Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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再会

「がふっ……!?」

 

 最終ラウンド、夜のテーブル。

 それは赤いフルコース。赤い満漢全席。

 赤、赤、赤、赤、赤赤赤赤赤赤赤――――調理人曰く、これぞ竜の娘(ドラクル)夕食(ディナー)、とかなんとか。

 

 ちなみに、昼は凛とラニが用意してくれた料理の処理専門のソフト「まるごしシンジ君」なるもので乗り切った。……それでも一口は食べるハメになったが。

 

 今回のフルコースも、それを使えば容易に先へは進める。……しかし、そんな機械的な処理では彼女のSGは手に入らないのだ。

 迷宮探索はただ探索するだけじゃ駄目、衛士の心を揺らさずして、シールドを破ることは不可能。

 

 だから、今こうして真紅の地獄巡りに挑んでいる。

 

「お、美味しいわよね? ね?」

 

『つ、月成さんの顔色が……こんなの、見ていられませんっ……!』

 

『目を逸らしちゃダメよ桜。にしても、なんであんなに真っ赤なのよ……私だって、少しは緑を入れるのに!』

 

『落ち着いてください二人とも。今は月成ルツの健闘を祈りましょう』

 

「…………おい、もうその辺に……」

 

 止めようとするシンジの言葉に構わず、黙々と料理を口にしていく。

 大丈夫、ゴールはあるんだ。

 そう、全てを乗り越えた暁には師匠を冥府へ送るという。

 大丈夫、大丈夫。私はこんなところで死にはしない。月に来るまで積み重ねてきた魔術の修行に比べればずっと楽だ。たぶん。

 

 

 ……ふと、遠い昔のことを思い出した。

 魔術なんて世界へ踏み込む前の、とても古い記憶。

 

 ある男がいた。

 奴とは親友といっても差し支えないくらいには、親しい関係だった。

 向こうもこちらも歴史に興味があり、気が合って話が盛り上がったのが始まりだ。

 

 あらゆる“英雄”と呼ばれた者達の話をした。

 あらゆる記録を紐解き、未だ解明されていない謎を考察した。

 時に架空とされた話を、時に実話であるとされた物語を。

 

 これが、私に英霊の知識が備わった出来事でもある。

 とても有意義な、充実した活動だった。

 確かその男の名は――――

 

 

「マスター! 気を確かに!」

 

 ハッと我に返った。

 ……懐かしい夢を見ていたらしい。

 気がつくと、スプーンに乗った赤いアイス以外の皿は空になっている。

 

「最後の一口だよ。頑張って」

 

 エルキドゥの励ましを受けて、ペロリと残りを片付けた。

 既に麻痺しているというのに、それでも最後まで嫌な味が口の中に広がっていく。

 ごちそうさま、と静かにスプーンを置いて、席を立つ。これから先、どんなに不味い料理を出されても、これを思い出せばなんでも食べられるような気がする。

 

「すごい、完食よ! そ、それで、お味はどうだったかしら……?」

 

「最悪だよ。けど、まぁ……わざわざ用意してくれて、()()()()()

 

「――――――ッ!」

 

 途端、左手が疼き、身体がエリザベートへと引き寄せられる。

 二度目になるSGの摘出。

 腕を伸ばし――無事、完了した。

 

「はぁ……今回は、僕の黒星じゃないからな!」

 

 そう言ってシンジは転移していった。

 エリザベートの分身(エゴ)も、やがては消滅するだろう。

 

「……貴方、どんな魔法を使ったの? 私の料理を食べて感想を言ったとき、とっても気分が良かったの。家畜や他の貴族たちに賛美された時とは違う、あれは――」

 

 全ての言葉を口にする前に、エリザの分身は消えた。

 その続きを知る術はない。ひとまずこれで、探索は終了だ。

 

『ホントにお疲れ様、月成さん。私もなんだかお腹いっぱいよ……』

 

『桜が用意した強力な胃腸薬をマイルームに転送しておきます。今日はよく休んでください』

 

 生徒会からの声を聞き、ほっと息を吐く。

 しかし食べすぎで腹部が重い。さっさと校舎に戻――

 

 

「あ」

 

 と、エルキドゥが声を上げた、

 どうかしたのか、と尋ねる前に、通信越しに桜の声が聞こえてきた。

 

 

『――旧校舎空間に、白野さんとギルガメッシュさんの反応を確認しました!』

 

 

 ❀

 

 

 翌朝、身体は随分軽く感じた。

 胃薬のおかげもあるのだろうが、あのテロ料理、栄養値は十分あったらしい。

 

 ……主役の帰還。

 しかしあの後もそう素直に喜べる状況ではなかった。

 どうやら岸波も岸波で大変だったらしく、内部構造がズタズタの状態。そして、その窮地を救ってくれたのがあの二重スパイ野郎だったとのこと。

 

 なので向こうもこっちも昨日は休息に当てた。

 ブリーフィングは岸波の目が覚めてから、ということにして、私は私室に戻るなり、転送されていた胃腸薬を飲み干して寝台へと寝転がってそのまま就寝。

 ちなみに肝心の、人類最古の決闘イベントを巻き起こしかねない奴らも、昨日ばかりはマスターの体調を優先してくれた。

 

 ……なので、まだ奴等は対面していない、ということである。

 

「遺言書、書いた方がよかったかな……」

 

「まぁまぁ、ここまで彼らの代理を務めてきたのは君なんだし、会った途端、問答無用で剣を投げつけたりはしないよ」

 

「だといいけどなぁ……」

 

 そう言った私の言葉に苦笑するエルキドゥはいつかの天……少女の姿になっていた。

 別に親友に会うから、とかいう理由ではない。本人は結構この姿が気に入っているらしい。

 

 ……いつかこの時がくるんじゃないかと覚悟はしていたつもりだ。

 しかし……いざとなると本当に緊張する。

 なにせ相手は人類最古の英雄王。岸波(マスター)、フォローしてくれよ……!

 

 

 ❀

 

 

 ――運命の生徒会室に入ると、まだ岸波たちは来ていなかった。

 その事実に心から安堵し、そそくさと定位置になりつつある席へと座る。

 

「おはよ、気分はどう?」

 

「死ぬかもしれない」

 

「……え、あー。サーヴァントのこと? さ、流石に屋内で戦い始める……なんてことはないわよね?」

 

 凛の問いで、エルキドゥが後ろに実体化する。

 ……凛の口が可愛い、と動いたのは気のせいだろうか?

 

「窓を破って校庭に出て行かない限りはね。けど、もう多分――あ、来たね」

 

 エルキドゥが口を閉じ、生徒会室にしばらく見ていなかった人物が入ってくる――岸波だ。

 向こうは私達の姿を確認するや否や、ぽかんと首を傾げた。

 

「ルツ? それに、その子は……」

 

「――フ、やはりおまえであったか。まぁパッションリップを撃退させた時から薄々勘付いてはいたが。外のクレーターもおまえの仕業であろう?」

 

 岸波の声を遮るように霊体化を解いたのは、黄金の鎧に身に纏った姿のギルガメッシュ。

 一瞬、ジロリと赤い瞳がこちらを見たが、すぐに視線は親友の方へと戻される。……たったそれだけでも、自分が死を覚悟するには十分な動作であった。

 

「しかし、その姿は予想外だったな。おまえにしては随分愛らしくなったではないか。もしや、そこなマスターの趣味か?」

 

「それは僕でも判断しかねるけど……実際のところ、どうなんだいマスター?」

 

「誤解だ」

 

 断じて。

 ……というか、思っていたより空気は軽い。

 朋友と会ったからか、ニヤリと口角を上げている英雄王、いつも和やかだが、どこか楽しんでいる気配のエルキドゥ。

 これは出会った途端に戦闘モード、という予想を立てていた私が心配し過ぎただけか。

 

「? ギルの知り合いなのか?」

 

 そう実に軽い口調で話しかけたのは岸波。

 …………なるほど、どうやら旧校舎に戻るまでの間で、何かあの主従の距離が縮まるような出来事があったと見た。

 

「あぁ、昨夜に語った我が友だ」

 

「え――――えぇ!?」

 

 バッと今度は困惑したような目で岸波がこちらを見た。

 一方のエルキドゥは「初めまして」と軽く手を振り、微笑んでいる。

 ちなみに私は「まぁそういうことだ」と頷くのみ。昨夜語った……ということは、もう二人の関係性などについてはもう説明はいらないのだろう。

 

「だが何ゆえ我から身を隠すような真似をした? あと少し出てくるのが遅ければ部屋の扉を粉砕していたぞ」

 

「王よ、貴公は裏側に来た当初から友の姿を見つけていたら、決闘を行わなかったと断言できるでしょうか」

 

「……む、確かに」

 

「な、納得した!?」

 

 驚愕する岸波のツッコミが入ったところで、

 

 

「さてと、もういいかしら? とりあえず席に座って白野。今の状況を説明するわ」

 

 

 そんな凛の一声で空気が切り替わる。

 流石は副会長、と心の中で賞賛しながら、自分も話すべき内容を整理していく。

 

 岸波が座り、ブリーフィングが始まった。

 まず凛たちが話したのは迷宮についてと、これまでの探索の成果。

 次にセブンレイター、BBの目的……は、岸波も承知していたことらしい。

 

「――で、次は私たちの番か」

 

「はい。しかし、白野さんはレオ会長とミス月成の記憶の齟齬について知らないのでは……」

 

 ラニの言葉で、そうなの? と岸波に視線を向ければ、確かによく分かっていないようだった。

 ……なら、ここは自己紹介も兼ねてこちらの事情も全部説明しよう。

 

「じゃあ改めて、私は月成ルツ。これでも宝石翁の弟子だが、魔術の腕はカスレベルだ。

 聖杯戦争には、ムーンセルの様子見も兼ねて参加した。一応、表では五回戦まで勝ち抜いている。

 しかしどういう訳か、レオは私を三回戦で倒したといってたようでな、調べて推測してみた結果、師匠の企みで私達はこことは違う、別世界から虚数空間を通ってこちらの世界線に来たらしい。――と、ここまでいいか?」

 

 一旦、話を切って周りの様子を見る。

 が、一向に反応が来ない――何故。

 

「宝石翁……って、まさかゼルレッチっていう魔法使いのことじゃあ……」

 

「あぁ、遠坂は祖先がジジイの弟子なんだっけ」

 

「いや私は日本とはあんまり縁はないんだけど……本当に? ていうか、今の話だと、貴方たちは異世界人、ってことになるワケ?」

 

「だからそうなんだって。私たちも知ったのはつい最近の話だけどさ」

 

「並行世界……なるほど、それが確かなら、辻褄は合いますが……」

 

「ま、待ってくれ。凛やラニはもう理解してるみたいだけど、私は全く分からない!」

 

 まずゼルレッチって誰? と質問する岸波。

 ほぼ一般人に近い彼女が知らないのは当然だが……全部説明するのも面倒なので、「並行世界を好き勝手移動できる魔法使い」とだけ答えておく。うむ、実に分かりやすい。

 

「とりあえず、今の私はさっさと表側に戻って聖杯勝ち取って師匠を殴りにいきたい。だから生徒会には全面協力するつもりでいるし、BBを止めようとも思ってる。

 ――しかし、ここで決闘を始める、というのならまた話は変わってくるのですが」

 

 ちらりと黄金の王へ視線を向けようとしてやめる。どうせ殺気で返されるに決まっているからだ。

 

「戦うのは構わないけれど……裏側(ここ)じゃあ空間が持ちそうにないよね、ギル?」

 

「そもそもこのマスター共の魔力では足りぬだろうよ。良い、今はその進言、聞き入れてやるとしよう」

 

 ほーっと内心で安堵する。

 決闘回避。だがこの二人、しないとは言ってない。

 

「休戦協定成立……ってところかしらね。それじゃあ今日の探索は――」

 

「私とギルが行くよ。これ以上、ルツ達に面倒はかけられない」

 

「面倒……つか、せざるを得なかっただけだって。あぁいや、行ってくれるっていうなら是非」

 

「それでは、ミス月成はバックアップの方を。機材の用意には少し時間がかかりますので、しばらく待機していてください」

 

 機材……は、迷宮探索用に手が加えられたものじゃないと使えないらしい。

 つまり探索まで時間があるのか。

 おそらく岸波もアイテムの補充とか色々準備が必要だろう。昨日は商品が買い占められていたが、流石に今はきちんと購買としての機能は働いているハズ。

 

「……あれ、ギルガメッシュ?」

 

 気配がない、と周囲を見渡す岸波。

 同様に、私もエルキドゥの気配を感じられない――二人とも、内心テンションは上がっていたようである。

 ラニの言葉の意味を理解した途端に霊体化してどっかに行ったのだろう。割とあっさりした再会でも、互いに顔を見るのは数千年ぶりなのだ。

 

「探索開始の時に呼びつければ問題ないさ。私も部屋からデータのコピーとってくるんで、用意できたら連絡くれ」

 

 そう告げて生徒会室を後にする。

 ちなみにデータというのは私専用に改造したプログラムのことだ――生徒会が用意してくれる機材にインストールすれば、少しはやりやすくなる。

 

 けれど、きっとコピーしてくる作業だけでは時間が余ってしまう。

 ……暇つぶしに、図書室にでも行ってみようか。

 

 

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