奇跡と共に   作:祥雲

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映る世界を教えて下さい
     はっきり今が見えますか?

映る世界を教えて下さい
     はっきり己が見えますか?

映る世界を教えて下さい
     はっきり影がありますか?



背中を押して

モモンガは急遽ナザリックへと帰還していた。

玉座の間へと向かう廊下には、モモンガを含め、ベルンエステル、アルべドの姿がある。

 

 

「状況はどうなっている?」

 

「はい。モモンガ様。既に最後にシャルティアと接触したであろう、セバス・ソリュシャンの両名に聴取を終えております」

 

「という事はセバス達は反逆していないのだな?」

 

「私の見た限り、気配や素振りはございませんでした」

 

「ならば…っと、続きは中でだ」

 

重厚な扉を開く。

玉座へ向かいながら歩を進め、話の続きを切り出した。

 

「さて、セバス達からの情報を教えて貰おう」

 

「はい。昨夜にエ・ランテルを出立し、野盗と遭遇。その後にシャルティアは残党の捕縛の為、アジトと思われる場所に向かったとの事です。その間不審な点はなく、至高の御方々への忠誠を口にしていたとか」

 

「ふむ」

 

―つまり同じ場所にいた事が要因ではない訳か。別れる直前までは普段のシャルティアに思える

 

「なるほど。それ以降に反旗を翻すなにかがシャルティアにあったという事だな」

 

「恐らくは。シャルティアが連れていた2体の吸血鬼の花嫁は滅びておりますので、確信は得られませんが」

 

―いくらレベルが低いとはいえ、この世界では十分な脅威の筈……それが滅ぼされたって事は、相応のなにかが起きたという証明になるな

 

「そうか。では私の方での出来事も大雑把に伝えておこう」

 

階段を登りながら話を続ける。

冒険者としての活躍や、森の賢王という巨大ハムスターを従えた事など。

語れる部分を語り終えれば、アルべドが頭を下げた。

恐らくは了承の意味だろう。

ここで、今まで会話に入って来なかったベルンエステルへと意識が向いた。

 

「そういえばベルンさん。あの<メッセージ>の時、なにかしてたんですか? ナザリックにいなかったみたいですけど」

 

「ちょっとね。今後の為の下準備とか、色々よ」

 

「あ。例の件ですね。各国への情報収集の目途は立ちました?」

 

「えぇ。取り敢えず挨拶程度にだけど接触出来たのが少し。どれも結構な地位っぽいから役に立ちそうだわ」

 

「おぉ!」

 

ベルンエステルには情報の少ない法国と、各国の権力者への対応を考えて貰っていたのだ。

モモンガも冒険者としての地位を上げて、まずは王国内のパイプを作ろうと考えている。

セバスやデミウルゴス達にも同様の命令を与えているが、もしもの保険・情報の入手経路は多いにこした事はない。

 

―流石、ベルンさん。この短期間で1人なのに成果を出すなんて! 姐さんパネェぜ

 

「ほら、お喋りはここまでよ。今はやる事があるでしょう?」

 

「そうですね。事が終わったら聞かせて下さい」

 

モモンガは意識を切り替える。

何故わざわざ玉座の間へと足を運んだのか。

この場所でなければならない理由があったからである。

 

「マスターソース・オープン」

 

規定の言葉を唱えればコンソールにも似た半透明の窓が現れる。

細かくタグで仕切られ、無数の文字が書き込まれていた。

これはナザリックの管理システム。

24時間毎、つまりは1日単位での維持コストが詳細に書かれており、他にも現在の僕の数や種類、稼働中の罠といった情報を閲覧・管理出来る機能だ。

ユグドラシルの時代では場所を問わずに使用可能だったが、異世界に転移後は玉座の間でしか使用が不可能となっている。

 

―多分、この場所がナザリックの心臓ともいえるからだろうけど……いちいち来なきゃいけないのは面倒だなぁ。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがあるから良いんだけどさ

 

そんな事を考えながらも、モモンガは慣れた手つきで操作を始めた。

開かれたのはNPCのタグ。

記されているのはギルドメンバー達と作り上げたNPCの一覧名簿だ。

表示順を名前順からレベル順へと直す。

視線を上から動かして―――すぐに止めた。

 

「はい。この様になっております」

 

名簿の一覧は白い文字で書かれている。

しかし、一か所だけ黒かった。

数多の名が連なる中、シャルティア・ブラッドフォールンの名前だけが黒い。

 

―……馬鹿な……こんなの……あり得る筈がないっ!?

 

モモンガは何度も名簿を見直す。

瞼があったなら、何度も擦っていた事だろう。

それ程に信じ難い現実。

 

「……死亡か?」

 

どうしても諦めきれず、自分でも意味がないと理解出来る言葉を口にする。

転移による影響でマスターソースの様に、文字の色も変化したのではないか?

そう、期待して。

だがアルべドの放つ事実は、何処までも残酷であった。

 

「いいえ。死亡の場合は文字が消え、一時的な空白になります。これは紛れもなく、反逆の意味を指しているかと」

 

「……そうだよな」

 

―でもアルべドの言葉は微妙に意味が違う。あれは……でも…………あり得ないだろう

 

内心でモモンガはそう、吐き捨てる。

あの変化は第三者による精神支配を受け、敵対行動を取ったNPCへの表示なのだから。

 

―シャルティアは俺と同じアンデッドだ。精神作用は無効化される。なら、まだ俺への不満とか、あり得ないけどベルンさんが嫌いになったとか。他の組織で今よりも良い条件を出されたとか。そんな理由ならわかるけど……もしかして!

 

『ベルンさん。これは異世界特有の存在。又は現象によるものという線もありますよね?』

 

モモンガは、ベルンエステルへ<メッセ―ジ>を繋げた。

思い出すのは<武技>や<生まれながらの異能>という、ユグドラシルにはなかった要素。

ソレ等の中には、アンデッドの精神にも影響を及ぼすものがあるのではないだろうか?

 

『十分にあり得る可能性ね』

 

『っ! なら『でも、もう1つ。モモンガさんが良く知ってる可能性が残っているわ』え?』

 

モモンガの予想を否定せず、ベルンエステルは別の答えがあるという。

 

―俺が良く知っている?

 

『例えばモモンガさんの嵌めている指輪。それはなに? なにが使える?』

 

ベルンエステルの言葉に視線を指に落とす。

どれも耐性付与効果といったもの。

その中で、なにかを使用する為の指輪はただ1つ。

 

―っ! 超位魔法 <星に願いを>! これなら! ……でも待て。まだ、なにかを見落としてる気が……?

 

『その指輪は超位魔法の発動が出来るわね。なら、モモンガさんのお腹のソレは? 玉座の後ろの馬鹿デカイ樹は……なんだったかしら?』

 

『っ!? まさか!?』

 

この瞬間、モモンガの心に凄まじい衝撃が走った。

 

―世界級アイテム!!! そうだ……なんで思いつかなかったんだ!? この世界にユグドラシルのアイテムがあるのは確認済み! その中に世界級アイテムがあっても可笑しくはなかったのに!!!

 

固まるモモンガ。

そうとも知らないアルべドは、現状で一番効率の良い提案を投げかける。

 

「モモンガ様。急ぎ、シャルティア討伐隊を編成される事を進言いたします。指揮官は私。お許し下さるのであれば副指揮官にコキュートス、マーレの選抜を考えております」

 

「……待つのだ、アルべドよ」

 

アルべドの選抜なら確実にシャルティアを抹殺出来る。

正に完璧な布陣。

だがそれは――シャルティアが本当に自らの意思で反旗を翻したらの話だ。

今はシャルティアを救う事こそが本題。

なんにせよ、まずは確認をしてみなければ。

全てはそれからである。

 

「シャルティアの所在は掴めているか?」

 

「申し訳ありません。シャルティアがナザリックを攻め入る事を考え、シャルティア直轄の部下の拘束と防衛強化を優先しておりました。所在は未確認のままです」

 

「そうか。ならばアルべド。お前の姉の所へ向かう。シャルティアの居場所を掴み、確認しなければならない事が出来た」

 

「はっ」

 

 

目指すはナザリック地下第五階層。

 

ホラーマニアのタブラが、己のホラー愛を注ぎ込んだ恐怖の館。

 

氷結牢獄である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはモモンガ様、ベルンエステル様! あ、可愛い方の妹も、ご機嫌よう」

 

「久方ぶりだな、二グレドよ」

 

「暫くね」

 

「姉さん、お久しぶりです」

 

「……あら? アルべド、少し太った?」

 

「っ!?」

 

 手渡された人形を、大事そうに揺り籠へと寝かした二グレドが振り向く。

後ろでアルべドが見せられない表情を浮かべている気もするが、モモンガは見なかった事にした。

二グレドはタブラ・スマラグディナが作りし三姉妹の長女だ。

スタイルや髪色はアルべドと良く似ている。

顔立ちも恐らくは似ているのだろう。

皮がなく、表情筋が剥き出しな為、正確な事は言えないが。

 

アルべドがタブラのギャップ萌えの体現であるならば、二グレドはホラー要素の体現。

此処に来るまでのギミックも含め、正直な所、不気味さしか感じられない。

初めて訪れた時はモモンガだけでなく、過半数のギルドメンバーが悲鳴を上げた程だ。

 

「ちょっ、姉さん。それ本当!? 何処? 何処!? このままじゃモモンガ様に「それで本日はなにを?」」

 

どうやら姉妹の力関係は、姉の方が強かったらしい。

アルべドをスルーしてニコリと笑顔を浮かべた……と思われる。

 

―笑顔……だよね? 怖いけど、笑顔だよねっ!?

 

「あ、あぁ。実はお前に頼みたい事があって来たのだ。お前の能力を借りたい」

 

「私の能力ですか? 対象は生物の方でしょうか? それとも無生物の方でしょうか?」

 

二グレドの言葉にモモンガは迷った。

 

―アンデッドって……生物? 一応、生きて………生きて? ……いや死んでる……か?

 

これ以上は思考が堂々巡りしそうだったので、素直に言う事にしたモモンガは悪くない筈だ。

 

「目標はシャルティア・ブラッドフォールンだ。出来るな?」

 

「階層守護者をですか? 可能ですが、何故?」

 

「私からもお願いするわ。出来れば急ぎで」

 

「……お任せください!! 即座に開始いたします!」

 

二グレドの疑問も当然ではあるが、モモンガとベルンエステルのダブルコンボで、彼方へと吹っ飛んだ様である。

胸元で小さく拳を握り、気合いを入れる仕草をする。

 

「お願いね、姉さん」

 

更に親指を立てる事で、妹の声援への返答とした。

二グレドはナザリックでも最高位の魔法詠唱者。

情報収集・調査系に特化し、ナザリックの防衛の要の1人でもあるのだ。

だからこそ、シャルティアの捜索には適任だった。

時間にして数秒。

複数の魔法を展開した二グレドがピクリと震える。

 

「発見いたしました。モニターに表示します」

 

<水晶の画面>という魔法を使ったのだろう。

モモンガ達の前に浮かび上がった画面には、何処かの開けた森が映し出された。

木々の中にポツリと、人影が確認出来る。

 

「見事だ、二グレド。ピンポイントで標的を捉えるとは、私でも出来るかどうか。流石は特化がt!?」

 

称賛の言葉を送ろうとしたモモンガの口が閉ざされた。

映し出されたのはシャルティアに間違いはない。

しかし、血に濡れた様な深紅の鎧。

白鳥を思わせる面開きの兜。

片手にはスポイト型の巨大な槍が握り締められていた。

その装いこそ、ペロロンチーノが作り上げた守護者最高戦力。

紛れもないシャルティア・ブラッドフォールンの完全戦闘形態であったのだ。

 

「アレはスポイトランス! ペロロンチーノ様が与えた神器級マジックアイテム!!」

 

アルべドの驚愕も無理はない。

神器級アイテムはそれだけ貴重だ。

ユグドラシルでは100レベルプレイヤーの中ですら、神器級アイテムを持っていない者も珍しい話ではなかった。

最盛期に上位10ギルドに数えられた、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーは例外。

だがそのギルドメンバーでも、NPC達の装備分までは揃えていない。

せいぜいが1つ、2つを持たせる程度。

中でもペロロンチーノが作成したスポイトランスの性能は破格だ。

攻撃力も高い上に、与ダメージの数%の体力回復効果がある。

あの槍はその効果を極限まで特化させた、ペロロンチーノ自慢の逸品。

 

「すぐに向かうぞ。ベルンさんもご一緒してくれますか?」

 

「構わないわ」

 

「お、お待ち下さい! シャルティアが武装を整えている以上は戦闘が予想されます。御身の盾となる者達の選抜をしなくてはっ!!」

 

「そんな時間はない。もしもの場合はすぐに撤退すればいいだけ」

 

『おーい、モモンさん』

 

アルべドに言い切る前に、バトラからの<メッセージ>が届く。

念の為にエ・ランテルに残してきたが、あちらでもなにかあったというのか。

 

『どうしたんだ? 問題でも起きたか?』

 

『なんか組合のお偉いさんがお呼びだぜ。なんでも、大森林の外れにとんでもなく強い吸血鬼がいるんだと。その討伐依頼のご指名がかかってる』

 

『なにっ!?』

 

モモンガは再びモニターに視線を移す。

 

『容姿や特徴は聞いているか? 銀髪だとか、深紅の鎧だとかは!?』

 

『落ち着け、モモンさん。今来てんのはただの使いらしい。詳しくは組合の建物で話すってよ。もしかしなくても、これはチャンスだろう?』

 

『……なるほど! 待っていろ、すぐに行く!』

 

『りょーかい』

 

モモンガは<メッセージ>を終える。

映像から判断しても、シャルティアがいる場所は何処かの森林だ。

 そしてバトラの下へ届けられた討伐依頼。

タイミングと対象の出現場所からして、十中八九シャルティアに違いない。

 

「ベルンさん。俺は一度エ・ランテルへ戻ります。アルべド。シャルティアには監視を送り込んでおけ。接触は避ける様にな」

 

「畏まりました」

 

「……なるほど。そういう事ね」

 

恐らくベルンエステルにも、バトラからの<メッセージ>が届いたのだろう。

モモンガを止めようとはしなかった。

 

「組合の方での確認が出来次第、シャルティアの下へ向かう。……ベルンさん、この場を任せても構いませんか?」

 

「えぇ。いってらっしゃい」

 

―……っ

 

「はい! 行ってきます!!」

 

何気ないこのやり取りが、モモンガの心を一層震わせる。

 

今は一秒でも早く。

コンマでも速く、シャルティアを救うのだと。

 

頷き、願い、祈りを込めて。

 

 

モモンガは地表近くへと転移した。

 

 




第27話『背中を押して』如何でしたでしょうか?

山場への繋ぎのお話ですね。
大した盛り上がりのない今話……
しかし! シリアス+短めな分、いくつか落とし物がございます。
どうぞ考察にご使用下さい。

『亜姫』様、『ながも~』様、『鬼さん』様、『yoshiaki』様、『ドミニコ・トモン』様、『ナナシ』様、『月輪熊』様、『炬燵猫鍋氏』様
いつもながらご感想を、ありがとうございます。
それでは次話にて。
                                    祥雲
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