Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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計算監獄

「――――っと」

 

 視界が回復した。

 が、乱暴なハックのせいでまだ手足の感覚は戻っていない。

 場所は自室。目の前には生徒会室の様子が映し出されたモニター。

 

 ……やれやれ、とんでもない目に遭った。

 あのチャンネルの趣旨は分からないが、しかしBBも常時こっちに干渉できる訳ではないようだ。まぁ、だから迷宮に罠を張り巡らせていたのだろうけど。

 

「今のはただの視界ジャックだったみたいだね。モニター越しにも効いたってことは、校内の人達にも伝わっていたのかも」

 

 エルキドゥの声にだろうな、と返答する。

 この校舎は元々、表で作られた建造物。それに今は桜が管理しているのだ。

 BBにできるのは盗み聞きと先のような視界ジャックのみ……と、信じたいが「見逃されている」感がどうにも拭えない。

 本当に向こうは、今の状況を「ゲーム」だと楽しんでいるらしい。

 

 

『ミス遠坂を副会長に迎え、バックアップはより強固になりました。皆さんの一層の団結に期待します』

 

 モニターの中でレオがそう言った。

 しかしその言葉に頷いたのは岸波と凛……そして控えめにうなずいたユリウス。

 シンジは『気にくわないから』、ジナコは『関係ないから』という理由で生徒会との協力を断っていった。

 では、キアラは――?

 

『貴女は以前、生徒会には参加しないと公言しましたが、状況は一変しました。BBという脅威が明確化した今でも、協力し合うことはできませんか?』

 

『申し訳ありません。私の技術が皆さんの助けになるのなら協力は惜しみませんが、志を一つには……』

 

 方針は変えないらしい。

 ……しかし、なぜ彼女はここまで脱出を拒むのだろう? 

 

『ではここからは質問です。キアラさん、もしかすると貴女は以前からBBを知っていたのではないですか?』

 

 キアラの返答を受け止め、次にレオが言った言葉がこれ。

 おかしな質問だ。BBは岸波が凛を撃破した後に出てきた元凶。

 校舎にいる自分たちでは知るよしのない敵だった――いや私は、声だけなら先に聞いてはいたが。

 となると……キアラとBBが会うタイミングもまた――

 

『――はい。私は皆さんより早くBBに出会っています。表側で、黒いノイズに囚われた時に。私が皆さんと同じ目的を持てないのは、BBと条約を交わしたからです』

 

 ……BBに逆らわない代わりに命を見逃してもらう。

 キアラはその条件でこの校舎に留まることができたらしい。

 

 私も頑張って交渉すればなんとかなったのかなぁ……けどその条件に衛士になる、ていうのはちょっとなぁ……

 

『レオ、どうしてこの事実に?』

 

『「出る気がない」と言いましたからね。キアラさんは何かを知っていて、既に不可能だと諦めている――そんなニュアンスがありましたから』

 

 岸波の問いに答えたレオの台詞で、やっと分かる。

 なるほど、確かにそれでは生徒会への参加は無理だ。

 ――が、条約はあくまで“BBに逆らわない”という一点。

 生徒会の脱出に手を貸すことまでは、その制約に含まれてはいないのである。

 

『生徒会室に入り浸らなければ、BBにとって私は“ただ校舎にいるもの”に過ぎません。ですので、どうかご容赦を。ご要望の際にはこの殺生院、微力ながらお力添えをさせていただきます』

 

 一礼して退室するキアラ。

 あそこまで言われては、止めることもできないだろう。

 

『……ごめん、そろそろ休んでいい? 肉体的にも精神的にも限界だから。桜、適当な空き教室のキー、ちょうだい』

 

 そう言って席から立ったのは凛。

 精神的――そうか、BBチャンネルのインパクトで忘れかけていたが、彼女は「秘密」とやらを暴かれた直後。

 恥ずかしすぎて普通の人間ならとても人前には出られないだろう。それを押して会議に参加した強さには恐れ入る。

 

 

『サクラ、BBが衛士を使うのは、彼女が貴方を同タイプのAIだから、だと思いますか?』

 

 凛が去った後、レオがそう桜へ意見を聞いていた。

 返答はイエス。

 メモリ増築、システムハックができてもBBは管理AI。戦闘機能はないという。

 自ら戦うことはできない――アレが衛士という手駒を用意するのはそのためか。

 

『BBに出来ることはシステムを変更し、衛士を作りだす事だけ……だと思います』

 

『参考になりました。その意見が聞きたかった。

 では白野さん、しばし休息を。お疲れでしょうし、体を休めてください。その後で庶務としての――おや?』

 

 そのとき、外部からの通信が入った。

 心当たりとしては……ガトーか。

 

 

『レオ会長――! 我が麗しの神にちょっと似た感じの、ビューティフルなレオ会長――!』

 

 

「うわ……」

 

 頭痛がした。

 やっぱりガトーはガトーだった。

 すげぇなあのミラクル宗教家。月に行っても何一つブレてねー。

 

『兄さん、通信をオフに。話もまとまったし、皆で食事にしましょう』

 

 そしてその暑苦しさはあの少年王すら引かせる程のものだった。気持ちは分かるが、ざまぁみろ。

 

『小生、物騒な殺人鬼に追われている! 神になった気持ちで至急、迷える信者を助けに参られぃ! ゴッド・セーブ・ミー!』

 

 ……とにかく、必死なんだろう。うん、必要最低限なことは読み取れたぞ、私でも。

 つーかホントに一人で行ったのか……声から察するに、今の追っ手は普通のエネミーではなく、その階層のボス――ラニとそのサーヴァントだろう。

 

『ところで帰りの階段はいずこ? あれ? 小生、もしかして閉じ込められた? うおおおおお! ライフガード、大・募・集!!』

 

「……変わった友人を持っているね、マスター」

 

「フォローになってないぞ、エルキドゥ」

 

 そしてお前には言われたくない。

 

『……申し訳ありません白野さん。休憩の前にもう一度迷宮に行ってください。ガトーさんの安否を確めなければ』

 

『…………仕方ないッスね。ちょうどハムるのも飽きたし、ボクもモニターしてやるッス』

 

 こちらも正直不安なのでモニターを続ける。

 ガトーは殺しても死にそうにない奴だが、サクラ迷宮は冗談が通じる空間ではない。

 せめてまだ命があるように、と軽く願っておく。

 

 

 ❀

 

 

『ガトーさんからの救難信号は途絶えていますので、とりあえず進めるところまで進んでみてください。危険を感じたら階段から戻るように』

 

 生徒会室と通信を続けながら、迷宮へ岸波とギルガメッシュが入る。

 ガトーの生命反応は拾っているから、そう慌てることもない。

 

「……綺麗な声だね。中々の歌い手だ」

 

「声?」

 

 エルキドゥの感想を聞き、よくよくモニターから流れる音に耳を澄ませると、それだけで心が透き通っていくような美声。

 ……エリザベートか。しかし美声といえばエルキドゥも全然負けてないと思うが。

 

 

『――64名の脱落者(マスター)と23名の廃棄NPCのサルベージに成功。新たな顧客として拷問室に送ります』

 

『素敵。やるじゃないラニ。貴女、ノリは悪いけど仕事は最高よ』

 

 迷宮を少し進んだ地点に、彼女たちはいた。

 ラニ=Ⅷとエリザベート。しかしガトーの姿は見当たらず、代わりにそこには箱に閉じ込められた生贄が積み上げられている。

 

『こんばんは。また会えて嬉しいわ、子リスマスター』

 

『再会を祝す優雅さ程度は持ち合わせていたか。頭蓋の中までは亜竜の筋肉ではないと見える』

 

 会話しているのはエリザベートとギルガメッシュ。

 ……あの生贄達を見る限り、生前と同じく拷問は続けているらしい。この間確認した映像では第一層――凛がマスターの頃にも行っていたが、それはもう凛によってなくなったはずではなかったか。

 

『私はサクラ迷宮の衛士ですが、同時にランサーを育てる職務があります。私はランサーを一流アイドルとしてプロデュースする――それが彼女との契約条件ですから』

 

 …………あぁ、本気でアイドルやろうとしてんだ。あのサーヴァント。

 その方法はまず月の表側で行われた過去の聖杯戦争のデータを検索。敗者として削除されるマスター達を一時的に確保し、そのリソースを搾取しているとのこと。

 

 人道には背いているが、彼らは一秒後にはムーンセルに消される運命の敗北者たち。

 彼女はその敗北者たちを『消去される寸前』にこちらに呼び寄せ、ランサーへの生贄にし、ランサーが気に入ればこの監獄に留め、一瞬の永遠に生き続けさせることも可能。

 余命一秒を引き伸ばす――果たして、それは「悪」だと断言できるのか。

 

『その手の人権問題は余所でするッス! レオさんの西欧財閥だってそんなモンだって聞くし!』

 

『いえ、もうちょっとマシですよ? 労働と研鑽の自由はありますし、福利厚生もバッチリです』

 

『笑顔でそういうコト言うからアンタはマジこえぇんスよ!』

 

 要は生き地獄。

 断頭台で手足を縛られたまま――ずっと、そのままだということ。

 ――で、だ。

 ガトーは一体どうしたのだろう? もう拷問室に送られたのだろうか。

 

『ガトー? あんな血液にまで筋肉が入ってそうな猪はお断りよ。ラニが始末したみたいだけど……アレ、どうしたの?』

 

『あれは王子力マイナスの汚染物質です』

 

 面倒なので迷宮の隅に隔離した、とラニは言う。

 うむ、賢明な判断である。色んな意味で。

 

『ああ、お得意の“王子さま採点”ね。見込みのないマスターは無視するんだっけ。なら、この子リスはどうなの?』

 

『はい。このメガネの計測機能によると……主人公力、たったの5……』

 

 それ、もうゴミクズって言われるようなもんじゃないか。

 しかしラニは「磨けば光る逸材」と評している。というか自分が光らせると。

 モテるな岸波。ただしお前の一級フラグ建築士の能力は偏りすぎだ。

 

『……決めました。プランDでいきます。ランサー、一旦戻らせてください。この階層を私好みに作り替えますので』

 

『了解、従ってあげてよプロデューサー。ただし約束の専用ステージとファンクラブ会員千人、早く用意してよね』

 

 言うと、二人は迷宮の奥へ転移していった。

 現在の生徒会に彼女を追いかける術はない。

 ガトーの生存も確認したし、岸波も一度こちらに戻ってくるだろう。

 

「……? マスター、どこへ?」

 

「小腹が空いた。適当に何か買ってくる」

 

 この霊子世界では別に食べなくとも死ぬことはないのだろうが、一日三食は習慣として根付いてしまっているため、なにか胃に入れないと落ち着かない。

 贅沢さえしなければエルキドゥの強化にはさほど影響しないし、本当に足りなくなったらその時は寝具でも売ろう、うん。

 ……購買に行けばあの陰鬱な神父の顔が待っているが、まぁその点は我慢する私であった。

 

 

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