Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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迷宮の外

 二人(ふたり)零和(れいわ)有限(ゆうげん)確定(かくてい)完全情報ゲーム。

 それはゲーム理論によるゲームの分類の一つであり、チェス、将棋、囲碁など、偶然に左右されないゲームがこれに相当する。

 

 システムは完璧――すなわち公正といえるだろう。

 ……だが、それらは決して「公平」とは言えない。

 打つプレイヤーの性能がゲームの主軸となるのだ。公平を謳うのなら、それは素人と玄人が対戦しても「勝ち目がある」ルールじゃないといけない。

 

 だから。

 最後の挑戦者(プレイヤー)――ジナコ=カリギリは、麻雀で勝負しようと言い出した。

 

『一対一ではなく四人対戦。人間力に左右されない、運という揺らぎを持つ、最も公平で俗なゲーム。麻雀はトータルの勝ち負けを競うものだから……そうッスねぇ。軽く200回は()つとしましょうか』

 

『……望むところです。貴女の思考精度では200局中、一局たりとも勝てないと断言します』

 

『オッケー、んじゃプレ~イ!』

 

 モニター内のラニの姿が消える。例のプレイルームへ転移したようだ。

 200局……本でも読んで待つのが吉か。

 

 珍しくジナコが働きに出てきたのは、やはり岸波による説得の成果らしい。

 うっかり「ランサーちゃんとチェンジしたい」、などと口を滑らせていないか不安はあるが……ま、未だに訪ねられていないのは、ジナコが上手くやってくれているからか、それとも単なる様子見か。

 

 どちらにせよ、今のところ考えている露見したときの対処法は「臨機応変(そのとき考える)」である。

 

 

「なかなか帰って来ないね……」

 

「麻雀……麻雀かぁ。よく知らねぇな……」

 

 実際、私にできるテーブルゲームといったら、チェスやオセロくらいしかない。

 携帯ゲームでよく遊んだ記憶はあるが、麻雀は専門外だ。

 

 ……先ほど行ったチェスゲームの疲労はまだ残っている。

 今ベッドに転がれば間違いなく睡魔が襲ってくるだろう。しかしそれでは、また起きたときに録画映像を見直すという二度手間をかけることになる。

 

 なので、ラニとジナコが戻ってくるまでの間、エルキドゥ(小)は綾取りを始め、私もこの機会に、表側からお世話になっている携帯端末のデータを整理することにした。

 レオを含めた、敵主従のデータ。

 裏側で出てきた敵サーヴァントや、未だに不明である点のまとめ。

 うむ、やはり地味な作業が私には合っている。

 

 

『――そんな。こんなの、認めない……認めたく、ない……!』

 

『つっかれたッス~。200局中、167敗、33勝。運だけでも勝ちは拾えるモンッスなぁ~』

 

 

 モニターからの声で顔を上げる。

 録画の記録時間を見ると、作業を始めて十分以上が経過していた。

 つまり……プレイルームでは、一週間以上にも及ぶ麻雀勝負が行われていたということか。

 

 まぁこれで、ジナコが勝ちを拾えたとしても、今回はトータルでラニの圧勝である。

 しかし、一局でも負ける可能性がある以上、回数を増やしていけば横並びになる未来もあるのだ。

 これが一億、一兆回の勝負になれば、お互いの勝ち星と負け星は均一になる可能性が出てくる。いや、均一になるまで勝負しないと、どちらが優れているのかは測れない。

 

「要は我慢比べってことだね。先に音を上げた方が負け。こうなるともう、ゲームの腕前なんて関係ない」

 

「そ。一億回なんて、現実的な仮説じゃないけど――」

 

『ニートを甘く見るなッス。数をこなすことだけがボクらの才能。

 そして思い知れ。真に公平なゲームっていうのは、誰がやってもイーブンになるもの。ラニさんの公平さは嘘っぱちッス』

 

 ラニはゲームをしたかったんじゃない。

 単に「自分の頭の良さを見せつけたかった」だけ、ということである。

 

『違います。私はミス白野が偶然にもチェスを持っていたから、プレイを提案しただけで――』

 

『そのチェスがあったのはこのフロアッス。ラニさんは自分が絶対勝てるゲームをわざわざ用意したッスね~。あーあ、ゲームで遊びたかっただけ、ならまだ可愛いかったのにナー。幻滅ダナー』

 

『ち、違います……私はただ、皆さんに公正なゲームの美しさを伝えようと――』

 

『始めはそうだったかもしれないけど、本音が出ちゃったんだにゃー。

 これはラニさんの無意識のよどみ。自分の性能を誇示したくて仕方がなかった、理系女子のなれの果てッスよ――!!』

 

 ジナコが言った瞬間、ラニの胸から光が溢れ出る。

 あれが三つ目のSG。吸い込まれるようにして、岸波の手がそれを掴み取っていく。

 

『にゃはは、これがラニさんの最後のSG……ジナコさん命名、名付けて「最強厨」ッス!』

 

『……そうですか。私にもまだ、解析できない偏執があったのですね。いいでしょう、私に自己顕示欲があったのは認めます。ですが――』

 

 貴方たちは絶対に認めない、とラニは言った。

 そりゃあなぁ……あんまりなネーミングだもんなぁ……

 

「価値観の相違だね……流石に僕もどうかと……」

 

「私もあんな不名誉極まりない分類されたら、最早どちらかが死ぬしかありえない程には怨むわな……」

 

 上手く言葉では言い表せないが、とにかく許してはならないものがある。

 ジナコが命名した「最強厨」――あれは酷い。

 

『つべこべ言わずにかかってきなさい。万全の状態で、完膚なきまでに粉砕して差し上げます』

 

 淡々とした口調で宣言して、ラニのクォーターは消え去った。

 あれ、やりすぎた? とジナコの声が聞こえたが、ええまさにその通り。

 ホムンクルスであろうと急所を突かれたのだ。今頃、レリーフの中で怒りに震えていることだろう。

 

 

 ❀

 

 

『はぁーい♪ ムーンセル唯一にして頂点のアイドル、エ……じゃなくて、ランサー様の特別放送を始めるわ。心して聞きなさい』

 

 万全の用意をしてから、と岸波が一旦旧校舎に戻って来た数分後。

 モニターからエリザベートの声が流れてきた。

 曰く、ラニに作らせていた完成未定の専用ステージがあっという間に完成したのだと。

 

「うわ……なんつー悪趣味なモノを……アイアンメイデンか、アレ?」

 

「あの大きさなら、一度に二十人は詰め込めるね。きっとアレは、岸波対策だ」

 

 中世の拷問具、アイアンメイデン。

 その中にはトゲトゲしたものが山ほどある。敵はその中に囚われたマスターたちを入れ、魔力をストックさせておくハラだろう。無論、岸波を迎え撃つために。

 

『今夜はカロリーもノーカウント! 酒池肉林のカーニヴァル、ワルプルギス(ファイナル)をブチかますわ!!』

 

 その言葉を最後に、通信が途切れる。

 生徒会の方も大慌てでいることだろう。傍観に徹している私達は、自室から動く気は全くないが。

 

「そういえば、マスター。BBが持つ衛士は、リンとラニの二人しかいないんだったよね?」

 

「え? あぁ……そうか、ラニを倒せば晴れて表側に戻れるってわけか」

 

 BBの使える手駒はもうない。

 ならば、あとは元凶を捕らえて表に戻るのみ。

 ……そう上手くいくのかね?

 だが、たとえ上手くいったとしても少し惜しい。ロクにエルキドゥにかけられた制限を解除することができなかったのだから。

 

 ……待てよ。私達はともかく、岸波は表側に戻ってからどうするんだ?

 岸波とギルガメッシュとの契約は、一体いつまで――

 

「僕が出て行けば契約自体は続行されると思うよ? けど、タイミングを誤ればギルはまた封印されにいってしまう。こればっかりは、彼女に任せるしかないんじゃないかな」

 

 サーヴァントとの関係は、マスターがどうにかするべき問題だ。

 ここまでは上手くやれている。余程のことでもない限り――そう、岸波がヘマをやらかさない限りは――きっと、大丈夫だ。たぶん。

 

 

『桜さん。前回と同じよう、サポートをお願いします』

 

『はい、任せてください。前回より安全、スムーズに霊子変換できます』

 

『それでは――白野さん、目を閉じて心を穏やかに。どうかラニさんを解放してあげて下さい』

 

 キアラと桜により、岸波の精神潜入(サイコダイブ)が始められる。

 外にいる自分たちは、ただ勝敗の結果を待つのみだ。

 

 

 ❀

 

 

「――お」

 

 数分後、ラニのレリーフが消失した。

 ということは……無事、救出に成功したようである。

 

『出口は目の前だそうだ、雑種。思いのほか、早く刻限がやってきたぞ?』

 

「……あ、本当に裏側だけでの契約だった……」

 

「あはは……けど、もう少し様子を見ようよ。本当にこの先に、出口があるのかどうか」

 

 岸波とギルガメッシュが次の階層への階段を下る。

 と、ノイズ混じりにだが、桜による通信がつながった。

 

『状況、確認しました! そこは今までの迷宮とは別の構造体です!』

 

 出口かどうかはまだ検証中……だが、岸波たちが踏み入った空間が“迷宮の外”であることは間違いないようである。

 

『あれ? ねぇ桜、モニターの調子がわる――』

 

 凛の声が途切れる。

 おそらく生徒会室ではなく、岸波達がいる空間に通信を妨害する異常があるのだろう。

 同様に自分達の方の映像も消える。だが、音声はまだ生きていた。

 

『健闘お疲れ様でした、セ・ン・パ・イ。その状態でエリザベートを倒すとか、ちょびっとだけ見直しました。

 えぇ、本当に――踏み潰したくなるぐらい、目障り』

 

 BBの声で空気が一変した。

 何かが、来る。

 

『下がれ雑種。形容しがたい汚物が来るぞ』

 

 ギルガメッシュが言った途端、何かが衝突し合う音が聞こえた。

 新手――やはり、ここで全てが終わるわけではないらしい。

 

 

『ごめんなさい……わたし、来るの遅れてしまって……』

 

『エゴ使いが荒いわBB。私達、まだ自分の世界も出来ていないのに』

 

 

 初めて耳に入れる、二体の声。

 BBが扱えるサーヴァントはまだ他にいたと……?

 

『この二人はアルターエゴ。BB(わたし)から分かれた分身です。二人とも、ムーンセルから得た“ある系列”のサーヴァント情報をめいっぱい詰め込んだので、それなりに強いですよ?』

 

 いわば、新手の者達は英雄複合体。

 複数の英霊の能力を兼ね備えた、人工のサーヴァント。

 

『それだけではあるまい。口にするのもおぞましいが、その女どもの手足は比類なき汚物であろう』

 

『えぇ、この子たちの基本は人間の英霊ではありません。私がムーンセルから引き出したのは女神の系列。神話上の女神を再現したハイ・サーヴァントと呼べる存在です』

 

「――ん? ってことはあいつ等、お前と相性良いんじゃないか?」

 

「そうだけど、今のステータスじゃ五分五分だと思う。もちろん、ギルの方もね」

 

 ぐぬぅ、ステータスについてはまだ待ちたまえよ君……

 

 しかしこれは、岸波にとってかなり悔しいことだろう。

 出口とBBを目前にしながら、一歩も先に進めないのだから。

 

『引き際を間違えるなよ雑種。貴様が終わるのは勝手だが、我はあの女神どもに倒される(オレ)など認めん』

 

『わたし、逃げるアリさんをわざわざ踏みに行くほど暇人じゃありません。話が済んだのなら、逃げていいですよ』

 

『お母さま、侵食が第三階増に到達しました。ここ……わたしにくれるん、ですよね?』

 

『好きにしなさい。わたしは中枢を目指すだけよ』

 

『ぁ、ありがとうございます……わたし、がんばりますから……』

 

『私の世界はまだまだお預け? それじゃあまだドレインしたりないし、表に行っていいBB?』

 

『あまり羽目を外さないように。あなた、雑食がすぎるから。

 ――とまぁ、こんな子たちですけど、わたしを捕まえたいなら、なんとか倒しちゃってください。それじゃあ、死ぬ気もないニンゲンにはみじめに退場してもらいますか』

 

 恒例のふーふータイムです、と言って暴風の音が立てられる。

 結局、次も迷宮探索が行われることとなるようだ。

 

 制約解除のタイムイミットが延長されたのは正直、ありがたく思う。

 しかし肝心の表側への道は、未だ遠くにあるのだった。

 

 

 

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