘッ」

 

モモンガはヘルム越しに頭を小突く。

コツン、ではなく、金属の擦れるゴツンという音が響いた。

 

「……その恰好でその動作はありえねぇだろ。まぁ、今のはナイスリアクションだったぜ。姫さんに送っとくわ」

 

「!! ま、待て! 早まるな!!」

 

「悪ぃ。もう送っちまった」

 

「嘘……だよな? ははは……今度も冗談なんだろ? ……冗談……ですよね?」

 

一瞬で冷静さを取り戻したモモンガが、カタカタと震えながらバトラへと手を伸ばす。

対するバトラはといえば、実に良い笑顔で伸ばされた手をスルー。

ポンっとモモンガの肩に手を乗せた。

 

「あはははは。心配するなってモモンさん」

 

「っ! それじゃぁ……」

 

「本気と書いてマジで送った☆」

 

結論として、救いはなかった様である。

 

―い、いやぁぁぁああああああ!? お願い!! ベルンさん、どうか見ないでぇぇえええ!! 

 

モモンガは内心で絶叫した。

先日のパレードといい、今回のリアクションといい。

自分でも部屋に閉じ篭りたくなる光景が、あの友人の手元に送られているという恐怖。

というか、バトラはどうやって撮影をしているのか。

そう考えたモモンガの脳裏に閃きが走る。

 

―そうだよ! 俺は今まで一度たりとも、バトラが何かしらの撮影手段を用いている所を見ていない! つまりブラフ!! ダウトだ!!

 

「……ふふふ。……甘いなバトラ。角砂糖位に甘い」

 

「ん?」

 

ニヤニヤしながら此方を見るバトラに、モモンガはビシっと指を突き付けた。

 

「お前の言動は俺の精神を削る為の虚言に過ぎない! なぜなら! あれだけの弄りネタ……ナザリックドS代表のベルンさんが何時までも放っておく筈がないからだ!!」

 

―どうだ! これでグウの音も出るまいよ!

 

「……」

 

「ははは。どうやら俺の勝ちの様だな」

 

バトラは無言。

モモンガはそのリアクションを勝利の証と確信した。

だがその確信は、儚くも崩れ去る事となる。

 

「……くくく……あはははは!!」

 

「!?」

 

「イッヒッヒ! 成程なぁ。確かに俺はそんな動作を見せてない。けどさぁ? それがなんで、『撮影出来ない』っていう証明になるんだ?」

 

「なん……だと……」

 

―なんだ……このバトラの自信は……!? いや、これすらブラフか? しかし……

 

モモンガは推理する。

だがいくら考えた所で、満足な答えは思いつかなかった。

 

「そんなに気になるんだったら、いっそ姫さんに確認したらいいじゃねぇか。ハッキリするぜぇ?」

 

「そ……それは……!」

 

―た、確かにその通りだけど! えぇい、ままよ……!!

 

モモンガは腹を括った。

 

「良いだろう。勝つのは俺だ」

 

ベルンエステルへと<メッセージ>を繋げる。

……物凄く恐る恐るだが。

 

『ベ、ベルン……さん……聞こえますか?』

 

『あら、モモンガさん。なにかしら?』

 

『じ、実はですね。えっと……その……パ、パレードとかの映像ってご存じだったりします?』

 

『……パレード? ……お遊戯会の間違いじゃないの? くすくす!』

 

『!? ま、まさか!?』

 

モモンガは、背中……ではなく背骨に冷たい感覚を覚えた。

 

『随分と可愛らしい乗り物があったものね。それになんだったかしら……我が名を土産に、冥府へ還れ? 冒険者生活が楽しそうで嬉しいわ』

 

『…………オワタ……』

 

どうやら先のバトラの発言は虚言ではなかったらしい。

脳内で、甲高い笛の音が鳴り響いている気さえする。

試合終了、コールドゲーム、ゲームセット。

いくつもの単語が頭に浮かぶが、要するにモモンガの敗北であった。

 

『くす。実は『漆黒の英雄モモンThe Movieプロジェクト』を今から立ち上げようと思うんだけど……』

 

『やめて下さい!? 恥ずかしさで死んでしまいます!?』

 

『もう死んでるじゃない。アンデッドがなにを今更』

 

『物理じゃないですぅ! 精神的な話ぃ! きっと大事なナニカぁ!』

 

『あ。さっきのポーズは中々良かったわ。パンフレットの表紙は決まりね』

 

『やめてぇえええ! あんなん、俺の威厳とか木っ端微塵ですよ!? チリッチリですよぉ!!』

 

モモンガの必死の説得が実を結んだのか、ベルンエステルは溜息をついた。

 

『そう……わかったわ。モモンガさんがそこまで言うのなら……』

 

『! わ、わかってくれましたか! 流石はb『前に披露してくれた、おねだり上目遣いに変更しましょう』ルンさんんん!?』

 

―馬鹿な! あの時、俺とベルンさん以外には誰も……っ! こ、この状況は……!?

 

モモンガは思い至る。

ベルンエステルに映像が届いているという現実。

先のバトラの自信。

誰もいなかった筈の場所で撮影される不可思議さ。

そう。

今、正にモモンガが直面している問題ではないか!

 

『ベルンさん……一体、どうやって撮影したんですか? あの時といい、今回といい。ベルンさんもバトラも、俺の傍にずっといました。そして撮影している様子も仕草もなかった! なのにどうやって!?』

 

『それは秘密。バラしちゃったら、モモンガさんの痴t……もとい、勇姿をナザリックの僕達に見せられなくなっちゃうもの』

 

『今、痴態って言いかけませんでした!?』

 

『気の所為よ……?……モモンガさん。今、なにか言った?』

 

『だから、今ベルンさんが……?……これは……あれ?……』

 

モモンガとベルンエステルの2人が同時に言葉を止めた。

なにか、<メッセージ>に紛れる様な音が聞こえたのだ。

酷くノイズがかっているが、良く聞けば声に思えなくもない。

 

『……も……し…………あ……せ……ん……』

 

―この声……シャルティアか?

 

だがすぐに聞こえなくなる。

気の所為かとも思ったが、入れ替わる様にして、アルべドからの<メッセージ>が繋がった。

 

『モモンガ様。お伝えしたい事が――』

 

『アルべド? どうかしたのか? 今、ベルンさんと話しているのだが……急ぎか?』

 

『はい。緊急を要するかと。そして、この通話にベルンエステル様もいらっしゃるのであれば好都合です。何処におられるか、わかりかねましたので』

 

―ん? という事はベルンさんはナザリックにいないのか? いや、それよりも緊急?

 

『なにかあったのか?』

 

この時のモモンガには、何処か驕りがあったのかもしれない。

だからこそ、次にアルべドから投じられた言葉は、信じがたいものであった。

 

『―――シャルティア・ブラッドフォールンが反旗を翻しました』

 

頭が言葉を理解するのにどれ位の時間が経ったのか。

1秒?

1分?

1時間?

それ程までに、アルべドの言葉はモモンガにとって衝撃だったのだ。

 

『……はぁ!?』

 

『…………』

 

やっとの思いで口に出来たのは、間の抜けた言葉のみ。

モモンガと同様に、アルべドの言葉を聞いていたであろうベルンエステルは無言だ。

 

 

さて。

 

ここで少し、時は巻き戻る。

 

 

物語を数ページ遡ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよ! この料理は! 全っ然っ、美味しくないわ!!」

 

甲高い女性の声が響く。

食堂にいた多くの目が、声の主へと向けられた。

一言で表せば美人である。

それも超が付く程の。

長い金の縦ロールを、煩わし気に掻き上げていて尚、その美しさは霞みもしなかった。

 

テーブルの上に並ぶのは、どれも最上級のものばかり。

エ・ランテルで一番の高級宿である『黄金の輝き亭』が誇るシェフが腕によりをかけた品々である。

見た目からすれば貴族の娘……といった所であろうか。

身に纏うドレスも、一目で価値あるものだと理解できる。

しかし、周りからすれば、彼女のテーブルに広がる料理はどれも見事としかいえないというのに。

それを『美味しくない』と騒ぎ立てるのならば、普段の食事は如何なるものになろう。

 

「もう、こんな街にはいたくないわ! すぐに出発の準備をなさい!!」

 

女性の背後に控えていた老執事が、精悍な外見に相応しい声音で言葉を投げかけた。

 

「しかし、お嬢様。今は既に夕刻。出立は明朝が宜しいかと」

 

静かでいて、力強い老執事の言葉。

だがそれは、癇癪を起した子供の様に振る舞う女性には届かなかった様だ。

 

「黙りなさい! 私が出立と言っているのだから、出立するの! 良い!? わかった!?」

 

「承知いたしました、お嬢様。すぐに出立の準備を整えたいと思います」

 

余りに理不尽な女性の物言いに表情を崩す事なく、老執事は姿勢を崩し、頭を下げた。

 

「ふん! わかったのなら、さっさと取り掛かりなさい、セバス!!」

 

女性は手にしていたフォークを投げ出した。

テーブルの上の食器とぶつかり、ガチャン!と音を立てる。

そして、貞淑とはお世辞にも言い難い足取りでダイニングを後にした。

完全に後ろ姿が見えなくなった所で、場の空気が緩む。

 

「皆様、お騒がせいたしました」

 

女性が立ち上がった拍子に倒れかけた椅子を直した老執事が、ゆっくりと他の客に対して頭を下げた。

その所作。

丁寧な口調。

とても品良く行われた老執事の謝罪に、嫌でも彼が仕えているであろう女性とのギャップが浮き彫りなる。

幾つもの憐みの込められた視線が向けられた。

 

「……支配人」

 

「はい」

 

そんな視線を意に介さず、老執事は扉近くに控えていた男を呼び寄せる。

 

「この度は失礼をいたしました。お騒がせしたお詫びという程でもありませんが、この場にいらっしゃる方々のお食事代は私の方で支払わさせていただきます」

 

思いもしなかった老執事の言葉に、驚愕する者、隠しきれない喜色を滲ませる者、熱い視線を送る婦人方、等々。

さっきまでとは別の意味で、場の空気が一変した。

この宿での一食の額は、オブラートに包んだ言い方をしても決して安くはない。

むしろ破格の金額だ。

それをこの場にいる全員分支払うという。

どれだけ低く考えた所で、一般的な平民の年収位はする筈だ。

ならば、その額を軽々しく払うと言う老執事が仕える家とは、一体どれ程の富豪であるのか。

しかも支配人の表情に動揺は見られない。

老執事の提案に、非常に丁寧に頭を下げる事で応えていた。

つまり。

このやり取りが初ではないという事。

事実としてこの一幕は、黄金の輝き亭で数日間繰り広げられている光景であった。

老執事は食堂にいた場違いな空気を纏っている男と会話を始める。

少しの間言葉を交わした後、男は食堂を出て行った。

 

 

 

「やれやれ。人というものは本来は素晴らしい生き物の筈なのですが……」

 

小さく老執事―セバスが呟くと、自分に近寄る男の存在に気付く。

 

「色々と……大変ですね。こんな時間に出立するだなんて」

 

男の名は、バルド・ロフーレ。

エ・ランテルの食料取引の元締めといっても過言ではない人物だ。

滞在中、なにかとセバスに声をかけてくる男でもある。

 

「これはバルド様」

 

「あぁ! いやいや! そんな畏まらないで下さい」

 

頭を下げようとしたセバスを、バルドは慌てて押し留めた。

城塞都市と呼ばれるエ・ランテルにおける食料取引というのは、存外馬鹿には出来ない。

王国の軍備の要でもあるこの都市は、一種の物流の収束地。

その中で武器商人と食料品を扱う商人達はかなりの権力を持っているのだ。

当然、バルドも街有数の権力者の1人に挙げられる。

にも関わらずセバスに何度もアプローチをかけてくるからには、なにかしらの理由がある筈である。

が、その接触も含め、セバス達の策に他ならない。

 

「しかし、セバスさん。アレは良くないと思うよ」

 

「……左様ですか?」

 

バルドの言うアレとは、先程までセバスが会話していた男―ザックの事だろう。

セバスも多少は表情を崩して答えた。

脳内で、この場での最適な受け答えを考えながら。

セバス達がザックを雇い入れた理由を、バルドに明かす訳にもいかない。

この都市を出る事は確定しているが、近い将来、バルドがナザリックに益をもたらす可能性も否めないからだ。

 

「そうかもしれませんね。ですが、彼の熱意をお嬢様が評価されましたので」

 

「それは……また…………なんとも」

 

セバスの完璧な作り笑いに、バルドは苦笑で返す。

恐らくバルドの中で、彼女の株は大暴落中に違いない。

汚れ仕事はいえ嫌な役を押し付けてしまったと、セバスは若干の心苦しさを感じた。

いくつかの言葉を交わしていく。

途中、バルドから信頼できる筋を紹介しても構わないという提案があった。

内容自体は魅力的であったが、今のセバス達では受けられない理由がある。

セバスが丁重に断ると、バルドはそうかい?と言って話を切った。

 

「折角のご親切を無駄にしてしまいまして、申し訳ございません」

 

「ははは。そんなに心配しないでおくれよ。正直言うとさ、恩を売っておきたいんだ。それが無理でも、せめて顔だけでもってね。どんな時でも商人として考えてしまう自分が時々嫌になるな」

 

バルドの言葉に偽りはないだろう。

セバス達の設定と、ここ数日の振る舞いを鑑みれば、セバス達の家とコネクションを作りたいと考えるのはなんら不思議ではない。

それがセバス達の狙いでもあったのだから。

釣り針の餌に食い付いた魚に、セバスは優し気な微笑みを向ける。

 

「バルド様のご親切。必ずやご主人様にお伝えいたします。商人としてだけでなく、個人としても私達を心配して下さる心優しきお方がいたと」

 

バルドの瞳が揺らぐ。

最初は喜び。

最後は驚きや照れといった具合か。

普通の人間では気付けない様な、一瞬の変化でも、セバスにしてみれば十分過ぎる時間だ。

 

「そ「申し訳ありませんが、お嬢様がお待ちですので。私はここで失礼させていただきます」……ふぅ……」

 

セバスに言葉を遮られたバルドは、溜息混じりに、別の言葉を続けた。

 

「……それじゃぁ、仕方ないね。セバスさん、またこの街に来たら是非、会いに来てよ。あのお嬢様がびっくりする位の歓迎をするからさ!」

 

「はい。その時は宜しくお願いいたします」

 

「またいずれ会おう!」

 

去って行くバルドの背中を見送る。

 

「……十人十色……という事ですか」

 

バルドの言動は、商人としての利益と打算あっての下心だけではないと、セバスは見抜いていた。

でなければ、あの様な言葉は口にしなかっただろう。

純粋に1人の女性と執事を心配する気持ちが垣間見えたからこそだ。

 

―フフッ……こういう人間が、弱き者を助けようとする人間がいるからこそ、私は人間を嫌いにはなれないのでしょうね

 

今度こそ、セバスは作り笑いなどではない爽やかな笑顔を浮かべ、気分良く食堂を出て行った。

 

 

 

 

 

数回のノックの後、セバスは室内へと入る。

 

「先程は失礼をいたしました、セバス様」

 

中で出迎えたのは、食堂で我儘な令嬢という役を見事こなしてみせたプレアデスの1人、ソリュシャン・イプシロンである。

 

「頭を下げる必要はありませんよ。貴女は仕事を果たした。それだけなのですから」

 

「しかし……」

 

「そうよ。実に見事な演技だったわ。思わず拍手しちゃいそうになったもの」

 

「「!? ベルンエステル様!?」」

 

声を認識した瞬間、セバスとソリュシャンが跪く。

まるで最初からそこにいたかの様に、至高の主の1人が備え付けのベッドに座っていたのだ。

楽にしなさいとの、ベルンエステル言葉で、2人は直立の姿勢へとシフトした。

 

「いや。もっと楽にして良いのよ? 隣、座る?」

 

「「恐れ多いです!! 私はこのままで!!」」

 

「そ」

 

軍人もかくや、というセバスとソリュシャンのリアクションにも慣れたもの。

ベルンエステルは、そこまで気にした様子もなく口を開いた。

 

「どう調子は? 魚は餌に食い付いた?」

 

「はい。大きいモノ、小さいモノ、どちらも大漁かと」

 

「間もなくシャルティア様が合流いたしますので。更なる成果も期待出来ましょう」

 

「ふむ……良くやってるわね。それじゃ、これは頑張り者へのご褒美よ」

 

ベルンエステルが指を鳴らす。

2人の手元に青いリボンのあしらわれた包みが現れた。

 

「こ、これは?」

 

「はわわわわ」

 

前者がセバス。

後者がソリュシャン。

自分達の崇拝する存在からの褒美に、2人とも動揺を隠せていなかった。

ソリュシャンは体がグネグネと脈動し、セバスも大きな変化はないものの、包みを握る手が僅かに震えている。

ベルンエステルはベッドからフワリと浮かび上がった。

 

「悪いけど、忙しいから戻るわ。じゃぁね。頑張りなさいな」

 

体の輪郭がブレたかと思えば、ベルンエステルの姿は消えている。

残された2人は、これ以上ない位慎重に、かつ丁寧に包みを解いていった。

例え袋1つ、リボン1つに至るまでだろうと、至高の御方より賜った褒美の一部。

ぞんざいに扱う等、ナザリックの僕にあるまじき行いだ。

たった1本のリボンを解く為に費やした時間は半刻。

それだけの時間を掛けてやっと、セバスとソリュシャンは袋の中身に対面する。

 

「……これは……」

 

「……本……でしょうか?」

 

現れたのは、革張りの厚手の本。

表紙にはなにも描かれていない。

 

「……では、ソリュシャン。同時に開いてみましょうか」

 

「は、はいっ」

 

セバスの言葉にソリュシャンは頷く。

 

「「っ」」

 

呼吸を合わせ、ページを捲る。

1ページはどうやら目次の様だ。

目次には次の様に書かれていた。

 

『異世界文字解読全集』

 

「これは……まさか……!」

 

「ベ、ベルンエステル様! なんと慈悲深い!!」

 

感動の余り、視界が歪む。

ベルンエステルの褒美とは、かの魔女が解いた異世界の文字の一覧といった内容が収録された本であった。

 

現在、ナザリックの僕が調査中である筈のソレを、あろう事か僕の為にと、労力を割いて下さったのだ!

 

そう解釈した2人の感動の涙を、誰が貶せようか。

 

ナザリックの僕たる自分達の為に、心優しい主君の見せた慈愛の情。

 

セバスとソリュシャンが、至高の御方々と崇める存在への畏怖の念を、より強固なモノとしたのは致し方ない。

 

 

感動に打ち震えながら2人は黄金の輝き亭を後にした。

 

 




第25話『反逆の知らせ』如何でしたでしょうか。

時間にしては殆ど進んでいませんが、物語は進みましたね。
この辺りは長いので、数話に区切らせていただきますが、ご容赦を。
お楽しみいただけていれば嬉しいです。

『白金』様、ご感想ありがとうございます。
『炬燵猫鍋氏』様、『亜姫』様、『月輪熊』様、『yoshiaki』様、『鬼さん』様、
続けてのご感想、誠にありがとうございました。

それでは次話にて。
                                   祥雲
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