今日、このIS学園は異様と言っていいほどの雰囲気に包まれていた。それは“二人だけの男性適合者”の試合が行なわれるからだ。
私は正直、他の皆ほどその試合に興味はなかった。なぜならその二人の男性の片方のせいで“この子”の開発が中断されてしまったからだ。分かってはいる。“この子”の開発と世界初の男性適合者の専用機の開発、どちらが重要視されるかなんて。私だって駄々をこねるほど子供ではない。頭では納得している。でも私自身の感情は納得できてはいなかった。
だから私はクラスの皆や他の学年の生徒達が挙って見に行くのを後目に一人部屋の中で“この子”の調整をしていた。ふと気が付くと時計の針はお昼を回っていたようだ。道理でお腹が空いたはずだ。
彼、四五六君が私の食事管理をし始めてから私は決まった時間にはお腹が空くようになってしまった。以前だったら食事なんて空いたお腹を満たすためだけにしていたのに今では食事が密かな楽しみになっていた。
四五六君の食事は朝昼晩と決まって同じ時間に用意されその内容も毎日毎日、その時その時で変わっている。そしてそのどれもがとても美味しかった。今までの食事では味わった事の無い満足感が食後の私を満たしてくれる。
四五六君は私が食事を食べ終わった後に必ず「美味しかった?」と聞いて来る。それに対して私はそっぽを向きながら「……今日もまあまあだったかな」と言う。このやり取りは一つのお約束のようなやり取りになっていた。私は四五六君が作った料理をご飯粒一つ残さず食べているので私が言った言葉がうそであるというのは四五六君にはバレバレであったが四五六君はそんな私を見て毎回苦笑しながら「じゃあ次回もがんばらないとね」と言って苦言の一つも漏らさずに私に食事を毎回作ってくれる。
一二三四五六君。最初は珍しい名前の割にはとても地味な姿の人、としか見ていなかったのに今は違う。四五六君と一緒に食事をしている時、私達の間にはそんなに会話は無いけれどそれでもその時間はとても穏やかで、そう充実感があった。四五六君は私みたいな女の子らしくない私を一人の女性として扱ってくれて、そして私を“更識”としてではなく“簪”という一人の女の子として見れくれている。
四五六君が私を一人の女の子としてみてくれているのは“更識”と言う名が持つ意味を知らないからだ。でも、それでも私を“更識楯無の妹”として見ないで“更識簪”という一人の女の子として見ていてくれるという事は更識家に生まれた私にとって、どれだけ得がたいものだったか、四五六君にはきっと分からないだろうな。
そんなガラにでもない事を考えながらも四五六君が作ってくれたお昼ご飯を食べながらふと考える。
(四五六君は、どうやって戦うんだろう?)
噂では四五六君にも専用機を~と言う話が有るらしいがそれでも一日中に専用機が作られるはずもなく、そうなると四五六君は必然的にこのIS学園にある量産機で戦う事になる。四五六君が量産機なのに対して他の二人は専用機で戦うのだ。四五六君はISに関しては完全な素人で機体も量産機なのに対戦相手は専用機持ちの代表候補生。確かに専用機を持っているなら専用機で戦うのが普通だろうがいくらなんでも無理が有り過ぎると思う。ただでさえ量産機と専用機では性能に明らかな差が有るというのに。
そこまで考えた私の頭の中に不愉快な考えが浮かび上がった。それは『世界初の男性適合者と比較させるために四五六君は量産機で戦わされる』と言う物だった。たしかに世界初の男性適合者である織斑一夏にはいろいろと目立つ物がある。世界初の男性適合者に、身内が世界最強のIS乗りで、ISの生みの親と親しい仲にある等など。それに比べて四五六君は特にそれと言った目立つような物は無く織斑一夏と比べたらどちらが話題性に富んでいるかなど一目瞭然だ。
そこまで考えて私は頭を振ってその考えを止めた。これは私の邪推でしかないし、そんな事が早々あるはずも無いと自分に言い聞かせ私は食事を終えてまた“この子”の調整に入った。
でもその考えは私の頭の中で何時までも残っていた。
調整を再開して気が付けば夕食の時間になっていた。体は正直な物で夕食の時間になったら私にご飯を!!と訴えてくる。
そこで気が付いたのだが四五六君がまだ戻ってきていないのだ。今日の試合はとっくに終っているはずなのに、未だに一度も四五六君は帰ってきていない。如何したのだろうと思っていたら部屋の呼び鈴が鳴った。こんな時間に誰だろうと、部屋のドアを開けるとそこには私の幼馴染と言っていい布仏本音が立っていた。
「本音?どうしたの、こんな時間に」
「あの、かんちゃん。ごろーちゃん、まだ帰ってきてないかな」
「ごろーちゃん?」
「しごろ、だからごろーちゃん」
「四五六君ならまだ帰って来てないけど……本音?どうかしたの」
いつもは笑顔を絶やさずにニコニコとしている本音が今は如何してか、俯き肩を震わせていた。
「本音、ちょっとどうし「かんちゃん!!」きゃ、ちょっとどうした……」
本音が私に抱きついてきた。いつものようにスキンシップとかではなく、何かに脅えるように。
「かんちゃん……私、私クラスの皆が恐いよう」
いつもの本音からは想像もできないような、声をあげながら私に叫んでくる。
「ごろーちゃんだって今日がんばったのに、皆ごろーちゃんじゃなくておりむーの事しか見なくて、パーティーの時だって皆ごろーちゃんが教室からすぐに出て言っちゃったのに皆気にしないの。なんで!!なんで皆ごろーちゃんの事を見てあげないの!!」
「本音……」
「私、私如何したらいいの」
私の胸に抱きつきながら涙声でそう叫ぶ本音に私は胸を痛めた。部屋で一緒の時はそんな雰囲気なんて一度も見せなかったのに。だから私は本音にこういった。
「……なら本音。私達が四五六君を見てあげよう」
「私達が?」
「そう。私達が。四五六君の周りの人がどれだけ四五六君の事を見なくても私達がしっかりと四五六君の事を見てあげましょう。私はクラスが違うからいつも一緒って言うわけにはいかないけど本音は一緒のクラスでしょ。なら本音が普段は四五六君の事をしっかりと見てあげて。ね?」
「かんちゃん……うん。私ごろーちゃんの事しっかりと見てあげる。」
泣き顔からいつものような花の咲く笑顔になったところで私たちは四五六君を探す事にした。とはいっても広いIS学園の中を闇雲に探した所で見つけれるわけも無いのだが、そんな時ふと思い出した事がある。何時だったか四五六君と食事をしていた時、四五六君が「夕方のこの学園の屋上から見る景色はなかなかの見ものだったよ。それに意外と屋上って人が来なくて一人になりたい時はうってつけだね」と言っていた事を。その時は聞き流していたが、もしかすると四五六君は屋上に居るのかもしれない……
私は逸る気持ちを抑えながら屋上に向かった。そして屋上に続く扉の窓ガラス越しに人影を見た。それは紛れも無く四五六君の後ろ姿だった。私はすぐにドアを開けて四五六君の元に向かおうとして四五六君が言った言葉を聞いてドアを開けようとした手が止まってしまった。
「なんで、なんで俺は
私はその言葉を聞いた時、胸を締め付けられるような思いがした。四五六君が今感じている思いは私にはとてもよく分かる。私が
「四五六君!!」
私の声に振り向いた四五六君の眼は泣いていたのが充血し、潤んでいた。
「あれ、簪さん?どうして、此処に」
「私の友達に貴方を探してくれって頼まれたから、探してたの」
「あ~黙ってパーティー抜け出してきたからな。迷惑かけちゃったね簪さん」
「ううん。それはいいの……ねえ四五六君」
私に泣き顔を見せまいと外していたメガネを掛けて横を向く四五六君に私は近づいていき彼の頭にそっと手を当て胸に引き寄せた。
「か、簪さん!?」
「泣いてもいいんだよ」
「え?」
「男の子だからって泣くのを我慢したりしなくいいんだよ。迷惑かもしれないけど私でよかったら話を聞くよ。だから、今は泣いていいんだよ四五六君」
いつも私に笑顔で接してくれた四五六君。私はそんな四五六君の泣き顔なんて見たくない。男性である四五六君を自分の意思で胸元で抱きしめるのは恥ずかしい気持ちがあったけどそれ以上に四五六君が泣いている所を見るほうが辛かった。
……なんで此処まで胸が辛くなるんだろう。
書いているうちに更識姉妹ルートから生徒会ハーレムルートに変更しそうになった。
そして漂うヤンデレ臭。ヤンデレのほほんさん、略してヤンのほだと!?……新しい時代が来るな(キリッ
今回のお話は二次ファン時代に何故か評価が高かった没案を修正して載せてみました。のほほんさんは荒んだ心を持つ現代社会の癒しやで~。ヤンデレ臭がし始めたが。
4月7日更新予定の話のネタバレ、その2!!
一日中弄られる束ちゃんは可愛い。