Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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問答

「王様の水着って、もうちょっとブーメランなのを予想してたんだけど、案外カジェアル系だったね」

 

「うむ。我もそう思ったが、たまの骨休めと思えばこの気軽さもよかろうよ」

 

 だから水着イベントなんて聞いてねぇんだよ。

 

 などと軽く怒りと呆れの混ざった感情を抱きつつ、本当に開催しやがったBBは馬鹿なんじゃないだろうか? という仮説でひとまず精神の安定を図り、状況を受け入れる準備を始める。

 場所は例の如く生徒会室だ。というか現状、この校舎で行くところが購買かマイルームかここくらいしかない。

 

 視界には子供心を思い出させる気軽な雰囲気の水着を着用したギルガメッシュと、その近くで物珍しそうにそれを眺めるエルキドゥ(小)の二人。

 平和だなぁ。

 なんで平和でいられるのか分からんが、この光景は一種の奇跡と言ってもいい。というかもう、こいつらについてはもう突っ込んでも成果は得られ無さそうなので、特に口出しせず、おとなしく席についておく。

 

「――で、そのときBBに直接確認したんだけど、やっぱりメルトリリスに無敵のスキルはないみたい。月成さんの調べ通りだったわ」

 

「直接って……え、BBが?」

 

「はい。16階、17階共に少しおかしなところはありましたが、証言を得ることはできました」

 

「……じゅうなな?」

 

 どうやら寝ている間に一気に話が進んでいたようだ。

 結論から言ってしまうと、なんでもあのフランス人形のような少女たち――ありすとアリスは消え去ったらしい。

 メルトリリスに捕まり、しかしそれを岸波が救出、最後にSGのヒントを残していった、と。

 

「もう一つ報告があります。アーチャーから渡された記憶データの解凍が終了しました。フォルダを解放すれば、持ち主に自動的にパッチが当たると思われます」

 

 BBの秘密……の、本命か。

 誰の記憶かは不明だが、該当する人物はここにいるメンバーの内の誰かだろう。

 

「ま、待ってください! 誰のかも分からない記憶を解放するのは――」

 

「? 別に危険ではないでしょ。セラフ内のヒト型生命には魂っていう“原型保存”があるし、自分のものじゃない記録を上書きして洗脳なんて一大作業よ?」

 

「……そう、ですね。すみません、先を続けてください」

 

 桜が後ろに引き下がり、ラニがフォルダを解放する。

 一瞬だけ、視界が白く染まったが、特に変化はない。

 

「……どう? 私には変化なしよ」

 

「自分も特にないな」

 

「私にも新しい発見はありません。ミス白野はどうでしたか?」

 

「……いや、なにも」

 

 岸波までも首を振る。

 そこでちらりと桜の様子を伺ってみると、なにやら悪寒を堪えているように見えた。

 桜とBB。同型機。まぁ、関係ない筈がない。

 

「…………すみません。私、少し保健室で休んでますね」

 

 真っ青な顔でそう呟き、桜は出て行った。

 凛とラニは彼女の変化に気付いていないようだが、岸波は何かを察した様子である。

 

 

「じゃ、次の探索はもう18階なのか。無敵性を破る方法はどうなった?」

 

「それが問題なのよ。今ある案としては――」

 

 まず、旧校舎の演算機能を総動員して残るシールドを破壊。

 岸波とギルガメッシュは迷宮を駆け抜けて一気に中枢域へ転がり込み、セラフのシステムへアクセスして不正ルールを取り除く。

 

「無理だろ」

 

「ちょ、あっさり却下しないでくれる!? なんにせよ、もう方法はこれしかないのよ。それとも何? 貴方は他の方法があるっていうの?」

 

「そりゃあ……」

 

 少し考え、

 

「ホラ、あのゲームマスターに直接頼み込むとか。岸波の不思議コミュパワーでなんとかできないかね?」

 

「ルツは私を何だと思ってるんだー!?」

 

 本人からのド却下を貰った。うーむ、打つ手なしか。

 だが利用できそうなものは全部利用して、ゴリ押しでいかなければならないこともある。

 そう、例えばここにいるチートの塊みたいな性能を持つ二人の力を合わせ、まとめて消し去るというのは――

 

「それだと空間ごと消えてなくなっちゃうよマスター」

 

 本末転倒モノだった。

 今度は物事を単純に見すぎてしまったようだ。

 そもそも魔法石を全部投入したところで、最後の決戦まで私たちの魔力が持たないか。

 

「けど、ギルガメッシュとエルキドゥが協力すれば、メルトリリスにも対抗できるのでは?」

 

「あーいや、私たちがメルトリリスの前に立っても無駄だろ。アイツもかなりお前に執着してるし、多分どうあっても奴はまずお前を殺すことを優先すると思う」

 

 パッションリップのときと同様だ。下手に部外者が動いて、状況をかき乱すのはよくない。

 

「……じゃ、決定ね。できる、白野会長?」

 

「分かった。全力でこなしてみせる」

 

 力強く岸波が頷き――最後の迷宮探索が始まった。

 

 

 ❀

 

 

「時に我が友のマスターよ」

 

「……ナンデゴザイマショウカ」

 

「そう固くなるな。ここまで来た以上、今更取って食ったりはせん」

 

 英雄王の言葉を、基本私は信用しないようにしている。

 なぜなら、王というのは気分屋といっても過言ではない。ついでにいえばギルガメッシュは絶対王者だ。

 彼がいつ、どこで、どんな状況で事を起こそうと、それは王の裁定に他ならない――ので、今はこの状況を切り抜けるためだけに私は全力を注ぐ。

 

「貴様、表に戻り聖杯を手に入れる……と言ってたが、聖杯を手にして何を願うつもりだ?」

 

 ……案外、普通の質問で少しホッとしてしまった。

 だが、こちらを見据えるような彼の赤い瞳でその気持ちもすぐに消え失せる。

 隠し事、虚言は通じない。言葉を誤れば死ぬと本能は訴えかけている。

 

 嗚呼――どうして、購買前でこんな命がけの問答をせねばならぬのか。

 

 私は空気です、とでも言うように目前で死んだ目の言峰店員は佇んだまま。その内心は英雄王同様、こちらを試そうとほくそ笑んでいるに違いない。

 

「――――聖杯は使わない」

 

 ほう、と訝しむような声を聞き、身震いを抑えながらも言葉を紡ぐ。

 

「そりゃあ、願いはある。だけど使わない。そもそも私に出された課題は『月の調査』ですしね。ムーンセルに異常がないか調べて、それで終わりっすよ」

 

 最後まで答え終え、やっと財布から代金を出す。

 ……おや、なにやら新商品が追加されている。激辛……麻婆……?

 

「つまらん奴め。万能の願望器を前にして何も叶えない? 師を慕うのはいいが、言いなりになったままでいいのか? そんなものはただの傀儡だ。現に、貴様とっては今の状況さえも仕組まれたことなのだろう?」

 

 反抗する気はないのか、と。

 またも質問をされた。無視する勇気はないので、一旦財布に手を突っ込んだまま動きを止める。

 

「そう、だな。確かにこのまま他人の手の平の上にいるのは悔しい。だけど――」

 

 だけど。

 もうきっと、自分には。

 

「私にはもう、()()()()()()()()()と思うんですよねぇ」

 

 旧時代における魔術師の最終的な目的は「根源の到達」だという。

 しかし正直、自分は「根源」というものに興味がない。

 

 目的も、家族も、友達も、そしていずれは己さえ失いかけていたところ、突如「魔法使いの弟子」という立場が与えられた。

 それに続いて、弟子として「課題」が出され、他にやることもなかったのでそれに従った。

 要するにこれ、全て()()()()といっても過言じゃない。

 

「ハ、師に従うことと己の欲望に従うのは別だろう。だが――そうか。貴様にとっては師に従うことこそが己の意志、欲望であると」

 

「まぁ、まとめるとそうなりますわな。幸い師匠は並行世界をウロつく魔法使いだし、退屈はしないと思いますよ?」

 

 その時。

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、ギルガメッシュは動きを止めたような気がした。

 まるで真意を悟り、少し関心したような、驚いたような。

 

「願いは叶えない――いや。既に叶っている状態なのだな、貴様は」

 

「???」

 

 だがこちらとしては何を言っているかさっぱり分からない。

 勝手に納得されて勝手に見直されてしまい、訳が分からないというか。

 

 疑問が残りつつも、ひとまず状況は打破できたらしいので支払いを済ませる。

 やれやれ、私は単に昼飯を買いに来ただけだというのに、まさか探索前に岸波が桜のところに行ってしまっていたとは。

 そんでもって、英雄王が購買で時間を潰していたというのも予想外である。

 しかしこの腹黒店員とギルガメッシュ、並ぶとラスボス感がより濃くなってしまうのは一体どういう魔術の影響か?

 

「……おい待て貴様。今しがた購入した商品、我が友に食わせるというのならば生かして生徒会室には帰さんぞ」

 

「なんでさ。いやいや、これはあくまで私のお昼ご飯なんで。ていうかマスター用のアイテムらしいし、心配は無用ですよ」

 

 ならば良い、とチラつかせた殺気を引っ込めるギルガメッシュ。

 ……この王様、意外と麻婆豆腐苦手だったりするのかね?

 

 

 ❀

 

 

『そんなスピードじゃあ、どこへ逃げても同じ事よ。白野、貴方は人間の部分を削ぎ落として私の所有物(モノ)にしてあげる!』

 

 サクラ迷宮18階――岸波が踏み込むと同時、出入り口の階段が塞がれ、撤退戦が始まった。

 岸波は“強化スパイク”を使っての逃走。しかし、アルターエゴ・メルトリリスの足に比べれば所詮は人間のスピードである。

 追いつかれるのは当然のこと。それでも未だ岸波が生きているのは、完全にあちらが自分達をナメている、そしてこの状況を愉しんでいる、ということだ。

 

「桜、回線はまだ繋がらない!?」

 

「すみません、まだかかります……!」

 

 階段を塞がれると同時、こちらと岸波との通信も断絶された。

 映像も送られてこない以上、このままではシールドの破壊はおろか、逃走の手助けさえできない。

 ぶっちゃけ、メルトリリスの油断のおかげで岸波は生きているといってもいいだろう。

 

 

『――そこまでよ、メルトリリス』

 

 

 万事休すか、と思いかけたとき、迷宮の空間が()()()

 この声はBB……本体、ではない。回線を引いた虚像か何かか。

 

『なっ……!? どういうつもり、BB!』

 

『システムの改竄は許しません。勝手が過ぎたわねメルト。貴方には必要な分の力を与えた筈。私の背後を守るのが貴方の存在意義よ』

 

『こ、これだからオリジナルは……! 自分のことを棚に上げるなんて!』

 

 ……歪みが消える。

 そしてフロアの地図に表示されていた道を塞ぐシールドの反応も失せた。今ので、メルトリリスの無敵性(ルール)は破壊されたのだろう。

 だが、今のままではどちらにせよ、勝ち目はない。

 

「……繋がりました! 岸波さん、無事ですか!?」

 

 迷宮侵入から断絶されていた映像、通信が復活する。

 岸波とメルトリリスはひときわ広い空間で対峙していた。

 

『桜……!? じゃあ、階段も――』

 

「悪いがそれは無理だ。とにかく今は全力で逃げてくれ!」

 

 岸波が頷き、さらに迷宮の奥へと走り抜ける。

 と、空間から出た途端、仕掛けられていたのか、トラップらしきものが発動し、メルトリリスの道を阻んだ。

 

「……海草?」

 

『こんなファイヤーウォール、さっさと切り裂いて――ヒッ!? なにこの気持ち悪い感触……耐えられないわ!』

 

 これもまたBBの手助けか?

 いや、流石にあんな悪趣味なウォールは……まさか。

 

「……エルキドゥ、アジア圏ゲームチャンプはどこ行った?」

 

「え? ……あれ、そういえば校舎にはいないね。あまり気にしていなかったから、気がつかなかったよ」

 

 既に対象の外。

 ということは――まぁ、意外だが、()()()()()()なのだろう。

 

 

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