その昔、自分自身は偽物でも構わないと言って一人戦い続けた戦士がいた。
さらに昔、己の全てをかけてこの世を救おうとした男がいた。
世界は彼らを忘れ、彼らは救った者にすら置いて行かれたけど、それでも、
誰かを守るためだけに戦い続けた。
~2039年・夏~
ガシャンガタガタドンッ
激しく鳴り響く音とともに意識が覚醒する。覚めると同時に顔面に妙な重さを感じる。視界は真っ暗で何も見えないが何が起きたかはすぐわかった。
「こらマカ、顔に乗ったら苦しいからやめてって言ってるでしょ」
異変の正体はうちで飼っている猫の仕業だ。お腹がすくとこうやってイタズラする。いつもの事だ。慣れもする。
軽い朝食をとりながら身支度を済ます。時間を見て余裕なことを確認しながら外に出る。
「ごめん!待った?」
「多少な、行くぞ」
「あっちょっと待って!」
制止の声を聞かずに歩く、昔から私の言うことはこんな感じだ。いつも気にしてない様子で離れていく。だから多少強引な方法を使うのだ。
ガシッ!
「なっ! おい詩織!」
「えへへ 手繋ぐね!」
「・・・・・・・・勝手にしろ」
~2039年・秋~
夏はあっという間に過ぎ、冬を迎え入れようとする秋が来た。本来なら学校を目指すところだが、その足取りは病院へと向かっていた。
ガラガラガラ
戸を開け病室の中に入るとそこには詩織が寝ていた。最近よく起きている通り魔事件、その通り魔による腹部への刺し傷、犯人はいまだに逃走。詩織は多量の血を流したこととその時に強く頭を打ったことにより身体障害を起こしていた。
眠りにつく彼女を見守る。意識は回復したが激痛が走るため寝ていることが多い。そんな彼女の見舞いをしに来たのだが、今日も深い眠りについていた。
「詩織、また居眠りか?学校だけじゃなく病院でまでぐーすか寝てるなんてな」
そう言いながらみかんを棚の上に置く、面会用の椅子に付き詩織のほうを見た時だった。
「なんだこれ… 入れ墨とか…じゃないな、」
右腕に記された妙なマークを見つけた。淡く光っている為すぐに入れ墨で無いことは分かった。俺の家と詩織の家は多少の魔術を使える家だ。その紋章には魔力が込められている、それもただ多いなんて量じゃない。とても強力な力を感じる。思わず手を伸ばしその右腕に触れてしまった。
ガタッ
すると先ほどまで深く眠っていた詩織が目を覚ましたかと思った刹那、こちらに対して拳をくり出してきた。しかし、危篤の体で繰り出した拳はあまりにもひ弱で容易に腕をつかむことができた。
「おい詩織!どうしたんだ!?」
「み、水霧くん、ご、ごめん急に」
「いや、いいんだが、その右腕どうしたん……無くなってる!」
先ほどまで確かに右腕にあった紋章が消えていた。しかも、あの光るような反応はおそらく……魔術によるもの、呪いか何かだった可能性が高い。何もなく消えたなら喜ばしいだろうが、
「嘘でしょ……… こんなことって、」
詩織が驚愕な顔でこっちを見ていてただ事じゃないことが分かる。その眼はまるでなにか絶望的な何かをみるような眼をしていた。眼の先をたどる。俺の手を凝視していたことが分かり心臓が破裂しそうになった。嫌な予感がする。恐る恐る自分の手を裏返し確認すると
「俺の手に移動している!」
聖杯へ導かれし者の証『令呪』がやどった。聖杯戦争への参加、それはこの先おこる様々な物語の歯車を回す。最初の鍵となった。