Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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極限圧縮

「……こっちに来る気配はなし。うん、バレてないみたい」

 

 エルキドゥの報告にホッと胸を撫で下ろす。

 

 ――アルターエゴの侵入、撃退から数分。

 まず気配を察知したエルキドゥと共に玄関へ行き、窓越しにパッションリップを補足。

 次にタイミングを見計らい、ハッキングによってリップの動きを一瞬だけ停止させ、その一瞬にエルキドゥが攻撃を叩き込む――とまぁ、簡単に言えばこんな感じだった。

 

 アルターエゴであるリップの霊子構造はサーヴァント以上だったが――別に全てをハッキングしたワケではない。動作に不具合を起こす一部分だけを停めただけ。

 

 乱暴にも程がある作戦であっても、ともあれ成功はした。結果良ければ全て良し。

 それでもキアラ、お前はダメだ。

 

「けど、マスター。僕に飲ませた『魔法石』って高価なものだったんだろう? 大丈夫なのかい?」

 

「はは……心配するな。なぁに、宝石は持ち込めるだけ持ち込んだんだ。一つや二つ、どうという事は――」

 

「僕、四つ五つ飲んだけど」

 

「……うん。まぁ、裏側で起こる戦闘と、表での残り二回分の対戦を考えると、ちょっと足りないかなー……」

 

 代償は高い。

 いくら「変容」スキルでエルキドゥの筋力を最高まで引き上げたとしても、やはり魔力ランクEはキツイ。おのれムーンセル……!

 だがまぁ、裏側は少しキツくとも、表側での金銭面の心配はないだろうし。いざとなったらハッキングで、無理矢理にでも購買に売り出させてやればいいか。

 

「君、魔術は使えなくても、電脳世界の技術は優れているよね。それも師に習ったのかい?」

 

「いいや。ハッキング能力だけはコツコツ自分で鍛え上げてきたスキルだよ。今の時代、ハックスキルは基本中の基本っつっても過言じゃないからなぁ……」

 

 現実の世界じゃあ、戦争のメインだって電脳戦なのである。

 コストもかからず、環境も破壊しない電脳戦は地球に優しい戦争と言えるだろう。皮肉なことに。

 

「つーか、このスキルがなかったらまず霊子ダイブもできてないし……ま、そこに魔術を組み込むのにはかなり時間かかったけどな……」

 

 魔術の腕はからっきし。

 私の特技といえば、無駄に良い頭の回転さ。

 それを利用して上達させていったのが()()のハッキング能力。

 

 メイガス、という旧き魔術師たちの魔術は、魔力を使った神秘。

 ウィザード、という新しい魔術師たちは、電脳空間で魂の物質化を可能にしたA級ハッカーだ。

 

 だから、元々ハッカーとしての能力を鍛えていた私は、魔力の扱い方さえ覚えてしまえば、容易にウィザードとなることができた。

 ……まぁ、その過程は決して楽なものではなかったが。

 

「――で、本当に大丈夫なんだな? 英雄王はこっち来てないんだな?」

 

「来てないよ。気付かれていないかは別としてね」

 

「………………せめて、人として死なせてください」

 

「大丈夫だよ。マスターは僕が守るからね」

 

 にこやかに笑い、きっぱり言ってくれるエルキドゥ。

 頼もしい限りで何よりだ。あと可愛い。

 

 ひとまず、英雄王に対してはその時に考えよう。いっそもう全部このサーヴァントに投げてしまうというのも一つの手だ。

 

 

 ❀

 

 

 九階の探索が始まった。

 しかし今回の階層には、何やらあちこちにピンク色の霧が発生しているらしい。

 

『解析したわ。とりあえず毒じゃないみたい。受けるダメージが上がるだけよ』

 

『……? サーヴァントの被ダメージが向上する、ということですか?』

 

『そう。霧の中だと、高度な知性体だけ外界からの刺激を何倍にも感じるらしいの。

 あはは、私も自分で何言ってんだか分からないけど、とにかく納得して』

 

 弱体化フィールドの一種、というコトか。

 ……もう、最後のSGは判明したも同然だな。

 

 

 岸波は霧を避けて進んでいき――たいところだが、どうしてもその中での戦闘になってしまう。

 今のところ、大したダメージを負っていないのは、岸波が持つ戦術眼のおかげだろう。

 あの娘、散々「凡夫」やら「最弱」と言われながらも、その眼だけは達人級である。

 

『ん……? 何だろう、コレ』

 

 しばらく進むと、床に転がっているおかしなデータを見つけた。

 以前発見した、圧縮データと同じ物。今回は回収できる容量(おもさ)みたいだ。

 

『それを覗くな。おまえの女には合わぬものだ。早々に仕舞い、解析はラニに任せておけ』

 

 岸波がまじまじとダストデータを覗こうとすると、そう英雄王が声をかけてきた。

 その口ぶりからすると、中身は精神衛生上にもあまりよろしくないものらしい。というか、この前見つけたやつだって怪しいもんである。

 

 

 ――そして、最奥へと辿り着く。

 その先は例のシールドで塞がれており――そのシールドの前に、人影が二つ。

 なんとBBとパッションリップ。最悪だ。

 

 ……だが、見た限り、コンビとは言えない雰囲気らしいが……?

 

『リップ、どういう事なのかしら。ここの守り用に特別調整した、無敵の対ギルガメッシュ用迷宮ロボ・BBB。アレは何処にいったの?』

 

『その……あの子は……勝手に、どこか行っちゃって…………』

 

『このエリアから出ないよう設定したんだから、行けるわけがないでしょう。

 わたしは「プログラムを潰したのか」と聞いているのよ』

 

『………………だって。あの子、偉そうなだけで可愛くないし、要らないです、よね?』

 

 だから例の如く、潰して捨てたと。

 今度は自分の胸ではなく、アリーナにポイッと。

 ……あ、もしかしてさっき見つけたやつか?

 

『要らないから潰した? それを決めるのは貴方じゃないでしょう!? アレを作るのにどれだけ時間を使ったと思っているの!?』

 

 ムーンセルの目を盗み、表側で分解されるはずだったアリーナをいくつか拝借し、少しずつ分解して、攻性プログラムとして組みなおし、思考ルーチンも特性のものを付け足し、外見もBBそっくり可愛く……って、だから潰されたんじゃ?

 

『わかる!? それだけの手間と時間をかけたと思っているの!?

 ――二分よ! 二分もかかったのよ!?』

 

「『迅速な仕事だな!?』」

 

 ……おや、なんかモニター内の誰かと被ってしまったようだ。

 つーかBBってアレだよな。割とバ――いや、これ以上考えるのは止めておこう。

 

『はぁ……いいわ、この件は貴方が代わりをすればいいだけの話。けど――七階にあった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものは、何を考えていたの?』

 

 ――背筋が寒くなった。

 今、なんて?

 

『誤魔化しは通用しません。答えなさいリップ!』

 

『……NPCの皆さんはわたしを認めてくれて……嬉しかった。愛していました。……なのに、メルトができてからはわたしのことを話さなくなりました』

 

 酷いです、と零す。

 

『でも、愛していたけど憎らしい、あの人たちを、無かったコトには、したくなくて。そういう人たちは――一生潰れた箱の中で、苦しみ続けていればいいですよね?』

 

『――――』

 

『お母さま……わたし、おかしくなんか、ありません……分かっているでしょう? わたしを悪く言うのは、自分を悪く言うのと同じだって』

 

『……そうですね。貴女は私の影(アルターエゴ)。なら、その役割を果たしなさい。この迷宮を、最後まで貴女が守るのよ』

 

 迷宮の果てに戻ったのだろう、BBはそこで転移していった。

 問題は残され、立ち尽くしているアルターエゴ。今度こそ、戦闘は避けられない。

 

 

『ぁ……こ、こんばんは! わたしに、会いに来てくれたんですか……?』

 

 近づいてみると、先のBBの嫌味もどこ吹く風。

 あれだけ言われていたのに関わらず、岸波に会えたのが余程嬉しいのか、未だ向こうには戦闘意欲がないらしい。

 

『――戦いに来た』

 

『戦い、ですか? はい、白野さんがそうしたいなら……でも……カンタンに、潰れないでくださいね……?』

 

 思っていたよりあっさりと、戦闘は開始された。

 初めての対アルターエゴ戦。やっと相手の力量を計ることができる……!

 

 

 ❀

 

 

 リップの攻撃は単調だった。

 無論、ギルガメッシュが受けるダメージは甚大だが、まだ余力は残っている。

 慣れてしまえば、倒すことだってできるはずだ。

 

 一方、敵は今度こそ岸波と「お話」しようとしたらしいが、またもカロリー不足とやらで帰ってしまった。

 岸波の方も一旦、方針を見直すために生徒会室へ戻っていく。

 

「……そういえば、あの緑のアーチャーはどうしたんだろうね?」

 

「もう面倒見切れない、とか言って別の役にされたんじゃないか? あんまり相性良くなさそうだったし……」

 

 顔の無い王、という宝具(マント)を持つ緑アーチャー。

 明らかな真名の手掛かりは今の所、それしかないが……、

 

「緑、っつったら森っぽいよな。あぁ、あと罠も使ってたか」

 

 その罠には確か、毒が使われていたな。暗殺がメイン、ということだろうか。

 弓使い、森、毒……うーん……

 

「……ロビンフッド辺りかね?」

 

 アタランテやケイローン、とまぁ色々な線を考えたが、この辺りが妥当だろう。

 まずアタランテは女だし、ケイローンは半身半馬と言われているし。

 それに、奴はなんか、英雄っぽくない。義賊とかそっちの方が合うカンジ。

 

「うし、今から奴の呼び名は『ロビン(仮)』でいいな。間違っていても気にしない!」

 

「……いや、結構的は射ていると思うけど……」

 

 確証はないので、今はこれでいいだろう。

 やっぱり真名当ては楽しい。これも聖杯戦争の醍醐味である。

 

 

『お帰りなさい。白野さんが戻ってくるまでの間に、次の作戦を立案しておきました』

 

 生徒会の作戦会議が開かれた。

 現在の問題は……記憶の在処と、九階層のシールド。

 道はあそこで行き止まり。迷宮中を探しても、「記憶」のデータは発見できず。

 となると、可能性は二つ。

 

『考えられる保管場所は、シールドの向こうか、パッションリップの特殊スキル……「ブレストバレー」が該当します』

 

 ブレストバレー……リップの胸にある、特殊な廃棄場所のことか。

 確かに厳重に保管するというなら、本人を捕まえないことには調べられない場所ほど、適した隠し場所はないだろう。

 しかしこの二つに関しては、エゴを揺さぶることで解決が見込めるハズ。

 

『……コホッ、彼女の位置は補足しています。第八階の北東エリア、回廊状になっている通路です』

 

『白野さんには八階に向かっていただき、そこでアルターエゴと接触、彼女からSG、記憶データを奪取してもらいます。作戦は単純ですが、万全の準備で臨んでください』

 

 相手は未知数の実力者――いいや、何も戦うばかりとは限らないか。

 岸波のことだ、敵が非戦闘的であることを考慮して、話し合いで収めようと思うだろう。

 

 ……追いかけていると思って、また尾行されなければいいのだが。

 

 

『新しいダストデータを入手したのですね。では解凍を始めます』

 

 会議が終了すると、ラニが例のキューブを解析していた。

 そして、解凍は失敗。および検証も完了。

 

 一つ目の中身は一つのアリーナ、二つ目は特性の攻性プログラムを圧縮したもの。

 以上のことから、パッションリップの固有スキルは極限圧縮――どれほど巨大な容量であろうと、極小まで圧縮し、保存するスキルと仮定。

 問題は、この圧縮は不可逆、という点。彼女に圧縮されたデータは、もう以前のカタチには戻せない。

 

 圧縮されていながら解凍できない。

 破壊されていながら、形式としては以前のままで生き続ける。

 

 キューブの中にいるNPCたち(ダストデータ)は、こんな形でも――まだ、生きている。

 永遠に固定化され、ゴミ箱という名の倉庫に収納される……その先にあるものは、肉片と化したまま生き続ける地獄だ。

 

『…………即死効果耐性上昇のプログラム、「オシリスの砂塵」完成しました。購買部にてお買い求めください。また、言峰氏と結託して儲けようなどと、ミス遠坂のようなことは考えておりません。あしからず』

 

 その手があったかー! と凛の声が聞こえてくる。

 流石はラニ、仕事が早い。

 

 

 




 一応補足。
 対パッションリップ時のエルキドゥのパラメータについて。

 エルキの「変容」は一つの能力を引き上げるのに、他の部分が二ランク引き下がる。
 今のエルキの能力値はオールC+。
 つまり、

筋力C+ 魔力C+
耐久C+ 幸運C+
敏捷C+

 が、

筋力A  魔力E
耐久C+ 幸運C+
敏捷C+

 とまぁ、ざっくりこんな具合。
 ちなみに魔力補強のため、宝石を何個か消費、という。
 うむ、この辺りはあまり細かく考えないようにしてくだされ!

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