奇跡と共に   作:祥雲

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気付いた想いは何処にある?
      覆い隠した胸の中

抱いた想いは何処にある?
      包み隠した嘘の中

焦がれた想いは何処にある?
     知らず隠した夢の中



決意

「…………こうか? いや……こう?……むしろこう!」

 

ギルドメンバーの自室が隣接する、第九階層ロイヤルスイート。

 

そこに存在する執務室において、モモンガが大きな鏡を前に不思議な踊りを披露していた。

勿論、MP吸収効果はないが。

背後。

そんな主人に、尊い者でも見るかの眼差しが、老執事セバス・チャンから向けられている事をモモンガは気付かない。

 

「くっ! ……ゲームの時はコンソールとかあったのに! ベルンさんも見てないで一緒に考えて下さいよぉ」

 

件の鏡。

それは遠く離れた場所を映し出す事を効果とする、ゲーム内で<遠隔視の鏡>と呼ばれたアイテムだった。

低位の対情報系魔法で、簡単に妨害されるというデメリットが存在するが、視覚的に情報を得られるのは現状大きなメリットだ。

フゥと息を吐きながら挑戦を一旦止め、横の椅子で静かにワインを飲んでいたベルンエステルに向き直る。

磨き上げられた高級そうなグラスから、ゆっくりと中身がベルンエステルの喉へと消えていく。

グラスが、トンとテーブルに置かれたのを合図に、ようやくベルンエステルはモモンガを見た。

それを了承の意と解釈したモモンガは、まだ甘い。

 

―やった! 流石はベルンさん! 後でワインの味も体験させて下さいお願いします!!

 

すっかり、ナザリックの美食に味を占めたモモンガには仕方ない事かもしれなかったが。

しかし……パァと背景が明るくなった様な錯覚も、所詮錯覚でしかなかったのだと、すぐにモモンガは思い知る。

ベルンエステルは無慈悲に告げた。

 

「嫌よ。一緒にそのヘンテコな踊りをこの私にしろっての? 少し位、優しくされたからって調子に乗ってると骨密度下げるわよ?」

 

「え゛! それ俺にはマジでシャレにならないです!? むしろ出来るの!?」

 

「あら? どうして出来ないと? なんなら試しにベットする? チップは貴方の骨だけど」

 

「全力で謎の究明に取り組ませていただきます! マム!!」

 

「くす」

 

隣にいる魔女に敬礼する魔王。

果たしてベルンエステルの言った言葉が真実か否か。

確かめる勇気は、モモンガにはなかった様である。

 

ここ1年間は見られなかったモモンガの楽しそうな姿に、セバスはそっと眼尻をハンカチで拭った。

まるで時が戻ったとすら感じられたから。

再び最高の支配者に、それも2人同時に仕える事が出来るという喜びに打ち震えている。

今のセバスには、阿修羅すら凌駕出来る自信が溢れていた。

 

「……う~ん。でも実際サッパリなんですよ。これこそお手上げっていうんですか?」

 

「へぇ。舌の根も乾かない内に前言撤回しちゃうのね。試しに一発イッテミル?」

 

「骨ですから舌ないですけどね! キャー~お助け~!」

 

ニヤリと笑いながら、片手で銃を模したベルンエステルが、モモンガにその銃口を向ける。

 モモンガはモモンガで、キャーとお道化てみせた。

仕草は勿論『ハリー・アップ』!

両手を上に伸ばした瞬間、今までウンともスンともしなかった<遠隔視の鏡>の光景が移り変わっていった。

 

「やった! 動きましたよベルンさん!!」

 

「おめでとうございますモモンガ様」

 

「チッ」

 

「ありがとうセバス……今ベルンさん、チッって舌打ちしませんでした? チッて舌打ちしたよね!?」

 

「気の所為よ。セバス、おかわりを頂戴」

 

「畏まりました」

 

興味が失せたのか、ベルンエステルはセバスに命じる。

 一流レストランのウェイターでもこうはいかないと感じさせる所作の下、ベルンエステルが手にしたグラスに並々とワインが注がれた。

 

「美味しいわ。どこのワイン?」

 

「僭越ながら『ベルンカステラー・ドクトール』をご用意させていただきました」

 

「……くす!!」

 

「ほぅ? ベルンさんの名前に非常によく似ているな?」

 

「はい。以前、ベルンエステル様がワインがお好きだと溢されたのを、耳にした事を思い出しまして。料理長に命じて準備させた次第です」

 

「ありがとセバス。とっても嬉しいわ」

 

「恐悦至極に存じます」

 

―へぇそうなのか。セバスってホント出来る執事だよなぁ。洒落た銘柄をサラッと用意するし、長い時間付き合わせちゃってるのに文句一つ言わないし。なんか労いでも…そうだ!

 

モモンガは閃く。

頭に『!』のアイコンがないのが悔やまれた。

 

『ベルンさん聞こえますか?』

 

『どうしたのモモンガさん? 今凄く気分が良いから、お願いされなくても後でワインは味合わせてあげるわよ?』

 

『本当ですか!? あ。ソレはお願いしときますが本題は別です。こんなに俺達に尽くしてくれてるセバスに労いを兼ねて『アレ』渡そうと思うんですが、どうでしょう?』

 

『良いんじゃない? 何時かは渡す予定だったのだし。止める理由もないわね』

 

『わかりました』

 

<メッセージ>を終える。

そしてアイテムボックスからあるアイテムを取り出した。

 

「うむ。お前のその細やかな心遣いに感服したぞ。私自身、お前には随分助けられている。コレはその労いだ」

 

「!! ソレは!?」

 

モモンガが手にしているのは、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンであった。

セバスの瞳がはち切れんばかりに見開かれる。

 

「……この……様な至宝を、私如きが受け取っても宜しいのですか?」

 

「私はお前の働きに感謝しているのだセバスよ。無論、ベルンさんもな」

 

「モモンガさんの言う通りよ。さっきのワインも含めてね」

 

そこでワインを引き合いに出すあたり、相当嬉しかったのだろうとモモンガは強く感じた。

何かしらの思い入れがあるワインだったのだろうか?

残念ながらモモンガはワインに詳しくはなかった。

リアルでは大学教授だった『死獣天朱雀』あたりなら知っていたかもしれないが。

その内、ベルンエステルに聞いてみようと心の片隅に留めながら言葉を続ける。

 

「どうだ? これでもまだ、受け取る事を躊躇うか?」

 

「……いいえ。このセバス。謹んで賜らせていただきます。そして、恩情溢れる御二方の信頼にお応えし、より一層の忠誠を捧げましょう」

 

モモンガの前にセバスが跪いた。

気を抜けば今にも震えそうになる体を、偉大なる主人達の前に無様は晒せないと、全力で抑え付けている等、当然モモンガは知らない。

セバスはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを丁寧に受け取ると、左手へと運んでいく。

その様子にまさか!?という疑念がモモンガに過ったが、セバスが填めた指は親指だった。

そっと胸を撫で下ろす。

 

『一瞬ヒヤっとしましたよ』

 

『くす。セバスまでソッチだったら大変だったわね?』

 

『全くです。……指輪……左手……ぅ!……頭が……!』

 

モモンガの脳裏になにか、ノイズが走る感覚があったが、それもすぐに落ち着いた。

精神沈静化様様である。

もし効果が人型をとる日が来れば、モモンガは毎日せっせと、ご機嫌とりをしに行くに違いない。

そう自分でも感じられるだけの恩恵を得ている。

その比でない苦労も得ているが、今は天秤の上方だ。

実に現金なモモンガである。

 

「漸く操作も解ったし、色々見てみましょう」

 

主人の言葉を受けて、セバス佇まいを直し、背後に控えた。

 

まず<遠隔視の鏡>に映した景色はナザリックの周辺だ。

そのまま、ピントや俯瞰を調整していく。

1km・2kmと映し出す範囲を広げていると、ナザリック地下大墳墓から南西に10kmほどの所に小さな村を見つけた。

麦畑が傍らに広がるその村は、RPGでいう『最初の村』という表現がピッタリとさえ思える。

先ほどから動いている小さな点は村人だろうか。

その点にピントを合わせて、映像を近づけていく。

 

「第一村人発k……んん? もしかして、お祭りですかね? なんか忙しなく彼方此方動いてますよ?」

 

「どれどれ? ……惜しいわね」

 

「はい。これは祭りとは違うかと」

 

ベルンエステルはともかく、セバスの硬い声に嫌なものを感じながら更に映像を近づける。

 

「……なにかを寿ぐ訳でも、崇める訳でもない。これは……」

 

―殺戮よ

 

ベルンエステルの言葉が遠く感じる。

粗末な服を着た農民らしき村人達に、全身鎧で武装した騎士という風貌の集団が、剣で斬り付け、肉を裂き、紅い華があちこちに咲き誇る。

騎士達が一振り剣を振るうだけで、逃げ惑う村人達が一人、また一人と事切れていった。

 

「ちっ!」

 

モモンガは嫌なモノを見たと吐き捨てる。

折角、この世界の情報を得られると思ったのに、この村にはもう『なんの価値もない』ではないか。

ナザリックに益をもたらすならともかく…見捨てよう。

そう結論付けて。

 

―……え?

 

体が淡い光に包まれる。

今、自分はどう考えた?

今、この惨い虐殺を見てナニヲ?

モモンガは自分自身が抱いた考えに戸惑った。

 

―これじゃぁまるで……心まで人間じゃなくなったみたいだろう!?

 

鈴木悟は人間だ。

モモンガは骸骨だ。

いくら、骨の体になろうとも。

その事実は、心までは変わらないと『勝手に思い込んでいた』

 

―そうだ! ベルンさん! ベルンさんは!?

 

弾かれた様に、ベルンエステルを見る。

 

「くす」

 

魔女は実に愉しそうに微笑んでいた。

その姿にモモンガは恐怖する。

 

『……ベルン……さん……聞こえます……?』

 

『……聞きたい事はわかるわ。この惨劇を視て、なにを思ったか。でしょう?』

 

『はい。俺は……この光景に『何も感じませんでした』! こんなにも人が死んでいるのに! 同じニンゲンの筈なのに!!』

 

『私も一緒よ。なぜか彼らを同種とは見れないわ。むしろこの惨劇という舞台をクルクル廻るマリオネット位にしか感じない。それどころか、彼らの怨嗟が愛おしいとすら思えてしまう。まるで本物の魔女ね。あぁ……笑いを堪えるのに必死だわ。くす!』

 

ベルンエステルの言葉で、モモンガは認めたくない現実を確信した。

彼女の言葉も、自分の言葉も。

どちらも事実だとわかってしまったから。

だけども気持ちが楽にならないのは、一体どうしてだろう。

受け入れてしまえば楽になれるのに。

目の前の光景を、くだらないと一蹴出来ないのは、一体どうして?

 

「どういたしますか?」

 

控えていたセバスが問うてくる。

結論を出せないモモンガの揺れる瞳と、鏡の向こうで、命の灯が消えんとしている村人の視線が交わったのは偶然か。

 

―――娘達をお願いします―――

 

そう紡いで事切れた。

 

「!!」

 

「モモンガ様?」

 

何故だ。

こちらの視線に気付ける筈がないだろう?

何故。

何故。

何故!

 

思考が巡り…………止まった。

 

「……見捨てる。助けにいく理由も価値も、利益もないからな」

 

逃げる様に鏡に背を向けたモモンガが、何気なくセバスを視界に収めた瞬間。

 

 

    誰かが困っていたら助けるのは当たり前

 

 

「…………たっち……さん?」

 

老執事の背中に、かつての仲間を幻視した。

隣でベルンエステルも目を見開いている。

彼女も、自分と同じモノをみてるのだろうか?

 

そうだ。

なんで自分は忘れていたんだろう。

モモンガの最後の恩人が、ベルンエステルであれば。

モモンガの最初の恩人は、たっち・みーである。

 

ユグドラシルをプレイしたばかりの頃。

異形種狩りという風潮が蔓延った。

PKに遭い続け、いっそ辞めようかと考えていたモモンガを救った人の言葉。

アインズ・ウール・ゴウンの前身、『最初の九人』のまとめ役。

あの言葉がなければ、あの人が居なければ、モモンガは此処に居なかったのだから。

 

 

―思い出しましたよ、たっちさん。

 

 

「恩は返します。…………どちらにせよ、この世界での自分の戦闘能力は検証しなきゃいけなかった訳ですし。……ベルンさんは……どうされます?」

 

『これは俺の我儘です。事実を受け入れられない俺の……だから……』

 

「……くす。言うまでもないけれど。お供しましょう、我が友よ」

 

『良いん……ですか……?』

 

軽やかに椅子から降りたベルンエステルは、さも当然の様に、モモンガと並んだ。

 

『勿論よ。貴方が悩んだ果ての選択を、私は尊いと思う。貴方が選んだ先の未来を、私は見届けたいと思う。だけど私は悪い魔女だから。一度決めた事にはしつこいわよ? 100年だって、1000年だって付き纏ってあげるわ』

 

『それは……また……あははは』

 

<メッセージ>が閉じられる。

一体、この短い間に何度、横に並ぶ友人に助けられたのだろう。

心でそっと、感謝した。

 

もうモモンガに迷いはない。

 

「セバス!」

 

「はい。モモンガ様」

 

「ナザリックの警備レベルを最大限引き上げろ。これより私とベルンさんは、あの村へ赴く。アルべドには『真なる無』を除いた完全武装で来る様、伝えよ。村の周囲には隠密能力に長けた者達を潜ませろ。もしもの保険だ」

 

「畏まりました。直ちに」

 

一例してセバスが執務室を出ていった。

 

<転移門>

 

扉が閉まるのも確認せずに、モモンガは魔法を発動する。

闇が渦巻いたその扉は、モモンガとベルンエステルを祝福しているかの如く。

潜った瞬間に景色が変わった。

 

目の前には、嘲る表情で固まる数人の騎士の姿。

後ろには、背に大きな傷を受けながらも自らの命を楯に、腰にしがみ付く幼い命を守ろうと必死にもがく少女の姿。

 

モモンガは、己の明確な意思でもって魔法を使用した。

目の前の命を摘み取る為の魔法を。

背の後の命を摘み取らせない為の魔法を。

 

「<心臓掌握>!」

 

モモンガの掌の中で、柔らかいモノが潰れる感触と共に、騎士の一人が崩れ落ちた。

その亡骸をただ見つめる。

突如現れた、異形の存在を前に騎士達は僅かに怯んだ。

その様子にモモンガは苦笑を漏らす。

 

「……女子供は追い回せるのに、毛色が変わった相手は無理か?」

 

「……!……と、隣の少女だ! アイツを狙えぇぇえ!!」

 

流石にモモンガを見て、分が悪すぎると判断したのだろう。

一人の騎士が剣を振り被りながら、ベルンエステルへと迫る。

だが、それは。

 

「――それは悪手というものだ」

 

哀れ。

只の少女と侮った騎士よ。

その少女は……魔女である。

 

「<お行き子猫> 餌の時間よ」

 

「え? ……ぎゃぁぁぁぁぁああああ!?」

 

騎士の悲鳴が響く。

何時の間にか、小さな黒猫の群れが騎士の体に殺到していた。

一匹の猫が目を抉る。

一匹の猫が喉笛を食い千切る。

一匹の猫がハラワタを貪り出す。

 

「だ……ずげ……ぁ゛ぁぁ……ぁあ゛……………………」

 

悲鳴が収まる頃には、猫達はおろか、騎士の姿も消えていた。

残されたのは紅い血溜り。

それが、今の光景が夢でなかったのだと、その場に居る全員に示している。

残る騎士達も、抱き合う姉妹も揃って血の気が失せていく。

 

「あぁ……あ……」

 

「「……っ…………っ…………!」」

 

姿が少女だからと惑わされていた。

隣の異形とは違うのだと、思い込んでいた!

もう、騎士も姉妹も生きた心地がしない。

目の前に居るのは残忍な魔女と、それを従える冷酷な魔王なのだと、気付かされたのだ。

 

 

死の瞬間まで、ナニカに願った者が居た。

 

「せっかく来たんだ。無理矢理にでも実験に付き合ってもらうぞ?」

 

今際の際の祈りは確かに届く。

 

「直ぐに終わっちゃつまらないわ。みっともなく足搔きなさい? そうしたら少しは長生き出来るかもしれないわよ? くすくすくす」

 

 

だが、聞き届けた存在は神ではない。

 

 

カルネの村に、神は居ない。

 

 




如何でしたでしょう。
今話は中盤らへんから、暗めの内容となっております。
何卒、ご容赦いただきたく。

前話『最高のスパイス』で誤字が多くありました事を、この場を借りてお詫びさせて頂きます。
ご指摘下さった『zakojima』様、ありがとうございました。
あと、感想が一気に増えました!
『緋想』様、『神坂真之介』様、『頃宮ころり』様、『タブレット』様
『couse268』様、『あいう』様、『きってすてい』様、『無貌』様
『木屋町の桜』様、『アズサ』様
1日で10名の方々からご感想を頂けました。
評価を付けてくれた方、この作品を読んで下さっている皆様。
とても励みになります。

その中でベルン『エステル』じゃなく『カステル』じゃないのか?
というコメントがございましたので、こちらでも説明させていただきますね。

事実として、『エステル』という表記はワザとです。

この作品内で、『ユグドラシル』というゲームにおいて作成されたオマージュキャラという意味合いもありますが、実は聖書のエステル記も要素に入っていたり、という裏設定があります。
後は、1話での『ギルメン全員からドSの称号を~~』という記述にも絡めていたり。
恐らくは、多くの読者様が疑問に感じていた部分でしょうか。
配慮が足らずに申し訳ありませんでした。
それでは次話にて。
                                     祥雲
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