Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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第六層 Alter Ego / S
快楽臨界


『観客席の皆さんこんばんは! BBチャンネルにようこそ!』

 

 もう何も言うまい、突っ込むまい、と心に決めた。

 スタジオがなんかブルースカイなデザインだとか、水着イベントとか何ソレ聞いてねーよとか。

 

『それでは定例のボスキャラ紹介です! 今回は――』

 

 ――刹那、ノイズ画面の中でメルトリリスの姿が見えた。

 

『私と白野の仲だもの。紹介なんていらないわよ、BB』

 

 とだけ言って消えていく。

 ノイズ音が収まると、そこは元のスタジオだった。

 

『――あれ、繋がりません。ま、別にいいですよね。わたし、もう人間の矛盾性にはうんざりです。ワタ、私は、ゴウ理性に基づイテ――――』

 

 ……彼女の様子がおかしい。

 いや、言動は変だったが、人間味はあった。しかし今のはまるで、機械のような……

 

『――こほん。なんだか機材の調子がおかしいですね。今回はこの辺りでお開きにしましょう。けど、その前にお知らせです。サクラ迷宮はついに、中枢域まで貫通しましたー!』

 

 しかし流石は中枢というか、八次元までカットする霊子防壁がまだあるらしい。

 正直何を言っているか理解しかねるが――とにかく、まだ勝ち目はある。

 

『それじゃあ先輩。この階層でも無駄に足掻いて、私を愉しませてくださいね♥』

 

 

 ❀

 

 

 電波ジャックから解放される。

 まだ視界はチカチカするが、いずれ元に戻るだろう。

 

「……頭痛でフリーズしそうです……」

 

 桜がそう言うのも無理はない。

 自分たちはこれから第六層――つまり、中枢に繋がる最後の迷宮攻略を始めるという、重要な局面だというのに、BBは未だあの番組を続けているのである。

 ……まぁ、流石に彼女にも負荷はかかっているようだが。

 

「桜、BBが中枢の壁を壊すまでどれだけかかるか予想できるか?」

 

「中枢への壁は『到達不可能』のカテゴリーなので……分かりません。けど、BBは裏側を支配することでムーンセルと同等の演算能力を手に入れました。なので、勝敗は――」

 

 つくときは一瞬でつく。

 パワーバランスが少しでもBBに傾けば、防壁は突破されてしまう。

 

「話し込んでる場合じゃないわね。白野は迷宮の突破に専念して。対策はこっちで随時、検証中だから」

 

「私たち四人では50%ほどの安全しか保証できませんが、全力を尽くします。お気をつけて」

 

 岸波が頷き、生徒会室を後にする。

 さて、そして私がするべきことといえば――

 

「それと頼むわよ、月成さん。今の所の最有力候補は貴方なんだから」

 

「分かってるよ。死ぬ気で間に合わせてやる」

 

 ……殺生院キアラは死んだ。

 ならば、誰かがサイコダイブの際の、キアラの役割を引き継がなくてはならない。

 

 朝っぱらから突然、数値の変換処理のテストや感情を題材にした問題をやらされ、一体どういう狙いのものなのかも分からず、淡々とこなしてみると何かの合格点を貰ってしまったのだ。

 

 結果、私は岸波のバックアップとこの「勉強」を両立するハメになった。

 ……くそ、凛も候補だと最初から知っていれば、絶対に解答を外しまくってやったというのに。しかしまさかこの歳になって勉強するはめになろうとは……いや、一応魔術関連の話だし、これも修行の一環……なのか?

 

「――――」

 

 余計な思考を振り払い、モニターに映されたセブンレイターを見る。

 数値は以前よりも上昇し、シミュレート結果は60%に到達していた。二人に一人は死ぬ、という計算だ。

 

 ……今朝、生徒会室に入って聞かされたときのことを思い出す。

 あのとき一瞬だけ、ラニと凛の表情には苦悩のかげりが見えた。まるで、背負いきれない事実を知ってしまったような――絶望。

 岸波にも説明していた際、ポツリと凛はこう言っていた。

 

『はっきりしたことはまだ言えないけど……もしかしたら、私達はBBを止めるんじゃなくて、運命を変えるために戦ってるのかもしれないわね』

 

 止める――変える。

 なんだろう、この微妙なニュアンスの違いは。

 

 私自身の課題はきっと、世界線を確定……ある一つの可能性を作ることである。

 多分、これは元々ロクなことにならない世界線を()()()()()、というものなのだと思う。

 既に形ができている粘土を、完全に固まってしまう前に少し手を加える、というか。

 

 

「……ところで、大丈夫ですか? 月成さん、朝から顔色が優れないようですけど」

 

「――え」

 

 桜からの思わぬ指摘に声を上げる。

 ……絶好調とはいえなくとも、彼女は健康管理のAIだ。

 これもサクラメントを譲渡した影響か――今は少しだけ、性能が向上しているのかもしれない。

 

「ちょ、そんなに引き継ぐの嫌だったの? 一応、こっちでもフォローはするわよ?」

 

「それは助かるな。でもそこまで心配するようなもんじゃないぞ? ちょっと……変な夢を見た、というか」

 

「夢、ですか。しかし電脳体は夢を見ないはずでは?」

 

「……私もよく分からないよ。まぁ、変なところで繋がった記録みたいなものだと思う。仕事には影響出さないから安心してくれ」

 

 それならいいけど、と凛の返答で会話は途切れる。

 

 ――昨日は、悪夢を見た。

 やたらめったら落ち着かない様子で、誰かが自白し続ける夢。

 傍からみれば単に元気の良い奴、に見えるが正直アレは――狂っていた。

 

 正常なようで歯車が一つ抜けている。

 ポジティブに見えて悲観的。

 人によっては悪にも善にも見えるモノ。

 

 それで私は、彼女を「悪」だと感じただけ。

 そう、単にアレは――()()()()()()()()存在だと。

 

 ま、あれはもう終わった話だ。

 これからの私たちの未来に、もう関わってくることはない。

 

 

 ❀

 

 

 メルトリリスの一つ目のSGは入手している。

 ので、シールドはあっさり崩れ去って探索もスムーズに進んでいた。

 ……ただ一つ。加虐体質を示すフロアらしく、回復効果が打ち消されてしまう、という制限つきではあるが。

 

 そして現在。

 

『この階層にはわたしから“ある真実”を強奪したいけない子が隠れています。それじゃあこれで。今頃の私はどうなってるか知りませんが、仲良くしてあげてくださいねー♪』

 

 自称、録画映像という出張版BBチャンネルを経たところである。

 ある真実、というのはこの事件が起こった原因だろう。それを奪い、BBを裏切った者は、きっと――

 

「――あれ、なんだこの反応?」

 

「徐々に微弱になっていますね。スキャン結果から、NPCと推測されます」

 

 救出に行くかの判断は白野会長に任せる、とラニは言う。

 罠の危険もあるが、やはり岸波は向かうようだ。

 NPC……というのは、BBに囚われた者たちであろう。だが反応が弱くなっている、というのは死にかけている、ということか?

 

 

『これが――NPC?』

 

 呆然と、岸波が呟く。

 目の前にはBBの黒いノイズのように、身体を侵食されている数名のNPCたちが床に転がっている。

 間違いなく、メルトウイルスの類だろう。……彼らは、もう助からない。

 

『誰カ……助ケテ、タダ ノ……記憶媒体ニ、戻サレル……誰、カ――』

 

 液体状にそのカタチが溶けていく。

 その変化自体は一瞬で、液体になった途端にフロアと同化した。

 

 ムーンセルに作られたNPCは消滅しても、次の聖杯戦争で新しい役割(ロール)が与えられる。

 それはいわば、人間でいう輪廻転生。しかし今の者達は完全に「迷宮の床」として固定され、サクラ迷宮が崩壊するまで「終わり」が訪れることはないのだ。

 

「周囲にはまだ毒が残っています。洗浄しておきますか?」

 

「あ――いや。先にサンプルとして回収しとこう。凛」

 

「了解、こっちで取っとくわ。白野は細心の注意を払って、探索を続けてちょうだい」

 

 

 先へと進む。

 今回の階層にはメルトらしい、絶対的な自信や揺るぎのない善意といった強い感情があった。

 ここが最後の、中枢に続くエリア。

 未だ迷宮の核であるメルトリリスは出てきていないが、今までと比にならない悪寒がする。

 

 

『――よう、そろそろ切り札の一つでも取り戻したかい。お二人さん?』

 

 

 迷宮の奥。

 そこにはノイズまみれの身体で立っている緑衣のアーチャーがいた。

 

『ほい、忘れる前にくれてやる』

 

 そう軽い調子で彼が投げて岸波へよこしたのはアイテムフォルダ――――て。

 

「お、おいそれ、BBの詳細データか……!?」

 

「すぐこっちに送って白野! 解析すれば対抗策ができるかも!」

 

『なっ、そんな重要なものを!? どうしてアーチャーが!?』

 

盗み見(クセ)ってのは抜けないもんでね。ま、“雇い主の詳細データを渡してはいけない”っつー、契約はなかったからな』

 

 …………うわ、こいつ有能か。

 根は善良なのだろう。彼は、自分を売り払いはしなかった。

 

「――いい主人に仕えたんだね。裏をかくことしかできない彼に、正道を教えるなんて」

 

 と、いきなり実体化したのは我がサーヴァント。

 こいついたのか。全然出てこないからどうしたかと思ったぞ。

 

「あはは、霊体化していた方が魔力の消費量も少ないからね。マスターの場合、いざというときのために魔力を温存しておいた方がいい」

 

 そう言って、また消える。

 なるほど、これはアイツなりの配慮だったらしい。確かに、私の魔力の貯蔵量はそう多い方でもないし。

 

『……まぁ、オレには過ぎたマスターだったってワケだ。さて、話すことは話したし、殺し合いでも始めますかね』

 

 ――あ、やっぱりそういう流れになるのか。

 岸波は驚いているが、一方の相手は「よくあることだ」と言っている。

 その割には……やる気に満ちているらしいが。

 

『しかし最後の相手が王の中の王……これ、もうオレが本物のロビンフッドでいいんじゃない?』

 

『贋作が真作になることはない――が、我を殺したとあらばその道理も覆ろう。試すか、雑種?』

 

 勿論だ、と返答し武器を構えるアーチャー、ロビンフッド。

 真名当ては正解だったらしい。だが本物という単語が出てきた以上、きっと彼は「ロビンフッド」のモデルになった者達が混合した存在なのだろう。

 

 ……自決さえ許さない毒が、彼を侵食している。

 メルトリリスに取り込まれる道より、戦いで倒される道を彼は選んだのだ。

 

 ――森の狩人との、決着をつける時だった。

 

 

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