奇跡と共に   作:祥雲

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この世で確かに見えたのは。
        瞳に映るその姿。

この世で確かに見えるのは。
         心を焦がすその在処。

この世で誰もが見えぬのは。
        勝手に決めた勘違い。

この世で誰もが見てるのは。
         自分が嵌めた理想像。



捧げるモノ

先ほどまで感じていた重圧が消え去る。

 

モモンガとベルンエステルが転移した後の<闘技場>

至高たる支配者2人の姿は既にない。

ホゥと息をついたのは一体誰であったのか。

ようやく守護者達の身体と、張り詰めていた空気が弛緩する。

 

「す、凄く怖かったね、お姉ちゃん」

 

「ほんと。あたし押しつぶされるかと思った」

 

最初にアウラとマーレの姉弟がブルリと身を震わせた。

他の守護者も同様なのだろう。

思い思いの表情を浮かべている。

 

「流石は至高の御方々でありんす」

 

「マサカコレホドトハナ」

 

続くのはシャルティアとコキュートス。

シャルティアは頬を赤く染め上げ、コキュートスはガチガチと口元から音を鳴らした。

 

「あれが支配者としての器をお見せになられたモモンガ様の御姿なのね」

 

「おや? アルベド。守護者統括ともあろう君が、至高の主人たる御二人の内、御一方しか目に入らないというのは聊か問題ではないかね?」

 

「あら? そんなつもりはなかったのだけど、気を付けるわ」

 

シャルティアに負けない位、蕩けた顔をしていたアルベドに、デミウルゴスが眼鏡を押し上げながら苦言を零した。

アルベドは微笑みながら返す。

 

「そう願っているよ。それにしても抑えられていたとはいえ、モモンガ様のあの重圧は実に支配者たる素晴らしいものだった」

 

「そうでありんすな。でも…」

 

ふとシャルティアが言葉を濁しす。

モゴモゴと口を動かした後、意を決して言葉を繋げた。

 

「……失礼とは承知しておりんすが、ベルンエステル様からは重圧を感じんせんした」

 

「確かに……」

 

「で、でもお姉ちゃん? ベルンエステル様の魔法…なのかな? す、凄かったよね?」

 

殆どの者が首を傾げた矢先、マーレの言葉が響いた。

 

「魔法? どういう事かしら?」

 

アルベドが尋ねる。

一体なんの事かと。

マーレに話を聞けば、なんとモモンガとベルンエステルの2人が自分達の到着を待つ間に訓練をされていたそうではないか!

その事実と、至高の御方々の偉大なお力の一端を目に出来た双子に嫉妬の混じった視線が突き刺さった。

そんな視線も気にしないと言わんばかりにアウラがニシシと笑って告げる。

 

「ほんと凄かったのよ! だって只、一言お言葉を喋られただけで沢山あった藁人形が一瞬で消えたんだもん!!」

 

「ソレハ真カ!?」

 

「……なるほど」

 

アウラの言葉にざわつく周囲を他所に、デミウルゴスは納得した様子。

 

「デ、デミウルゴスさんは何か知ってるんですか?」

 

「私の創造主であるウルベルト様が話されていたのを聞いただけなのだがね。諸君はベルンエステル様というお方が、このナザリックに来られる以前に、何処に居られたかは知っているかい?」

 

デミウルゴスの問いかけに答える者はいなかった。

 

「ふむ。誰もいない様だ。…かつてベルンエステル様は『元老院』というギルドに所属されいていたそうだ」

 

「元老院?」

 

「そこは魔女達の頂点たる存在しか所属を許されない、いわば魔法職最高峰の機関らしい。そこに属する魔女は、たった一人で世界を壊す事すら容易。魔法職最強と謳われたウルベルト様をもってして、元老院の『大魔女』と呼ばれる最上位者の相手だけはしたくない……そう仰られていたよ」

 

「モシヤ……ベルンエステル様ハ……」

 

「コキュートスの察した通り。ベルンエステル様はその元老院にて大魔女と呼ばれる存在だったそうだ。そんなベルンエステル様にしてみれば、一々魔法という術式を通さずとも世の理に干渉する事など造作もないのだろうね」

 

「そ、そうなの!?」

 

「流石はベルンエステル様でありんすぅ!!」

 

偶然とはいえ、偉大な主の想像だにしなかった経歴を知った守護者に歓喜という感情が走る。

因みに真実としてベルンエステルの行使したのは、ベルンエステルの修めた職業固有の<エクストラスキル>と呼ばれるものだ。

断じてデミウルゴスの語った様な、超常的なモノではない。

そんな中、コキュートスが元々の話の焦点を思い出した。

 

「……シカシ、ソレ程ノ御方カラ何故重圧ヲ感ジナカッタノダ?」

 

「考えてもみたまえ。我々の常識を容易く凌駕されるお力を持つベルンエステル様。その方がお力の一端とはいえ解放されたらどうなる? 只でさえモモンガ様の重圧に押しつぶされそうだった我々は?」

 

そこで守護者全員の脳裏に閃光が迸る。

 

「皆、気付いた様だね。そんな事になっていたら、我々如きが耐えられる筈もない。そうベルンエステル様はお考えになられたのだろう」

 

「……なんと慈愛に満ちた御方でしょう」

 

震える声でセバスが呟く。

アルベドを除いた守護者の目尻がキラリと光ったのは、彼らにしてみれば仕方のない事。

神とすら崇める至高の主人の慈悲に触れたのだ。

ナザリックの『僕』にしてみれば身に余る光栄なのである。

そこに真実を持ち出してくれる都合の良い存在はいない。

 

「……そういえばシャルティアはどうして傅いたままなの? いい加減に立ったら?」

 

感動に打ち震える心が落ち着いた頃。

 未だに姿勢を変えないシャルティアを疑問に思ったアウラが問う。

シャルティアはブルリと身体を一瞬震わせたかと思うと、気まずそうに視線を泳がせた。

 

「モモンガ様の凄い気配を受けたり、ベルンエステル様の偉大な過去を聞いていたらゾクゾクしてしまいんして…少ぅしばかり…いぇ、かなぁり下着が不味い事に」

 

―ピキン―

 

確かに彼らは空気が凍ったと認識した。

永久凍土に座すコキュートスが太鼓判を押すのだから、その認識は正しい。

 

シャルティアは創造主たるペロロンチーノによって、彼が望んだ多くの性癖や嗜好を設定されている。

口調の正しくない似非廓言葉もそうだが。

膨大ともいえるその中に『死体愛好癖』・『両刀使い』であるという設定があるのだ。

つまり、シャルティアは相手が骨であろうが同性であろうが構わず欲情して喰っちまう変態という名の淑女なのである。

その姿をアルベドが蔑んだ目で見据えた。

 

「……このビッチ」

 

「ぁあ゛? やんのか大口ゴリラが?」

 

それより先は、恐ろしい女性同士の諍いが延々と繰り広げられた。

もしその場にモモンガが居たのなら、彼の抱いていた女性という生き物への幻想は砕け散っていたレベルで。

ギャーギャー騒ぐ女性二人を放置して、残るメンバーは話を進める。

 

「ではそろそろ私は失礼させていただきます。お二人から命ぜられた仕事がありますので」

 

「あ! あたしもー! じゃね!!」

 

「ま、待ってよぅ、お姉ちゃん!」

 

「サラバ」

 

最初に一礼したセバスが。

次にこれ幸いと駆け出したアウラが。

次に遠ざかる姉を追ったマーレが。

次にフシュ―と冷気を迸らせたコキュートスが闘技場を後にした。

 

「あぁん!? あんたなんか●●した●●の●●●でしょうが!? ●●して●に●したまま●●ってあげましょうか!?」

 

「んだとこの●●●!? てめぇこそ●●に●●させてから●●して●●を●●して●ってやんよ!?」

 

 

「ふむ、では私も行きますか。……後ろの2人は…………聞こえてませんし」

 

残ったデミウルゴスも珍しくため息をつきながら歩き出す。

その背中は何処か会議の後に疲れ切ったサラリーマンを彷彿させた。

残されるのはサキュバスとヴァンパイア。

2人の乙女が誰も居なくなった事に気づくまであと数分。

 

 

 

 

<闘技場>で恐いキャットファイトが繰り広げられていた頃。

当の支配者2人。

モモンガとベルンエステルは、テクテクとある場所を目指して歩いていた。

 

「ベルンさん……どうしても行かなきゃ駄目ですか?」

 

「駄目よ」

 

「そう言わず? ね? ね?」

 

「駄目よ」

 

―くっ! こうなったら!

 

ベルンエステルの前に移動したモモンガは立ち止まり、自身の考えつく最終兵器を使用する。

 

前屈みにその巨体を折り。

両手を祈る様に組んだ。

 そして下からの上目遣いで見上げる。

世に言う『お願い』のポーズであった。

 

「……何を逃げ腰になってんの? それに骸骨が胸の前で手を組んでおねだりしてもちっとも可愛くないわ。生者になって性別変えてから出直しなさい」

 

「酷い!?」

 

モモンガの全力の懇願をバッサリと切り捨てるベルンエステル。

 

―そんな!? 茶釜さんはこれをすれば誰でもお願いを聞いてくれるって言ったのに!?

 

そんなモモンガの胸中を察する魔女はいなかった。

いや、その目元が僅かに動いた事からわかってやってる可能性は否定出来ない。

因みに、ぶくぶく茶釜がその仕草をモモンガに伝授していた時に居たメンバーの中に、しっかりとベルンエステルの姿もあった事を明記しておく。

かつてであれば、『ガーン』というアイコンを表示させていたであろう動かないモモンガを強引に引きずりながら、ベルンエステルは歩みを進める。

 

「楽しみね。あのコは一体どんな風に動くのかしら? きっとキレのある敬礼とかハリウッドスターばりの立ち振る舞いを魅せてくれるに違いないわ」

 

「嫌だ! 離せ! 離せぇぇぇえええー!!」

 

その小さな身体の何処にそんな力があるのか。

自身の三、四倍は違うであろう体躯の魔王を引きずる魔女の姿がそこにあった。

 

「くす。ほぅら? もうすぐ着くわよ? モモンガさん喉の調子は大丈夫? ドイツ語の語彙は? カタカタ笑う顎の準備はOK?」

 

「止めろぉ! 離せ! 離してお願い!?」 

 

暴れるモモンガ等気にしない、とばかりにベルンエステルは最後の曲がり角に差し掛かる。

 

「さぁ行きましょ? くすくすくす!」

 

「イヤァァァァァアアア!?」

 

目指すは、ナザリックの財宝が溢れる宝物庫の先。

ベルンエステルを含めた、かつてのギルドメンバー全員の最強装備が眠る霊廟だ。

 

「ベルンさんの鬼ぃ! 悪魔ぁあ! 鬼畜ぅぅぅう!!」

 

薄暗い廊下にモモンガの悲鳴が木霊する。

 

―モモンガの『黒歴史』との邂逅は近かった。




さて、如何でしたでしょう?

今話は守護者達の視点が主です。
しかしデミウルゴスさんは動かしやすいですね。
王都編以降を書くのが実に楽しみです。
色々と本文での仕込みも進めておりますので、もうしばらくお付き合い下されば幸いでござます。

ご感想を下さりました『ダヨー』様を始めとした方々。
誤字をご指摘下った『ドバド』様、『かう姉』様。
評価コメントまで書いて下さった『あううううううう』様。
そして、今回の話をお読みいただいた皆様にお礼申し上げます。
それでは次話にて。
                                       祥雲
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