Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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血々純潔

 要は八つ当たりである。

 

 まずエルキドゥが床から鎖を生み出し、巧みに操って敵を薙ぎ払った。

 元のステータスまで戻った、その一撃で塵になるエネミーも少なくないが、ストックでもあるのかすぐに復活してくる。まぁ、いなくなるまで倒し続ければ、いずれ次の段階に進めるだろう。 

 ここは全てサーヴァントに任せれば効率は良い。それは重々承知しているのだが……

 

「【shock】――――」

 

 破邪刀には一応、敵へダメージ以外にスタンを付与する能力がある。スキルを封じるほど強力でなくとも、発動さえしてくれれば()()()()()()()をうまく扱えない自分はひたすら物理でエネミーを殴……斬っていけばいい。

 発動しなかった場合は、スタンするまで斬りつけるか、状況に応じて後ろのエルキドゥに任せるかの二択である。

 

『ちょ――ちょっとアンタ!? なんでマスターが戦闘に出てるのよ!? 立場分かってんの!?』

 

「ストレス発散」

 

 は? と凛の呆れた声がした。

 

 行き場のない怒りはどこへ向ければいい。

 生徒会か? 違う。

 サーヴァントか? 違う。

 明確に「敵」だと認識できる者へとぶつけられるのなら、一石二鳥というものだ。

 

 マスターが倒れたら元も子もない、というがそれについては心配いらない。なぜなら私はサーヴァントに「援護をしてくれ」と頼んだのだ。ならば、まず私へ攻撃が届くことは無いし、私自身もきちんと戦闘はエルキドゥの攻撃範囲で行っている。

 

「あ――――、やってらんねー。人の手の平の上で全部事が進んでました、とかホント嫌いだわ私」

 

 念話を通してエルキドゥへそう愚痴を零す。

 身体は思うがままに暴れ、思考の方はひたすらに不満を漏らしていく。そうでもしないとバランスが取れなかった。

 

『違和感の正体は分かったのかい?』

 

「あぁ、解決した。もうアレだわ、とにかく地上に帰って師匠をぶん殴りたい」

 

 ――我が魔術の師、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは魔法使いである。

 その能力は並行世界の運営。あちこちの世界線へ現れては、周りを引っ掻き回していくのが常らしい。少しは落ち着けよジジイ。

 

 今はアメリカの方でやってる聖杯戦争が気になるから、その間にお前は月の聖杯戦争を観測して来い、などと言われて放り出されたのが数ヶ月前。

 ……多分、奴が言ったアメリカも、また別の世界の話なのだろう。ま、それはさておき。

 

「――シンジ……多分ジナコも。あいつらは『ルーツ』だとかっていう奴をネットで見つけた。監督役の言峰はお前のサーヴァントはバーサーカーじゃないかと尋ねてきた。んで、レオは私と三回戦で、しかもバーサーカーと戦ったと証言していた」

 

 そして私はレオに殺された。

 ……正確には、()()()()()()()()()()が。

 

『へぇ、それで君はどう思ったんだい?』

 

「どうもこうも、」

 

 この違和感の原因は師匠にあったというだけだ。

 私にとって、最も重要視するべきところは――

 

「師匠が――あの魔法使いが、どんな目的で、どういう狙いで、()()()()私をこの世界に送り込んだか、ってことだッ!!」

 

 四、五体のエネミーを地へと叩きつける。

 ――まだだ。まだ、衝動は収まっていない。

 

『――? なら、僕達はいつ元居た世界から()()()に……あぁ、そうか。BBだね』

 

「そ、私たちが会話したBBは、元居た世界の方だった、ってワケだ。つまり、私達は月の裏側……虚数空間を『経由』してここに来たってこと」

 

 随分回りくどいことをしてくれる。

 これはアレだ、あの師匠、前に「自分が関われば下手したら世界が確定する」とかなんとか言ってたから、弟子の私を駒に使ったな。

 しかし念には念を入れ、直接目的の世界線に送らず、わざわざ元の世界線から虚数の海にある空間の歪みを通らせて、ここへ辿り着かせたのだろう。

 

『それは、君だからこそ意味があるってことなのかな?』

 

 サーヴァントからの問いを聞きながら、呼吸を整えて視界に入ってくるエネミーを次から次へと打ち倒す。固い――が、スタンさえ決まってしまえば、こちらのターンだ。

 

「……その存在にしかないもの……っていったら『起源』かね」

 

 起源。それはその存在の因となる混沌衝動……らしい。

 よく分からないが、要は魂の原点だ。

 確か私の場合は――

 

「『分岐』……だったかな。うむ、全く分からん」

 

 選択肢を増やすとかそういうのだろうか。

 並行世界、に「分岐」の起源……嫌な予感しかしない。

 

『――つまり、今の君はこの知らない世界が怖くなったんだね。だからこうして行き場のない感情を八つ当たりで鎮めようとしていると』

 

「…………まぁ」

 

 分かってくれる、理解してくるのは嬉しいが、直接言うなよそういうの!

 ここは内心を分かった上で、ついでに空気も読んで、そっとしておく場面だろう! ――少なくとも私はそうしておいて欲しかった!

 

『エネミー反応、減少してきました。代わりに、その先の通路に新しいエネミー反応が数体ほど』

 

 ラニからの通信で、一旦念話を切る。

 周囲を見渡せば、確かにエネミーの姿は見かけなくなっていた。

 先にエルキドゥの台詞で色んな感情が削がれて冷静さを取り戻してきたし、丁度いい頃合だろう。未知の世界であろうとも、こうしてパートナーがいてくれるならそれでいい。

 

「――っし、討伐完了!」

 

 最後の一体を切り伏せ、塵に返ったのを確認する。

 身体強化の魔術で、想定していたより感じる疲労は少なかった。敵から受けた攻撃もほとんど、というか全くない。これについてはエルキドゥによる援護のおかげだろう。

 

 師匠の考えていることや、自分のなすべきことは帰ってからじっくり考えよう。

 今は目前の目的、迷宮探索を遂行する。

 

「じゃ、私は大分スッキリしたし、後の戦闘は頼むわ」

 

「本来はそれが普通なんだけどね……」

 

 やっぱり君、自分で戦うの好きでしょ、という言葉は無視する。

 これは仕方がないのだ、全ては魔術師の家系のクセに道場なんてモンがあった実家が悪いのだ。いや、私自身は強化魔術に頼っている節があるので、ホントにそこまでの身体能力はない。ないったらない。

 人間、ストレス解消には身体を動かすのが一番なのだ。私はそういう人種だっただけ。

 

 

「さて、と。次は……」

 

 破邪刀を仕舞い、迷宮を進んでいくと細い坂道に差し掛かった。

 が、そこをみっちりと巨体のエネミーたちが塞いでいる。この避けようがない意地の悪い配置――実にシンジらしい。

 

「うんざりするな。サクッと倒しちゃってくれ」

 

「仰せのままに、マスター」

 

 エルキドゥが前に出、攻撃を開始する。

 先のエネミー達に比べ、今回の敵は硬くなってはいるのだろうが……

 

「動作はほぼワンパターンか。はい、全手Bで」

 

 軽くエネミーをハックし、動作プログラムを盗み見て指示を出す。その通りにランサーが動くと、僅か三手で沈んでいく大型エネミーたち。

 坂道はキツいが、そこまでの障害じゃあない。

 

 文字通り、この坂道はサクサク進んであっと言う間に上まで辿り着いた。

 そこには神殿のような構造体。無駄な戦闘は避けるよう、あまりエネミーのいない道を通って先に進んでいくと、先の戦闘でサンドバック代わりにした盾型エネミー……の、少し色が禍々しくなったものが現れた。

 

「……気配が消えないね。まだ何かあるらしい」

 

 ひとまずいつも通りに倒してみると、エルキドゥが背後へ視線を向けた。

 自分も振り返って、なにやら仕掛けが施されているらしく、同系統のエネミーが次々と湧き出しているのを目撃する。

 

「これは……さっきと同じ奴を倒せばいいのか。生徒会、討伐対象は何体いる?」

 

『察しがいいわね。ざっと三体ほどよ』

 

 良し、と頷き先ほど通ってきた神殿のフロアへ引き返す。

 ご丁寧に壁まで出てきたのだ、おそらくこれ以上先に進むもうとすると、同じことの繰り返しになる。問題がある箇所の書き換えはラニ達に任せ、こちらは書き換えに邪魔な個体を倒せばいい。

 

『一体目撃破。次お願い!』

 

 クリア条件を提示し、大して強くない敵を出して、時間を稼ぐついでにこちらの体力を消耗させる……こんなクドくてセコいやり方は本当に面倒くさい。

 

『二体目消失を確認しました。あと一体です』

 

 自分が知っているエルキドゥの戦法は大体、自身の運動性能を活かしての攻撃か、自分の身体を変形……というか作り替えて武器として機能させるか、最初の戦闘でやったように床から武器を生成して敵へ投げつけるかだ。

 どのような攻撃法で攻めるかは基本彼自身に任せているが、状況に応じて自分が指示を出したりすることもある。それが私達の戦闘スタイルだ。

 

『――該当エネミーの反応、フロアから完全に消失しました』

 

 桜の声で、凛が書き換えを実行した。

 すると、道を塞いでいた壁は消え、慎二が施したのであろう追加コードの削除にも成功したとラニからの報告が入る。

 

「迷宮構造の書き換えねぇ……やっぱアンタ等って凄いよな」

 

『ムーンセルからの制約を突破したり、桜の権限を乗っ取った貴方がそれを言う? 敵に回ったら間違いなく厄介な相手になるのは確実じゃない』

 

『これは私たちの領分ですから、ご心配なく。誰が迷宮探索に向かおうと、生徒会室(ここ)にいる以上、完璧なサポートをするのは当然です』

 

「そういえば、生徒会での僕達の役職って何なんだろうね?」

 

「んー……じゃあ応援団長代理あたりで」

 

 あくまでも団長そのもの、迷宮探索筆頭、になるつもりはないので、「代理」で結構だ。

 というか私達は取引をして協力関係を結んだだけで、正式な生徒会メンバーとは言えないだろうし。

 

 

『ふん、随分お気楽そうじゃないか。雑魚を集めても、足止めにすらならないのは分かったよ。ま、これくらい歯ごたえがないと拍子抜けってものさ』

 

 突如、割り込むようにシンジの通信が入った。

 こっちの行動は監視していたか……てかコレ、逆探知で居場所掴めないのかな。

 

「おーい、シンジ。アイドルがクラスな奴はどうしたんだよ」

 

『それエリザベートのことか? お前あんなうるさいのと話したいのかよ?』

 

 話したい……というか、迷宮探索はただエネミーを倒すだけじゃ駄目なのだ。

 あまり乗り気はしないが、衛士である以上、彼女のSGが必要になる。直接会っての会話は不可欠だ。

 

『会わせるワケないだろ。おいエリザベート――……おい? オタクなんでニマニマ笑ってるの? と、とにかくこれで終わりだと思うなよ!!』

 

 ブツン、とシンジの声が途切れる。

 ……なーんか、やらかしたような気がしてならないのだが?

 

『……存外、貴方も白野と同じような性質なのかもね。とりあえずレーダーに変化はないわよ』

 

『衛士を隠すことは最良の防衛手段といえますが、迷宮のコアである以上、完全に隠すことはできません。引き続き、探索を――』

 

『待ってください! 月成さん、今いる地点から十時の方向にある石柱、見えますか?』

 

 緊迫した桜の声で、慎重に斜め前の方向へ目だけを動かす。

 気配感知で気付いていたのか、エルキドゥは既に身構えていた。

 

 ――崩れた神殿の隙間、赤いフリルが覗いているのを確認。

 うわぁ、と零したいのを堪え、じっとソレの観察を続ける。

 

「わ、わたしに会いたいって……家畜のくせに、ファンの分際で、身の程も弁えずに……! そんなの直球すぎ、そういうのはきちんと段取りをつけてから……って、私はアイドルよ? 簡単に返事してどうするの!」

 

 えっと。

 これは、

 とても、

 帰りたくなってきたぞ。

 

 いいや早まるな。つーか声をかけていいのかね、コレ?

 

「よし決めた! 会いたいと言われたからには、とっておきのステージで出迎えてやるわ!」

 

 ぐっと拳を握り締め、そう決断してしまったエリザは何処かへと転移していく。

 …………色々と言いたいことはあるが、今のやり取りで大体のSGの内容がつかめてきた。

 妄想癖というか、思い込みというか……

 

『とりあえず、急な戦闘にならなくてよかったわね。私もああいう女子って結構いる気がするわ……』

 

 どうやら凛も勘付いていたらしい。

 とりあえずまだ確証はないので、今は地道に情報を集めていくことにする。

 …………これが、迷宮探索かぁ……

 

 

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