秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語 作:メトロポリスパパ
アリサの指揮の元、撤収作業をしているサンダースの面々。
それを神妙な面持ちで見ているケイであったが。
ケイは辺りをチラチラッと見回した後、その場を離れようとした。
「隊長?何処かに行かれるんですか?」
その場から離れようとしたケイに気がついたアリサが声を掛けた。
「え?あ、うん・・・ちょっとトイレ。後・・・よろしくね」
「あ、はい・・・わかりました・・・」
ケイは上着のポケットに手を突っ込み歩いて行き、その後ろ姿を見送るアリサであった。
同じ頃、聖グロリアーナでも椅子に座り紅茶を嗜みつつ撤収作業を見つめるダージリンと、その傍らにオレンジペコとアッサムが居た。
ダージリンは、突然立ち上がった。
「ダージリン様?」
「ペコ、わたくしお花を摘みに行ってまいりますわ」
「え?あ、はい。かしこまりました」
その時、ひょこっとアッサムの後ろから顔を出したツナギ姿のローズヒップが
「ダージリン様、お花を摘みに行かれるのでございますか?案外お子ちゃま趣味なのでございますわね」
慌ててアッサムがローズヒップの耳元で小声で助言する。
「違いますわローズヒップ!お花を摘むと言うのは、お手洗いに行かれるという意味です」
「あ・・・あー!おしっこに行かれるのでございますわね。ではわたくしも一緒に連れシ!モゴモゴ・・・」
ローズヒップは鬼の形相をしたアッサムに羽交い締めにされつつ口を塞がれ、何処かに連れて行かれてしまった。
「ぷっ・・・ぷふっ。クスクス・・・」
「は・・・ははは・・・」
「ふう・・・ではペコ、行ってまいりますわね」
「はい、かしこまりました。いってらっしゃいませ」
オレンジペコはダージリンの後ろ姿を見送り、紅茶を淹れ直そうとテーブルを見るとダージリンのティーカップが無いのに気付いた。
「・・・あれ?」
その頃ケイは・・・
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、運営本部のプレハブの前に黒塗りの高級車が一台停まっているのに気付いた。
運転手らしき男が高級車の傍らに立ち、誰かが出てくるのを待っているようである。
まだ・・・あの中に居る・・・。
ケイの顔付きが変わり、歩くスピードが速くなる。
運営本部へ向かってケイがドシドシと速歩きをしていると、プレハブの影から誰かが飛び出してきて腰元にしがみついてきた。
「隊長!いけません!やめてください!」
「!!・・・アリサ?!離して!」
「いいえ!離しません!」
「あのメガネに一発入れてやらないと気が済まないわ!お願い離して!」
「絶対離しません!」
アリサを引きずりながら歩いて行くケイ。
アリサも必死で引き留めようとするが全く歯が立たない。
そこへ・・・すっと人影が出てきてケイの前に立ち塞がった。
「んあ?ダージリン?!」
「あら?・・・奇遇ですわね。フフフ」
手に持ったソーサーからティーカップを上げて紅茶を一口飲み、ケイを見つめるダージリン。
アリサは救世主でも現れたような顔をして涙を流しダージリンを見ている。
「ダージリン・・・そこどいて」
「いいえ・・・どきませんわ」
その時、運営本部から文科省学園艦教育局局長 辻 蓮太 が出てきた。
それを見たケイがダージリンの横をすり抜けようとした時・・・
「こんなアメリカの諺をご存知?”Too many cooks spoil the broth.”」
「・・・コックが多いとスープが台無しになる」
「ええ、そうですわ。貴女が動かずとも、すでにわたくし達からの”一発”は充分に届いているのではないかしら?ほら、あの蒼ざめた顔をご覧なさいな・・・フフフ」
辻は蒼ざめた顔でハンカチで汗を拭いながら、すごすごと逃げるように高級車に向かい歩いている。
「ふう・・・アリサ・・・離して・・・」
アリサは無言で力を入れなおした。
「アリサ・・・もう、大丈夫だから・・・」
アリサが見上げてケイの顔を見ると、そこには何時もの、ちょっぴりすまなそうにしている隊長の笑顔が戻っていた。
一気に安心して腰が抜けたようにアリサはへたり込んでしまった。
「sorryアリサ、立てる?」
「は、はい・・・大丈夫です」
ケイから差し出された手を掴み、アリサは立ち上がった。
辻は車に乗り込み行ってしまった・・・。
「ダージリンも・・・私、せっかく美味しく出来たスープを台無しにしてしまう所だったかもしれないわ・・・ありがとう」
ダージリンはケイの後ろの方を一瞬チラッと見てから・・・
「いえ・・・わたくしは何もしていませんわ・・・フフフ、役人さんの顔も見られたことだし、わたくしは行きますわね・・・。あ、それと、カチューシャからなのですが、どうせ戦車にバスタブみたいなの付けて上陸したんでしょ?仕方ないからうちのズーブルでグロリアーナ艦まで送ってあげるわ。感謝しなさい!だって」
「ははは!それは助かるわね!なら、今からカチューシャの所に寄って行くわ・・・ダージリン・・・またね!」
「ええ・・・また後程・・・」
ケイは踵を返し、手をヒラヒラと振りながらもと来た道を戻っていく。
アリサもダージリンに頭を下げた後、ケイを追いかけて走って行った。
「もう!いい加減にしてくださいよ隊長!」
「ごめんごめん!」
ダージリンもくるっと後ろを向いて歩きだす・・・すると・・・
「おーい!ダージリン!」
淡い緑色のツインテールの女性が手を振りながらダージリンの方へ走って来た。
「ふう・・・なあダージリン!ここいらでぺパロニを見なかったか?」
「アンチョビさん・・・多分その方なら・・・先ほど運営本部前でケイさんと立ち話をしている時にお見かけいたしましたわ。少し離れた場所で、しばらくわたくし達の立ち話を聞いた後、何処かに行ってしまいましたわ」
「そうか・・・ならまだ近くに居そうだな。あいつ今回の件でかなり怒っていたからなぁ~バカだし何しでかすか
分かったもんじゃない。まったく・・・」
「フフフ、いえ・・・アンチョビさん、あの方はお利口な方ですわよ」
「んん~そうかな?ま、でも、話せばわかってくれる良い奴だ。おーい!カルパッチョ!運営本部前に居たってさー!ありがとう、すまなかったなダージリン」
「いえ・・・ごきげんよう」
ダージリンはアンチョビと別れ、歩いているとまたしても声を掛けられた・・・。
「ダージリン・・・ありがとう」
プレハブとプレハブの間に隠れる感じで壁にもたれ掛かり、腕を組みながらガムを噛んでいるベリーショートな髪形の女性が目線だけダージリンに向けている。
ダージリンは目を合わさず真っすぐ前を向いたまま・・・
「いえ・・・よろしくてよ・・・」
紅茶を一口飲み・・・
「・・・セイロン・・・」
プレハブにもたれ掛かってる女性はフフ・・・と軽く微笑みながら下を向き・・・
「私は・・・サンダースの砲手・・・ナオミさ・・・」
ダージリンはティーカップをソーサーに置きそのまま歩いて行ってしまった。
「さて・・・戻るか」
ナオミは走っていきケイ達に追いつくとアリサの肩に腕を回し、手で頭をわちゃわちゃと撫でた後
「よ!アリサ!何かあったの?」
「ちょっとナオミ聞いてよ!隊長ったら・・・」
「あ!こらアリサ!言ったらナオミに怒られるじゃない!言わないでよ!」
「え?何々?気になるだろう?言えよアリサ」
「それがね!かくかくしかじかで・・・・」
「そんなやつぶっ飛ばしてやればよかったのに!ははは!」
「ははははは!」