奇跡と共に   作:祥雲

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時計の針が止まればいい
      楽しい時よ、永遠に

時計の針が止まればいい
      愛しい者よ、永遠に

時計の針が進めばいい
      願う未来よ、永遠に



ep.3 ~Even in the relentless clock~
言霊


勝利の定義とは一体何か?

 

 

それを語るにはページはおろか、時間が余りに足りないだろうから割愛したいと思う。

そもそも…………いや……やはり少しだけ書いておこう。

 

例えばそれが戦争だったとする。

これは実にシンプルだ。

領地を奪い、民を奪い、将を殺し、王を殺す。

たった4つの項目で大凡纏められるのだから、なんて滑稽で愚かしい事か。

 

しかし、その物差しは一体誰のもの?

国?

民?

はたまた歴史?

 

一度決めてしまった視点を変えるのは、存外に難しい。

それに気付け……というのは余りに酷で。

それに気づいて欲しいと思ってしまうのは……やはり心の贅沢。

 

どだい勝利とは、その時を駆けた者が語るべき事だ。

本当に記すべき真実は、いつしか猫箱に仕舞い込まれる。

 

暴くも閉ざすも勝手だろう。

 

……あくまで、開く鍵が見つかれば……の話だけど。

 

               ■■の手記より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

一体誰がこの展開を予想出来ただろう。

 

 

『……な……』

 

その光景を遠見で見ていた者達、ほぼ全員が思わず……といった具合にそう溢した。

それは自室で同じ様に事の顛末を見届けようとしていたモモンガも同様だった。

 

蜥蜴人という種の命運を賭けた戦の最後。

確かに、ザリュースと呼ばれた蜥蜴人の戦士の拳は届いた。

偽りとはいえ、イクヴァを、ナザリックの将を打ち破って見せたのだ。

『敗北』という結果こそ、モモンガが欲した通りの結果の筈。

戦場の将であるイクヴァはモモンガにとっては只の捨て駒である。

戦局の将であるコキュートスを含めた守護者達へ、『実際の経験』と『定められた仮想』との違いを考えさせる為の。

 

「……がふっ……」

 

「「!! ザリュースっ!?」」

 

 

だが……それはあくまで画面の向こうの『想定外』がなかったらの話。

 

 

「……良い勘してるわー。折角苦ませない様に心臓だけ刺してあげようと思ったのにナー。やっぱ木の枝でもイケルって見栄張ったのは失敗だったわね。うえー、お説教ヤダー!!」

 

スキルの画面越しに見える『想定外』は、ポイッと握っていた血まみれの枝を放り投げる。

身体の中央よりやや右側に風穴を開けたザリュースが、力なく地面へと倒れた。

 

「さて、と。次は……「貴様ぁ!!!」……?」

 

その余りに自然体で警戒の欠片もない背中に、激昂したゼンベルという蜥蜴人が飛びかかる。

体中の傷口が開こうが、骨が砕ける音がしようがお構いなし。

はち切れんばかりに膨張した腕の筋肉がその怒りの程を表しているだろう。

その鋭い一撃は容易く敵の頭部を砕……

 

「わぁ!? ……って言うと思った?」

 

「!? ガァアアアア!!?」

 

……く事はなく、ゼンベルの腕が宙を舞う。

 

「ざぁーんねん! もっと頭使いなさいよ。ア・タ・マ! あんた程度がこの私に勝てるなんて絶対にあり得ないっての。怒れば奇跡を起こせるとでも思った? 今、そこで無様に倒れてるのに? ふっ、だっさ」

 

血が吹き出す肩を抑えながら蹲るゼンベルに嘲笑が投げかけられる。

その悍ましい笑みが、ガクガクと震えるクルシュへと向いた。

 

「ヒッ!?」

 

「そんなに怯えないでよー。あんたの命を取ろうとかは思ってないからさ。安心してちょうだい。ほら、握手しましょ、握手!!」

 

先程までの悍ましさが鳴りを潜め、透き通る様な微笑みがクルシュのすぐ目の前にある。

一体何時の間に移動したのか。

恐怖に怯えるしかないクルシュはその手を取った。

瞬間。

 

「アァぁ゛ぁぁああああ゛ぁああ゛あ゛あ゛あ゛!? 痛い痛い痛いいたいいたいいたいぃいいいいいい!!!!」

 

ズルリ、と。

ブドウの皮でも剥く様に、クルシュの腕の表皮が剥がされた。

 

「あぁ。やっぱり思った通り。真っ白で綺麗な鱗ね。丁度ポーチの皮が欲しかったのよー。アリガト♪ ……喜んでくれるかなぁ、えへへ」

 

クルシェの絶叫を余所に、その元凶はうっとりとした様子で剥いだ鱗を撫でる。

血が滴るソレを嬉しそうに笑いながら弄ぶ姿は、骸の並ぶ戦場に咲いた華の様。

 

「……お……ま……え……一体……何……だ!?」

 

失った血の所為か、息も絶え絶えにゼンベルが問いかける。

その声に、待ってました、と顔全体に喜色の色を滲ませてその華は嗤った。

愛くるしいキャンディの装飾が施されたピンクのドレスが風でフワリと揺れ、絹の如き金髪が舞う。

ルビーを思わせる紅の瞳が細められる。

 

「あ! それ聞いちゃうんだー。どーしよっかなー。まだ秘密なんだよねぇ。ほら! 謎の美少女ってヒロイン的立ち位置でしょ?」

 

だからさ、と間を置いて。

 

「覗き見が好きな童貞さん? 早く来ないと大切な駒が死んじゃうわよ? 私って本当はどうしようもなく強いもの」

 

 

明らかにモモンガと目が合った状態でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリィン! とスキルで作られた画面が砕け散る。

 

 

「モモンガ様っ!!」

 

控えていたメイドが血相を変えて駆け寄るが、モモンガは動かない。

キラキラと輝きながらその破片は宙へと溶けた。

 

―確かに目が合った。あの台詞も……甚だ遺憾であるが俺に当てはまる。それに駒だと? あの地に駒なんてイクヴァ位しか…………!!! マズイ!!!

 

その考えに至った瞬間、モモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用して転移していた。

平時の彼であれば、誰かに連絡を取り、幾つかの備えを施してから動いていた筈。

しかし、今の彼の精神にそんな余裕はない。

 

―コキュートス!!

 

もし、あの駒という言葉が現地で指揮を執っているコキュートス達を意味するとしたら。

 

―っ!!

 

モモンガは奥歯を噛み締める。

ソレは怒りだ。

ソレは恐れだ。

精神が安定化を図ろうと、スキルが発動するも、只光るだけ。

 

―まさかとは思うが……プレイヤーか!?

 

画面越しに見ていた攻撃。

その動作をモモンガは全て追えなかった。

純粋な戦士職でないモモンガにとって、『見切』という現実部分での技能は重要な割合を占める。

ユグドラシルの時代から、それこそ12年に及ぶ歳月で培ったソレはある種の極致まで高められていると言っても過言ではない。

転移した中央霊廟を走り抜け、地上への入り口に差し掛かったその時。

 

「あら? そんなに急いで何処に行くの?」

 

そんな友人の声がした。

 

「!? ベルンさん!!」

 

よく見れば入り口のやや上部。

天上近くにベルンエステルが浮いている。

 

「くす。駄目よ? 貴方が勝手に飛び出しちゃったら、ナザリックが混乱しちゃうわ」

 

「!! すみません! でも、急がないとコキュートス達が危ないんです!!」

 

ベルンエステルの言葉に、己の短慮を自覚したモモンガだったが、すぐに意識を切り替える。

 

「もしかしたらプレイヤーがあの場所に居るかもしれない! 俺の索敵魔法に干渉してきました!! そんな存在はこの世界に今まで居なかった!!」

 

「……へぇ。それはそれは」

 

ベルンエステルの表情が微かに動く。

だが、自分達と同レベルの存在が居るかもしないという懸念と、もしそうであれば階層守護者とはいえ危険だという懸念。

様々な負の要素が渦巻いているモモンガが意識する事はなかった。

 

「だからベルンさん! そこを退いて下さい!! 退かないというなら!!!」

 

最悪、押し通ろうと考え、構えたモモンガ。

その様子を見たベルンエステルは、文字通り人形の如く表情を消し去った。

 

「……いつまで思考を停めている。お前は私を失望させるのか?」

 

「っ!?」

 

今まで一度も聞いた事のない口調と冷たさがモモンガに向かって放たれた。

それは他ならない、眼前のベルンエステルからである。

ベルンエステルは気を落ち着かせる為か、息を深く吐く。

再びその小さな口に空気が吸い込まれる頃には何時もの雰囲気に戻っていた。

ベルンエステルは側頭部に指先を当てる。

そしてモモンガに聞こえる大きさの声で話を始めた。

 

「聞こえる? えぇ、残念ながら予想通りよ。あんたにも手間をかけたわね。先に戻って待ってて頂戴」

 

後に一言、二言呟いたベルンエステルの視線がモモンガを捉える。

 

「さて。結論から言えばモモンガさんの心配は杞憂よ。あのコはナザリックの敵ではないわ。私の可愛い、愛しいコだもの」

 

「……え?」

 

「今からあのコの事を含めて、説明と報告をするから玉座の間に行きましょう」

 

呆けるモモンガの手を掴んで、有無を言わせないまま転移。

 

 

玉座の間に着くまでの間、彼女が口を開く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

玉座の間の空気は重い。

 

それは後悔、困惑、警戒。

様々な感情が渦巻いている為だろう。

 

重圧とすら感じられる雰囲気を討ち払ったのは、概ねの元凶と予想されている魔女の言葉だった。

 

「さて。改めて今回の蜥蜴人との戦闘の労いを。先程モモンガさんからあった通り各々気を引き締める様に」

 

「「「「「「はっ」」」」」」

 

「そして、今回、私は独断で動いた。その真意を明かそうと思うわ」

 

ベルンエステルの視線はある1人を向いている。

玉座に座るモモンガ只1人を。

 

「この世界に来おいて、アインズ・ウール・ゴウンは間違いなく強者よ。それはここに居る誰もが実感している事でしょう。先に謝っておくわ。シャルティア。もし不快にさせたならごめんなさいね」

 

その時だけベルンエステルは視線をモモンガから外した。

 

「御気持ちだけで十分で御座います。どうぞ、我が事なぞお気にかけず、仰りたい事を仰っておくんなんし」

 

シャルティアの瞳に揺らぎはない。

ならばと、ベルンエステルは続きを話す。

 

「……先日の洗脳で、この異世界に世界級アイテムが存在し得る可能性が浮上したわ。そこでモモンガさんは警戒を強めたのよね?」

 

「そうです。二度とあんな思いを「でもソレはした『つもり』でしかなかった訳だわ」っな!?」

 

予想だにしないベルンエステルの一言にモモンガは絶句した。

それに意を唱える者が1人。

ベルンエステルをまるで仇を見る様に睨む、アルべドだ。

 

「ベルンエステル様! いくら御身とはいえ、モモンガ様にお言葉が過ぎるのではないでしょうか!?」

 

「……私が何時、発言を許したかしら?」

 

「「「「っ!」」」」

 

「「ヒィっ!」」

 

魔女から放たれる威圧にアルべド・コキュートス・デミウルゴス・シャルティアの4人は息を飲み、アウラとマーレの2人は小さな悲鳴を上げた。

異世界転移以降、ベルンエステルが威圧を意識して僕に放った事はない。

初めて感じる魔女の明確な意思をもった圧力に、守護者の誰もが動けないでいた。

 

「もう言いたい事はないわね? あっても許可しない。今、私は彼と話しているの」

 

「きゃー! ベルンったら怖いわねぇ! ほら、皆震えちゃってるじゃない」

 

『!!??』

 

その場に居る皆が驚愕する。

ベルンエステルの背後。

首に腕を回しながら抱き着くのは、蜥蜴人との戦場に唐突に現れた者に他ならなかったのだから。

 

「はぁ。あんたが今出てくると話がこんがらがるんだけど」

 

「そんなの知らないわぁ。私はベルンさえ居ればいいもの。ほら、この鱗綺麗でしょ? 後でポーチを作ってベルンに贈るの! どう、素敵だと思わない?」

 

「それは素敵だわ。でも愛を囁きあうのはベッドの中って相場が決まってるもんよ?」

 

「~~!!」

 

ベルンエステルの発言に顔を赤らめる姿からは、微塵も害意が感じられない。

それどころかベルンエステルと過剰なまでに、親密なスキンシップを図るこの少女は何者なのか。

 

「くす。ほら、自己紹介でもしなさいよ。話が進まない」

 

「……んん゛! 私は宇宙一華麗でキュートな絶対の魔女! ラムダティルダちゃんでーす! ベルンとは愛し愛される関係ね!!」

 

「……場違いなテンションをありがとう。ほら、先に部屋に戻ってて良いわ。というかさっさと行け」

 

「あぁん! ツレナイのね! でもそんな所も大好き。じゃ! ベッドで待ってるわね。私の愛しい魔女様♪」

 

ファンシーな星を散らしながら、ラムダティルダと名乗った魔女は虚空に溶ける。

 

「今のがラムダよ。そしてあのコは敵じゃないわ。……今回、私のお願いでああいう登場になったけどね。さて、これでモモンガさんの考えた最悪は勘違いだった訳だけど、そろそろ気付いてくれた?」

 

ベルンエステルはモモンガに問いかける。

モモンガが答えるまでの間、守護者達は固唾を吞んで、偉大なる支配者2人の動向を見守るしか出来なかった。

永劫とも錯覚する沈黙を経て、モモンガが言葉を発した。

 

「漸く……理解しました。ベルンさんの言う通りです。俺の覚悟は『つもり』でしかなかった……」

 

「聞かせて貰えるわね?」

 

「えぇ。……お前達も聞いて欲しい。確かに驕りがあったんだ。いくらこの世界に強者がいようと、自分達に並ぶ存在などいないのだと。いたとしても、それが己に匹敵する力を持つ可能性を私は――俺は考えようとしなかった。あの時、スキルに干渉されて初めて焦ったんだ。思考が確かに止まったんだ。そして考える事を止めて感情のままに飛び出した」

 

モモンガは玉座から立ち上がる。

 

「……ありがとうございます、ベルンさん。そして、ごめんなさい。俺にソレを自覚させる為にこんな汚れ役を貴女にさせてしまった。守護者達ナザリックの僕に嫌われるかもしれなかったのに……」

 

最初にベルンエステルを、次に守護者達を見ながらモモンガは頭を下げた。

 

「……くす。まぁ、及第点かしら」

 

その頭をベルンエステルは優しく撫でる。

 

『ちょっ!? 皆見てますって!!』

 

『あら? 2人っきりだったら良いの?』

 

『ぶふっ!? ななななななに言ってんですか!?』

 

『くすくす』

 

モモンガの頭から手が離される。

クルリと身体を翻して、ベルンエステルは守護者達に向き直った。

パン! と手を叩いて場の意識を集中させる。

 

「皆、言いたい事も思う所もあるでしょう。でもそれをここの場で口にさせるつもりはないわ。あんた達の忠誠は真の忠であると知っている。その上であんた達が決めた答えを大事になさい。只、命令を聞くだけが忠ではない。只、相手の求めた事だけを与えるのは愛ではない。今日、この日見た事を、感じた事を糧となさい。それがあんた達の血肉となってナザリックの――モモンガさんの助けとなる日が必ず来るわ」

 

「「「「「はっ!!!」」」」」

 

「くす。良い返事ね」

 

 

この騒動は1日もせずに、ナザリック中に知れ渡った。

 

 

階層守護者から一般メイドに至るまでが、その御心に深い慈愛を垣間見、御方へ仕えられる喜びを噛み締める。

 

 

至高たる存在の己が身を使ってまで示した『支える』在り方を。

 

 

なれど。

 

 

彼女が隠した意味を知るのは、全てが終わった後となるのだ。

 

 

 




第32話『言霊』如何でしたでしょうか?

今話では遂に遂に、『あの方』が登場しました。
ツッコミ所満載のお話でしたね!
シリアス?な話な上、私からの落とし物がてんこ盛りです!
メタ発言すれば、そろそろ私の想い描く物語の核心に触れれなくもないですね。
しかし、気付けば蜥蜴人さん達の活躍が美味しく食われている不思議。
原作4巻部分も、書いて2話程になりそうで……こほん。

さて。
『白金』様、NEW31話更新後のご感想ありがとうございました。
修正前にご感想下さいました
『鬼さん』様、『まろんさん』様、『山崎門』様
改めてありがとうございます。

以前にまして賛否が別れそうな展開ですが、どうかお手柔らかにお願いいたします。
近くお会いできます事を。
それでは次話にて。
                                 祥雲

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