六月、まだ梅雨の時期に入らない上旬頃に俺たちは街に出かけていた。あと一週間もすれば雨が続く日々になるであろうと思い、今日にしたのだ。
しかしこうして街を歩くのはいつぶりだろうか。小学生の頃から会社の中で過ごし必要なものは全て用意されていた。無論娯楽もあったので尚更外に出る必要がなかった。友達はあの2人がいるだけで退屈はしなかったし恋人を求めることもなかった。
ある意味では俺はあの二人に依存していたのかもしれない。
隣を歩くキンケドゥに目を移すといつもの彼とは思えないくらいの機嫌がいいように見える。キンケドゥの手に握られている限定のクレープのおかげだ。店主が俺達をカップルと勘違いして偶然手に入ったものだが、その味は絶品だったのでカップルであること訂正しなくて良かった言える。美味しそうに食べるキンケドゥの顔を見ているこっちまでお腹が一杯になってきた。自分のクレープを譲ってやろうかと提案するとキンケドゥの顔が真っ赤になる。
「・・・・もらってやるからはやくよこせ」
クレープの上部分を手で切り取り残ったクリームが詰まった部分を渡す。当然だが俺が口をつけた部分を渡すわけにもいかないのでこうしている。
「・・・・・・」
何故か不服そうな顔をされてしまった。そんな顔をされてももうくれてやるクレープは残っていないのだ。まだ食べたいというならやめておけよ、昼飯を食べれなくなるからな。
「それくらいわかってるよ。・・・フン!」
そっぽを向かれてしまった。一体何が悪かったのか俺にはさっぱりだった。
昼飯を適当なレストランで済ませてまた街を適当にぶらつき始める。気まぐれにショッピングモールに入り服を覗いてみる。滅多に私服を買わないキンケドゥに何かプレゼントしてやろうと似合いそうな服を見繕う。出来るだけボーイッシュでヒラヒラしていない動きやすい服・・・真っ先に浮かんだのは中学時代に着ていたジャージだが、流石に怒られそうなのでやめておく。そこそこ良い服を見つけたのでコッソリと購入して店員に包んでもらい、後でサプライズとして渡そう。
どこに行っていたかと聞いてくるキンケドゥにトイレだと言って誤魔化し買い物を続ける。
買った服は気に入ってくれるだろうか。
☆
カタカタとパソコンで作業をする生徒会長を横目に手元のプリントをまとめる作業をこなす。時は放課後、俺は生徒会室で次の行事“タッグマッチトーナメント”について全校生徒に向けての告知準備をしている。
明後日には告知し、来週には開催されるため俺達生徒会は大急ぎでポスター制作と受付用紙を作成しなければならなかった。もっとも生徒会長が普段から真面目に活動していればここまで忙しくはならなかったのだが普段から校内の警備という名目で妹をストーキングもとい護衛していたからである。
会長を責めたかったが役員でありながら気づかなかった俺も同罪であり、何も言わずに作業することにした。
3時間後、ようやく必要な用紙も揃い、後は各教室に配布して廊下にポスターを貼れば告知は完了だ。
「こんな時間まで付き合ってもらってごめんねレーン君」
今更である。
しかし生徒会にでも入ってなければこういった作業を経験せずにダラダラしていただろう。それなら生徒会にいたほうが自分には有意義である。
むしろ生徒会には感謝しているのだから会長が頭を下げる必要はない。
それよりも早く夕食にしたいのでさっさと食堂に行きたい。
「ならお姉さんに任せなさい。今日はたくさん頑張ってもらったから奢ってあげるわ!」
流石に女性に奢られるのはと思ったが、ここまで頑張ったのだしご褒美として受けとろう。
その後、食堂で財布を持ってくるのを忘れた生徒会長を見て結局俺が2人分払った。
☆
〖 タッグマッチトーナメント開催の知らせ〗と大きく貼られたポスターが廊下に並ぶ。開催日は今日の10時からである。現在の時刻は11時を過ぎ、本来ならば二試合目が始まるはずだった。
しかし一試合目の最中にISの暴走が起こりアリーナのシールドバリアに破損、観客席にまで攻撃が届いてしまった。不幸中の幸いか怪我人は暴走を起こしたISのパイロットのみで、避難した生徒はみな無事だった。
生徒会はその後始末を任されており、俺はアリーナ周りの廊下に貼られたポスターを回収することだった。生徒会長や教職員達はアリーナの復旧作業および暴走したISの回収である。
どうにも暴走した原因がISのプログラムにあるらしく一般生徒には秘匿しなければならないため俺もアリーナの内側に入ることは出来ない。
当然だが今回のタッグマッチトーナメントは中止、アリーナの復旧完了までは使用不可である。少なくとも1週間は使えないだろう。
その後、生徒会長の命令で暴走したISのパイロットの様子を見に行こうと保健室に向かったが結構な人集りが出来ていて苦労した。
その時にパイロットがラウラ・ボーデヴィッヒだとようやく知った。
コイツも苦労しているのだな…と少しだけ同情した。