奇跡と共に   作:祥雲

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思い出は美しい
   今も昔も変わらない

思い出が愛おしい
   絶えず増える1ページ

思い出を抱き締めて
   胸にそっと仕舞い込む



受難と享受

シャルティアとの決戦は、モモンガの勝利に終わった。

 

先程、シャルティアの復活を無事に終えたばかりだ。

玉座の間を後にしたモモンガは、自室へと戻っている。

張り詰めていた緊張の糸など、とうに切れているが、それでも安堵せずにはいられなかった。

大きく息を吐く。

ソファに身を投げ出せば、最早お約束となりつつある当り前さで、モモンガの背中にベルンエステルが腰かけた。

その事になにも感じなくなりつつある辺り、モモンガも中々に染められていると言えよう。

それが、愛しきナザリックにか、ジワジワと這い寄る変態にか、信ずる魔女にかは……さて置くが。

 

「シャルティアには悪い事をしました。皆にも迷惑をかけてしまいましたし……」

 

「そうでもないわ。さっきも最後の方なんか、自分からアルべドの手に引かれて守護者達の輪に入っていったじゃない。大きな進歩ね」

 

「そ、そうですか? いや。なんだかギルメンの皆が守護者達とダブって見えたんですよ。……あぁ、この子達の中に皆が生きてるんだなぁって。ちょっぴりウルッと来ちゃいました」

 

「くすくす。さぁて。モモンガさん。感動も良いけれど、1つ忘れている事がないかしら?」

 

「え?」

 

背中に乗るベルンエステルの言葉にモモンガは首を傾げた。

 

「シャルティアの裸が見れたから、浮かれる気持ちも理解出来なくはないわよ? ……モモンガさんってひょっとしてロリコン?」

 

私も危ないのかしら? と笑うベルンエステルに、モモンガは慌てて口を開く。

 

「え!? ま、まさか! 俺は胸の大きくて黒髪なお姉さんがタイプ……って言わせないで下さいよ!? とっくに知ってるでしょう……!」

 

「まぁね。無駄話はこれ位にして、思い出したかしら?」

 

―む、無駄……でも…………忘れている事?

 

更にモモンガは首を傾げる。

そろそろ90度に届いても可笑しくないだろう。

 

―えーと……なにかの約束か? でも、そんな覚えは………あ……あぁ!?

 

「……」

 

「思い出した?」

 

「……思い……出しました……」

 

「綺麗な装飾品をくれるんだったわよねぇ。どんなのかしら。とっても楽しみ。くすくす」

 

そう。

確かにモモンガはナザリックを出立する時、ベルンエステルと約束していた。

必ず後でお土産を送る、と。

冒険者モモンとしての活動と引き換えに、その条件を提示したのだ。

しかしながら、ここまでの数日間でモモンガは宝飾品店に足を運んでもいない。

通りの露店を見る事すらしていなかった。

ギギギと錆び付いた玩具の様な動きで、ベルンエステルへと振り向く。

そこには目元を細めて嗤う友人の姿があった。

 

「……ぃ……です」

 

「くす。なぁに? 聞こえないわ」

 

「……買ってないです! ごめんなさい、ベルンさん!!」

 

「きゃっ!?」

 

モモンガはガバリと体を起こし、ベルンエステルを掴んだ。

 

「俺、色々と一杯一杯で!! 約束の1つも守れない駄目骸骨でした!! 必ず、必ずベルンさんに似合う品を見つけてみせます!! だから「あの……モモンガさん……ち、ちかいわ……」……え?」

 

さて。

ここで今のモモンガの現状を客観的に見てみよう。

両肩をガッシリと握り、顔も触れ合いそうな至近距離。

上下も入れ替わって、まるでモモンガがベルンエステルを押し倒しているかの様な図だ。

 

眼下にベルンエステルの顔がある。

深いワイン色の瞳が揺れていた。

白い肌も。

ふっくらとした唇も。

今まで目にしても、なんとも思わなかった所にばかり目がいく。

極め付けは普段見せた事のない、しおらしそうな仕草。

 

「……み……ぃ……」

 

トドメとばかりに、ベルンエステルが鳴いた。

 

ズギューン!と、モモンガのナニカが撃ち抜かれる音がする。

 

―な、なんだこの可愛い生き物は!? その声、反則っ!!! むっちゃ可愛い!?

 

「(ゴクリ)」

 

モモンガは息を飲み込む。

すぐそこに、初めて見るベルンエステルの姿があるのだ。

 

「…………」

 

―め、目を閉じた!? これは……え!? そ、そういう事なのか!? た、助けてペロロンチーノさん!! 茶釜さん!! 俺は一体どうすれば!?

 

予想だにしない出来事の連続に、モモンガの思考はオーバーヒート寸前だ。

脳内に紳士淑女?な姉弟の声が響く。

 

 

 ―――よし! 今すぐ俺と代われ!! ベルンちゃんは俺が落とすと決めている!!! ―――

 

―――黙れ弟。ベルンちゃんは私の嫁だ。異論は認めん。私が法だ。黙して従え!!!―――

 

 

悲しきかな。

響く幻聴で得られるものは、怒りの日でしかないだろう。

 

―ちっとも参考にならねぇ!? むしろ茶釜さんが怖い!!! 俺の頭大丈夫かホント!? 確かにドイツ繋がりだけどもっ!!!

 

「すぅ……すぅ……」

 

「え?」

 

 モモンガの内心での焦りを余所に、聞こえてきたのは小さな吐息。

見れば何時の間にか、ベルンエステルが眠っていた。

 

―え? 寝てる!? あっ……動いた……

 

「……そっか、ベルンさんも疲れてるんだよなぁ」

 

いつも飄々としていて気付かなかったが、ベルンエステルはモモンガと違い生身である。

モモンガがいない時の色々な仕事や、手が回っていない案件の対応を率先して行ってくれているのだ。

ある意味で自分が抜けた分の穴埋めをしてくれているにも関わらず、文句や愚痴の1つも言わない。

 

―まぁ……その分イジッてくるけども……ははは……そう考えれば……いくらか納得も……う~ん……出来ないっす

 

規則正しい寝息を立てるベルンエステルを、ボンヤリ眺める。

 

―……そういえばベルンさんの寝顔って初めて見た。ヤバイ……普通に可愛いんですけど……まつ毛も長い……うっわ! 髪の毛サッラサラ!?

 

不意に触れた髪の感触にモモンガは驚いた。

抵抗なく指先を流れるベルンエステルの髪は、リアルでの自分の髪の毛など及びもつかない程の手触り。

 

―そ、それになんか良い匂いがする! アルべドは甘い香りだったけど、ベルンさんはなんだか安心する香りだ……って、これじゃぁ俺変態じゃん!? こんな所を誰かに見られでもしたら……

 

1人、オロオロするモモンガ。

その時、運命の女神様が微笑んだ。

善神か邪神かは兎も角。

控えめなノックの後に、ガチャリと扉が開かれる。

 

「失礼いたします。モモンガ様。ユリです。ご相談がっ!?」

 

「あ。い、いや! これは違う!? か、勘違いするなよ!? ま、待って! 話せばわかるからぁ!!」

 

部屋に入って来たユリの表情が驚愕に染まった。

扉の位置はベルンエステルの頭側。

つまり向こう側から見れば、モモンガとベルンエステルがソファで事に及ぼうとしていた様にしか見えない。

急いで扉を閉めようとするユリを掴む。

誤解されたまま帰られたら、どんな事態が発生するか。

考えるだけでも恐ろしい。

 

「ボ、ボクはなにもみみみみ見てません! 我が造物主であるやまいこ様とこの拳に誓って見ていません!! い、1時間……いえ! また明日の昼に出直しますのでっ!!!」

 

―昼って!? 昼ってなにさ!?

 

「ま、待つのだ、ユリ・アルファ!! お前は勘違いをしている!!」

 

「ふぇ? か、勘違いですか?」

 

「そ、そうだ。ベルンさんは疲れて眠ってしまったらしくてな。部屋に運ぼうと近づいただけに過ぎん。お前の考えている様な事では断じてないぞ」

 

「! 私はなんというご無礼を!? かくなる上はこの命で償いを「待って!? なんでお前達はそうなの!? コラ! 暴れるな!?」……くっ! お放し下さい、モモンガ様!」

 

ガチンと手甲を展開して、自分の頭を殴ろうとしたユリを止める。

ギャーギャーと騒いでいると、再び扉がノックされた。

必死なモモンガとユリはその事に気が付かない。

 

「モモンガ様。こちらの重要書類の審査をっ!!?? ユリ、貴女なにをしているのっ!? 私を差し置いてモモンガ様の御寵愛を受けようだなんて、なんて羨ましい!!」

 

「「ア、アルべド(様)!?」」

 

よりにもよって、新たに部屋に入って来たのはアルべドだった。

モモンガが生身だったなら、サァーと血の気が引いていただろう。

アルべドが手にした書類を投げ捨てて、モモンガへと飛びつく。

 

―あぁ! 書類がぁ!? おい! それ大事な奴じゃないのか!? ぎゃぁぁああ、来たぁぁあ!? 

 

「モモンガ様っ!! このアルべドっ!! いつ何時でもモモンガ様を受け入れる準備は出来ております!! さぁ、さぁ、さぁ!! 私の初めては3Pですかっっ!? あ、あれはベルンエステル様!? ま、まさか既に連戦中!? ま、負けません!! モ、モモンガ様衣服は!? 下着姿ですか!? 脱ぎ掛けですか!? そ・れ・と・も……くふー!!!」

 

「お、落ち着くのだアルべド!! お前も勘違いをしている!! 私は別に「モモンガ様っ!! モモンガ様ぁあ!!」いやぁ!? ローブを剥いじゃらめぇえええ!?」

 

「ア、アルべド様! 落ち着いて下さい!」

 

「くふふふ! あぁ……なんて美しい第三肋骨! ……じゅるり……堪んねぇ……ハァ……ハァ……!!」

 

―怖い! この美人怖いぃいいい! 助けてベルンさぁぁああん!!! 

 

「……すぅ……すぅ………くす……」

 

「きゃぁぁぁあ! まって! 下は駄目なのぉおおおお!?」

 

「くふー!!!」

 

「あわわわ! ボ、ボクは一体どうすれば!?」

 

 

混沌と化す自室。

 

 

騒ぎを聞きつけた他のNPCが駆けつけるまで、モモンガの貞操防衛戦は続いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――おまけ そのに――――『無意識の底に』

 

 

「……うぇ……課長も、部下に無理矢理呑ませるなよな……やっば……っ……帰れるか? これ?」

 

その日、サラリーマン鈴木悟は飲み会後のハシゴに次ぐハシゴですっかり弱っていた。

視界も揺らぎ、足取りも不安定。

とっくに終電の時間は過ぎていて、今日に限ってタクシーも見つからない。

仕方なく歩いて家を目指してはいるものの、呑み屋を出て数十分。

全く進んでいる気がしなかった。

 

「……あぁ……明日も早いのに……寝れても3時間かなぁ…………!……ユグドラシルのイベント今日からじゃん!?……急がなきゃ!!」

 

霞のかかる頭に、もう始めて数年になろうかというゲームの事が過る。

時計を見れば深夜2時。

イベント開始は2時半を予定していた筈だ。

 

「……くっ……間に合えよ……!」

 

震える体に鞭打って、少しでも早く自宅を目指す。

 数mも歩かない内に吐き気に襲われ、口元を押さえながら地面へとしゃがみ込んだ。

 

「おぇっ……ぐっ……今回のイベントは、ペロロンチーノさんと素材集めの約束が……うぅ……」

 

脳裏に変態紳士――ではなく、変態バードマンの姿が浮かぶ。

 

―くっ……待ってて下さい、ペロロンチーノさん! 俺……今……行きまぅっぷ……

 

よろよろと立ち上がるも、吐き気は一向に治まらない。

むしろ段々と酷くなっていた。

一歩歩いて二歩下がる。

その言葉の体現者として、今の彼ほど相応しい存在はいないと思える位だ。

 

「……ぅ……駄目だ……少しでも止まったら起き上がれる気がっ!?」

 

すぐ目の前の歩行者用の信号が、チカチカと点滅する。

 

「……ぉぇ……ま、間に合え!!」

 

残された全ての力を足に込めて、歩道を渡ろうと進んでいった……が。

 

「っ!? がぁぁぁあああ!?」

 

真横からの凄まじい衝撃。

体が宙に浮かんだかと思えば、ドズンと地面に落下し、全身に激痛が走った。

瞼が開けたのは幸運であったのか。

走り去っていく車が見える。

 

―ひき逃げ!!

 

そう頭では理解するも、なんの解決にもならないだろう。

激痛で満足に指一本動かさない体では、出来る事は少ない。

頼みの綱の携帯電話は鞄の中。

反対側の通りに、ポツンと転がっているのが見えた。

あとは精々、運よく誰かが通りかかる事を期待する位。

 

―痛っ……! ……でも……この深夜に人が来るか? ……俺……このまま死んじゃうのかなぁ……

 

額から、生暖かいモノが流れる感覚があった。

視界も更にぼやけていく。

それは流れ出る血の所為か。

知らず零れる涙の所為か。

 

―…………皆……アインズ・ウール・ゴウンの皆……まだだ……まだ、死ねないのに! ……畜生っ! 動けっ! 動けよ、このポンコツっ! 俺の身体なら動いてくれよぉ!!

 

溢れるのは大切な友人達の顔。

やりたい事がある。

会いたい人達がいる。

それなのに……自分の体なのに……ピクリとも反応しない。

 

―ぐっ……くそっ……くそっ………k…………

 

無情にも意識は遠のいていくばかり。

瞼がゆっくりと閉じられようとしていた。

 

―……?……なん……だ……?……くる……ま……?

 

近付くエンジン音。

ソレは自分の近くで止まった様だった。

ドアが開く音が聞こえる。

 

「おや? こんな所で寝ていると風邪を引くぞ。 もしくはここはそなたの庭なのか?」

 

―は……ぁ……?

 

既に瞼を開ける力は殆ど残されていない。

だが、なにを馬鹿な事を言っているのだと。

姿なき声の相手に内心で罵声を飛ばした。

 

「? よく見れば血が出て…………あぁ、ひき逃げにでも遭ったか。つくづく運のない男だな」

 

「よけい……おせ…わ………」

 

睨みを利かせた……つもりだったが、相手は何故か笑いを溢した。

 

「くくく。怖い怖い」

 

―……? あれ……今……

 

「さて。病院に運んでも良いが、ここからだと私の家の方が早い」

 

声が近づいたと思えば、自分の体が浮かび上がる感触があった。

横抱きに持ち上げられたのだろう。

 

「応急処置位は出来ようとも。だから今は安心して休め。職業柄、そういった知識も持っている」

 

「……あ……り………ぅ……」

 

いよいよ意識が保てなくなって、せめてもと口を動かす。

 

そして、なにも見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

「ん…………」

 

「! 鈴木さん! 聞こえますか?」

 

声にする方に視線を向ける。

此方を見る看護婦の姿が見えた。

どうやらベッドに寝かされているらしい。

体がズキリと痛んだが、それ以上に背中に感じられるベッドの柔らかさに驚かされた。

 

「っ!? ここは……」

 

「病院です。鈴木さんは昨日、ひき逃げに遭われたのですが、覚えてないですか?」

 

「……病院?」

 

ひき逃げに遭ったのはボンヤリと覚えている。

しかし、目に映る内装は病院とは信じられない程に豪華だ。

以前出張で泊まる機会のあった経費が会社持ちのホテルですら、ここまでのグレードではなかった。

 

「あの……俺……なんでこんな所に? あ、いえ、ひき逃げは覚えているんですが。俺こんな病室に入れるお金なんて……」

 

治療費の幾分かは保険で賄えるだろうが、自分には余りにも場違いな病室。

すると、看護婦は不思議そうに首を傾げた。

 

「? 鈴木さんの医療負担はありませんよ?」

 

「え?」

 

「既に全額払われてますので」

 

「はぁ!?」

 

―ぜ、全額!? 

 

「えっと……一体どなたが? あと、全額って……い、いくらです?」

 

「申し訳ありませんが、その方に自分の事は秘密にして欲しいと言われておりまして。金額に関しては」

 

看護婦が両手をパーに広げた。

 

「……10万?」

 

「そのじゅー倍ですね。退院後のアフターサービス付きで、しめて100万ポッキリ」

 

「ひゃ、ひゃく!?」

 

想像を遥かに超える金額に度肝を抜かれた。

そんな大金を、見ず知らずの男に払った謎の人物への疑念と感謝が次々に湧いてくる。

 

「馬鹿な! 赤の他人にそんな大金を支払うだなんて!? あ、会えない事情があるなら、壁越しでも電話越しでも構いません!! せ、せめてお礼を」

 

「お気持ちは察しますが…………」

 

ベッドを乗り出して看護婦を掴む。

痛む体など知るものか。

だが碌に力の入らない手は、あっさり看護婦に引き剥がされた。

 

「それと鈴木さん? その方からの伝言があります」

 

「え?」

 

その言葉に目を見開く。

 

「……『礼なら気にするな。既に十分貰っている』だそうです。ふふふ、今時珍しい方ですよね。ほんと」

 

―え? ど、どういう事?

 

必死に思い出そうとするも覚えがない。

何時、自分はそんな事を言ったのだろう?

 

「あ。私、先生を呼ばないと! 鈴木さん、ジットしてて下さいね。すぐ戻りますから」

 

パタパタと看護婦が病室から出て行った。

残されるのは自分のみ。

 

「……」

 

体の力を抜けば、ポフッとベッドに体が沈む。

 

「一体……誰なんだ……でも……」

 

恩人であろう相手の顔も、声も、姿も思い出せない。

だが雰囲気だけは、なんとなく覚えていた。

 

「……まるで……友達みたいな安心感があった。……まぁ、俺……リアルに友達なんていないけどさぁ……ははは……?……あぁっ!? イ、イベントがっ!!」

 

代わりに脳裏に蘇るのは1つの約束。

ひき逃げが昨日ならば、とっくにユグドラシルのイベントが始まっているという事だ。

事故の事を知らないペロロンチーノが、怒りのアイコンを放って待ち続けている光景が思い浮かぶ。

セルフ焼き鳥が誕生するのも、時間の問題だろう。

 

「ヤバイ! は、早く来てぇ!!」

 

備え付けのナースボタンを連打する。

押し過ぎでボタンが跳ね返る暇がない位に。

ポチポチポチポチ!

数分としないで先程の看護婦と、彼女が呼んで来たのであろう医者・別の看護婦1人が駆け込んできた。

 

「「「鈴木さんっ! どうかされましたか!?」」」

 

「俺、おうちかえるぅ!! イベントがぁ!?」

 

「す、鈴木さん!? 落ち着いて下さい!」

 

「そっち押さえて! 鎮静剤の準備!!」

 

「は、はいっ」

 

「いやぁぁぁあ! 離してっ! 離してぇえ!? 友達のバードマンが焼き鳥になっちゃうんですぅう!!」

 

「駄目だ! 錯乱している! 準備まだか!?」

 

「で、出来ました」

 

「離しt『ブスリ』ぁ……」

 

腕に一瞬の痛み。

次の瞬間には、スゥーっと意識が遠のいていく。

 

この1件で鈴木悟の退院日が伸びたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「……という訳でして。ここ暫くログイン出来ませんでした」

 

先日までの出来事を、円卓に集ったギルメン達へと報告する。

 

「そ、そうだったの!? 大丈夫モモンガさん!?」

 

「っていうか、その謎の人物凄げぇな」

 

「私も見習いたいものです。……今週から深夜の取り締まりも強化させるか……おのれ……必ず挙げてやる」

 

「わぉ。たっちさんからヤベェオーラが見えるのは俺だけかい?」

 

「ボ、ボクにも捕まえたら会わせて下さいね。お話ししないと」

 

「O・HA・NA・SHI(物理)ですね。わかります」

 

皆が思い思いの反応を示したが、そのどれもが自分を心配してくれる類である事に、モモンガは内心で大感激していた。

 

「えぇ。体はすっかり大丈夫です。むしろ、仕事の遅れを取り戻す方が辛い位ですよ……」

 

「驚きの社畜精神。そうとも知らずにモモンガさんの部屋を荒らした俺を許してね♪」

 

「え!? ペ、ペロロンチーノさん!? 一体なにをしたんですか!?」

 

「俺とるし★ふぁーさんと協力して、『禁忌! 魔王の秘密! キャッ、そこは見ちゃダメよ?』みたいなテーマのメルヘン部屋に改装したんだぁ」

 

「あ。これが完成図なw」

 

皆に見える様に表示されたモニターには、原型を留めていない自室の変わり果てた姿。

全体的にピンクの内装。

床を埋め尽くさんと溢れかえる、ギルメンやNPCを模したぬいぐるみの数々。

 入り口から真っ先に目に入るであろう場所には、殆ど裸なペロロンチーノのポスターが貼られている。

嘴に薔薇を咥えているというオプション付き。

撮影時に何故、運営から警告が来なかったのかと疑いたくなるレベルだ。

この仕打ちには日ごろ温厚なモモンガでも、流石に平静ではいられなかった。

 

「ペ、ペロロンチーノォォォオ!! るし★ふぁぁああああー!!」

 

「「キャー。モモンガさんが怒ったー」」

 

「あっ! 待て!!」

 

「おっとぉ! 始まりましたっ! 第……なん回だっけ? まぁ、いいや。ナザリック鬼ごっこ大会ー!! 実況は私、ぶくぶく茶釜がお送りします」

 

「解説は私。ベルンエステルが担当するわ」

 

「なら高画質で録画しとくな」

 

「あれ? ウルベルトさん。それ放送用のカメラじゃね?」

 

「おやぁ? おっかしいなー。手元にこれしかないぞー?」

 

「見事な棒読み、ありがとうございます」

 

「っしゅ! しゅっしゅ!!」

 

「やまいこちゃん。そこでシャドーは止めれ」

 

「取り敢えず誰か追跡用の魔法使ってよ~」

 

「……氷結牢獄……行っちゃう?」

 

「「「全力で遠慮します」」」

 

逃げ出す2人を追って、モモンガは円卓を後にする。

 

背後もなにやら不穏な空気だ。

 

 

抑えきれない喜びを胸に、モモンガは駆け出して。

 

―ふふっ……でも……やっぱり、ユグドラシルは。この人達は最高だっ!!!

 

幸せな瞬間を噛み締めていた。

 

 

それは大切な昔話。

 

何時までも光輝く、宝の記憶。

 

 

確かにあった……ある日の想い出。

 

 




第29話『受難と享受』如何でしたでしょうか。

今話は本編と、おまけが1つ。
楽しんでいただければ幸いです。

『ティンダロスの駄犬』様、『水天日光』様、ご感想をありがとうございました。
『白金』様、『ナナシ』様、『couse268』様、『炬燵猫鍋氏』様、
『月輪熊』様、『yoshiaki』様、『鬼さん』様、
以前よりのご感想をありがとうございます。

更新していない日でも沢山の方がお読み下さっている様で、ありがたく思います。
それでは次話にて。
                                  祥雲
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