生徒会の見解
『モニターの前の皆さん、こんばんは。ムーンセルでブクマNo.1の愉快コンテンツ、BBチャンネルの時間です』
視界は例のスタジオだ。
といっても、岸波以外はこれでも観客席にいるようなもの。このイベントは、ゲストとして招かれている岸波が一番辛いだろう。
『今回はBBチャンネル噂の迷宮のボス、最近話題の
わあ、誰なんでしょう全然分かりません。ハッ……まさか驚愕の……新、キャラ……?』
『――ステマ乙』
謎にハイテンションで痛々しいBBの傍らに現れたのはジナコ。
その雰囲気は、やはり暗い。
『
『顔出しはこれで十分ッスね……こんな無理ゲー、白野さん関わっちゃダメッス。構ってチャンは、スルーが大原則ッスよ』
言うと、ボンッと煙と共に音を立てて消えるジナコ。
通信遮断か、自分から退室を望んだか。消える直前、一瞬だけこちらを仰ぎ見たような……
『自分でスカウトしておいて何ですが、ぶっちゃけジナコさんには期待していません。ですが彼女の護衛だけは正真正銘、超級のサーヴァントです』
もしかしたら話し合いもアリですよねー、と全くする気のない顔で言うBB。
……BBの考えていることはまるで分からない。
狂っているとはいえ、彼女に何らかの意図はあるはず。
というか、ステータスこそダウンしているものの、ギルガメッシュとカルナが同格というのなら、エルキドゥだって超級のサーヴァントだろう。
ここまでガンスルーだと忘れられているような気もしてきてしまう。
『BBは……ヒロイン分が、少ない?』
『アレは少ないのではない、無だ。無には何をかけてもゼロだぞ?』
『しつけのなってないサーヴァントです……そんなに番組の営業を妨害するなら、次は一対一の「BBの部屋」でお待ちしていますからね、センパイ!』
❀
ブツンと電源が切れたようにBBチャンネルから解放される。
と、ガトーが駆け出し、生徒会室から出て行ってしまった。
……ジナコのところだろうか。まぁ、仲良かったらしいし、ガトーはジナコみたいなタイプを放っておけないのだろう。
「とにかく今はジナコさんです。アルターエゴとは違い、今回は救出を前提に――……すみません、ガトー団長は何処に?」
やっと気がついたのか、レオがそう質問する。
自分はバッチリ見ていた身だし、まぁ伝えておくか。
「ハックから解放されるなり出て行ったぞアイツ。迷宮にでも行ったんじゃないか?」
「いけない。白野さん、話は後にしましょう」
迷宮調査のついでに、ガトーの救出が行われるそうだ。
心配はされているのだろうが、株が落ちてしまっている気がするぞ、ガトー。
岸波も急いで生徒会室から出て行く。
ジナコのことが心配なのだろう、まさに主人公体質である。
「――月成さん、何処へ?」
「は?」
生徒会室の用は済んだ――という、至って普通の理由で自室へ戻ろうとすると、レオがそう声をかけてきた。
「何処って、部屋だよ。迷宮探索やるんだろ?」
「そう、ですか……あまり、気を落とさないように。何かあったら言ってください」
やだなにコイツ気持ち悪い。
一体どうしたというのか。記憶が戻ってからというもの、レオがこちらに向ける視線が妙に優しくなった気がする。新しい嫌がらせか?
「あー……その、アレだ。ハックスキルだけには自信あるから、マジで手に負えない事態になったら協力しなくもない。以上」
「……はい。そのときはよろしくお願いします」
なんだかまだ釈然としていないが、ひとまず天敵二人から逃れるために外へ出る。
……なんなのだろう、本当に。
❀
「あ……おはようマスター」
「おはよう……って今の今まで寝てたのかよ、オマエ」
ということはモニターも起動させてないな。
欠伸しているエルキドゥは放置し、いつものように探索の様子を盗み見る。
サクラ迷宮第四層、十階。
ボスはジナコ、サーヴァントはカルナ。
……何も思わない、なんてことはない。
ジナコとは協力関係にあった。おそらくこれは、生徒会も、多分岸波さえ知らないこと。
迷宮にエルキドゥ連れていけば楽に攻略できるかなぁ、などと漠然と考えてみるが、それはないだろう。
協力関係にあったとしても、ジナコがエルキドゥを気に入っていたとしても。
月成ルツでは、ジナコ=カリギリを救えない。
岸波でも無理だ。少しくらい心は開くかもしれないが、所詮「そこまで」。
あいつを真に救うなら、それは奴の人生観をまるっと変えてしまわなければならない。
それができるのは――
【左はただの宝箱、右はただの行き止まりッス。探索なんて無意味だから、今すぐ帰りなさい】
飾り気のない素朴なフォントの短いメッセージが書かれた「看板」。
今回も、核になった者の心が反映された迷宮らしい。
岸波が宝箱があるという左に進んでいく。が――宝箱なんて何処にも無い。
右にはきちんとした道があり、宝箱があった。
「……なるほどな」
SGが何となく分かった。
実にジナコらしいものである。
その後もいくつか看板を見つけたが、そのどれもが「嘘」だった。
鈍感さに定評のある岸波でも、早々にこの事実に気がついたようだ。
『あわ、あわわわ……白野さん……!』
行き止まりのシールド前に到着すると、慌てふためいているジナコのクォーターがいた。
転移して逃げないところからすると、今回それはできないらしい。
『ひ、人違いッス! 実はボク、ジナコの双子の妹のジメコさんッス。ちーッス』
漸く会話をし始めたと思えば、今度は酷く苦しい誤魔化しだ。
それこそ、この階層の特徴でもあるのだが。
『ジナコさんは見えざるBBの手に操られてるッス! ボクは利用されているだけで、あの看板だって白野さんの迷惑になるなんて全然想定外で、これっぽっちの悪意はないッス』
……頭が痛くなってくる。
なにがなんでも嘘を突き通すようだ。
『分かってくれたなら、その物騒なサーヴァントとか引っ込めるッスよ』
『分かった。じゃあおとなしくSGを渡してくれ』
『ムリッス! そもそもジナコさんSGなんて知らないし、知らないものは渡せないッスね~』
『――それはムシが良すぎるというものだろう』
……彼女の槍が姿を現した途端、空気がガラリと変質した。
インドの叙事詩「マハーバーラタ」において倒される側の英雄、カルナ。
ジナコのサーヴァントである以上、彼も立ちふさがる敵であろう。
『彼らも相応の危険と残された時間という対価を支払い迷宮に挑んでいる。帰れと言われてタダで帰る道理はないだろう。……すまないな。我が主人に代わって、コレの不覚と不慮を詫びよう』
本当に苦しそうに、顔を曇らせるランサー。その態度に嫌みや
あの迷惑な看板を幾つも見てきた後だと、眩しいばかりのストレートさである。
『あ、アンタは一体どっちの味方なんスか!?』
『肉体的には、お前の味方だ』
『う……精神的に味方と言ってほしかったッス……! だ、だったらマイナーな英霊なりにアタシの役に立ってみせてよ!』
『仰せとあらば応えよう。タダでは帰れぬ客人だ、せめてオレの槍を味わっていけ』
穏やかな切り口とは裏腹に、瞬時に闘気が高まった。
何度か顔を見た程度のサーヴァント。果たして、その強さはいかほどか。
つーかガトー、どこいった?
❀ side out
時は、少しだけ遡る。
「……レオ」
「ええ。分かっています、ガウェイン」
「……ま、無理もないか」
「…………」
月成ルツが去った後の生徒会室は重い空気に包まれていた。
それもそのはず、問題の本人が一番普通の態度を取っていたのだから。
「あの様子じゃあ、ショック受けてるってよりも、まだ『信じられてない』って感じよね。放っておいて大丈夫、あの人?」
「どうでしょうね。ボクも、彼女自身についてはあまり詳しくは知りませんし……」
「……キャパオーバー、というやつでしょうか。しかし月成ルツの態度は至って平静のそれでしたが?」
「人間、あまりのショックで表まで感情が出ないこともあるのよ。本人は一応、協力する意思はありそうだけど……どうするの、レオ?」
「そうですね……正直、情けない事ですが彼女への対応はボクが一番やりにくい。下手をしたら戦闘に発展してしまうかもしれない」
「……? あの、先ほどから皆さん何を? 月成さんが、何か?」
そう問うたのは殺生院キアラ。
ちなみに彼女、未だに月成ルツから天敵認定されていることに気付いていない。天敵というか、照れているだけだと思っているらしい。とんだ天然である。
「あぁ、キアラさんはご存知ありませんでしたか。月成ルツ――彼女は地上でそこそこ有名な霊子ハッカーなんですよ」
「といっても、私は名前を言われてやっと思い出した、って程度なんだけどね。別にレジスタンス組織の一員じゃないみたいだし」
「……検索しました。月成ルツ。アジア圏――具体的には日本を拠点に活動していたウィザードですね。稀に電子戦に参加し、ハーウェイ私設軍隊の動きを妨害していたハッカーらしいです」
「はい。なぜかいつも邪魔するタイミングが的確で、一部のハーウェイ関係者から目の敵にされていました」
「あと、ワールドランキングNo.3の『ルーツ』本人だって噂もあるよ。名前も似てるし、時折ブログに宣戦布告じみたメッセージを載せていた」
「へぇ、意外。あの人、ゲームやってたんだ。シンジ、あんた知り合いじゃなかったの?」
「知らないよ。所詮、僕より下の順位だったし、あまり気にしたことはない」
「やはり凄いお方でしたのね。アルターエゴを撃退した際も、強い魔力を感じましたし」
「――――、」
「……レオ?」
ユリウスが怪訝な声を上げたのは、やはりレオが似合わぬ暗い表情をしたからだ。
「でも私、一つ引っ掛かってることがあるのよ。言っちゃ悪いけど、彼女あんまりウィザードとしての腕ってあんまり高い方じゃないと思うの。なのに、アルターエゴを撃退、なんて――」
「つまりミス遠坂が言いたいのは、彼女が
はっきりレオがそう告げると、シン、と静まり返る生徒会。
そこそこ有名な霊子ハッカー。
ワールドランキングNo.3。
魔術の腕は中より下辺り。
……それが月成ルツに対する、いま生徒会室にいるメンバーの大方の認識だった。
「彼女が聖杯にかける願いは、『人類史を1970年からやり直す』ことでした。
要は、世界平和ですね。その年からやり直せば、魔力の枯渇も起きず、今の世界情勢より少しはマシに
その望みは、あくまで「かもしれない」という希望があってこそ成り立つもの。
やり直し――それはその時ある可能性をもう一度辿りなおすこと。
上手くいけば今より「まし」にはなるかもしれない。だけど、今より最悪な可能性を辿った際には――
「? 待ってください。レオさん、どうして貴方が月成さんの願いを知っているんですか? それに、どうして彼女にサーヴァントがいないと断言を――?」
「聞いたからですよ。遺言に」
桜からの質問に、淡々と答える聖杯戦争の優勝候補。
レオ・B・ハーウェイ。
最強のマスターにして、常勝の王。
そんな彼に、平凡な、ただの霊子ハッカーに負けるなんて未来はない。
「ボクは聖杯戦争の
彼女のサーヴァントはバーサーカー。真名はルーマニアの王、
……彼女がサーヴァントを持っているなんて、在り得ないことなんです」