いつまで持つかもわからずに。
手にした灯を両手で抱いた。
いつから得たかもわからずに。
手にした灯を両手で抱いた。
いつしか消えるとわからずに。
カリカリと。
原始的ながらも心地よい響きが奏でられた。
漆黒の文字を滲ませながら羊皮紙をペン先が引っ搔いていく。
元は白紙のソレを黒が染め上げていく様には、隠しきれない誘惑が確かにあった。
「…………」
無言で文字を綴る。
「…………」
無心で文字を綴れたならば、どれ程幸福であっただろうか。
仮に過去を変えられたとしよう。
それは間違いなく『今』への侮辱に他ならない。
仮に過去から逃れられたとしよう。
それはいつか必ず『今』へと追いついてくる。
今を生きる存在が出来る唯一のことは、未来を決めること。
……正しくは、未来を選べる権利。
そう。
■は可能性に満ちているのだから。
「ふぅ……」
キリの良い所で手を止める。
羊皮紙を幾つかの束にわけた後、書き損じた分や要らなくなった分を暖炉に放り込んだ。
薪のモノとは違う、僅かな違和感を感じさせる香りが鼻を擽る。
羊皮紙が炎に包まれ、瞬きを数回する頃にはその姿を消していた。
そのままボーと暖炉を見つめる。
瞳に写した焔はユラユラと姿を変えて、一度たりとも同じ姿は作らない。
しかし、その熱は不変である。
例え姿を変えたとしても。
例え形を変えたとしても。
「……大丈夫よ。あんたの心配性も変わらないわね」
暫く続いた静寂を破ったのは、苦笑交じりのそんな言葉。
その部屋には声の主以外に誰もいない筈なのに、だ。
傍から見れば、独り芝居をしている風に捉えられてもおかしくはないだろう。
だがそんなことはお構いなしに声の主は言葉を続ける。
「ジャンル違い? そんなの私の知ったことじゃないわ」
パチンと指を鳴らせば、机の上で束ねられていた羊皮紙達が宙に浮いた。
「遠い昔に誰かが言っていたの」
そのまま人差し指を折り曲げる動作を一つ。
「『運命は抗える』ってね」
すると宙に浮いていた羊皮紙達は壁際にある棚に次々と収まっていく。
「始まりが変えられないなんて……とっくの昔に慣れっこよ。それこそ千……あぁ、百年だったかしら?」
くすくすと笑いが漏れた。
何処か懐かしむ様な、何処か焦がれる様な……そんな笑み。
「絶望も。恐怖も。後悔も。甘いよりは苦めの方が好みだけれど……どれだけ手の込んだお夕飯でも、同じ味付けじゃぁ飽きてしまうもの」
足取りは軽やかに。
「だから」
なれどその眼差しは鋼の如く固めたままで。
「勝つわよ――」
暖炉の隅。
焼け残った羊皮紙の切れ端に。
VERL
そんな綴りが舞った火の粉に当たって消えた。
微かな音を奏でながら、シンプルながらも華美な扉が閉められた。
扉の向こうには、シズとエントマが控えている。
「さて、セバス。何か言いたいことがあるのならば遠慮なく申してみよ」
モモンガは眼前に跪くセバスに魔王ロールでそう告げる。
今、モモンガが居る場所はナザリックにある応接室だ。
「……恐れながらモモンガ様。何故……私だけをお通しになったのですか?」
傍目――モモンガから見ても固い表情をしたセバスは、額から汗を垂らしながらそう口を開いた。
数人が楽々収まるであろう部屋に居るのはモモンガとセバスの2人のみ。
隣の別室には、他の階層守護者達が待たされている。
其方には階層守護者だけでなく、バトラも一緒なのだが。
「今回の件。詳細はベルンさんとバトラから聞いている。セバスよ、何か言いたいことはないか? この場には私しか居ないのだ。勿論、天井にも護衛は居ないぞ? ほら遠慮するな」
モモンガは善意100%で再度問いかける。
――ふふ! ほら! 言っていいんだぞ? 惚れた女が出来ましたって! 白馬の王子様して来ちゃいましたって!! おじさん応援するからさ! キャー! 見てますか、たっちさん!! 今日はお赤飯ですよ!!!
内心クラッカーが鳴りまくりのモモンガの胸中はいざ知らず。
セバスにとっては生きた心地がしないだろう。
なぜなら、当初セバス達に下された命令の中には、些事に至るまでの報告書への記載の義務があったのだから。
無論、ツアレに関することは一切報告には挙げていない。
更には命令違反といっても過言ではない単独行動。
忠義と感情の狭間で揺れるセバスには、先程のモモンガの言葉は全くの逆に意味にしか聞こえないだろう。
『今回の件。詳細はベルンさんとバトラから聞いている』→『今回の件、私は後から知らされたのだが? ん?』
『セバスよ、何か言いたいことはないか?』→『セバスよ、言い訳があるなら申してみよ』
と、こんな塩梅にセバスの中では聞こえているに違いない。
「……」
「セバス」
「っ!」
モモンガ的には優しく問いかけたつもりでも、この場において柔らかな声音は逆効果でしかないだろう。
例えるなら、マフィアのボスが笑顔でハグしようとしてくるかの如く。
セバスの心配事は全くの杞憂であるのだが、その様なことに思考が至らないのが現在のナザリックの僕達だ。
「……モモンガ様、このセバス・チャン。一世一代の願いの義がございます」
「ほう? 何だ?」
――キャー! キャー! なに、何!? 遂に来ちゃう? 言っちゃう!? 安心してね! 意地悪な姑ポジションにはならないよ!
この間。
モモンガの体は緑色に発光している。
NPCの成長を喜んだあまりの精神安定効果の所為であるが、それを知らないセバスからすればどうだろうか?
怒りを理性的に抑えている様に見えたとしても、決しておかしくはない筈だ。
「私が救った彼女――ツアレが肉親と安全に過ごせる手助けを――僅かながらでも援助を――お許しいただけないでしょうか?」
故にセバスが言ったのは小さな……だが、ナザリックの僕としては大それた願い事。
仮に対価としてこの場で自害を命じられたとしても、眼前の偉大な支配者は必ずや約束を違える筈がないという確信を持った言葉。
が、モモンガにとっては予想よりもささやかな願い事でしかない。
「なんだ、そんなことで良いのか? 別に構わんぞ」
「!? 本当でございますか!?」
――え? なんでそんな感動した表情してんの? ま、まさか俺って既に怖い姑認識されてた!? ま、マズイぞ! なんとか挽回せねば!
「し、しかし只の援助では味気がないな。セバス自身が行うのは決定として……少し待て……『アルベド、聞こえるか?』」
『はい、モモンガ様。如何なさいましたか?』
<メッセージ>を繋げれば、瞬時に応答がある。
『其方に居る階層守護者とバトラを此方に連れて来てくれ』
『畏まりました、モモンガ様』
<メッセージ>を終えて数秒後、控えめなノックの後に別室に待機していたアルベド達が入室してくる。
そしてバトラ以外が臣下の礼をとろうとしたが、モモンガのジェスチャーによって止められた。
「すまないな。僅かな時間とはいえ、お前達の予定を崩してしまって」
「モモンガ様がお謝りになること等ございません! 貴方様は我々の偉大なる主なのですから!!」
忠誠心にあふれたアルベドの言葉にうむ、と頷く。
入室してきたのは、アルベド・デミウルゴス・コキュートス・ヴィクティム・アウラ・マーレ・シャルティア・バトラの8名だ。
主だった階層守護者は勿論、普段他の階層に出向くことのないヴィクティムとベルンエステル直属のバトラがこの場に居ることこそが、これから告げられるであろう言葉の重要性を物語っていた。
「さて。お前達にも今回の件についてバトラから説明があっただろう」
モモンガの確認の言葉に守護者達が頷く。
同時に明らかな負の感情が籠った視線がセバスへと集中した。
「だが私にセバスを罰する気は一切ない」
「「「!?」」」
予想だにしなかったであろう発言に、セバスを筆頭とした守護者達は目を見開いた。
唯一バトラは楽し気な表情で足を組みながら頬杖をついている。
「な、何故?」
「恐れながらモモンガ様。今回のセバスの行動は明らかにナザリックに……モモンガ様に対する不忠と捉えられてもおかしくないかと」
「デミウルゴスの言う通りでございます。守護者統括である私にすら連絡はありませんでした」
「ム……」
「まぁ、そういきり立つな。もう一度言おう。私にセバスを罰する気は一切ない。むしろ、セバスの行動を喜ばしく思う」
モモンガは上座の席から立ち上がると、大きく手を広げた。
その姿は正しくカリスマ溢れるポーズ。
――頑張れ、俺の口! このポーズさえあれば俺は出来るっ!! 絶対順守の瞳はないけども! 同じ位の気持ちでイケるっ!!! ……筈!!!
「今回の件。確かにセバスは単独で動いた。その点だけ見れば決して褒められることではないだろう。しかし、だ。セバス!」
「っ! ハッ!」
「お前が彼女を救った理由はなんだ? 哀れみか? それとも気まぐれか?」
「……今でも確かな理由はわかりません。ですが……彼女を救いたいと思った感情に嘘はございません」
「つまり、お前が感じ、考えた結果……そう言うのだな?」
「はい」
力強いセバスの瞳がモモンガを、他の守護者を射抜く。
「ふふふ……あははははは!! そうだ! それで良い!!!」
モモンガの楽し気な笑い声が響く。
呆気にとられる守護者達をあえてスルーし、モモンガは言葉を続けた。
「かつて、このギルドでは多くの仲間が意見をぶつけては己が正義を通そうとした。それが誰かなど語るまでもないが……彼らは――あの人達は此処で生きて、此処で過ごして、此処で成長したんだ。勿論、私やベルンさんもな」
この場に居ない友人や、この世界に居るかもしれない友人達を想う。
「そして私とベルンさんは……いや、『アインズ・ウール・ゴウン』はお前達の意思を、想いを尊重する! お前達の成長を! お前達の感情をだ!!」
とある世界の魔王がした様に、マント――ガウンを翻しながら声を張り上げ高らかに謳い上げる。
「故に私はセバスの選択を間違っているとは否定しない! そして我が名に――アインズ・ウール・ゴウンの名のもとにセバスの願いを聞き届けると約束しよう!!」
モモンガの背後。
そこにギルドの旗が掲げられていたのは果たして偶然か?
在りし日。
掛け替えのない仲間と駆けた夢の続きで。
皆が夢見た光景の目の前で。
『アインズ・ウール・ゴウン』の旗があったのは。
「……偉大なる御身の慈悲に……感謝……致しますっ……」
「も、モモンガ様お優しいですっ!」
「良かったねー、セバス!」
肩を震わせるセバスの隣で、ニシシとアウラが笑う。
その様子に満足気に首を縦に動かしたモモンガは、もう1つの本題を切り出した。
――良かった! これでセバスも気兼ねなく恋人と会えるぞ!! ありがとうございます皇帝陛下!! 貴方の真似を鏡で練習した時間は無駄ではありませんでした! 欧州ってスゴイわぁ……マジで
「ふふ。お前達、話がこれで終わりというは些か早計だぞ?」
「モモンガ様? それはどういう?」
「なに。ベルンさんから言伝を預かっていてな。バトラ。例のモノを」
「はいよ」
バトラの軽い返事に微かにアルベドが表情を歪めた。
他の守護者達は僅かに眉を動かした程度だ。
今の彼らのバトラへの認識は、ベルンエステルにそうあれと定められたが故の態度だと割り切っている部分があるからである。
既知として同じようにそうあれと定められたペンギンを知っているからだ。
「今は姫さんは用事で外してるからな。代わりに俺が渡しておこう」
「? ベルンエステル様はナザリックにいらっしゃらないのでありんすか?」
「いんや? 確か第八階層に行くって言ってたな。この後、サプライズがあるらしい」
「……なるほど。だからベルンエステル様は私に1日遅らせる様に……」
シャルティアの問に答えたバトラの横で、デミウルゴスが納得した様子で1人頷いた。
「さて、と。女性陣とマーレ。男性陣と……ヴィクティムつったけか? お前さんはこれだ」
バトラが指を鳴らすと、各々の手元にフワリと大きな包みが現れる。
「? ナンダ?」
「イッヒッヒ。それは開けてのお楽しみ……と言いたいけど、時間も押してるしな。開けてみると良いぜぇ?」
「布……いえ、服でありんすか?」
「わぁ、綺麗!!」
「……これは……着物?」
普段ドレスが主なシャルティアはピンとこなかった様だが、意外にもアルベドが包みの中身を言い当てた。
実は裁縫が得意なアルベド。
彼女の装飾に対する知識は元々製作者であるタブラ・スマラグティナの影響が強い。
ギルドメンバーの多くが日本人であったこともそうだが、服について学ぶ上で和洋の壁なぞあってないようなものだ。
ならばアルベドが知っているのは別段、不思議なことでもなかった。
「全員、中身は確認したか? ――デミウルゴス。言いたいことがあるのではないかな?」
「……モモンガ様、宜しいのですか?」
恐らくベルンエステルと計画したサプライズの内容に、大凡感づいたであろうデミウルゴスが聞いてきた。
――むぅ! 流石はナザリック一の知恵者だなぁ。事前にベルンさんが軽く話してたとはいえ、即座に答えに行き着くなんて…… 俺、絶対デミウルゴスとは賭け事しないぞ! 勝てる自身ないモン
「構わん。さぁ、デミウルゴスよ。お前の考えを話してくれ」
「畏まりました」
デミウルゴスは優雅に一礼すると、カツカツと扉の前まで移動する。
「今回のセバスの件を含め、今後の我々の行動を円滑にする為、不詳デミウルゴスが提案を」
――あり? え? サプライズのことは?
そして先のモモンガに負けない程の、大物オーラを出しながら両手を広げた。
「作戦名『ゲヘナ』 第一段階は王都――ひいては大陸勢力の戦力把握。第二段階はモモンガ様扮する冒険者モモン様の完全なる英雄化。そして――最終第三段階」
キラリと眼鏡がシャンデリアの明かりを反射して煌く。
「世界征服の第一歩として、ナザリック地下大墳墓という国を建国する礎を手に入れることですっ!!!」
「え?」
「まぁ! なんて素晴らしい響きなのでしょうか!! これで偉大なるモモンガ様のご威光をこの世界に広めることが出来ますわ!!」
「はい?」
「が、頑張りますね!!」
「……フシュー……」
「おい……ちょっ」
「ふふ。皆、ヤル気は十分なようだね? 詳しい計画は後程。では、モモンガ様。私達は着替えて桜花聖域に向かいます。ベルンエステル様もお待ちでしょうし」
最後にさり気無くモモンガとベルンエステルのサプライズを見抜いた発言をされる。
――は? え? ……建国って……どゆこと!? つうかマジで答えわかってたんかい!?
「桜花聖域に? どうしてでありんすか?」
「あ! そういうことかっ!!」
「……くふ。それではモモンガ様、お先に失礼致します」
守護者達がそれぞれ一礼してから応接室を後にしていく。
残されたのは、固まるモモンガとバトラの2人のみ。
「……バトラ」
「ん~?」
掠れた声で呟いたモモンガに、ニヤついたバトラが反応する。
「ケンコクってさ……なんだろね?」
「私めにはわかりかねます、モモンガ陛下」
「おいばかヤメロ」
その言葉は嫌に力が籠っていた。
ナザリック地下大墳墓
第八階層――桜花聖域
その場所は正しく『桜花』と『聖域』の名を冠するに相応しい場所である。
大きな大樹には美しい花々が咲き誇り、その世界を一色に染め上げているかの様だ。
視界の至る所に桜が咲き、見る者達を魅了する。
加えて、この場所にナザリックの至宝が納められているのが大きいだろう。
舞い散る花弁の1つ1つにすら、思わず時間を忘れて魅入ってしまいそうになる。
「……」
その光景をベルンエステルは座りながら眺めていた。
魔女が腰かけるのは小高い石段の一番上だ。
桜の木々の景観を損なわせないばかりか、見事に調和した純和風の建築物。
石段を囲む形で建てられている朱色の鳥居。
日本文化の代表とも呼べる神社、そのものである。
「母様、母様? お茶が入りましたよ?」
「あら、ありがと」
もし、この場に他の存在が居たならば耳を疑っただろう。
もしくは目を疑ったかもしれない。
ベルンエステルの背後から現れたのは、巫女服をまとった優し気な女性だ。
しかし、その顔立ちと声質はあまりにベルンエステルと似通っていた。
仮にベルンエステルの外見が数年成長したならば、こうなる。
そう想像するのが容易い程に2人は似ていた。
「珍しいですね。母様達がこの場所に人を招こうだなんて」
そしてベルンエステルを母と呼んだこの女性こそ、ナザリック第八階層『桜花聖域』階層守護者である。
プレアデスの末妹であり、ナザリック唯一の不老の人間。
通称『オーちゃん』
が、他にも呼び名があることを知っているのは、片手で数えるほどもいないのだ。
「ねぇ……桜花」
「はい、母様」
御盆からお茶を受け取り、僅かに啜った。
そして願う。
自分の現身の様な彼女に。
自らを母と呼ぶ強い娘に。
「モモンガさんをお願いね」
「……はい。任されました」
ベルンエステルに桜花と呼ばれた巫女は、その優しさを崩さない。
花の様な微笑も。
柔らかな声音も。
現とは思えない、幻の様な世界で穏やかに微笑む。
「これからモモンガ様達がいらっしゃるのでしょう? 場所はどうするのですか?」
「そうね。あの大きな桜の下で良いんじゃないかしら? お料理はさっき作っちゃったから、後は運ぶだけだわ」
ベルンエステルが指差すのはこの聖域で一番大きな桜の樹。
背にした境内の軒下には、中々の大きさの重箱が何列か分けて積み上げられていた。
「ふふふ」
「? どうしたの、いきなり笑って」
「いえ……メインが和食なのに、デザートが和洋折衷なのは新鮮だったなぁ、と」
「リクエストがあったんだから仕様がないわね。私の所為じゃないわよ」
暫しの無言。
そして2人同時に笑いを溢した。
「ふふ」
「くす」
桜吹雪の景色の中。
石段に並んで座る姿はあまりに儚い。
美しい筈の光景は、何処か切なさを感じさせる。
そんな穏やかでゆっくりとした時間に終わりを告げたのは――
『ベルンさん!? た、大変なんですっ!!』
切羽詰まった声音のモモンガからの<メッセージ>であった。
『あら? どうかしたの? お花見計画が失敗とか?』
『いえ! ソッチは問題なかったんですがっ!! 別なのが大問題と言いますかぁ!?』
『くすくす。落ち着きなさいな。詳しい愚痴はお花見で聞くわ』
『あっ……ベルンさんまっt』
「……なにかしら?」
<メッセージ>を閉じたベルンエステルが横を向けば、クスクスと笑いを溢す巫女が居る。
「なにか良いことがあったのですね?」
「えぇ。酒の肴が1つ増えたの」
ベルンエステルの返答に、巫女は更に笑みを深くした。
「あらあら。まぁまぁ。 それはとても良きことです」
「くすくす。あんたも良い性格してるわね」
巫女に負けず、ベルンエステルも笑みを深める。
「きっと素敵な誰かに似たのでしょう」
「一体誰かしら? てんで思いつかないわね」
手にした湯呑を静かに口に運んで。
胸に広がる熱にホゥと息を吐き出す。
「綺麗ね」
「はい」
また一つ花弁が舞った。
あら?
久しぶり。
まだこのカケラを見ていたの?
あんたも中々どうして物好きね。
え?
この後のお花見がどうなったか?
くすくす。
それはもう大盛況だったみたいよ。
酒に酔ったアルベドが意中の殿方に抱き着いたり。
負けじとシャルティアが着物をはだけさせたりね。
双子達は料理に夢中で。
インテリ悪魔とダンディ執事は絡み酒。
あぁ。
コキュートスは配下の雪女達と静かに吞んでたわ。
プレアデス達は勿論、他の僕達も大騒ぎ。
大事な大仕事の前のガス抜きには丁度良かったんじゃない?
きっと後片付けが大変だわ。
メイドも酔い潰れるだろうし、ご愁傷様ね。
私?
私は眺めて楽しむだけよ。
なぁに?
それは可笑しい、ですって?
くすくす。
面白い冗談ね。
あらあら。
そうむくれないで頂戴。
馬鹿にはしてないのよ?
まぁでも。
楽しませてくれたお礼に一つ、良いことを教えてあげる。
あんたの部屋に窓があるでしょう?
そこから外を見てごらんなさいな。
ついこの前まで咲いていた花を見つけられる?
……どう?
見つかった?
それとも見つからなかった?
あぁ。
答えは言わなくて良いわ。
別にどちらでも構わないもの。
赤い箱の中身と青い箱の中身。
実はどちらも同じ中身なのは意外と知られていない。
え?
なんの話をしてるんだって?
くす。
さぁてね。
何だったかしら?
忘れちゃったわ。
さて、と。
そろそろ私はお暇しようかしら。
それじゃぁね。
機会があればまた会いましょう。
え?
今度こそ名前を教えて欲しい?
……くすくす。
嫌よ。
教えてあげないわ。
だって……あなたはもう知っている筈だもの。
第39話『求める先の風雅』お楽しみいただけましたか?
今回のお話を投稿するにあって、活動報告でお知らせした様に一部原作設定を捏造している箇所がございます。
うみねこというよりはひぐらしネタなのですが、何卒ご容赦いただきたく。
タグ追加した方が良いのでしょうか?
まだ大丈夫かな?
むしろこのネタを割と初期から温めていた祥雲。
季節的にもいい感じだったのでつい実現させてしまいました。
……お気に入りがめちゃくちゃ減りそうで怖いですね!
どうか温かいお心でお読みくださいませ。
さて。
前話でご感想をいただきました『yoshiaki』様、『サプリメン』様、『鬼さん』様
誠にありがとうございます。
毎回励みにさせていただいております。
当作品へのご感想ご考察等、いつでもお待ちしておりますので、お気軽にお寄せいただければ幸いです。
それでは次話にて。
祥雲