~2039年・秋~
「そんな…令呪が……」
俺の腕に宿った紋章を見ながら今にも泣きそうな顔を見せる詩織、魔力を帯びたこの紋章の存在がよほど大事だったのか、それとも別に理由があるのか、信じられないような顔でこっちを見ていた。
「これがどうかしたのか?これっていったい何なんだよ?」
俺がそう詩織に問いかけると、詩織は深呼吸をして落ち着いたのちに事情を説明してくれた。
「水霧くんの腕に宿ったのは令呪と呼ばれる魔術の紋章、聖杯戦争と言えば少しは分かるかな?」
「聖杯戦争!!」
その単語には聞き覚えがあった。俺の家の書斎にそれの事がよく書いてある本があったような気がする。詳しくは覚えていないが7人の魔術師が各々の使い魔で殺しあう死闘だったはずだ。その勝者に与えられるのは、万能の願望器、聖杯だ。
「その名の通り聖杯を奪い合う殺し合い、なんでそんな物に俺や詩織が?」
「聖杯は確かな願望を持つ人が選ばれるの、私はそんな大きな願望なんてなかったけど」
「願望?俺に?そんな……」
そこまで考えて言うのをやめた。いかなる願望をもかなえるということは、もしやあの願いも、そう考えたのだ。
「詩織は願望はないんだな?」
「う、うん これと言ったものが無くて、だから水霧くんに移っちゃったのかも」
「そうか、んじゃ俺は帰る、ちょっと調べものでな」
「待って!!」
そうして病室を出ようとすると詩織が制止してきた。振り返って詩織のほうを見ると心配そうな目でこちらを見ていた。
「聖杯戦争に出るの?」
「選ばれたんだから出るしかないだろ」
それに、叶えたい願いもなくはない。
「大丈夫だ 俺は勝つ」
そう言って病室を後にした。
病室に1人残った私は、ただひたすら願いを口にした。令呪を失ったことは確かにショックだったけど、それ以上にショックだったのは、令呪が水霧くんに移ってしまったことだった。
「『勝って』とは言わない、元気でいて、あなたと一緒に居ることが、私の願いだから」
家に帰り地下の書斎へと入る、1階と2階は普通の家だが、地下は魔術工房となっている。様々な魔術の本が置いてある。その中にある1冊、聖杯について書かれた本を手に取った。
(聖杯とは、神の血を受けた黄金の杯、手にしたもののあらゆる願いを叶えるという万能の願望器であり、最高峰の聖遺物の一つ、なるほど昔の自分は、あるはずがないと切り捨ててたのか)
もう少し考えるべきだった。聖杯、こんなものの存在を忘れていたなんて
「おっと、本当に知りたいのはこれじゃなかった。えーーっと、………あった、これだ」
聖杯戦争と書かれた文系を見つけ読む。
==聖杯戦争==
聖杯の所有権をめぐり一定のルールを設けて争いを繰り広げる争いや競争・死闘、それが聖杯戦争である。
勝者は聖杯を使って何でも願いを叶えられる事ができる。この争い全般を聖杯戦争と呼び、聖杯を求める戦いであるならいかなる戦いであろうが「聖杯戦争」と呼ぶ。
その中でも特に古い歴史を持つのが、東洋の国、日本の冬木で行われる聖杯戦争である。
聖杯によって選ばれた魔術師とその魔術師が召喚した英霊が生き残りを懸けて戦う。 参加者は聖杯に選ばれ令呪を宿し、英霊を召喚する。
魔術師は令呪を使うことで、英霊に対して3回までどんな内容でも命令を強制できる。
英霊が召喚されると、その能力に応じてクラスが割り当てられる。 クラスは「剣士」、「弓兵」、「槍兵」、「騎乗兵」、「魔術師」、「暗殺者」、「狂戦士」の7騎である。
聖杯にて望みを叶える事が出来るのは、最後まで勝ち残った1組のみ。
それ以外の英霊は抹消しなければならない。
「なるほど、まずは英霊の召喚、そしてその英霊を使役しなければならないわけか、召喚には聖遺物が必要と、」
聖遺物があれば強力な英霊、より強力な『サーヴァント』を呼ぶことができる。ならば使わない手はない。しかし、一般家庭に英霊の聖遺物などあるはずがない。ならば手に入れるしかない。
「聖遺物を手に入れるとなれば」
スマホと財布を手に取り、多少の魔術瓦紙を持ち再度バックにしまった。そして、顔や身分を隠せる用意をする。
「目指すは大英博物館だ」
最強の英霊を手に入れるために、英霊の宝庫へと足を運ぶのだった。