「――――」
意識が浮上し、瞼を開く。
枕元に置いてあった端末を手に取ると、いつも以上に睡眠時間を取ってしまっていた。
「……やらかした。って、ん……?」
端末にメールが届いている。
生徒会……の、凛? とうとうバックアップの参加命令でもかかったか?
『ギルガメッシュをどう思うかはあなたの勝手だけど、迷宮探索の邪魔をするようなら、桜に頼んでペナルティをつけさせて貰うわよ?
だからもうあんな好戦的な発言はしないコト。いいわね?』
ご丁寧にイエスかノー……じゃない、どの返答もイエスしかない契約書じみたプログラムまでついてきていた。
好戦的な発言? はて、そんなことをした記憶はないが。
基本的に私は平和主義者である。波の立つようなことをわざわざするほど酔狂ではない。
私の記憶で生徒会のメンバーと直接関わったのは、BBチャンネルが起こったとき。
その後は疲労でぐっすり眠ってしまったはずである。
……一人で悩んでいても仕方ない。ここは一度、エルキドゥにも意見を――
「エルキドゥ?」
尋ねようと顔を上げたところで違和感に気付く。
いつもモニター前に座している相棒の姿が見当たらない。
「……あ、おはよう。マスター」
と、ベッドの足元の方の空間から声がした。
そんな隅っこでなにを……というか、いま変な声じゃなかったかコイツ?
「え――……と? エルキ、ドゥ……だよな?」
うん、としょんぼりしたような様子で頷いたのは、外見、声、雰囲気全てが私そっくりなドッペルゲンガー……じゃなくて、私に化けた彼だった。
……エルキドゥに「変容」のスキルがあることは既にご存知だろう。
さらに彼は、「泥人形」という特性を活かして自分の身長、体重さえも自由自在なのである――本来定形を持たないので、こうして他人にも化けることができるのだ。
何故、と問おうとする前に、先のメール関連へと思い至った。
エルキドゥ自身も、
「…………なにをしたんだ、エルキドゥ……?」
「……ごめんね。詳しくは……その、モニターを見てくれた方が早いかな……」
❀
促されて数分前に行われた映像を見る。
ガウェインとギルガメッシュの言い争い。エルキドゥは、思わずそこに口を挟んでしまったのだとか。
「……まぁ、親友がすぐ近くにいるのに、いつまで経っても会えないってのは寂しいよな……」
エルキドゥの気持ちは分かる。
分かりはするのだが――その、警戒されるくらいなら、もうここで正体を明かしても良かったんじゃないのか?
「……いいや、
「……お前の中の私のイメージってこんななのか」
にしては度胸ありすぎる気がするけど。
大体、一睨みされるだけで崩れ落ちる奴がこんな堂々と出てくるなんて不自然である。
まぁ生徒会から見れば、「英雄王のプレッシャーに耐えられなくなった」とか、「単なるちょっかい」みたいな理由を思いつく。
全員が全員、そう考えてくれていれば、それはそれで結果オーライ、となるのだが――
「問題は王様だな……前に聞いた話だけどさ、かなり頭いいんだろアイツ? てか、このやり取りからしてもう気付いてんじゃねーのかあれ」
「かもしれない。彼のことだからね。こっちに来ないのは、わざとかもしれないし、或いは彼自身の気紛れかも」
……とりあえずここは、勘付かれている可能性はアリ、という結論に落ち着いておこう。
英雄王の思考回路など、私には到底理解の及ばないものだろうし。
❀
『では脱ぐのです』
『やっぱりか!』
ハッキングするところを間違えただろうか、と首を捻る。
モニターには迷宮探索中の岸波。その目の前には重苦しい鉄の扉が道を塞いでいた。
『礼装はあと一枠残っています。全ての礼装を脱いでいるのなら、このドアは開きます』
礼装――すなわち
……なるほど、今回はそういう条件で探索を進められる、ということか。
『では引き続き、自由な探索をお楽しみください』
礼装が外され、扉が開かれる。
どうやらあの扉に出くわすのは二度目らしい。
しかし服……といえば、先の生徒会室の録画映像でいつの間にか凛の服がセーラー服に変わっていたな。
生徒会の団結を示すものだろうか。AIである桜までもが着用していたし。
――――で。
『お疲れ様でした。私が何を要求するのか、口にするまでもありませんね?』
『……もう外せる礼装はない。これ以上、余分な装備はどこにもない』
二度あることは三度ある。
数分後、再び岸波の道を鉄の扉が阻んでいた。
……これはしばらく、岸波のためにもモニターの電源を切っておいた方がいいかもしれない。礼装を二つも外したのだ、きっと最後は服を――
『いえ、洋服はそのままで結構です。ただのヌードに興味はありません』
『……うむ。我が言うことでもないが、業が深いな』
私には全くわからん。いや理解して得になるようなことなのかこれは?
『
――ラニ=Ⅷは、アトラス院の錬金術師に造られたホムンクルスである。秘密がない、と言っていたのもおそらくこれが理由。
しかし、初見の時よりもラニのキャラ付けが分からなくなってきた。アトラス院は未来に生きてんな。
『では私はこれで。あなたの克己心に期待します』
『………………』
『ん? 何をとまどう? 下着の一つや二つ、我の契約者であればその三倍は脱ぐがよい』
……今の岸波の心情は、余人には与り知らぬコト。
そっとモニターを落とそうとキーボードを操作する。
「……すごいね。今の人達はああいう嗜好性を持っているのかい?」
「んなワケねーだろ!」
流石は親友に英雄王を持つことはある……というかなんというか、空気を読め。
❀
『ごきげんよう。ご気分はいかがですか?』
本人からみれば気分もクソもないと思うが。
再度モニターをつけて迷宮探索を監視する。
なんとなく岸波のスカートに目がいかなくもないが、浮かび上がるのは同情心のみ。私には到底成し遂げられそうにない。
しかしこれ、明らかに「秘密」の一環である。
下手な嘘は止めたほうが身の為だ。まぁこれが本来のラニが気付いていないものなのか、隠していたものかは分からないが。
短いやり取りの後、例によって岸波がトリガーとなる言葉を打ち出した。
『おそろいだね、ラニ』
『おそ、ろい――』
――SGが現れる。
吸い込まれていくように伸ばした岸波の左手は、確かに、ラニの秘密を摘出した。
シールドが砕け、ラニのクォーターも消え去り、迷宮の先に進めるようになる。
……ところで、ラニのサーヴァントはどうしたのだろう。
そんな疑問を浮かべていると、あっさり岸波がチェックポイントに辿り着く。
すると。
『ごきげんようブタども! 月を股にかける遊撃系ディーバ、エリ……じゃなくて、特殊クラス・アイドルのサーヴァント、登場よ!』
「アイドル」
思わず復唱した。
「特殊クラス……そういうものもあるんだね……!」
そこ、興味を持つな。
というか、まだ向こうは真名を明かしていない――生徒会もまだ看破していない――のだったか。
言動も思考も支離滅裂のくせに、その残酷さは本物だ。ある意味、かなり厄介なサーヴァントといえるだろう。ある意味。
『む、殺気が薄れているなランサー。貴様、何をしに現れた?』
『決まってるじゃない。この私を差し置いて衣装替えをするなんて許さないわ!』
「……ねぇルツ、これって、そんな話だったっけ……?」
私に訊くなよ。
『じゃあインタビューの時間はおしまい。オードブルと参りましょう』
言うと、エリザはマイクスタンド……を思わせる槍を一閃した。
理由はどうあれ、戦闘だ。
ラニをマスターにしたエリザベート。
その実力を、探索に関係ない私達がここではっきり見極めておくのも、決して無駄なことではないだろう。
「……しかし」
新衣装か。
思えば、エルキドゥも表側で召喚したときからずっと変わっていない。
まぁその服自体も泥――自分の一部、みたいなものらしいが。
……購買部とかに服、あったりするのかな……?