『プロメテ――――ウス!!』
「なるほど、分からん」
映像を切ろうとしてエルキドゥに止められる。くっ、どこまでも親友主義な奴め……!
映像を見る限り、ガトーは床に倒れこんで騒いでいるらしかった。
心配して損をした、というのはまさにこれ。ある意味、予想通りではあるが。
『……おっさん、サーヴァントなしで迷宮に入ったら死ぬって分からないんスか?』
『サーヴァントがいようがいまいが、今生は常に死と隣り合わせである! 小生の修行は誰にも止められん!』
曰く、岸波に触発され、自分も迷宮を突破したくなったのだと。
やっぱり何も変わってないぞアイツ……
『勇ましいのは結構だけど。ガトーさん、勝算って言葉知ってる?』
おや、今の声は凛か。
彼女も無事、生徒会の一員になったらしい。
『無論。そしてその単語にはイイワケ、と振り仮名をつけるがよい。勝算がなければ窮地に挑まぬのは屍と同じ。挑むこと自体に価値のあるピンチ――これを逆境と呼ぶ。越えるために現れるこの頂を前にして、命の炎をぶつけなくてなんとする!』
『ぐっ……何よこのガトー、ちょっと格好よくない?』
『それもKONOZAMAッスけどね。おっさん、自分だけで立てるッスか?』
…………。
……どうやら立てないらしい。もう一歩も動けず、しかし留まっていると回復もできない。
今いる地点からでは転移も不可。岸波には一度、ガトーを旧校舎まで運んでもらう必要があるが……、
『今は探索が優先だ。ガトー、放っておいても平気そうだし』
無慈悲なる判決はここに下った。
絶叫するガトー。効率を考えれば、岸波の判断は実に正しい。
「ん……?」
と、岸波に何か術式らしきものがかけられた。
害は……ないようだが、あれは一体?
『ラニチェック、終了。プラス三十点。よくその無駄の極みをスルーできました』
なんかチェックされてる。
ラニの奴、本気で岸波を磨こうとしているのか。つーかそんなんで磨けるのか。
『
ラニの一声でガトーの姿は消える。旧校舎に弾き出されたらしい。
『――以後はこの階層に限り、自由な探索を許可します。ちなみに私には遠坂凛のような欠点はありませんので、SGを摘出することは不可能です』
無駄な挑戦は控えるように、と言って通信は途切れる。
SGの手掛かり……いやバッチリあったけども。
『白野、ラニを見つけたら話しかけて、ひたすらあの娘の言葉を否定して。それで本性さらけ出すわよ、きっと』
凛にも手掛かりは分かっていたらしい。
不思議そうに頷いた岸波は、再び探索を開始した。
❀
迷宮の通路を抜けた場所、少し拓けた地点にラニとランサーはいた。
しかしラニを説得する前に、まずは戦闘体勢のランサーをなんとかしなければ――
『ランサー、槍を収めてください』
『なぬっ!? ちょっと、まだオアズケなの!?』
『この階層では戦わない。そう宣言した以上、私達はここでは戦いません。スケジュールを営々とこなすのも、トップアイドルの条件ですよランサー』
……発言には責任を持つタイプらしい。
ひとまず戦闘は避けられた。ならば次にするべきことはSGの摘出だ。……あまり気乗りはしないだろうが。
『私は造られた命、ホムンクルスです。心に恥ずかしい秘密など、装備されていません』
「……いや、心があるからBBに目をつけられたんじゃ……」
ちらりとエルキドゥへ視線を投げると、うんうん、と頷いていた。
……エルキドゥは神々によって造られた泥人形。
道具として造られた彼に、自我が生まれるきっかけを作ったのは、他ならぬ――
『私はつねづね思っていました。白野さんは才能の無駄遣いをしていると』
望んでいない、と返す岸波。
『……望んでいないはずがありません。参考になったでしょう?』
ならない、と返答する岸波。
『……ですが反省はしたはずです』
してない、と岸波。
ラニの言葉を容赦なく否定し続ける。
これこそラニのSG摘出方法。そして最後の言葉も、
『より優れた人間としての在り方が否定されるはずがない。だって、気持ち良かったでしょう?』
『全然良くない!』
――否定する。
『……ありえません。私のプログラムは完璧です。なぜ、それを否定するのですか』
『間違いがあるからに決まってるじゃない。言ってあげなさい白野、
「あの」……? とは、何だろう。
私の考えが読めたのか、エルキドゥが丁寧に教えてくれた。曰く、岸波たちが迷宮に入った直後に提示された項目なのだとか。
……しかし聞いた限りじゃ、どれもこれも矛盾だらけである。
彼女の理想、
『これは、ラニの求める理想像に過ぎない』
『……!』
岸波がトドメを刺す。
この項目、あの迷宮にあったのはラニが普段口にできない“心の声”――即ち、「秘密」であるということに繋がる。
『くっ……!? こ、心が……』
『いい頃合いだ。刈り取れ、雑種』
岸波の左手に刻まれた五停心観が発動する。
地を蹴り、ラニの胸から溢れ出た光を掴むとSG摘出が完了され、道を塞ぐシールドが砕け散っていく。
『……これが心を見られるという事……体温が上昇して……消えて、しまいそう……です』
ガラス細工のように散っていくラニのクォーター。
あとは先に進むだけ。だが、まだ敵は残っている。
『……ふーん。リンの時も不思議に思ったけど、貴女、けっこう面白いわね?』
赤いランサー、もといエリザベート=バートリー。
彼女も今回はおとなしく退散してくれるそうだ。それとも、ラニとの約束を守っているのだろうか?
『……あなたも、BBに無理矢理戦わされているのか?』
『そんなワケないじゃない。だって私の方からBBに売り込んだんだし?』
岸波の問いに淡々と答えていくエリザベート。
なんでも、自分は好きで月の裏側を選び、本来のマスターは後ろからザクッと殺してしまったらしい。
……それ、サーヴァントとしてどうなんだろうか。いやまぁ、相性の善し悪しで事故が発生してしまうケースも、あるにはあるが……
『マスターとの不仲はどうでもいいが……反英霊であれ、サーヴァントの貴様が自分からBBに売り込んだだと?』
あ、スルーしちゃうのか英雄王。
『ふ……ドキュメントはスターの常だものね、いいわ。話してあげる』
エリザベート――エリザの前マスターはなぜかピエロの格好をしていたらしい。
そいつをBBが気に入り、生きたまま裏側へ連れて来たのだが、ピエロはBBの誘いを断った。
『“君の愛は美味しくない”とか言って。しかもこのまま餓死する、なんて言い出す始末よ? それじゃ私も道連れじゃない』
だからマスターを殺し、自分をBBに売り込んだと。
『まぁ、仕方ないわよね? あのままだったら私も消えちゃってたし。この美しさが失われるとか、世界の損失だと思わない?』
『……そんな理由で、マスターを裏切ったのか……?』
『何より大切な理由じゃない! 私は永遠に美しいの! 歳なんて取らないの!
この私だけが、誰よりも美しければそれでいいのよ!』
一方、ギルガメッシュは何も語らない。嫌悪しているのか、共感しているのか――はて、私には与り知らぬところである。
しかしマスターをだまし討ちすることを当然と考えるあの赤いランサーは、他のサーヴァントとは根本からして違う。
まさかこれほど自分にしか愛を向けない、“自分の欲望”に執心したサーヴァントがいるとは。そりゃ、真名の方を考えれば、無理もない話とは思うが……
『BBはマネージャーとしては優秀よ? すぐに私に最高の体を与えてくれるはず。
世界が私だけのステージになるまで、震えて眠っていることね!』
高らかに宣言し、ランサーは去っていった。
止めたくとも、今の岸波の状態では勝ち目はないだろう。
「ともあれ、新しい階層への道は開いたか。んじゃ、私はもう寝るよ。今日は色々ありすぎた」
「そうだね。うん、おやすみ。マスター」
キアラとの邂逅に始まり、BBの登場、趣旨不明な視界ジャック、一休みついでに外出すればまたも天敵と邂逅、戻ればガトー救出劇、ラニのSG取得……と、てんこ盛りな一日だった。
岸波も今日は疲れているだろう。そろそろ旧校舎に戻ってくるに違いない――