Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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新衣装

『チッ、生意気な……二対一とか卑怯よ、卑怯! 汗かいちゃったし、私帰る!』

 

 エリザの基本能力は軒並み向上していた。

 岸波側も負けず劣らず、前回よりも成長していたが、この時点で倒すことは叶わない。

 だが、向こうの基本戦法は変化していないようなので、慎重に対処すれば、決して勝てない相手ではないだろう。

 

『なんだ、所詮は雑種か? その様では竜種は名乗れまい。落ち着かぬ羽虫と改めてはどうだ?』

 

『ふん、何を強がってるんだか。まだ宝具(ほうぐ)も使えない奴らが、本気で私に勝てると思っているの?』

 

『使えぬのではなく使わぬのだが……事実ではあるな。我の宝具を回すには、このマスターの魔力は矮小すぎる』

 

 英霊たちが持つ切り札――宝具。

 それを解放するにはマスター側も莫大な魔力を消費する。

 私もエルキドゥが初めて宝具を解放したときには、全体の魔力を六割くらい持って行かれた経験がある。あれには正直ビビッた。

 

『そう、まだまだ手を抜いてあげていたのよ。新衣装は残念だけど……考えてみたら貴方達の衣装、私の趣味じゃなかったわ。じゃあね、次こそ最後の戦いよ』

 

 嘲笑を残して、エリザは転移していった。

 今の岸波たちには追いかけるだけの体力も気力もない。

 

 今回の探索はここまで。

 さて、起きてからモニターを見ることしかしていなかった自分は、個人的に気になる問題を解決しにいこう。

 

 

 ❀

 

 

「いらっしゃませ。何をお求めでしょうか?」

 

「カレーパン」

 

 乱雑に価格ピッタリな数の小銭をカウンターに出す。

 これから先、長くこの名前を口にするのだろう。なんなら、店の方が品揃えを見直してほしいところである。食品がパン二つしかないって、購買としてどうかと思う。

 

「なぁ言峰。ここって服とか売っていないのか?」

 

「礼装ならあるが?」

 

「いや礼装じゃなくてさ……普通の服だよ。シャツとかズボンとか」

 

「今のところ、そういう類のものは販売していないな…………む、待て。廃棄用のリストに何着か……」

 

「あるのかよ」

 

「しかし一部のデータが破損している。取り出せるのは一着しかないが?」

 

 じゃあそれでいいよ、と返事をする。

 するとカウンターに白いセーラー服……のワンピースが出現した。中々に可愛らしいデザインだ。

 

「お代は?」

 

「必要ない。元々、廃棄する予定の物だ」

 

 無料(タダ)で貰えるのか。なら、ありがたく頂いていくとしよう。

 さてはてこの衣装、一体どう活躍してくれるかな。

 

 

 ❀

 

 

「おかえり……ってどうたんだい、それ?」

 

「お前の新衣装を親友(AUO)より先に入手してきた」

 

 エルキドゥに性別はない。

 一人称が「僕」だろうが、私が時折「彼」と呼んでいようが、その容姿と声は中性的。

 ワンピースを着ていてもなんら問題はない……ハズ。

 

「新衣装――? でも購入費用は、」

 

「安心しろ。タダだ」

 

 きっぱり告げて、ワンピースをエルキドゥに押し付ける。

 ……まだ状況が呑みこめていないのか、目を見開いたままポカンとしている。余計なお世話だっただろうか。

 

「――え、いや。その、ありがとうマスター。まさか衣装があるなんて思わなくて……」

 

 呟くように言うと、顔を綻ばせるエルキドゥ。

 ああ、なんだ。自分も欲しがってたんじゃないか。よかったよかった。

 

「じゃあ着替えは向こうでな。着たら言ってくれ」

 

 頷いて、カーテンの方へ駆けて行く長髪の英霊。

 心なしか、その足取りは軽やかにみえた。

 

 

 しばらくして、「それ」は現れた。

 白いセーラー服のワンピースに身を包んだそれは――

 

 

 ロリだった。

 

 

「………………………………」

 

 いや、すまない。訂正しよう。正しくは幼女がいた。

 うん、何も変わってないな!

 

「……はぁ、なるほど。いや待て」

 

 落ち着こう、大丈夫だ。岸波みたいな女ばっかりに絡まれる迷宮探索よりこの程度、何ら問題はない。

 

「えーと、エルキドゥさん? その姿は一体……」

 

 カーテンから出てきたのは、身長が私の胸の辺りまでに縮み、艶やかな緑色の長髪を伸ばす、外見十歳から十二歳程度の年齢に見える子供。

 声質や性格こそ大きく変わった様子はないが、先ほどよりもさらに子供らしくなった無垢な瞳はずっと見つめていると、いつか魅了されてしまいそうである。

 

 ……いや、認めよう。ただの天使ですわ、これ。

 

「服のサイズに合わせて()()変化したんだよ。どうかな?」

 

「どうかなって……」

 

 『変容』って便利なスキルだなぁ……

 と、いうのが本音だ。あと可愛い。とても可愛い。効果ばつぐんである。

 

 だが性別はない。ないといったらない。

 

「――よし、精神が安定してきた。うん、可愛いぞエルキドゥ。素晴らしく」

 

「?」

 

 首を傾げるエルキドゥの頭をポンポンと撫でる。

 これが私のサーヴァントか……本当に妹ができたみたいだ。

 まぁ、元に戻るのなら今の衣装を脱いでしまえばいいわけだが。

 

「この服、動きやすいね。デザインも良いし……うん、戦闘以外ならずっと着ててもいいかな?」

 

「もちろん」

 

 ――即答してしまった。

 気がついたときには既に時遅し。パァ、とにこやかに笑うエルキドゥの顔が視界に映る。

 くっ……こんな美少女と四六時中、一緒の部屋に二人っきりでいろと……!?

 い、いや、中身は変わっていないのだ。普通に接していれば、やがては慣れるさ――

 

「いつもは目線をマスターと同じくらいにしていたけど、こんな風に下から見上げるのは新鮮だね」

 

「――――」

 

 いつの間にかエルキドゥがこちらに近寄ってきていた。顔が近い。新手のテロか何かかよ。

 本人はただのスキンシップだと思っているんだろうが、このままだと魅了だとか、もうどーにかなっちゃいそうである。

 

 ……このままでは持ちそうにない。ジナコあたりでも巻き込んでやるか。

 

 

 ❀

 

 

 再び外へ出る。

 すぐに霊体化はさせるのだが、後ろからヒョコヒョコついて来るエルキドゥはとても可愛いらしい。早く慣れろ私の認識能力……!

 

 

「――ん? あれ、もしかして月成さん!? 良かった、貴方もここにいたのね!」

 

 

 購買を通り過ぎ、用務員室の方向へ足を向けると、ちょうど呼び止められた。

 この声は――

 

「藤村センセー?」

 

 このどこまでも明るく、騒々しい雰囲気の持ち主――タイガー・フジムラ。

 いや名称は藤村大河先生、だったか。

 言峰と同じ上級AI。表側では教師の役割を与えられ、時折参加者のマスター達に「タイガークエスト」なるサブイベントを施行していたのだが……まぁ基本、迷宮に篭りっきりだった私たちにはあんまり接点がない人物だった。

 

「貴方とはもう会えないかと思ってたけど、奇跡ってあるのねぇー。うん、元気そうで何より!」

 

「相変わらずですね……というか、何担いでるんですか? ハシゴ?」

 

「これ? これは迷宮から岸波さんに取ってきてもらったの。先生、気付いたらここにいてね、元の校舎に戻ろうとしたんだけど帰り方が分からなくて。あの校門、どうやっても開かないし。だからこのハシゴを使ってここから脱出しようと思ってるのよ」

 

 ……BBという脅威がいるというのに、藤村はどこまででも藤村である。

 迷宮探索ついでにおつかいをこなす岸波もどうかと思うが。

 

「午後の授業があるのに困っちゃうわよね――……って、ん?」

 

 藤村先生の視線が何かを捉える。

 その方向は明らかに、私の背後へと向けられていた。

 

「うわお、何この子、可愛い! 月成さんの妹!? にしては……あんまり似てないけど。でもどうしちゃったのよこの子ー! あぁ可愛い! 撫で尽くしたい! こんな子がこの世に存在するなんて先生、感激の極みです!!」

 

 ……典型的な騒ぎ方、どうもありがとうございます先生。

 私の後ろにいたエルキドゥをまじまじと見つめるところから始まり、やがてよしよしと妙に姉らしく頭を撫で始める藤村。撫でられている方も特に不快な様子はみせず、くすぐったそうにされるがままになっている。

 

 やがてお名前はー? という質問がされ、とりあえずクラス名を口にするエルキドゥ。

 ……うむ、やはり声とかはあんまり変わっていない。容姿さえ慣れてしまえばこちらのものだろう。きっと。

 

「っと、生徒との交流もこれくらいにして。それじゃあ月成さん、先生行ってくるわ。成功したら連絡するから。目指せ、授業再開よ!」

 

 そう言って、月海原学園の虎は去っていった。

 流石にハシゴだけで虚数の海を越えるのは不可能だと思うが……まぁタイガーならいつか、ダイナミックにここから脱出してくれるだろう。

 

 で、ここで一つ問題が浮上する。

 

「――言峰」

 

「ほう? このまま私は無視されて終わる背景役だと思っていたのだが」

 

 お前みたいな目立つ背景、否、脇役がいるか。どう見ても黒幕ポジだテメェは。

 ……そう、廊下に出る以上、自室の位置的に購買部は通らざるをえない。

 よってエルキドゥの姿は一気にAI二人に視認されてしまったのだが――日常の象徴とも呼べる藤村先生はともかく、コイツはいつ口を滑らせるか解らない。

 

「安心したまえ。所詮、今の私はただの購買部の店員。表側に戻ったところで中立的位置の監督役だ。サ-ヴァントについて、言いふらすような真似はしない」

 

 言われても全っ然、信用できないのがこの神父の特徴でもあるんだよなぁ……なんとなく、ギルガメッシュと息が合いそうな雰囲気が特に。

 

「――しかし、妙だと感じる。確か君のサーヴァントは()()()()()()()()()()()()かね?」

 

「……とうとう記録能力のバグまで起こったのか、アンタ?」

 

 何か、重要な情報の気配を直感した気がするが、言峰の言葉には呆れ果てて返答する。

 バーサーカーなんて使役したら即行で死ぬぞ、私。魔力切れで干からびるわ。

 それに今更エルキドゥを狂化させたところで、その消費魔力は現在の倍に跳ね上がって、どちらにしろ待っているのはデッドエンドだ。

 そんな火力任せのゴリ押しな戦法で勝ち抜けるほど、聖杯戦争は甘くない。

 

「ふむ、BBに記憶をいじられている身であるが故か……よろしい、認めよう。どうやら今の私には何らかの不具合が起きているらしい」

 

「是非そういうことにしておいてくれ。ったく、帰るぞランサー。用務員室訪問は明日だ、明日」

 

 短時間で色々と起こり過ぎた。

 天敵確定枠のキアラやレオこそ出てこなかったものの、この神父も天敵候補なのである。

 NPCやAIは本当に地上に存在した人物をモデルに構成されたという話があるが、この神父のオリジナルは確実に私の天敵枠に入るだろう。

 

 

 ……さて、勢いで帰るなどと言ってしまったが。

 部屋に美少女(いや美少年?)と二人きりというのも、一体どれほどの精神的負荷がかかってくるのかどうか、それもまた現在浮上してきた問題なのだった。

 

 




 やっちまったぜ、ロリキドゥ化……
 いや、前から予定していたことではありますけれども。
 まぁ基本、中身は以前と変わらないように気を配り、ただ子供の姿になってちょっと動かしやすくなったかな? といった感じで。

 ちなみに外見イメージは、戦車男に出てくるあれ。
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