秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語 作:メトロポリスパパ
アリサに無線をセッティングしてもらい、ケイはどこかに無線を飛ばした。
C-5Mは巡航高度に入り、自動操縦にて飛行していた。
しばしの間、ケイ、アリサ、ナオミが一息つける時間だ。
ケイとアリサがゴソゴソと操縦室後方に移動し無線機をいじり始めた。
ナオミは機長席からその様子を覗いている。
アリサがケイの方に振り返り心配そうに言う
「これで良い筈です・・・けど、いいのですか?」
「OK、ありがとう」
ケイはヘッドセットを付けてPTTボタンを押す
「あー、あー、ブレイク、こちらはサンダース大学付属高校戦車道隊長のケイと言います、応答願う」
その頃、聖グロリアーナ女学院 情報処理学部の無線室では大騒ぎになっていた。
※秘匿無線に通信が入ってきたのだ、しかも堂々とサンダースから。
※秘匿無線 デジタル式の無線機で周波数を合わすだけでは交信は出来ず、交信するには暗号キーが必要。
協定を無視した行為であり、これは前代未聞である。
通信手が困惑している。
「室長!どう致しますか?応答いたしますか?」
室長と思われる生徒も片目をギュッと瞑り”いやぁ~・・・”という顔をしている。
引き続き通信が入る。
「こちらはサンダース大学付属高校戦車道隊長のケイと言います、入感有りましたら戦車道隊長のダージリンを呼んで頂きたく、応答願います」
室長が迷っている所で、後ろから肩を触れられ振り向くとアッサムであった。
アッサムは黙ったまま首を縦に振る。
アッサムは、情報処理学部第6課 通称GI6に所属している。
室長は軽く頷くと。
「応答してさしあげろ」
通信手も、こくっと頷く
「こちら、聖グロリアーナ女学院です」
「応答感謝します。秘匿無線に割り込んで申し訳ない。戦車道隊長のダージリンに繋いで頂けないでしょうか?」
通信手がアッサムを見る
アッサムが頷く
「了解いたしました。しばらくお待ちください」
室長がPHSでダージリンに電話をかけると、程無くダージリンが無線室にやってきた。
通信手がPTTボタンを押す
「こちら聖グロリアーナ、ケイ様応答願います」
「こちらケイよ」
「ダージリン様がお見えになられましたのでお繋ぎいたします」
「了解」
通信手が、どうぞ、と席を譲る。
ありがとう、と言いダージリンが席に着く
「おまたせ、ダージリンよ」
「ハァーイ!ダージリン、元気してた?」
「ええ、お陰様で、それより・・・まるでチューリングね」
「そこはフリードマンって言って欲しいかな」
軽い挨拶と談笑の後、ダージリンが本題に入る
「で、わざわざこちらの秘匿回線に割り込んでまでの無線通信の理由はなんなのかしら?」
「ん~~・・・実はね、今、輸送機で大洗に向けて移動中なのよ」
やはり大洗の・・・とダージリンは思いつつ
「なるほど、それで無線なのね、で、なぜそれをわたくしに?」
「ダージリンはもう知っちゃってたりするんじゃないのぉ~?」
あれだけの部隊を指揮している隊長だけあって侮れない。
とぼけても仕様がないので知っている事を話すダージリン
「ええ、大洗が今月末で廃校になるという事は先ほど聞きましてよ。今の所、わたくしが知っているのはそれだけ・・・それで、ケイさんは何故、大洗まで輸送機を飛ばしていらっしゃるの?」
少し間が空きケイが答えた・・・。
「・・・アンジーに頼まれたの」
アンジー?
ダージリンはちょっと首をひねり、すぐに”あー”と頷く。
角谷杏生徒会長の事ね。
続けてケイが話す
「大洗の戦車も文科省に没収されちゃうらしくって、それで、うちに戦車を預かってくれないか?って。戦車だけは守りたいってお願いされたの」
なるほど、ケイなら断らないだろう。
フェアプレイを是とする隊長であるケイが、大洗廃校の話しを聞き、怒り狂っている様を思い出して、ニヤッとするダージリン。
「なるほど、それで輸送機で移動中ですのね」
ダージリンは、遠くの方にかすかな、小さい光が見えたような気がした。
聖グロリアーナやサンダース等の強豪校は資金の潤沢な私立校である。
対して大洗女子学園は公立校、文科省に抗議を入れたとしても門前払いか、資金をを出せとなるだろう。
当然、資金を出す理由は私立校には無い。生徒にそんな権限も無い・・・。
現状で出来る事と言えば、大洗の戦車道隊員を引き取る事ぐらいしかと思っていたが・・・。
角谷杏生徒会長が動いている。
《会長は諦めていない・・・》
ケイが話す
「でね、戦車は大洗の方で紛失したという書類を作ったらしいんだけど、正直、ちょっと無理があると思うんだよね~」
ダージリンも首を捻り
「流石に、ちょっと無理が有りますわね・・・汗 ついさっきまでわたくし達と試合をしていましたし」
「でしょ~?よほど切羽詰まってるんじゃないか?って、明日の朝までには退艦しないといけないって言ってたし、それに、私達が大洗まで飛んでるのも調べれば即バレる訳だし」
「確かにそうね」
サンダースが飛ばしているのは、当然であるが一般機である。
フライトプランを出し、トランスポンダーにより管制レーダーにも捉えられている。
もし、プランを出さずにトランスポンダーを切って飛べば、すぐさま空自のF-15J改イーグル+にインターセプトされるだろう。
「でね、お願いがあるの。残念だけど私達はもうこれ以上動けないのよ。これ以上動けば勘ぐられる、だから秘匿通信にしたの・・・私は大洗を助けたいと思ってる!もしダージリンにその気があるなら・・・ここからはダージリンに動いてもらいたいの」
ダージリンは目を閉じて俯き、軽く微笑んでいる。
そこから顔を上げ目を開けて話しだす。
「どこまで出来ますか分かりませんが・・・お引き受けいたしますわ」
「ありがとう!ダージリン」
ケイの感謝の言葉の向こう側で”パン!”とハイタッチの音が聞こえた。
「後はこちらに任せて、ケイさんは大洗の戦車を助けてあげて。それと、この無線はこれからは、この件についての連絡用に開けておきますわ」
「わかったわ!何か分かったら連絡ちょうだい、それじゃあね。OUT」
「わかりました。FOR OUT」
ダージリンは立ち上がり、通信手に御礼を言って無線室を出る。
続いてアッサムも出てくる。
「アッサム、聞いての通りよ。会長さんは諦めずに動いているようです。ならば、何があるか分かりませんが、何かが起こるはずです。会長さんの動きを調べて頂けるかしら、ただし、役人さんには感付かれないようにお願いしますね、会長さんにもです。もし感付かれてしまえば会長さんの行動が水泡に帰してしまいますわよ」
「そうですね、わかりました。それと、後、二~三日もすれば大洗廃校の報は知れ渡ることになると思いますが・・・」
「それは、追い風になりますわ」
「そうですね・・・では」
アッサムは一礼し、また無線室に入っていく。
ダージリンは、半目で口を閉じてニヤッとする。
廊下の明かりで顔の右上辺りに真っ黒な影ができている。
たぶん、一番憤慨しているのはダージリンなのかもしれないのであった。
浮かない顔でいるカルパッチョにアンチョビが尋ねると・・・。
次回【Steep news アンツィオ】
2016/12/07
間違えて削除してしまった為、セリフ回しを少し変えて再掲載しました。