Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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迷宮

 ひとまず図書室では、昔よく読んでいた軽小説数冊と、これから先、長く部屋に閉じこもることになるであろうエルキドゥ用に動物図鑑を借りることにした。

 アンデルセンのマスターについても気になるが、この校舎にいる限りいずれ出会うことにはなるだろう。

 

 キャスターと別れ、マイルームへと戻る。本は重いが大したことはない。

 そして玄関前でふと外を見ると、セーラー服の女子――岸波白野が歩いて行くのが見えた。

 

 ……そろそろ生徒会も動き出したらしい。

 部屋に戻って監視でもしてみるか。

 

 

 *

 

 

「ただいまー……て、何してんの?」

 

 マイルームに入ってまず視界に映ったのは、ベットに正座し真剣な面持ちで糸を操っているサーヴァントの姿だった。

 

「……綾取りか?」

 

「あぁ、おかえりマスター。軽く荷物を調べてみたら見つけてね。糸で形を造るという娯楽らしいけれど、これなら鎖でもできそうだ」

 

 別にそういう遊びではないと思うのだが。

 しかし荷物、とはこのダンボールの山か。売却する予定ではあるが、使えるものは取っておいてもいいかもしれない。

 

 まぁそれはそれとして。

 

 借りてきた図鑑をエルキドゥへ投げ、モニターをセットして生徒会室へハッキングを仕掛ける。無論、防壁は張ってあったが、人手不足が原因なのか、案外すんなりと盗み見ることができた。

 今はどうやら、迷宮らしき場所に岸波とギルガメッシュを送り込んでいるらしい。

 

「一、二――五人か。一人増えてるな?」

 

 岸波による生徒会の人材確保はそれなりに成功したようだ――ではない。

 

「……ガトー?」

 

「知り合いかい?」

 

「……、まぁ……そう、かな……」

 

 モニターの中には、背に三度傘を背負い、首からは十字架やら数珠やらを引っさげている最早どこの教徒の者なのかも分からない巨漢がいる。

 ……別に悪い奴ではないのだが、あのテンションに終始ついていけたことは一度もない。

 一言で言うならごった煮宗教家。会った当時はヒマラヤに挑戦すると(うそぶ)いていたが……

 

「ムーンセルに招待されてるとか、やっぱアイツ月基準でもぶっ飛んでる奴扱いなのかよ……」

 

 生徒会のメンバー、濃い。あまりにも濃すぎる。勧誘断ってよかった。本当に。

 

 そこで、ハッキング対象を生徒会室から、そのモニターにも移す。実質レオと桜しかいないというのに、通信や映像状態は良好だ。ムーンセルのAI性能はともかく、西欧財閥の名は伊達ではない。

 現在は、どうやら探索者である岸波を観測装置として代用することで、迷宮内を測っているらしい。迷宮の呼称も、サクラ迷宮と定めたようだ。……桜の木の場所にあるから、だろうか?

 

「――……よぅし、迷宮内部構造データゲット。……いや、なんかおかしいな。迷宮全体に生命反応が計測されてる」

 

「初めから迷宮にいた者、ということかい? 或いは、旧校舎(安全地帯)に辿り着けなかった犠牲者たち……かな」

 

「だろうな。お前を放り込めば、全部判明するかもだけど……待った。英雄王って、あの英雄王だろ? 迷宮の一層だけじゃなくて、迷宮の全階層を観測できるような宝具くらいあるんじゃないか?」

 

「確かにね。だけど、今の状態の彼には少し厳しいんじゃないかな」

 

 言葉の意味を問う前に、探索者たちが敵性プログラム(エネミー)と遭遇する。

 岸波がサーヴァントへ指示を出し、有利に戦いが進行していく。最弱の身でありながら、最強へと手をかけた戦術眼は健在らしい。

 だが――

 

「遅いな」

 

「遅いね」

 

 何がって、動きが。

 サーヴァントとは、人智を超えた人ならざる使い魔である。旧時代の戦闘機とも渡りあえるほどという、神秘世界の超兵器。

 それが、こう、なんか遅い。魔術で目を強化するまでもなく、なんとなく動きが読める。

 

『――さて、笑顔で聞くがよい。千年の倦怠(けんたい)が祟ったようだ。残念な事に、我の肉体は最低値まで落ちている』

 

「ダウト。二千年の倦怠とみたよ」

 

「なんか親友に対してはえらく鋭いのなお前」

 

 てかサバ読みすぎだろ英雄王。

 モニター内の本人は、時返しの秘薬はあるがこれを飲んで元に戻るのも興が乗らない、とか何とかほざいている。私とは致命的に合わないサーヴァントだと確信した。

 

『……レオ、宝具について質問を。スキルはともかく、宝具は健在か?』

 

 そう尋ねたのはユリウス。

 ……何故だか、私には今の生徒会の常識人は、あの暗殺者しかいない気がする。

 やっぱり手を貸してやった方が良かっただろうか、という考えが一瞬よぎるも、あのメンバーと一緒にいるだけで胃痛が起こりそうなので即座に破棄。それに、ああいうポジションの人間は大体貧乏くじを引かされることが多いのだ。

 

『初期化していようが、我が宝具は常に手中にある。だが、貴様には過ぎたものだ。我が秘蔵秘匿の宝剣は相応しい敵、相応しい戦いにおいてのみ示す』

 

 貴様らが見ることはまずあり得まい――と。

 ……流石は人類最古の英雄王。そう簡単にはいかない。

 もっとも、エルキドゥを出せばその考えも180度変わるのだろうが。

 

「……そうだね。僕が行けば確実に本気を出してくれるだろうけど――彼が良くても、そのマスターが危ない。下手をしたら魔力切れで倒れてしまう」

 

「だよなー」

 

 結局、メソポタミアコンビによる夢の決闘は岸波自身の成長にもかかっているのだ。

 互いに本来の力を取り戻し――魔力の供給源のマスターもそれについていかねばならない。

 ……戦わない、という選択肢が存在しないので、最早これは決定事項である。なんて面倒な二人か。

 

 岸波の当面の役割が判明したところで、探索が再開される。

 現れるエネミーを打ち倒しながら岸波とギルガメッシュが先に進んでいく。すると同時に、徐々にだが迷宮の地形も明らかになってきた。

 ――やがて、通路の先にひらけたエリアに辿り着くと。

 

『見たことのない壁ですね。セキュリティレベルは――(スター)? サクラ。なんですか、この☆という記号は』

 

『わ、私も初めて見ました。セキュリティレベルに☆なんてカテゴリーはありません。待ってください、映像を解析――、うそ、計測不能……!?』

 

「数値にできない壁、か」

 

 先の道を塞ぐ、ムーンセルのライブラリにもない新種の防壁。AIである桜にとって、この壁は常識外の……あってはならないレベルのものだろう。

 だが、その防壁については後にした方がいい。モニター越しでも、周囲の霊子が大きく揺らいできているのが分かったからだ。

 

 

『そこまでよ、三流マスターとその下僕。素寒貧(スカンピン)のクセに、人の心をマジマジと見ないでくださる?』

 

 

 扉の向こうから現れたのは、赤い服を着たツインテールの少女。

 名は――確か遠坂凛。

 そういえば姿を見かけていなかった。他にももう一人、優秀な霊子ハッカーがいたのだが……向こうも今はいないらしい。

 

『ようこそ私の城へ。これっぽっちも嬉しくないけど、歓迎だけはしてあげる』

 

『この墓標の如き城が住まいと言うか。よほどの浪費家と見える。白野よ、貴様の知り合いか?』

 

 遠坂凛。

 聖杯戦争、優勝候補の一角であった凄腕魔術師(ウィザード)

 彼女が敵に回るとは……これは思っていたより深刻な状況らしい。

 

『私はこの城の女王(クイーン)にして、しぶとく生き残った貴方たちを管理・支配するムーンセルの新しい支配者。そう――月の女王様とお呼びなさい!』

 

『これだから女というものは……我が言うべき事ではないが、友は厳選するものだ。アレは特に酷い』

 

 ……ちらとエルキドゥの方を見ると、表情そのものはあまり変化がないものの、目の奥に何かしらの感情が伺える。大方、「友」という言葉に反応したのだろう。しかしあの王様の場合、厳選し過ぎのような気もするが。

 

『そっちの考えもお見通しよ。月の裏側から出たいんでしょ? だから唯一の出口であるこの迷宮にやってきた。でもざーんねん。ぜっったいに出してあげないから』

 

 しかし、随分と記憶にある凛とは不釣合いな言動である。

 彼女はもう少し冷静――というか、感情に身を任せるような人物ではなかったというか……

 

『この城は私たちの城。入ったモノは私たちの所有物よ。ビタ一文見逃さないから、覚悟なさい? さぁ、出番よランサー!』

 

 そう言って凛が掲げた片手の甲には――マスターの証である令呪。

 そうして現れたのは赤い髪の、フリフリの衣装に身を包んだサーヴァント。

 美少女ではあるが、二本のツノと先の割れた尻尾が生えており、異様な容姿である。

 

「……? おかしいな、僕の記憶だと彼女のサーヴァントはこの子じゃなかったような……」

 

 ふと、エルキドゥがそんな言葉を零す。

 「この子じゃなかった」? となると、サーヴァント自体、表側の時とは違うということか?

 

『血に酔った殺人鬼まで英霊扱いか。落ちたのはマスターの質だけではないようだ。粗製濫造(そせいらんぞう)も極まったわ』

 

 どうやら、既に英雄王の方は英霊の正体に勘付いたらしい。

 一目見ただけで分かるとは……凄まじい洞察力だ。いや、何かしらのスキルによるものだろうか? もしかするとアンデルセンと気が合うかもしれない。

 

『ふふん……いいじゃない。気に入ったわ。退屈なイケニエにも飽きてきたところだし。この子達ならいい声を聞かせてくれそう。そこのブタ。名前を名乗りなさい?』

 

 ……これはまた面倒そうな人物(キャラ)が出てきた。衣服は可愛らしいが、言動そのものは拷問者のそれだ。

 やがて命令をきかない岸波に痺れを切らすと、髪をかきむしり始めた。ランサー以外にも、バーサーカーとしての適性もありそうだ。

 

『ちょっとランサー、落ち着いて。っていうか、ブッ刺せばすべて解決よ。貴女の槍で貫かれれば誰だって鳴くもの。物理的に』

 

『――そ、そうだったわ。流石ねリン。貴女のそういう切れるところ味方ながら恐ろしいわ』

 

『それはこっちの台詞よランサー。ホントはバーサーカーなんじゃないかって疑うくらい、頼もしい癇癪(かんしゃく)持ちだし』

 

『ふふふ。褒めてもお金はあげないわよ、リン』

 

『うふふ。そっちこそ、今日もめいっぱいただ働きしてもらうわ』

 

 そんなやりとりの果て、敵主従はあははうふふと高笑いをし出した。

 なるほど。つまり、存外ちょろいのではないだろうか、あの二人。

 

 と、それを好機と見たか、岸波とそのサーヴァントはそっとその場から距離を取り、背を向けて迷宮の入り口へと走り出す。

 撤退――良い判断だ。ここで仕掛けてどうなるものでもないし。

 

「今回の探索はここまで、か。しかしあの扉と遠坂は一体……」

 

 ま、そこら辺は生徒会がなんとかするだろう。

 何せあのレオがいるのだ。突破口を探し当てるまではそう時間もかかるまい。

 

「謎は深まったけど、これは……中々面白いね。箱の中にギルがいるなんて変な感じがするよ」

 

「モニター、な。だったら迷宮探索の時、私がいなかったら代わりに見といてくれよ。まだ色々と片付けなくちゃいけないことがあるんだ」

 

 どうせ外に出ないのなら、その時間は有効に使わねば。

 エルキドゥが楽しそうで何よりだ、とここは言っておこう。こいつの存在を知ったときの英雄王の顔が楽しみだ。

 

 




 ちなみに主人公の部屋の扉、原作のゲーム内にもあったりする。

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