与太話   作:ハメるん

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その壱『殺さないけど復讐します』

 

 与太話

 

 その壱『殺さないけど復讐します』

 ~または、殺す代わりに殺された女性の話~

 

 あれは五十年くらい前になるでしょうか。

 

 当時の私は、若いながらに東京でタクシーの運転手をしていました。

 そう…あの昭和タクシー狂想曲時代。

 深夜帯は、自分のポケットに儲けを直接入れるなんてのが、まかり通ってた時代ですよ。

 そして、花の都大東京。

 金が儲かれば使うのが男の勤めって、若かったですね。たぶんに漏れず、キャバクラなんかで湯水のごとく流した物です。

 

 そして、そこで最初の妻になる女性と出会いました。

 

 いや、そりゃー美少女でしたよ。まだ、美人じゃ無く美少女。

 北海道から妹と二人で出てきたって触れ込みでしてね。いや、後で聞いたら妹じゃ無く親友だったってオチでしたが……まあ見てくれは文句なく、話し上手で、まだ夜の仕事について日も浅いって言うのに聞き上手でもある。

 夢中になりましたね。

 何度か酔いつぶして連れ出してやろうと飲み比べましたが、まるで相手にならない。じゃあ野球拳を持ちかけて脱がしてやろうとしたんですが、これまた強くて、逆に素っ裸にされる始末。

 夢中、正に夢中ですよ。

 朝から晩まで、彼女の事だけ考えて過ごす日々、なんて想像出来ますか?

 それくらい、入れ込んで過ごしましたね。

 そして、そんなこんなで三年ほど通ったんですが、どうしても所帯を持ちたくなりましてね。

 彼女と結婚したい。

 漠然とじゃなく、はっきりとそう思うようになりました。

 実際、仕掛ける前から勝算は結構あったんですよね。

 彼女は、北海道で両親や姉妹とまるで上手くいって無くて、万年使いっ走りみたいな事させられてたんです。だから東京に出てきた。

 いわば逃げてきた人間。

 話していて何度も実感したんですよね。

『彼女は家庭に飢えている』

 

 そして、妹と言っていた子が実は親友だとこっそり教えてくれた。

 仲の進展を実感しましたね。これは、男として仕掛けるべきだ、と。

 

 結局、給料三ヶ月分くらいの金で指輪を買ってプロポーズしました。

 ああ、イギリスの指輪会社さんのフレーズじゃ無いですね。私の世代だと、どうしても給料が買物の指標でしたし、二だとか四って数字は不吉で、好事じゃ絶対避ける数字でしたしね。

 で、色よい返事をもらいました。

 半年後には籍を入れて、式を上げ、キャバ店のみんなに祝福してもらって家に彼女を向かい入れたんですよ。

 当時は両親と暮らしてましたが、最初こそ北海道から来た出戻りの血筋……ああ、彼女のご先祖は、岐阜から開拓民として北海道入りした血筋でして、難癖みたいな物をつけられて結婚も反対されましたが、いざ一緒に暮らすと直ぐ彼女と仲良くなりましたね。

 基本的に世話焼きだったんですよ、彼女は。

 正に、一つの幸せの絶頂でしたね。

 

 ただ、ここで私は躓きました。

 彼女に選ばれるくらいの男だと、変に自信を持ってしまったんですよね。

 

 そう、浮気ですよ、浮気。

 いやー、ホントに情けない話ですが、結婚半年後には最初の浮気をしました。

 妻に不満?

 全く無かったですね。

 夜の相性も良かったですし、貧乏性だった妻は贅沢を嫌ってましたし、両親とも本当に直ぐ打ち解けた。

 醜い男の情けない言い訳ですが、良すぎたんですよ。

 で、最初の浮気で気をよくすると、そのうち今までキャバクラに突っ込んでいた金を別の方に回す。

 家に入れる金はさほどで良い。じゃあ、何処へ? ってなりましてね。

 数人を取っ替え引っ替えして、ここでバレました。

 

 よく考えれば直ぐ解る事だったんですよ。キャバクラ勤めでその筋に人脈がある社交性の高い女性。

 そりゃ、バレますって。

 何より、ここで誤算だったのは、この時初めてしった妻の気性でした。

 

 浮気に激高したんですよ。

 

 そして、私は妻を上手くなだめる事ができずに急転直下の離婚です。しかも、両親が彼女の味方をしたもんで、そりゃーヘコみました。

 苦し紛れに

「慰謝料なんて払わないぞ!」

 と脅しを賭けたのが致命傷になって、THE ENDです。

 慰謝料? いえ、逆に叩き付けられましたよ。手切れ金だとか言って二本(二百万)ほど封筒で。

 

 そして、正式に離婚した後で直ぐに復縁を迫った私は、彼女の仕返しに大火傷を負う羽目になったんです。

 

 復縁を迫った私は必死でした。

 他人が自分をどんな目で見ているか全く察せられないほど。

 しかし、彼女からすれば、家族を求めた自分に与えると迫っておきながら、結婚して直ぐ裏切った許されざる男です。

 

 彼女は、まず知人などに、

『私が自分に殺意を持っている』

 事を臭わせました。

 今じゃ笑い話程度にしかならない策でしょうが、無理心中は当時、負の花形でしたから効果は覿面ですよ。

 そして、私に復縁を承諾して、喜びに私を舞い上がらせつつ、一気に失踪です。

 失踪ってのは、こちら側の見方ですかね。

 キャバ店の常連客やお店の人間の協力を得て、正に煙のように引っ越してしまったんですよ。

 彼女の行動力と人脈を痛感しましたね。

 極めつけは、私の一連の、常軌を逸した行動を警察の方に臭わせたんです。

 キャバ店経由の、丸暴筋経由ですね。

 任意同行で引っ張られて本当に往生しました。

 

 突然失踪した女性に、復縁に固執して迫った男。

 分かり易すぎて、しかも私が本当に常軌を逸していた状態だったので真実みがありましたね。

 

 結局、彼女とはそれっきりになりました。

 それから十年ほどして今の妻と結婚し、一男一女にも恵まれ……。

 

 娘が付き合っている、と男を連れてきたとき、真っ先に最初の妻との事を思い出しましたね。

 結婚式には、恥ずかしかったですが今の妻にも承諾を取った上で最初の妻との失敗談を言って聞かせましたよ。

 浮気は、甲斐性とか冗談じゃ済みませんね。

 

 

 本日はここまで。

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