秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語   作:メトロポリスパパ

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知波単の悩める隊長、西絹代。
大洗廃校を知り、何を思う・・・。


【Steep news 知波単】

知波単学園学園艦

知波単学園戦車道 隊長 西絹代

午後の昼下がり、彼女は、先日のエキシビジョンの残務を終え、戦車道隊舎の水場でオートバイを洗車していた。

陸王VLE1200、西はこれに「ウラヌス」と名付け、可愛がっていた。

純白のタンクを磨き上げ、西は言う。

 

「ウラヌスよ、綺麗になったな」

 

腕組みをし、ニッコリ微笑みながら、ウンウンと頷いていた。

そこへ・・・

 

「西隊長殿!こんにちはであります!」

 

西が振り向くと、薄い青味がかかった夏らしいワンピースに、麦わら帽子を小脇に抱えた女性、と言うよりは女の子が、ビシッと敬礼をして立っていた。

西は少しの間、彼女をじぃーっと見つめ。

 

「おお!福田か!髪を解いているから分からなかったぞ」

 

「すいません!隊長殿!」

 

西はニッコリ顔で言う。

 

「いや、謝る必要はないぞ福田、よく似合っている」

 

「ありがとう御座います!隊長殿!」

 

福田はまだ敬礼をしている。

西は、軽く息を吐き、諭すように言う。

 

「福田、貴様は今日は休みだろう?そんなに硬くなるな」

 

福田は、少し表情を柔らかくしながら、敬礼を止めて手を下す。

 

「は、はいであります」

知波単の戦車道は、月月火水木金金の精神で休み無く、朝から晩まで、とまでは言わないが、日々訓練をしていた。

しかし、西に代替わりし、交代で休みを取るようになった。

隊員には概ね好評である。

 

西が尋ねる。

 

「福田、何処かに出掛けていたのか?」

 

「はい、街の本屋さんまで出掛けておりました」

 

福田が本屋の袋を見せようと、リュックから取り出そうとした時、手を滑らせ袋が落ち、中の本が数冊飛び出した。

 

西は落ちた本に目をやる。

 

「おー!世界戦車戦入門かぁ、福田は勉強熱心だな!ん?」

 

その「戦車戦入門」の下に、厚さが薄目で、凛々しい男性と中性的な男性の二人が、上半身裸で互いに見つめ合っている絵の本が見えた。

下半身は戦車戦入門に隠れて見えない。

西が聞く。

 

「その下の本はなんだ?」

 

福田は、慌てて本を拾いリュックに詰め込む。

 

「こ、こ、これは!か、かか、格闘技の本であります!」

 

福田は汗がダラダラ噴き出しているが、西は気に留める事無く。

 

「おぉ、格闘技かー!戦車の心は武道の心!だな」

 

と、一人で頷き納得している。

 

福田は、ふぅ、と噴き出す汗をハンカチで拭っている。

 

「所で福田」

 

「は、はいであります」

 

「少し時間はあるか?」

 

「は、特にこの後予定はありませんが・・・」

 

「なら、隊長室で茶でも飲んで行かんか?」

 

「い、良いのでありますか?!」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「ありがとうございます!あ、その前に・・・西隊長殿!」

 

西が少し首を傾げて聞く。

 

「ん?どうした?」

 

「自分の荷物を自室に置いて来ても構いませんでしょうか?」

 

「ああ、構わんぞ、では私はその間にウラヌスを仕舞うとしよう」

 

もし、隊長室で薄い本を見せろと言われたら・・・と思いながら、福田は駆け足で、隊舎の自室に荷物を置きに行った。

西も、水場の横に有る木造の小屋へウラヌスを仕舞う。

福田が駆け足で戻ってきた所で、二人は隊長室に向かった。

 

知波単学園戦車道 隊長室

 

西が扉を開けて言う。

 

「さあ、入ってくれ」

 

「は!失礼します!」

 

福田が一礼をし、中に入る。

西も中に入って扉を閉め、優しく言う。

 

「まあ、座れ」

 

「はい!」

 

福田はソファーにちょこんと座り、歴代の隊長の肖像や表彰状、盾等を見上げて見回している。

何度か上級生と入った事はあるが、極短時間である。

西は、部屋の端に有る給湯室から顔を出し言う。

 

「今、美味い茶を淹れてやるからな。待っていてくれ」

 

「は!恐縮であります!」

 

暫くして、西がお盆で急須と湯飲みを持ってくる。

西は福田の対面に座り、お盆から湯飲みを差し出した。

 

「待たせたな。まあ、飲め」

 

「は!有り難く頂戴致します」

 

福田は湯飲みを手に取り、軽くズズズと口を付けた。

 

「!!」

 

福田はあまりの渋さに驚嘆したが表情には出さなかった。

 

「お?茶受けを忘れていたな」

 

そう言うと西は給湯室に戻って行った。

福田はその隙に、急須の蓋をそぉっと開けてみる。

 

「あ゛・・・あ゛あ゛・・・」

 

そこには、見た事の無い程の量の茶葉が入っていた。

西の気配を感じ、慌てて蓋を閉める。

西は小皿に載った桜餅を二つ持ってきて、一つを福田に差し出し座る。

 

「すまなかったな、これは私が懇意にしている店の桜餅だ。よかったら食べてくれ、美味いぞぉ」

 

「は!こちらも有り難く頂戴致します!」

 

手に取り、はむっと食べると甘味と塩味、それに桜の葉の香りが絶妙でとても美味しい。

 

「どうだ?美味いか?」

 

「はい!とても美味しゅうございます!」

 

そうだろぉー!と言いながら、西は自分の湯飲みを手に取る。

福田はそれを凝視している。

 

ズズズ

 

「っはぁ〜やはり、茶は日本茶に限るな!福田も遠慮せずに飲んでくれ」

 

「は・・・はいであります」

 

福田は、西の味覚に驚嘆しつつ手に取った湯飲みを見つめ、ぐっと飲んだ。

福田が震えながら湯飲みを置いた所で、西の顔付きが変わり話し出す。

 

「なあ福田、先日の大洗の方々と組ませて頂いた試合、一緒に戦ってみてどう思った?忌憚の無い意見が聞きたい」

 

福田は驚いて、少しゲホゲホとむせながら。

 

「じ、自分でありますか?!」

 

「ああ、そうだ。どんな事でもいい、感じた事を聞かせてくれ」

 

福田は、両手を膝の上で握りしめ、俯き加減に話し出す。

 

「大洗の方々は・・・最初は・・・腰抜けだと思っておりました」

 

西は、ほお・・・、と聞いている。

 

「要所、要所で撤退を指示され、上級生殿や隊長殿は突撃を敢行しておられるのに、自分は突撃をさせてもらえず、なんと腰抜けな人達だと、本当に、この学校は優勝した学校なのでありますか?と思いました」

 

ふむぅ、と西は腕を組む。

 

「しかし、アヒル殿に付いて行くと・・・」

 

西が話を遮り聞く

 

「すまない福田、アヒル殿とは誰だ?」

 

「あ、申し訳ありません!大洗のアヒルさんチームの方々であります!」

 

「そうか、確かチイ車に搭乗しておられたな」

 

「はい、アヒル殿に付いて行くと、アヒル殿は撤退しながらも、常に策を練り、次の一手を考えておられました」

 

うん、と頷く西

 

「そして、自分は立体駐車場にて、アヒル殿と共に敏捷作戦第二号を敢行し、マチルダⅡを撃破致しました」

 

「福田は、確かそれが初撃破ではなかったか?」

 

福田は少し嬉しそうな顔で答える

 

「はい!・・・しかし、自分はアヒル殿の御指示に従っただけであります」

 

「撃破は撃破だぞ、福田」

 

「アヒル殿の方々にも、初撃破おめでとうと、言っていただけました」

 

福田の顔は綻び、西もニッコリ顔で笑いながら頷く。

 

「ははは!確か試合の後、福田はアヒル殿とハ号の隊員に胴上げされていたな!」

 

「はい!アヒル殿の方々はとても背が高く、少々怖かったであります」

西は、ウンウンと頷きながら

 

「つまり福田は、何か感じる物が有ったと言うわけだな!実は私も・・・」

 

コンコン

 

扉をノックする音が聞こえる。

 

「寺本です!西隊長は居られますでしょうか?」

 

西が答える。

 

「おう、寺本か。入ってくれ」

 

寺本は扉を開け敬礼をし、一歩中に入り扉を閉める。

福田も立ち上がり、寺本に敬礼する。

西が聞く。

 

「どうした?寺本」

 

寺本は、福田が居るのに気付き驚きの表情を見せた後、ばつが悪そうな表情で下を向き、西に顔を向け話し出す。

 

「西隊長、大洗の件は既にお耳に入っておられますでしょうか?」

 

「ん?何の事だ?」

 

「は!戦車道ニュース発表によりますと、本年八月三十一日付けをもって大洗女子学園は廃校になるとの事であります」

 

西は、バッと立ち上がる。

 

「なに!それは本当か?!」

 

「は!戦車道ニュース発表の記事ですので間違いありません」

 

「・・・何という事だ・・・」

 

大洗が何故戦車道を再開し大会に参戦したのか。

今や界隈で知らない者は居ない。

西も当然知っているし、いたく感銘を受けた者の一人である。

 

暫しの沈黙の後、西は福田を見る

福田は敬礼をしたまま下唇を噛み締め、目を見開き涙と鼻水を流していた。

西は視線を下に向けた。

 

「くっ・・・寺本、また何か分かった事があれば報告してくれ」

 

寺本は敬礼し

 

「は!了解致しました!」

 

「退がっていいぞ・・・」

 

「では、失礼致しました。」

 

寺本は心配そうに福田を見てから、一礼をし部屋を出て行った。

福田はまだ敬礼をし、泣くのを堪えている。

西は福田の前に立ち

 

「福田・・・」

 

と言い、右手で福田の肩に触れると、プルプルと震えているのを感じた。

福田は嗚咽を堪えながら

 

「隊長殿・・・自分は・・・自分は・・・」

 

西は優しく言った

 

「福田、友の為に涙を流す事は・・・恥ずかしい事ではないぞ・・・」

 

福田は西に抱きつき、堰を切ったように泣き出した。

 

西は左手の拳を握り締めながら思う。

 

「私は・・・友の為に涙する後輩に、何もしてやる事は出来ないのか・・・」

 

西は、無力感に苛まれていた。

 

「こんな私が隊長で、本当に良いのだろうか・・・」

 

知波単の悩める隊長、西絹代なのであった。




ついにあの学校が!
次回
【Steep news 継続】
よろしくお願い致します。
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