Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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Inter lude
EXTRA


「サーヴァント、ランサー。君が僕を呼び出したマスターかい?」

 

 緑色の長髪。

 男にも女にも見える美しい容姿。

 人間を超越したその力、圧倒的なその気配。

 そこで、英霊召喚が成功したことを実感した。

 

「……あ、あぁ。三流魔術師の月成ルツ……です。よろしく」

 

「うん、よろしくマスター。この命が停止しない限り、僕は君の剣となろう」

 

 差し伸ばされた手を握り、最初の、形ばかりの握手をする。

 触媒は師匠がどこかの軸から拾ってきた石版の欠片。英霊は過去の英雄と聞くが、一体目の前にいる彼はいつの時代の英霊なのだろう――と、思考を巡らせた直後、

 

『予選通過おめでとうございます。貴方は127人目のマスターです。なお、参加に伴い、サーヴァントのパラメータに制約をかけさせていただきました。失われた霊格は条件を満たせば魂の改竄で取り戻すことが可能です。それでは、行ってらっしゃいませ』

 

 ――聖杯戦争が始まった。

 

 

 ◈  予選通過者 999人→128人

 

 

 ムーンセル・オートマトン。

 それは光を利用した記録装置。

 人類の営みを観測し続ける神の遺物。

 

 その霊子虚構世界(セラフ)にて行われる聖杯戦争。

 セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。

 七つの役割を被った使い魔と契約し、最後の一組になるまで続ける殺し合い。

 

 課題という名目で、自分はここに放り込まれた。

 

「……ええと。大丈夫かい? 顔色が悪いようだけど……」

 

「いや……問題ない。ただの3D酔いだよ。そんなことより、まずはアンタの能力を取り戻さないと……」

 

 現在のランサーの能力値はオールE。オールEである。

 本来はとてつもなく規格外なサーヴァントなのだろうが、制約をかけることが聖杯戦争の参加条件ならばこちらも黙って引き受けるしかない。

 ムーンセルが望むのは強いマスターではなく、最後まで残ったマスターだ。聖杯戦争のルールを根っこから覆してしまうほどの英霊は、制約を拒否すれば裏側とやらに封印されしまう。

 

「まだ対戦相手も発表されてないし……まずは、アリーナで様子見だな。あ、最初に言ったと思うけど、私の魔術の腕には期待しないでくれ。戦闘の指示も……私より、アンタ自身の勘の方が頼りになると思う。あとは――まぁ、向こうで話そう。とりあえず行くか」

 

 ザックリと今後の方針を決めて、アリーナの入り口へと向かう。

 ここは天才達の巣窟だ。ムーンセルの様子を見てこいなどと簡単に師匠は言ってくれたが、正直――殺し合いなんて、あまり乗り気がしなかった。

 

 

 ◈  一の月想海

 

 

 聖杯戦争はトーナメント形式である。

 六日間の猶予期間(モラトリアム)の間に対戦相手の情報を集め、サーヴァントを鍛えながら決戦場の扉を開くための二本の暗号鍵(トリガーキー)を手に入れる。

 やることは、たったそれだけ。

 

「“運命に逆らった時こそ(In the reproof of chance /)人の真なる価値は証明される(Lies the true proof of mem:)”」

 

 目の前に佇む伊達男がそう言った。

 多くの喜劇と悲劇を書き綴り、その名の知名度は世界でも最高峰。

 最初の一言で、奴の真名看破は容易いものだった。

 

「――とまぁ、あらゆる天才が集うこの聖杯戦争では、互いの運命に直撃した瞬間こそ最も輝く場面。しかし一回戦の段階ではその過程で悩み、もがき苦しむ若者も少なからず残っております。特に先日見かけた記憶喪失という少女は中々面白そうでしたなぁ。

 さて、貴女の物語は一体どのような結末を迎えるか――いざ、開演!」

 

「演劇宝具……!? ッ、ランサー!!」

 

 ただでさえ気が滅入るこの場所で、さらに精神への負荷がかけられる。

 自分だって最初は殺し合いなんて全く実感できていなかった。だが、殺し合いを実感できずとも、私は既に「死」というものの意味を知っている。

 ――だから。よく知る死人(ゆうじん)達の幻影は、容赦なく切り捨てた。

 

 魔術師による生存競争。

 聖杯戦争というものを、ようやく私はその身で理解した。

 

 

 ◈ 二の月想海 残り64人

 

 

 情報を聞きつけ、早速足を運ばせた教会には青いショートヘア、赤いロングヘアという対照的な二人の女性がいた。

 どうやら姉妹のようだが、あまり仲はよろしくなさそうだ。

 

「ほお、キシュアの弟子。その上、サーヴァントは神造の兵器ときたか。なるほど、青子が手間取るわけだ」

 

「ぐぬ、何よ姉貴。アンタはアンタで他に用があるんでしょう? 今更になって放り投げるつもり?」

 

「いや、純粋なる興味、好奇心というヤツさ。人形師として、これほどの作品を目の前に何もしないのはいささか勿体無い。それで君は……ま、強く生きろよ?」

 

 ……制約突破の鍵になる魂の改竄を行ってくれる点には心底から感謝するが、なんだか癇に障る蒼崎姉妹であった。

 

 

「――其方が、次の対戦相手かな」

 

 長刀を構える侍からはサーヴァント特有の宝具や魔力の気配がまるで感じ取れない。

 剣技のみで宝具の域へと達した架空の英霊。……こんなところでも師匠の名が使われるのか。

 

「パーツを借りるよ。――うん、やっぱり僕はこの戦法の方がやりやすい」

 

「む、武具を大地から生み出すとはまた面妖な。数は少ないとしても、一つ一つは最高峰の出来映えか。面白い、では我が剣技、どこまで通じるか試させていただこう――!」

 

 強さとは何を差し、何を意味するものなのだろう。

 肉体か、精神か、それとも魂の在り方そのものか。

 聖杯にかける願いはない。そもそもこれは「課題」である。単に、脱出方法が聖杯を手にする以外にないから戦っているだけ。

 

 それなら迷う必要などない。

 全てを失い、魔法使いの弟子という立場だけが、唯一自分の持つ存在証明なのだから。

 

 

 ◈ 三の月想海 残り32人

 

 

「バーサーカーとか聞いてね――ッ!!」

 

 何事にも例外は存在する。

 前回のアサシン然り、己の英霊召喚然り。

 だが今回の場合、例外というより詐欺という言葉の方が当てはまる。

 

「ひ、ひひ、ひゃははははハハァ!! 死ね、死ね、死ねェ! 消え失せろオォッ!!」

 

 二重人格、というものがある。まぁ、彼の場合は二重存在者か。

 六日間の猶予期間で会った彼は、穏やかな雰囲気を漂わせる落ち着いた青年だった。

 だが七日目、決戦日である今日は霊薬を服用した途端に――狂気(コレ)だ。

 

「速い……! 迎え撃つぞ、ランサー!」

 

 善と悪。

 定まることはないそれらを人間は併せ持ち、またそれは人間であることの証明だ。

 善にだけ生きることはできず、しかし悪を持ちえながら善行を行えるモノ。

 矛盾を抱えながら、ヒトは己の生を歩んでいくことを宿命付けられた。

 

「どいつもこいつもオマエもソイツも皆殺しにしてやるよ! ひ、は――ハ、ハハ、ははハははハハハははハハッ!!」

 

 完全な善に染まった人間など居らず、また完全な悪に落ちる人間などいない。 もしもそのどちらか一方に偏った人間がいるならば、きっとそれはもう人と呼べるものではなく、私たちとは全く違う別の生き物なのであろう。

 

 

 ◈ 四の月想海 残り16人

 

 

 ここまで来れば、もうやり切るしかないと思った。

 

「――とうとう3-Bは空っぽか」

 

 誰もいない、人の気配が感じられない教室を見渡してそう呟く。

 三日前まで互いの近況を話題に話していた相手も消えた。きっと他の魔術師たちはマイルームにでも篭っているのだろう。……誰もいない以上、もうここへ来る必要も理由もなくなった。

 

「……想像以上に疲れてる。最初の演劇とか、この前倒したアサシンの咆哮とか……私たち、他の奴らより精神削られてる気がするぞ」

 

「対戦カードの組み合わせはランダムなものだと思うけど……でも流石に序盤のアレは制約がかけられてなかったら、僕は問答無用で宝具を使っていたかもしれない」

 

「それ暴走。つーかあの時、結局物理戦に持ち込んで勝ってたじゃねーか。作家にゃぁ体力ないと分かってた上の作戦だとしてもさ、ムーンセルに止められなかったら永遠に殴り続けてたろお前」

 

 こちらの軽い皮肉に苦笑を浮かべるサーヴァント。

 性格良し、と捉えていた彼のイメージはこの数日間で段々と塗り替えられてきていた。

 率直に言うと、思っていたよりワガママ。四千年という時代の差を感じる。

 

「とりあえず――なんとかステータスはDに漕ぎ付けたんだ。武器の生成はいくつできるようになった?」

 

「サムライの時の二倍……に届くくらいかな。相変わらず、まだパーツを借りないとまともな戦闘にもならないよ」

 

 ということは、四十くらいだろうか。

 最初に比べれば随分成長した方だろう。もっとも、ランサー自身のステータスを変化させることは未だ不可能のようだ。

 今の攻撃法は、周囲の地面から数十本の武器生成、最高ランクの気配感知によって分かる、敵の位置への確実な投擲。

 私たちは、ほぼ生成武器の質に頼って戦っているようなものである。

 

「さーて行くか。まずは恒例のエネミー狩りだな」

 

 使われなくなった教室を後にし、四度目になる戦争が幕を開けた。

 

 

「英霊というより、道具……珍しいサーヴァントを従えているのですね。いえ、128体も参加するこの聖杯戦争ではそんなこともありえて当然なのでしょうか」

 

 鎖が付いた短剣を用いる、長身の、まさしく美女と呼ぶに相応しい女性だった。

 しかしもうその真名は知っている。怪物――英雄を英雄として確立させるために必要とされる絶対悪。反英雄。

 彼女の魔眼に映したものは石となる……が、一定の距離を保っていれば即座に石化することはない。

 

「……すごいね。その子は神代から今まで存在してきたのかい? けど……あまり、戦闘には向いていないようだ。優しい性格なんだね」

 

 ――などと相手が召喚した幻獣(ペガサス)について呑気に語っているが、実際それどころじゃない。

 攻守共に最高ランク。その速さは流星が如く。直撃を受ければ、まず助かることはないだろう。なのでこういう時は、

 

「全、力、回避――――!!」

 

 自分達の力を凌駕するモノを化物などと人間は言うが、実際のところ、一体どこからどこまでが化物と呼ばれる領域なのか。

 人間の外見でなければ怪物か。

 人間のカタチはしているが、中身が全く別のモノである場合もまた怪物か。

 

 ……どちらが怖いかと問われれば、即座に私は一見では分かりにくい後者を選ぶ。

 しかし人間でありながら、超越した力や才を持つ者もまた、怪物と呼ばれてしまうことがある。

 この月に降り立った者たちは、まさにそういう類の怪物ばっかりだ。

 

 

 ◈ 五の月想海 残り8人

 

 

 ――そうして決戦場の扉は開かれた。

 目前に立つのは漆黒の貴族服を纏う闇に紛れる夜の王――それ即ち、吸血鬼。

 

 けれども案外、吸血鬼というもの自体は魔術世界においては普通に存在する。死徒だとか、真祖だとか。

 人生の転機では世話になったものだが、奴等と出くわしていなければ私が師匠と出会えていなかったかと思うと、つくづく運命とは不思議なものだと思う。

 

「しっかし風評被害ってとんでもないな……まさか呪いの域にまで達するなんて」

 

「偽物が本物を越える、創作が現実を捻じ曲げる――彼のケースほど、メジャーなものはないだろうね」

 

 真祖というのは元から吸血鬼だった者のことを指すらしいが、死徒は不老不死であれ、元は人間。

 だから吸血鬼という強大な力に耐え切れず、劣化していく肉体を固定するために他人の遺伝情報……即ち血液を取り込むという。

 だが死徒は自らを吸血鬼にした親の血により、集めた血の大部分は親へと持っていかれる。故に、子自身も「親」となってどんどん手下の吸血鬼を増やしていくのだとか。

 

「絶叫せよ――さぁ、串刺しの時間だ」

 

 杭が放たれ、一直線にランサーの身体を貫こうと襲い掛かる。

 それらをこちらは地面からの武器射出で対抗し、互いにしのぎを削っていく。

 ……現在の全ステータスはC。ようやくここまで来て、つい先日とうとう宝具の使用許可をムーンセルから獲得した。

 

「んじゃあさっさと決めてやる! 存分にやれ、ランサー!」

 

「命令とあらば。全力でいくよ、マスター!」

 

 己の内から魔力が消えていくのを感じる。

 この星のマナを己に集め、光の槍と化したランサーが杭の嵐もろとも吹き飛ばし、相手へと突き進む。

 これでまだランクCなどと、冗談のように感じてしまう光景だった。

 

「よかろう、血に塗れた我が人生をここに捧げる――!」

 

 そしてまた、敵も切り札を発動させた。

 影が蠢き、射程距離内に存在するあらゆるモノも杭として射出する。

 ぶつかり合った力は拮抗し、どちらかが気を緩めればそれで勝負は決まるだろう。

 ……それならば、

 

「押し通せェ――――!!」

 

 魔法石を飲み込み、宝具を開帳した分の魔力をさらに廻して威力を増大させる。

 それで己の内にあった魔力のほとんどは失われ、身体から力が抜けていくと同時、ムーンセルからの判決が下された。

 

 

 ◈

 

 

「……ルツ、大丈夫かい?」

 

「ぐえぇぇぇ……流石に無理し過ぎたかぁ……」

 

 完全にグロッキー状態だった。

 エルキドゥに肩を貸して貰い、どうにか立っているが、この調子では安全地帯へ戻れば即座に眠りについてしまうだろう。

 

「けど勝ちは勝ちだ。今日はゆっくり休むといい」

 

「あぁ、そうさせてもらうわ――――ん?」

 

 二階まで上がったとき、ふと廊下の先で存在感の薄い、白衣の男が見えた。

 ……サイバーゴーストというものだろう。無害なデータだから、そう気にする必要はない――のだが。

 

「ランサー?」

 

「……いいや、何も。早く戻ろうか」

 

 私と同じ方向を見て、眉をひそめていたサーヴァント。

 本当に同じモノを見ていたかどうかまでは知らないが、何も言わないのであれば、まぁ今は問題ないのだろう。

 

 

 ❀

 

 

 

 

 廊下の隅に、黒いノイズができている。

 この軸でも、ここから彼女の暴走は始まり、泡沫の夢が開始されていく。

 

 ――これは、夜が始まる前の物語。

 

 

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