貴方と共に、居れたから。
その日は良い夜でした。
宝物を供に、見れたから。
その日は良い夜でした。
世界が友に、映えたから。
その景色は、どう転んでも、整理整頓という言葉とは無縁である。
大剣・斧・ローブ・ティアラ……それにアレは……こけしだろうか。
取り敢えず買ったはいいけど、後は無造作に放り込んだとしか思えない。
そう、ベルンエステルは評価した。
今、ベルンエステルが居るのはモモンガの自室に隣接したドレスルーム。
いや、ドレスの類は見当たらないから、物置という言葉が相応しいかもしれないが。
いくつか物を拾って眺めては、飽きてその辺に放り投げる。
元から大差ないから構わないだろうと考えてこその暴挙なのだ。
決して片付ける気力が失せた訳ではない。
「……真っ白に……燃え尽きたよ……」
不意に聞こえた声に振り向く。
ドレスルームと彼の自室とを隔てる扉は開けたまま。
その先で、床に突っ伏すモモンガの姿があった。
「そうね。良い感じに骨しかないわ」
「はぅ!」
ベルンエステルが答えると、床でモモンガがビクンと跳ねる。
霊廟を出てから…正確には宝物庫を出て、この部屋に入った瞬間から現在まで繰り広げられている光景だ。
「……ぅぅ……まさか若気の至りに対面する日が来るなんて…」
そうモモンガが溢したのは何度目だったろう。
20を超えた辺りからはベルンエステルも数えていなかった。
「私の期待通りの存在だったわね。靴を鳴らしてビシッと敬礼したかと思えば、ハリウッドスターに引けをとらない大げさなターンを披露。しかも締めは『Ween es meines Gottes Wille!(我が神のお望みとあらば!)』 もう拍手しか出ないわ」
「もうやめて!? とっくに俺のライフはゼロよ!?」
「そうね。死んでる骸骨だもの。生命力なんて元からないでしょ?」
「上手いなちくしょう!!」
ダンダン!とモモンガが悔しそうに床を叩く。
「……っぷ」
「……っくく」
そのままエンドレスループに入るかと思われたが、突然2人は口を押さえた。
「あはははは! いやぁ懐かしい! よくこんなやり取りしてましたね」
「くすくす。全くだわ。それに、モモンガさんも言う程、あのコの事嫌いじゃないのでしょう?」
「ぅっ! バレてましたか?」
「この私が気付かないとでも? あのコは貴方の息子だもの。優しいモモンガさんが本気で嫌う訳がないわ」
「……いやでも……こう……直視出来ないと言いますか…余りに過去の自分の厨二加減が再現されていると言いますか……センチメンタルな部分が曝け出されてると言いますか…」
「あの能力の事を言ってるの? だとすれば見当違いも甚だしいわね」
「え?」
モモンガはガバリと体を起こした。
そんなモモンガを後目に、ベルンエステルは勝手に椅子に座る。
此れではどちらが部屋の主人か、論議が醸し出されるであろう。
一方は椅子で悠然と足を組む魔女。
一方は床で自然と胡坐をかく魔王。
正解は『床に自然と胡坐をかく魔王』である。
「一度しか言わないわ」
ベルンエステルの、非常に珍しい茶化しの一切ない真剣は声に、モモンガは動く事が出来なかった。
「貴方には何の罪もない。罪があるとすれば、私や他のギルドメンバーにこそ罪がある。この私ですら、一度はナザリックを離れてしまった。貴方を孤独にさせてしまった。理由はどうであれね」
「そんな! だってベルンさんはご病気で!!」
ベルンエステルらしからぬ、後悔の表情。
それを真正面から直視するなぞ、モモンガには耐えられなかった。
気が付けば声を荒げている。
先程から光っぱなしな位だ。
「そんなのは関係ないわ。私は貴方があのコを作った経緯を知っている。作り上げるまでの努力を目にしてる。……あのコに込めた願いを知っている」
対する正面のベルンエステルは、決して視線を外そうとしない。
今まで溜めていた感情を吐き出す様に。
今まで言えなかった言葉を紡ぐ為にも。
決して彼から目を背けない。
「だからこそ、私はモモンガさん。貴方に謝らなければならない。言わなければならない。魔女としてではなく、一人の友人として」
椅子からストンと飛び降りる。
身を低くしながら、ゆっくりとモモンガの許まで来ると、その剥き出しの頬骨に手を重ねた。
骨特有の硬い感触が、指先からベルンエステルの脳に伝わっていく。
「…独りにしてごめんなさい…………そして……たった独りでこのナザリックを守ってくれて。……ただ独りだけでも私を待っていてくれて……………………ありがとう」
「!!!」
その言葉を受けた瞬間、今までの比ではない勢いでモモンガが淡い光を纏う。
モモンガの自室を、緑色の光が延々と染め上げる。
まるで光が2人を赦すかの如く。
この日、本当の意味で『アインズ・ウール・ゴウン』は再誕したのだ。
「……ありがとう……ございます……!! ありがとう……あり…………!……!」
モモンガは言葉に詰まった。
それは仕方のない事だろう。
それは仕様がない事だろう。
だって、今、この時に自分が赦された気がしたのだ。
―あの楽しかった日々が忘れられなかった。
―あの最高の友人達にもう一度会いたかった。
―彼らが何時でも帰れる居場所を守りたかった。
そんな醜いとさえ感じる執着がパンドラズ・アクターを作り出した。
そんな醜いとしか感じない執着でユグドラシルをプレイし続けた。
そんな醜いとすら理解していた執着で、今日まで生きてきたが故に。
ベルンエステルの言葉はまるで魔法の様に、彼の心に染み込んでいく。
ふと気が付けば、モモンガは温かい感覚に包まれていた。
「ぁ」
「ジッとしてなさい。……動いたら殺すわよ?」
骨の鼻孔を甘い香りが擽る。
華奢ながらも柔らかな感触が骨を伝わった。
確かに此処に居るのだと。
確かに此処で生きてると。
そんな想いを込めた、友の抱擁。
「……はい……絶対に……動きません」
それはモモンガが―鈴木悟がこの世界で初めて感じた温もりだった。
幾何か時間は過ぎて。
胸のつかえが綺麗にとれ、色々吹っ切れた状態で漆黒の全身甲冑を纏うモモンガと。
胸のつかえも綺麗にとれ、常と変わらずに歩みを進めるベルンエステルの2人が居た。
現在、彼らが歩くのはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで移動できる中で、最も地表に近い場所である中央霊廟。
ガシャン、ガシャンという鎧の擦れる音が微かに響く。
「でもまさか、こうでもしないと剣が持てないとは思いませんでした」
「変な所でゲームの制約が生きてるのね。私には関係ないけど」
そう。
モモンガが<上位道具創造>で鎧を纏うまで、手にした剣や斧があらぬ方向にすっ飛んでは、ドレスルームを更に混沌とした惨状にするという事件が起きたのだ。
ベルンエステルに関しては、普通に近接系の職業も修めている為ほぼ問題なかった。
「だけど結果オーライですよ。この恰好なら誰も俺だとわからないでしょうし! リフレッシュに行きましょう! Theお忍び!って感じで「これはモモンガ様、ベルンエステル様。近衛もお連れにならずにこんな所までいらっしゃるとは、一体何事でしょう?」……した。ハイ」
モモンガの目論見は瞬時に破綻した。
出口付近に佇んでいたのは、第七階層守護者デミウルゴスであった。
モモンガはこの変装?に多大なる自信を持っていたのだが、あっさり看破され意気消沈。
流石、ナザリックのNPC一の出来る男は伊達ではない。
柱の陰には、デミウルゴスの配下たる悪魔がこちらに跪いている。
「それに、そのお召し物は……」
「色々と事情があるのよ。それに今、隣に居るのは『モモンガ』さんじゃないわ」
「あぁ。私の事は『ダークウォリアー』と呼べ」
「……『ダークウォリアー様』……なるほど、そういう事ですか」
モモンガは内心で?を浮かべた。
―え? 何がなるほどなの? ネーミングダメだった? カッコよくない? ねぇほら?
「御二人の深遠なるご意向の一端は理解出来ました。まさに我等が忠を尽くすに相応しき御方々であらせられます。ですが、やはり供を連れずに出歩かれるとなりますと、私も見過ごす訳には参りません」
『コイツ……ついてくる気じゃないですか!?』
『リフレッシュ計画。開始3分もせずに失敗ね。くすくす』
「何卒この哀れな者に寛大なるお慈悲を賜りますよう、お願い申し上げます」
モモンガは悩む。
短い時間とはいえ感じた、忠誠心の塊の守護者達。
道中ですれ違った、一般メイドですら同様の有様。
そんな存在が、果たして主人の安全を前に折れるだろうか?
答えは否。
断じて否である。
断腸の思いでモモンガは口を開いた。
「……よかろう。お前のみ同行を許す」
「私の我儘を受け入れていただき、感謝いたします」
「話は纏まった?」
「えぇ。……行くぞ。しっかり供をせよ」
「はっ! ……お前達は此処に残り、私の行き先を伝えておく様に」
「畏まりました、デミウルゴス様。ダークウォリアー様、ベルンエステル様。どうか、お気をつけ下さいませ」
するりと脇を抜けて歩き出したベルンエステルを先頭に、一行は地表へと赴く。
残された悪魔達は恭しく頭を垂れた。
階段を上がり、外界を目にした時の興奮をモモンガは忘れないだろう。
「! わぁ……!」
脳が感情を理解するよりも先に、無意識に<飛行>を唱え空中に舞い上がる。
そのまま高度を上げていく。
少しでも上へ。
少しでも天へ!
見渡す限りの星の海。
白や青の宝石を鏤めたとしか表現出来ない、至上の夜天。
かつて、星空に焦がれたギルドメンバーの気持ちが、今なら理解出来る。
―凄い! 凄い!! 凄い!!!
モモンガが感動に打ち震えていると、隣にフワリ、いつの間やらベルンエステルが浮かんでいた。
下を見やれば、デミウルゴスも半悪魔形態で翼を生やし、此方に近づいている。
「……『ブルー・プラネット』さんにも見せてあげたいです。俺には『凄い』って陳腐な言葉しか出ませんが…彼ならなんと言ったでしょうか?」
「……言葉じゃなくて涙を流してたんじゃないかしら? だってこの景色は彼の夢そのものだもの」
「本当に……素晴らしいです……星と月で世界が輝いて……まるで宝石箱みたいだ」
熱に浮かれた様に星に手を伸ばすモモンガ。
追いついたデミウルゴスが、言葉を繋げる。
「そうなのかもしれません。この世界が美しいのは――御二人の身を飾る為の宝石を宿しているからかと」
リアルで聞けばお世辞としか捉えられなかっただろう言葉も、デミウルゴスが言うのだから本心なのだと、モモンガとベルンエステルは理解出来た。
そして、2人は奇しくも同じ想いを抱く。
「……いいえ。私とモモンガさんだけが独り占めってのもバツが悪いわ」
「……そうですね。どうせなら、ギルドメンバー全員でこの宝石箱を分け合いたい」
「なら『アインズ・ウール・ゴウン』らしいやり方ってもんがあるわよね?」
「えぇ。……世界征服なんて…面白くありません?」
「くす! いいわ。とっても退屈しなさそう」
「決まりですね!」
「!」
背後でデミウルゴスが息をのむ。
同時に、ゴゴゴゴ、という地鳴りに似た音が聞こえた。
遠くにナザリックのダミーが作られていく。
その姿は精巧そのもの。
近くで見たとしても、本物と遜色ない出来栄えだろう。
「……どうやらマーレはしっかりやり遂げてくれたみたいね」
「お見事ですね。さて、俺達も一仕事しに行きましょうか」
「ついでにマーレを労ってあげたら? きっとあのコ、モモンガさんに気があるわ」
「……え? 俺ノーマルなんですけど?」
軽口を交わしながら2人はナザリックと、そのダミーに幻術をかけるべく動き出した。
数日後、とある噂が王国に流れる。
何もなかったカルネという村近くの草原に突如、謎の建造物が現れたかと思えば、一時、数を増やしてすぐに見えなくなったというのだ。
ギルドで調査員が派遣されたが、何も見つける事は出来なかったという。
以下は参加したある調査員のコメントを記す。
―光る蝶を見たんだ。
それは金色の蝶だった。
まるで御伽噺に出てくる様な、それは綺麗な蝶さ。
あ?
俺は酔っぱらっちゃいねえよ。
この話をしたのはお前さんで何人目だっけか……まぁ良いさ。
でも、何人か青い蝶を見たと言った奴らが居たが、いつの間にかいなくなっていたんだ。
きっと飽きて帰ったんだろうよ。
え?
そいつらはどんな奴らだったかって?
金や女が大好きなロクデナシ共さ。
でも、どこか憎めない奴らだよ。
きっと、今頃は『良い夢』でも見てんじゃないのかい?
今話は如何でしたでしょうか?
前話までとは内容・趣向を少々変えたテイストとなっておりますが。
お楽しみ頂けましたら、喜ばしく思います。
UAが6000を超えたり、お気に入りが200を超えたりと、いまだに驚きを隠せません。
ご感想を下さりました『sirataki』様、『憂鬱雨』様。
ご評価下さった方や、お気に入りをして下さいました皆様。
そして、この作品をお読み下さっている多くの方に、今一度の感謝を込めて。
それでは次話にて。
祥雲