Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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呪術師

 「零の月想海」、と端末には表示されていた。

 

 二度あることは三度ある――……いや、これでまだ二回目なのだが。

 無差別級との戦闘後、ラニからの報告で向かったエリアの西側に出現していた例の亀裂。

 また同じような奴が出てきても困るのだが、帰り道の手掛かりが出てきている以上、無視するわけにもいかない。ので、ひとまず飛び込んでみたのだが――

 

「……んん?」

 

 目を開けると、そこは知らない場所だった。

 最初に訪れた「とある領域」、ではない。ここは明らかに――()()()()()()()だ。

 

「どうやら、今度は世界線を渡ったらしいね。だけど――」

 

 

「! お下がり下さいご主人様(マスター)! な~んか、嫌な予感がします!」

 

 

 ふと響いた快活な声の方向に視線を向ける。

 現れたのは狐耳の女性……と――――

 

「……おいおい、マジか……」

 

 焦げ茶色の髪、平凡な顔だちの無個性系()()

 同じ名前かまでは知らないが、その姿は確かに、私が知っているあの――

 

「……マスターと、サーヴァント……? どうしてここに? ()()()()()()()()()()()はずなのに――」

 

「お気持ちはよーく分かりますが、疑問の解決は後にしましょう! ……オイそこのお二人さん? 一体どこから、どうして、どうやってここにいるんです?」

 

「……えーと。並行世界なのは確かだけど、全く別の世界線に来たって感じか、これ……?」

 

 らしいね、と頷くエルキドゥ。

 ……どうやら今回は綺麗にハズレクジを引いてしまったようだ。

 さっさと帰りたいが、帰ろうにも方法が分からない。やはり目の前に立つ者を倒さなければならないらしい。

 

「……あの。貴方たちは一体……?」

 

「ただの迷子だよ。驚かせてごめんね。けど、どうやら僕たちが元の場所に戻るには、君達を倒さなきゃいけないみたいだ」

 

「……っ、気をつけてくださいマスター。あの男、いや女? どっちにしろ、かなり桁違いのサーヴァントです!」

 

 ……奴の顔を見ながら、というのは不本意極まりないが、アレも所詮別人である。

 それにどうやら、この世界線の岸波は聖杯戦争を勝ち抜いた正真正銘の実力者らしいし、相手にとって不足はないだろう。下調べついでに、岸波白野という人間の戦い方を間近で見ておくのも悪くない。

 

「――悪いが、付き合ってくれ。ランサー、いくぞ」

 

「よく分からないけど……キャスター!」

 

 互いのサーヴァントが前に歩み出る。

 狐耳、魔術師というクラス。ここで真名を暴いても意味はないのだろうが、どうしても考えがそちらにいってしまうのは癖なので仕方がない。

 

「華麗に片付けると致しましょう。お覚悟を」

 

「始めようか。さぁ、かかってくるといい」

 

 油断は禁物だぞ、などと言いながら相手のマスターを見据える。

 見れば見るほど平凡な一般人に感じてしまう。けれど彼/彼女は、いつの間にか逆転するような人間なのだ。

 こっちの世界線では今や――人類最後の希望にまで成ってしまったのだから。

 

 ……名前が同じだろうと、性格も似通っていようと、外見が違うからという理由でずっと仕舞いこんでいだ記憶が、今は自然と頭に思い浮かぶ。

 それは遠く、懐かしい――――

 

 

 ◈

 

 

「やっぱりあざとさは狐耳が第一位だと思うんだ」

 

「……は?」

 

 大真面目に突然何を言い出すんだこいつは。

 

 場所は教室。時は高校三年最後の二学期始業式、月曜日の朝。

 廊下側、一番後ろの席である私と向かい合うよう椅子を回し、机に両肘をついて指を組んで無駄なシリアス顔をしているのは我が友人、岸波白野。

 見た目は地味だが高校三年間、文化祭にて毎年なぜかフランシスコ・ザビエルの肖像画(中々上手い)を出展し、クラスでのあだ名はザビエルになっているという変な逸話な持ち主だ。

 ――で、現在私は彼による謎の議論に付き合わされようとしていた。

 

「私は百歩譲っても犬耳派なんだが」

 

「そんなことは聞いてない。俺が話したいのは歴史上の人物で誰が一番あざとかったのかということなんだ!」

 

「どうでもいい!」

 

 歴史好きもこじらせるとおかしな方向に進むものである。

 そしてこいつの場合、オタクから史実の歴史に興味を持ち出した割には色々詳しく調べてるし、それはそれで脳内変換でキャラ属性とか振り分けて変に分かりやすくなってるので余計タチが悪い。

 

「……つーかお前、先週は小説について調べるとか言ってなかったか? 新聞部が読書の秋をテーマにするからー、とかなんとかって」

 

「あ、うん。確かに最初はおすすめの本とか調べてたけど、段々作家の方に興味がいっちゃってさ。その勢いで三日かけて『モンテ・クリスト伯』を全巻読破したよ」

 

「で、結局誰を巻き込んだ?」

 

「コクトー先輩」

 

「バカヤロウ」

 

 コクトー先輩というのは黒ぶちメガネが似合う、私たちの先輩にあたる人物である。

 去年卒業し、無事大学へと進学したそうだが、風の噂によるとなぜか中退したそうな。

 まぁとにかくあの先輩は調べものがかなり得意で、探偵にでもなれば大成しそうな人だ――しかし中退した後という、色々と複雑な時期に助けを求めるのはいかがなものか。そして引き受けてしまった先輩もどうなんだ。

 

「いや、ホントあの人凄いよ。俺が軽~く、本のタイトルしかメモしてなかったのに、そっから出版された年表まで調べてさ。最終的には俺が全部まとめたんだけど、後半からは二人で各地にまつわる伝説を集め始めたんだ。自由研究みたいで結構楽しかったよ?」

 

「あぁ、調べもの好きな天才馬鹿達が組むとすごいことになるのはよく分かった……」

 

「本題はここからだ。実はあらゆる神話、史実の出来事を調べていく内、俺は新しい歴史解釈の方法を思いついてしまった……!」

 

 新しい歴史解釈、と聞いて、どんな? と続きを促す。

 やっとまともそうな話題が出てきたし、こいつ流の解釈方法に興味がわいた。

 

「――曰く、()()()!」

 

「………………………………………………………………」

 

 ……白野、貴方疲れているのよ、という言葉を呑みこむ。

 こいつには疲れなどない――おかしな発想をするときこそ、この男は大真面目だったりするのだ。

 

「だって考えてもみてくれ。『性別が違う』、ってかなり可能性広がると思わないか? 男だと思ってた王様が実は女性でしたー、とか。その人物の真の姿により近くなる気がするだろ?」

 

「……いや、王様は男でも女でもそう重要視されないんじゃないか? その時代と国によっては、『王』っていうカタチこそが重要とされるケースもあるし」

 

「まぁそういうこともあるかもだけどさ。本音を言うとだ――女の子の方が、萌えるじゃん?」

 

「――――」

 

 ふむ、と考え込む。

 なるほどなるほど、やはりこいつは根っからのオタク気質のようだ。

 そして改めて確信した。こやつ、阿呆であると。

 

「お、なんか難しい顔しているねルツ! けど君もアニメ&ゲーム好きなオタクとは知っている! 今は平成、需要は天井知らずだ。でもって俺は、ローマの皇帝とかアーサー王、いっそギルガメシュとかも全員女だったら歴史最高なんじゃねーかって思うわけだよ!」

 

「……確かに、解釈の仕方はその人の自由だけどさ。普通に歴史上、あるいは伝説上の女性で、気になる人物とかいねぇの?」

 

「ん? まぁ確かに――気になった人はいるよ。白面金毛九尾の狐とかね。良妻の可能性、十分にアリ!」

 

「基準がそれかよ。……えーと、■■■■だっけ」

 

 そうそう、と頷く白野。

 

 白面金毛九尾の狐。

 時の権力者、鳥羽上皇に人間として仕え、しかして陰陽師に正体を見破られた末に宮中を脱走。

 一度目、那須野にて妖狐討伐にやってきた八万の軍勢を撃退したが、二度目の戦いにてついに敗れ去り――直後、毒ガスを噴出する「殺生石」に変化し、辺りの生物を中毒死させたという。

 そこまで思い出してふと気がつく。狐……?

 

「……!! まさかお前、最初に言ってた『狐耳』って……!」

 

「ふっ……無論解釈はとうに済んでいる。ズバリ、彼女の本性は呪術師系巫女狐! つーか神様なのに人間に仕えちゃうって最高だよな!? あざとい、実にあざとい! 良妻だろコレ絶対――!!」

 

「そこまでにしておけよザビエル――――!!」

 

 

 ◈

 

 

 馬鹿みたいな記憶だった。

 

「見えたぁ! 貴様の名は玉藻の前!!」

 

「ゲーッ! 戦闘中に真名看破しやがりましたあの女ぁ!?」

 

 ま、まぁ別に今更看破されたって痛くもかゆくもありませんがッ! と強がる呪術師系巫女狐。

 ……当たっていた、だと……まさかあいつ(ザビエル)、推理力はAランク相当だったとでもいうのか……!?

 

「ついさっきスキルを使ったばかりなのに……!?」

 

「……なるほど。確かにそれなら、“呪い”を扱うことも合点がいくね」

 

 ――呪相・炎天。

 先ほど、狐耳のキャスターは確かにそう言っていた。

 ……うん。なんつーか、アレだ。白野、お前の理想はここにあったぞ。呪術師だけど。

 

「ぐぬぬ。一方的に暴かれるのって好きじゃありません。さぁマスター、今こそ貴方様の推理力が試される時です!」

 

「鎖を使う英霊かぁ……ごめん、あんまり心当たりないや。真名が分かれば聞いたことくらいはあるかもだけど――」

 

「エルキドゥだよ、よろしくね」

 

 勝手にそう自己紹介すると、岸波(男)は首を傾げた。

 ……どうやら聞いたこともなかったようだ。

 

「そんなご主人様も、タマモ的にはアリ! です!」

 

「まぁ、現代には馴染みが浅いのかもね。…………、」

 

 ちょっとショック、と念話で聞こえたのは気のせいだろうか。

 なにはともあれ、これで互いに真名は明かし明かされた。

 現在はエルキドゥの身体を「変化」――鎖は指と指の間から造られているらしい――させて戦っているが、最弱侮るべからず。こちらの岸波白野の戦術眼もまた達人級であった。

 

「あの鎖――スキルか。なら、【seal_skill;】!」

 

「!?」

 

 岸波がコードキャストを発動させた瞬間、鎖が砂になって消え去った。

 スキル封印……この場合、エルキドゥの「変容」を封じたのか。つーか、そんな礼装あるのかよ。

 

「お見事ですご主人様――たぁ!!」

 

「物理戦かい? なら――」

 

 キャスターの鏡が素早く回転しながら迫り、それをエルキドゥはかわし、後方へと跳躍して距離を取る。

 床に手を当て、魔力を流し込んだ途端――地から例の武器の群が生え出した。

 

「な、なんだアレ!? スキルは封じたハズじゃ……!」

 

「これはスキルというより、僕の性質みたいなものだからね――さぁ、どう出るのかな?」

 

 切っ先が相手へ向けられる。

 武具の出来映えは全てが人類の最高峰。

 耐久は紙装甲であるキャスターならば、到底耐えられるはずもないのだが――

 

「――っ、()()()

 

「ご命令とあらば! 神様っぽいところ、見せちゃいます!」

 

 玉藻の前の周囲に複数の札が出現する。

 上空へと舞った鏡に魔力が集まり――そこで、先ほどまで鈍器として扱われていたあの鏡こそ、相手の「宝具」なのだと思い至った。

 

「出雲に神在り。是、自在にして禊の証。名を玉藻の鎮石(シズイシ)――――」

 

 常世の理が遮断される。

 呪詛の結界が構築されていく。

 宙に浮かぶ鏡に魔力が集い、キャスターがそれを地へと叩きつけた刹那、その世界は完成する。

 

 

神宝(じんぽう)宇迦之(うかの)鏡也(かがみなり)! 【水天日光天照八野鎮石】――!!」

 

 

 地表から放たれたのは魔力の渦。

 白い光が一瞬で視界を染め、次に目を開けた時、そこは既にアリーナではなくなっていた。

 

「流石は太陽神の荒御霊……といいたいけれど、本来は()()()()()じゃないんだろう?」

 

「『制約』ですよ。ホントは多数の尾から百万の軍勢を生み出せるんですケド。ではいきます。【呪層界・怨天祝祭】!」

 

 手の平をかかげ、何らかのスキルを発動させるキャスター。

 ……魔力を消費したような気配はない。あれも今ある結界の影響か。

 

「それじゃあ行こうか。君の耐久値で、どこまで耐えられるのかな」

 

 射出が開始された。

 武器の雨が彼らを襲い、残る体力を削り、そのまま押し潰す――

 

「さ、相合傘と参りましょう、ご主人様!」

 

 キャスターに直撃したはずの一刀が弾かれる。

 呪術によって、ではなく、呪術による盾によって、弾かれた。

 

「……守備スキルか」

 

 決め姿勢が横ピース、というのはあの英霊らしさの一つでもあるのだろうか。

 ともあれ、今もエルキドゥによる武器射出は続いている。

 だが一向に向こうが倒れる気配はない。キャスターが使った技――コクテンドウ、の前に使用していたスキルが「魔力上昇」を促すものだとしたら、確かにその可能性はあるが……

 

「【shock】! 今だキャスター!」

 

「――あ゛?」

 

 岸波が使用したコードキャスト――破邪刀により、一瞬エルキドゥの動きが停止し、武具の雨が止む。

 その瞬間、キャスターが躍り出て札を差し向けた。

 

「全力で行きます! 炎天よ奔れ! 氷天よ砕け! 気密よ、唸れ――!」

 

「ッガ――――、あ……!」

 

 一度に三枚もの札が散り、放出された魔力が火柱を立たせ、氷の塊を形作り、突風を巻き起こす。

 どうにか最後はガードできたとはいえ、ダメージは甚大だ。このままでは流石に――

 

「死んでください。いざや散れ、【常世咲き裂く(ヒガンバナ)大殺界(セッショウセキ)】!」

 

 思った矢先、即座に魔力が凝縮し、呪い(どく)の混ざり合った光が撃ち放たれる。

 ガードをする暇もない。今のは完全に直撃を受けた。

 ――が。

 

 

「……少しキツいね。ルツ、魔力は回せるかい?」

 

「使ってないんだから当たり前だ――持ってけ、【recover】」

 

 ()()()()()()()()がこの程度で倒れるわけがない。

 

 しかし、この回復礼装は相変わらず燃費が悪かった。温存していた魔力はいつものように、ごっそりと消えていく。

 

「回復……!? まずい、キャス――」

 

「ッッ……【黒天洞】!」

 

 射出開始――した途端、相手が再び例の守備スキルを発動させる。

 ……結界内の景色が薄れてきた。どうやら宝具の時間切れも近いらしい。

 

「そろそろ、勝負をつけようか」

 

 己の手から生み出された鎖、そして地から造られた鎖が、ほぼ同時にキャスターを捕縛しようと動き出す。

 捕まれば彼女を待つのは絞め殺される最後。逃げられる術など存在しない――のに。

 

 

「――妖狐ナメんな。元いた場所へ追い返して差し上げます!

 これが必殺、【呪相・空裂】――――!!」

 

 

 結界が、否、空間が切り裂かれる。

 蠢く鎖さえ断ち切り、狐の巫女はありったけの魔力をその術に注ぎ込んだ。

 コードキャストの発動も間に合わない。

 次に認識したのは、赤く照らされたアリーナと、けたたましいムーンセルのエラー音――――

 

 

 ◈

 

 

「……生きてる」

 

「まぁ歪みを道にして行った上に、空間まで裂いたら、『無かったこと』にされるのが落ちだろうね」

 

 相手を打ち破る、という条件は達成できずとも、向こうで死ななければ無事に戻っては来られるらしかった。

 ……随分と、雑な帰還方法ではあったが。

 

『ちょっと大丈夫!? 一瞬、そっちの空間が崩れかけたっていうか、消えかけた、っていうか……!』

 

『落ち着いてくださいミス遠坂。バグは既に解消されたようです』

 

『あ、無事ですか月成さん? バイタル値チェックしますね……はい、異常はないようです』

 

 それはよかった、と聞こえてきた生徒会の声に安堵しながら答える。そこで、ようやく自分が仰向けに転がっているのに気がついて上体を起こす。

 

「さーって、報酬はあるのかなー……っと」

 

 早速端末を操作してみると、やはり礼装のリストに新たな名前が追加されていた。

 向こうで会った敵を倒せば手に入る……と思っていたのだが、もうこれ、単にムーンセルからのお詫びの品とかじゃないのか。

 新しい礼装は鈴――“天女の鈴”。

 

「売却決定」

 

「まぁまぁ、ひとまず効果を見てみたらどうかな?」

 

 サーヴァントに促されて礼装を出現させる。

 手の平に収まるサイズの小さな鈴。一体なんの役に立つのだろう、と説明を確認するも、世界線を超えた影響なのか、文字化けしていて全く分からない。

 

「……魔力は通してみたけど、普通に鳴るだけだな。綺麗な音だし、ひとまず売却するのは止めとくわ」

 

「賢明だね。多分、今はその鈴の真価を発揮する条件が揃ってないだけだと思うし」

 

 条件……鈴に持ち主として認証されなければならない、とかそういう「持ち主」を選ぶ礼装だったりするのか?

 深く考えようとしたそのとき、通信越しに生徒会室の扉が開く音がした。――ジナコの説得に行っていた岸波だろう。

 

『月成さんは一度戻って、休んでください。バイタル値に異常はないとはいえ、お二人とも精神面での疲労が見られますから』

 

「……まぁ、心当たりはあるな」

 

 前半はエルキドゥの天敵だったし、後半は私のトラウマを抉りにきていた。

 魔力体力共に正常でいようが、結局メンタルが一番重要な部分である。

 

 立ち上がり、改めて周りの風景を視界に映す。

 どこまでも広がる虚数の海。

 変わった構造をしたあちこちを浮遊するブロック達。

 サクラ迷宮と呼ぶのに相応しい巨大な桜の樹。

 そしてこの(ほし)の、黒く染まった中枢域。

 

「明日はとうとう決戦、か――」

 

 BBを倒して表に戻る。

 ついでに世界も救って人類滅亡を防ぐ。

 ――それは一体、(だれ)のために?

 

 

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