バタン、と大きな音を立てて乱暴にドアが開かれる。その向こうには、ルシウス・マルフォイがいた。腕の下には、包帯でぐるぐる巻きにされたドビーが縮こまっている。
「こんばんは、ルシウス」
ダンブルドアが機嫌よく挨拶した。マルフォイ氏は怒りの表情を浮かべ、ダンブルドアに歩み寄った。
「それで、お帰りになったわけだ。理事たちが停職処分にしたのに、まだ自分がホグワーツ校に戻るのがふさわしいとお考えのようで!」
「はて、さて、ルシウスよ」
強い語調のマルフォイ氏に対して、ダンブルドアは微笑みを浮かべ、落ち着いた声で言葉を返した。
「今日、君以外の十一人の理事がわしに連絡をくれた。正直なところ、まるでふくろうの土砂降りにあったかのようじゃったよ。アーサー・ウィーズリーの娘が攫われたと聞いて、理事たちがわしに、すぐ戻って欲しいと頼んできた。結局、この仕事に一番向いているのはこのわしだと思ったらしいのう。奇妙な話をみんなが聞かせてくれての。もともとわしを停職処分にしたくはなかったが、それに同意しなければ、家族を呪ってやるとあなたに脅された、と考えておる理事が何人かいるのじゃ」
いきなり、ハリーに服を引っ張られた。ハリーが指差す方を見ると、ドビーが日記を指差し、マルフォイ氏を指差し、自分の頭を殴りつけた。
「ねぇ、リーナ。マルフォイさんって、本屋でジニーの教科書拾ってたよね?」
「そうだね。……まさか?」
「多分。カマをかけてみるよ」
いつのまにか無表情になっているマルフォイ氏にハリーが話しかけた。
「マルフォイさん、ジニーがどうやって日記を手に入れたのか、知りたいと思われませんか?」
マルフォイ氏はハリーの方を向き、食ってかかった。
「バカな小娘がどうやって日記を手に入れたか、私がなんで知らなきゃならんのだ?」
「あなたが日記をジニーに与えたからです。フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店で。ジニーの古い『変身術』の教科書をあなたは拾っていた。そして、その中に日記を滑り込ませた。そうでしょう?」
「何を証拠にそんなことを言っている。誰も証明できんだろう。ああ、確かに私は小娘の教科書を拾った。しかし、その中に日記を滑り込ませたところを見た者はいるのかね?」
「ああ、誰も証明はできんのう。リドルが日記から消え去ってしまった今となっては。しかし、ここにはディメント家の者がおる。この子が願えば、彼らはその日記の出所を探し当てるじゃろう。今回ばかりはわしに免じて不問としてもらうつもりじゃが、次はそうはいかん。わかっておるな?」
マルフォイ氏の右手が震えた。図星なのか、それとも。
「ドビー、帰るぞ!」
マルフォイ氏はドアを押し開ける。しかしーー
「帰らせるわけにはいかないんですよねー」
奇妙な形のサングラスを首にかけた男。ジン・ディメントだ。
「申し遅れました、ジン・ディメントです。少し、お話がありましてね。ああ、校長、この部屋で話しても?」
「ふむ、よいとも。わしにも用があるのじゃろう?」
「ええ。
ーーさて、と。ルシウス・マルフォイ氏、あなたには違法とされている魔術物品の所持が疑われています。事情聴取、並びに家宅捜査をさせていただきたいのですが?」
「何を証拠に言っている。私はホグワーツの理事だ。そんな物を持っているわけがないだろう」
「いやー、そう信じたいんですがね?あなたがボージン・アンド・バークス店にて毒物その他を売っていたとのタレコミが。で、このままだと証拠不十分でお咎めなしなんですがーー誰かさんが『日刊予言者新聞』にその情報をリークしちゃいましてね。明日の一面が大騒ぎになるかもなんですよねー。
……では、ご同行を」
ジンが開けたドアの先には、他にもディメントの者がいた。彼らに囲まれて、マルフォイ氏が歩いていく。
「待ってください、マルフォイさん」
ハリーが日記を投げつけた。少し膨らんでいる。ハリーを見ると、靴下を片方履いていなかった。
「なんだ?こんな嫌がらせしかできないようでは、君もそのうち親と同じように不幸な目にあうぞ、ハリー・ポッター」
マルフォイ氏は靴下を投げ捨てる。それを、ドビーがキャッチした。そのことにマルフォイ氏はまだ気付いていない。
「ご主人様が……」
「ドビー、どうした。ドビー!」
「ご主人様がドビーめにソックスを片方くださった。ご主人様が、これをドビーにくださった」
「……なんだと?」
「ドビーがソックスの片方をいただいた。ご主人様が投げてよこした。ドビーが受け取った。だからドビーはーードビーは自由だ!」
マルフォイ氏は凍りついたように立ちすくみ、杖を取り出してハリーに向けた。
「小僧、よくも私の召使いを!〈アバターー」
「ハリー・ポッターに手を出すな!」
バーンと大きな音がして、マルフォイ氏が吹っ飛んだ。やっていいのなら私がやりたかった。
「今の、〈死の呪い〉でしょ?未遂だけど、現行犯だからね、少なくとも罰金か、一カ月間刑務所行き。今ならアズカバンにでも招待しますよ?」
ジンが嫌な笑顔を浮かべている。
ドビーはハリーと話したあと、姿くらましで去っていった。
マルフォイ氏が完全に見えなくなったあと、ジンが口を開いた。
「ふいー、お仕事終りょー。あとはダンブルドアへの用事だけだな」
ジンはポケットから何かを出す。真ん中に宝石のような物がはめ込まれた、楕円形の首飾りだ。
「中央には卵型にカットしたルビー、その周りにゃ十三個のブリリアントカットのダイヤモンド。ダイヤモンドは魔法の媒介にもなる宝石だし、十三ってのは魔術的にも因縁のある数字だ。ユダとかな。持っておいて損はないと思うよ。
ーー忠告だ、ダンブルドア。その首飾りを常に身につけていろ。そうすりゃ、運命から逃れられる。俺の能力がそう言ってる」
それだけ言うと、ジンは去っていった。
「……のう、リーナ。これは何じゃ?」
「あー、多分うちのマッドサイエンティストの作品かと……害はないと思いますよ、多分。害があるのは人には渡さず、アズカバンに放すと思うので」
「それもどうかと思うんじゃがのう……」
ダンブルドアは首飾りをつけ、服の内側へとしまった。
宴会は夜通し続いた。ハーマイオニーには抱きつかれ、ジャスティンには謝られ、ハグリッドが肩を叩いてきたのでセルフパイ投げ状態になったり。
寮対抗杯はギリギリでグリフィンドールが優勝した。ドラコは「来年は僕らスリザリンが優勝してみせる」と息巻いていた。
期末試験はキャンセルされたらしい。ハーマイオニーが嘆いていた。
ロックハートについては、諸事情により辞めることになったと告げられた。一週間もすれば新聞に事情が掲載されるだろうが、今だけは秘密になっていたーー大半の生徒、先生が喜んでいたけど。
闇の魔術に対する防衛術の授業はそのあとはキャンセルになった。先生がいないからね。マルフォイ氏は理事を辞めさせられたそうだ。ドラコが、記者が多そうだからどこかに避難しようかと言っていた。
あっという間に時は過ぎ、ホグワーツ特急に乗っている。私たちは一つのコンパートメントを独占し、ゲームや魔法の練習で楽しんでいた。あと、パーシーがペネロピーと付き合ってることがばれたけど、絶対にフレッドとジョージがいじり倒すんだろうなぁ。
汽車が速度を落とし、停車する。
私たちは汽車を降り、マグルの世界へ戻っていった。