奇跡と共に   作:祥雲

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言葉は時に残酷だ
   真実のみを抉り出す

言葉は時に残酷だ
   真実だけを隠して仕舞う

言葉は常に残酷だ
   真実だけを伝えれない




駆け引き

「漸く眠りましたか」

 

「えぇ。もう何年と……気を張り詰め続けていましたからね」

 

 

王都――エ・ランテル。

其処に存在する中堅程度の宿の一室で、安らかに眠る2人の姉妹の姿を見ながら、セバスとペテルの2人は穏やかな声音で話していた。

 

ベッドの上。

そこに眠るのは2人の家族。

ツアレの袖口をぎゅっと握り締め、寄り添うニニャの姿を見れば、どれだけニニャが姉を想っていたか伺い知るには十分であろう。

 

ツアレを助け出した後。

セバス達は漆黒の剣の面々が宿泊している宿へと足を運んだのだ。

その道中でほんの僅かな時間ではあったが、ツアレとニニャは会話をしていた。

ツアレ自身も今回の騒動における精神的な負荷があったのか、はたまた未だ十分でない身体面での回復の所為か。

直ぐに眠ってしまったがそれでも確かに彼女達の表情は笑顔であった。

それは正しく、初めてツアレを助けた時にセバスが重ねた光景そのもの。

セバスの口元は自然と笑みを形作っていた。

 

そんなセバス同様、ペテルも優しい笑みを浮かべながら口を開く。

 

「さて。そろそろ……」

 

「えぇ。いつまでも寝ている方の隣で話し込む訳にもいかないでしょう」

 

静かに扉を閉めて2人は部屋を後にした。

そのまま隣室に向かう。

隣の部屋では、今回の事件での主だったメンバー達が集まっている。

 

「お。ニニャと姉さんの様子はどうだった……って、その顔を見りゃわかるか」

 

迎えたルクルットの口調は普段と変わらぬ軽口。

しかし、浮かべる表情は、この場に居るほぼ全員と同じく温かいソレだ。

椅子の背凭れを正面にして座るルクルットは勿論、ダインに至ってはずっと号泣しっぱなし。

 

「良かったである! 良かったであるぅううう!!」

 

「はは。気持ちは十分わかりますが、あまり声を大きくしないでくださいね? ニニャ達を起こしてしまいますよ?」

 

「ったく。デカイ図体して涙脆いって……どこの需要層狙ってんだっつの」

 

ダインの様子に苦笑を漏らす2人だが、彼らの目尻がうっすらと光っていたのはセバスの見間違いではない筈だ。

 

「しかし、皆さんはニニャさんの隠し事に気付いていたのですか?」

 

「あ~……『ソレ』か。やっぱわかる人にはわかるんだなぁ。俺らは……割と最初からじゃねぇ?」

 

「本人は本気で誤魔化せてると思ってたみたいですが……流石に骨格とか重心は誤魔化せませんから」

 

「ぐす……水浴びでも、岩の陰に隠れていたであるし」

 

「よく顔真っ赤にしてたしよ。あの歳でソッチっていう可能性もなくはねぇけども……まぁ、普通に気付くわな」

 

セバスが感じていた疑問に対して、漆黒の剣の回答はあっさりとしていた。

それはニニャの性別についてだ。

パッと見では中性的な少年とも見えなくはないが、ある程度の観察眼があれば見抜くのは容易い。

加えて彼らは常日頃から生活を共にするチームである。

気が付かない方が可笑しいというものだろう。

 

「それとニニャさんの名前ですが」

 

それに加えてもう1つ。

ツアレ本人から聞いていたがツアレというのは只の愛称。

正しくは『ツアレニーニャ』という名なのだと。

つまり『ニニャ』という名前は彼女の本名ではないという事になるのだ。

 

「……まぁ、気にならないと言えば嘘になります。しかし、それが何か問題でも?」

 

「俺達は『4人』で漆黒の剣だぜ? 仲間ってのはココで繋がってんだ。今更呼び方1つでどうこうなりゃしねぇよ」

 

「である!!」

 

ルクルットが笑いながら叩いたのは己の胸。

その奥にあるであろう、見えなくとも確かなモノ。

 

自分達の繋いだ絆はたかが呼び名如きでは揺るがないのだと。

そう、信じて疑わない程の繋がりが彼らの間にはある。

ルクルットの言葉には、そんな想いが込められていた。

 

「……ふふ。そうですね。失礼しました。どうか、老いぼれの戯言とお忘れください」

 

セバスは称賛の気持ちを込めた笑みをもって、美しい一礼で返す。

その所作こそを、続く言葉の代弁としたのだ。

 

「しかし、セバスさんの仕えている方はどんなお人なのですか? セバスさん程の腕利きの執事が仕えるだなんて」

 

「それにあの時一緒に居たのって、あのブレイン・アングラウスだろう? しかもバトラとも知り合いとは驚いたな」

 

「今や、かの御仁はアダマンタイトの冒険者なのである。そんな冒険者と面識があるセバス殿の主は相当な御仁とお見受けするのである」

 

今度は3人がセバスに問いを投げかけて来た。

確かにその疑問は当然だ。

今この場に居ないのは4人。

その内2人は王国内でも著名人と言えるだけのネームバリューを備えている。

片や、かの王国戦士長と引き分けた腕前を持つブレイン。

片や、王国3番目のアダマンタイト級冒険者2人組となったチーム『漆黒』のバトラ。

 

正しくは、今や王国の誰もが既知としている『漆黒』のモモンこと、モモンガこそがセバスの仕える絶対の存在だ。

しかし、それを馬鹿正直に言える訳もない。

かの御方はその深遠たる英知から生み出された御考えにより、あえて『人間の英雄』として活動をしているのだから。

 

「私の仕える御方々は、とても一晩では語り尽くせないほどの素晴らしい御心を持っています。例えば……~~……~~~……~~!~~~……~~……という訳でして、この国には商談の下見として滞在しているのですよ」

 

時間にして如何ほどか?

セバスにとってはとるに足らない時間であったが、思いのほか話し込んでいたらしい。

視界に映る3人の表情は心なしか、引き攣っている。

 

「ま、まさかそこまでタップリと語っていただけるとは……」

 

「おぉぅ……すっげぇ、セバスさんの眼が光ってたぜ」

 

「む? もう直ぐ夜が明けそうであるな……」

 

ダインの言葉通り、気付けば夜明けが近くなっていた様だ。

閉められたカーテンの隙間から、仄かに明かりが差し込み始めていた。

 

「おや? 気が付かない内に随分話し込んでしまった様です。これ以上の長居は流石にご迷惑でしょう。私はそろそろ……」

 

「え? あ、あぁ。そうですね。セバスさんにもご予定があるでしょうし、後日改めてお礼に伺わせていただきたいのですが」

 

「それであれば、こちらまで。もう暫くは王都に滞在するつもりでしたので」

 

セバスは机の脇に備え付けられていた小さな羊皮紙に羽ペンを走らせる。

書いたのは現在の滞在場所と、部屋番号。

それを小さく巻きペテルへと手渡した。

 

「確かに受け取りました。きっとニニャとお姉さんもセバスさんとお話したいでしょうから。必ず6人揃って伺わせていただきますね!」

 

「ふふ。楽しみにお待ちしております。……それでは」

 

そう言ってセバスは穏やかな笑みを残して、部屋を後にする。

扉が閉まるその瞬間まで、暖かな光景を瞳に焼き付けながら。

 

奥の1室で眠るのは、2人の姉妹。

この世界でたった2人の大事な家族。

 

彼女達の見る夢は、きっと楽しい夢だろう。

楽しい夢に微笑む『少女』の眠りを妨げられる者など、居る筈がないのだから。

 

それは小さなサイコロの悪戯。

 

何処かの誰かが転がした、賽の目の行き着いた先の可能性。

 

もしくは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ッ!」」

 

 

ほぼ同時に2人の男女が顔を上げる。

 

「……予想より早いな」

 

「……可能性を考えてはいましたが、こうも早く実感させられるとは……正直忌々しい位ですよ」

 

無慈悲に昇る朝日が、半壊した娼館ごと、そこに居る存在を照らした。

 

赤い髪と青い髪が朝日に煌く。

 

「どうする名探偵? 予定を前倒しにするか?」

 

「それは愚行でしょう。遺憾ではありますが、今のままでは誰も勝てませんよ」

 

漆黒の剣が滞在する宿に居なかった2人。

ヱリカとバトラである。

彼らの後ろでは、虚ろな瞳をした男女数人の姿もあった。

誰一人言葉を発する訳でもなく、前をひたすら向いたまま。

薄絹を纏った女や全身鎧、動物の刺青のある巨漢等、明らかに堅気には思えない彼らはピクリとも動かない。

僅かに肩と胸が上下しているので、死んでいる、という訳ではなさそうだった。

 

「その通りデス。今は出来る事を1つ1つやるしかないのデスカラ」

 

眉に皺を寄せている2人に横に、いつの間にやら小さな人影が増えていた。

蒼い装束に、菖蒲色の巻き毛を揺らす小柄な体躯。

 

「すみませんね、ドラノール。態々、王都まで来ていただいたうえに、手伝いまで」

 

「No problemデス。我が友ヨ。此方の準備はほぼ問題ない所まで終えていましたカラ」

 

無表情にドラノールと呼ばれた少女が答える。

一見すると冷たい態度にとれるが、彼女と付き合いがある程度長い存在であれば僅かな表情や声音の変化で判断出来る為、否と答えられるだろう。

 

「バトラも久しぶりデス。まさか貴方が駆り出されるとは思いもしませんデシタ」

 

「それを言うなって。俺を使うのがどんだけルール違反ギリギリかは、姫さんが良くわかってるだろうさ」

 

「デス。他にも法院規定はおろか私や彼マデ……鬼札はきってないとはいえ……正直な所かなり危ない綱渡りとしか言えないデス」

 

僅かに重くなった空気を晴らすように、ヱリカがパン! と、両手を合わせて音を鳴らした。

 

「まったく! 何を弱気になっているのですか? 私達の目指す先は只1つ! 『勝利』の2文字しかありえません」

 

「そのとーり! 絶対に大丈夫よぉ? この私が保障するわ!!!」

 

「ムムム!? このイラつく甘い声と、金髪成分をミックスしたような気配は……まさかっ!?」

 

バッと弾かれる様にヱリカが振り返る。

 

ていっ☆ という声がして、刺青の刻まれた巨漢が地面に転がされた。

その身体を適当な角度と配置に直して、椅子にしようとしている声に主に視線が集まる。

 

「……? もしやラムダ卿デ?」

 

「そうよぉ? 皆のアイドル! キュートで、ぱーふぇくとなラムダちゃんも頑張っちゃうんだから!! 安心して頂戴な☆」

 

最後の言葉と同時に、製作途中の『椅子』からグキリ……という鈍い音が聞こえたが恐らく空耳だ。

その証拠にこの場に居る誰もが一切ツッコマナイのだから。

 

「……ん? っと……この位? ……よし! バッチシ!!」

 

収まりの良い角度が決まったのだろう。

額の汗を拭く仕草をしながら、ラムダティルダは出来立ての椅子に腰かけて。

 

「さぁ! 皆で超ハイパーでキュートで可愛いハッピーエンドを目指すわよぉ!! おーほっほっほ!!」

 

 

早朝の王都に、清々しい程の笑い声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

同刻。

 

ナザリック地下大墳墓。

第九階層。

 

 

 

「……あれ? 気のせいかな?」

 

「? モモンガ様、どうかされましたか?」

 

 

執務室で定期報告を纏めていたモモンガは、不意に視線を書類から外した。

思わず口からこぼれた呟きに、傍に控えていたナーベラルが反応する。

 

――っとぉ!? 最近はモモンとしての活動ばっかりだったから、バトラが横にいる気になってたよ! んん゛っ!

 

モモンガは慌てて緩んだ気を引き締めると、口調を魔王ロールに戻して答えた。

 

「いや……何やら涼し気な音色が聞こえた気がしてな。ナーベラル、お前も聞いたか?」

 

「も、申し訳ありません、モモンガ様! 私には聞き取ることが出来ませんでした……何卒、この不出来な身をお許しください!!!」

 

何気なく聞いただけのモモンガの意に反し、ナーベラルはこの世の終わりとでも言いだしそうな悲痛な表情を浮かべている。

 

「だ、大丈夫だ、ナーベラルよ!! 私の空耳だった様だ!! そ、そう自分を卑下することはないのだぞ?」

 

「!! 寛大なるご慈悲に感謝いたします、モモンガ様! お許しいただけるのであれば、これからは日常的に<ラビットイヤー>を使用する所存です!!」

 

――相変わらずだねっ!? きっと俺の聞き間違いなのに…………え……ナーベラルのウサ耳? ……ちょっと見てみたい気も……

 

――ほぅ? 俺の娘に手ェ出す気かぁ? あぁん?――

 

ウサ耳姿のナーベラルの姿を思い浮かべ様としたモモンガの脳裏。

しかし、浮かんできたのはガッチガチの忍者だ。

キラリと光る刃の切っ先が、カタカタと揺れていた。

 

――!? すすすすみません、すみません!! どうかケジメだけはっ!?

 

浮かんだ姿と、ドスの利いた弐式炎雷の幻聴に内心モモンガはガチ謝りしていた。

在りし日のアインズ・ウール・ゴウンにおいて、ナーベラルにバニーコスをさせようとしていたペロロンチーノの末路を思い出したからである。

 

 

その名も『チューリップから揚げ事件』

 

 

――まずはぁ……手羽先の手羽の部分を切り離してからぁ♪――

 

――いやぁぁああ!? ちょっ!! マジでっ!? 誰か! ねぇt――

 

――お肉を骨に沿って巻き上げま~す――

 

――ぁ゛ああああ゛!? マイプリティーウィングがァぁあああ!!?――

 

――粉を塗してぇ―

 

――やめてぇええええ!! 両翼はっ!! 左はご勘弁をぉおおおお!?―― 

 

――油へっ! ドーンッ!!!――

 

――ぴゃぁぁぁあああああ!!!!???――

        ・

        ・

        :

        :

 

 

「……ナーベラルよ。お前に責はないのだ。ありのままのお前で良い。……(ブルッ」

 

「モ、モモンガ様っ! はいっ! 不詳、ナーベラル・ガンマ!! 一層身を粉にして励ませていただきます!!」

 

「うむ……少し休憩したい。すまないが香の用意を頼めるか?」

 

「直ちにご準備いたします!」

 

キッラッキラとした瞳のナーベラルが執務室を後にする。

それと同時にモモンガは机にグデーと体を預けた。

気分は、卵の中身なゆるキャラである。

 

「はふぅ……慣れって……怖いな……」

 

「まったくね」

 

「うぉう!?」

 

脱力したモモンガの視界一杯に、ドアップのベルンエステルの姿があった。

……上下逆様の。

思わずモモンガは飛び上がる。

 

「ベ、ベルンさん!? びっくりするじゃないですか!? 心臓に悪いですよぉ!」

 

「くす。ナイスリアクションよ、モモンガさん。ナザリックの外でもちゃぁんとリアクションの修業はして来たみたいね」

 

「人をリアクション芸人みたく言わないでください」

 

常と変わらない様子のベルンエステルに、モモンガは穏やかな溜息とともに言葉を吐き出した。

なんやかんやで、ナザリックに帰った際は同じようなやり取りが恒例化している現状に満足している自分が居るというのは、認めたくはないが事実なのだ。

先程吐き出した言葉がブーメランで返ってくる。

 

「その内ナザリックでお笑い大会でも開いてみる? きっと楽しいわ。なんなら一緒に出ても構わないわよ?」

 

「いやいや。そんなの結果が見えてる出来レースじゃないですか。どんな滑りネタでも優勝しますよ? 確実に」

 

「あらそう? 残念ね。折角、人体切断マジックが出来ると思ったのに……」

 

「え? お笑いの話でしたよね!?」

 

「くす。ほら、これで1つネタが出来たわ。モモンガさん、案外才能あるんじゃない?」

 

「全然嬉しくねぇ!!」

 

 

「「チャンチャン」」

 

 

と、同じタイミングで締めの言葉を口にする。

声のトーンは全く正反対だが。

 

「くすくす。わかってるじゃないの」

 

「ふふふ。いつまでも只イジラレルだけの骸骨じゃぁありませんぜ?」

 

ベルンエステルがニヤリと笑みを浮かべれば、合わせる様にモモンガもそれっぽい声音で返した。

 

「くく」

 

「くす」

 

お互いに小さな笑いを溢す。

 

何て事はない小さな日常。

 

そのどれもが、モモンガにとって、大切な宝物なのだ。

 

やがて、その積み重ねこそが、ナザリックにとっての宝となる。

 

 

だからこそ。

 

 

「しかし……お笑い大会ですか……ちょっと考えてみようかな? ベルンさんもご一緒してくれるんですよね?」

 

「私は観客席から応援してるわ」

 

 

この一瞬、一瞬が。

 

 

「マジかよ」

 

「嘘よ」

 

「……ホントに?」

 

「……嘘は事実よ?」

 

「それどれがですか? どの辺から?」

 

「お笑い大会の辺りかしら」

 

「まさかの前提から怪しい展開!?」

 

 

 

何よりも愛おしかった。

 

 




第38話『駆け引き』如何でしたか?

漸く最新話を更新出来ました。
早く書きたくても書けないリアルに悲しみを覚え始めたこの頃。
……燃え尽きそうです……でも、私、負けませんですよ?

さて。
前話まででご感想をくださいました
『yoshiaki』様、『鬼さん』様、『瀬蓮』様、『まろんさん』様、『サプリメン』様
誠にありがとうございました。
いつもご感想等、励みにさせていただいております。
そして増えてるUAとかお気に入りもまた同様。
とても嬉しいですね。
感謝感謝でございます。
近くお会いできますことを願いつつ。

それでは次話にて。
                         祥雲
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